昏き海都は黄砂に沈む   作:非単一三角形

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 シャルロッテ視点に戻って前回の補足回。



第22話 月の決意

 

 

 シャリーちゃん──ステラの故郷、ルギオン村の救済…と、それを実現するための調査の実施が決まったのは、あたしたちがサンドドラゴンを討伐してからすぐのこと。

 特にラウルさんが、なるべく早く動こうと手を尽くしてくれてた……んだけど、そこから実際に『誰が』『いつ』『どうやって』にあたる話は全然進んでなかったらしい。

 

 原因として大きかったのが、ルギオン村の場所。

 

 ステラが『黄昏の海』を越えてはるばるやって来たってことからわかってたけど、村に行くのは街の南西に広がる『海』を越えなきゃいけないことが……『発掘』によって判明した。

 そうなると砂航艇を使わなきゃいけないわけで……討伐戦の時と同じ問題、つまりどこかしらの商会に船をまわしてもらう必要があるんだよね。

 

 でもこれ、頼まれる商会の人たちから見ると……

 

 村への旅路は一日二日で済むことじゃない。現地での調査にかかる時間もあるし。

 そしたら水や食料もその分必要だし、特に水は行った先で補充するわけにいかないから、往復分余計に用意しなくちゃいけない。

 その上、交易に行くわけじゃないから、商人としての利益も殆どない。

 

 ……そりゃ、こんなの引き受けたくないよね、誰だって。

 

 

 それでも船を出してもらおうと言うなら、それに見合う報酬金を別に都合する必要がある。

 その船と人員を普段の商談に使った場合に計上される利益に対し補填になり得るだけの金額を。

 

 その辺りも含めて『中央』に打診しましたが…噛み砕いて解釈すれば「現場で何とかしろ」との回答を頂きましたよ──というのが、あたしたちに諸々説明してくれたときのソールさんの呟き。

 ……あのときのソールさん、なんか黒々としたオーラみたいなのが見えてたなあ。割と本気で。

 

 

 もう一つ商会の人たちの気を引いていたのが、サンドドラゴンに塞がれていた交易路の復活。

 なんでも、あの竜の縄張りの先にある『東の大陸』とは何十年も前までは交易があったそうで、時間の流れで状況が変わっているにしても、早くに販路を確保したいって商人さんは多いらしい。

 

 そんな商人さんたちからすれば、ルギオン村の事は尚更『貧乏くじ』って感じで……これじゃあいつまで経っても話がまとまらない、決まんない! …って状態だったみたい。

 ……大人って時々子供みたいだよね、も~……

 

 

 

 ──で! そこで呆れたとばかりに颯爽と登場するのが、我らがウィルベル師匠!

 

 

 『黄昏の海』を一人で飛んで行ける師匠なら、さっきの問題の殆どが大したことじゃなくなる。

 というか、その気になれば船よりずっと早い速度で飛んでいくこともできるらしい。

 出発の準備も、調査の手順や必要事項をソールさんがまとめて、それでお終い。

 やっぱり空が飛べるって、ほんっっとにすごい!

 

 その報酬として師匠がソールさんたちに頼んだのが、『東の大陸』の情報収集。

 ……これって師匠の本来の目的、精霊探しの為ですよね? ああ、やっぱり。

 

 そっちに関しては頼まれなくても商会が船も人も出してるし、『中央』からも同じような指示が出ているしで、「あなた個人への謝礼にならないんですが…」と、ソールさんは唸っていた。

 それに対して「価値は人それぞれよ」と笑う師匠は本当に格好良かったです!

 

 

 いやあ……流石は、あたしたちの『お姉ちゃん』!

 

 ……あ、痛いです師匠。すいません、どさくさに紛れようとして、すみません!

 

 で、でも言い出したのはあたしじゃないですからね!?

 ステラとミルカ……二人のどっちが先に言い出したのかまでは、あたしも知らないですけど!?

 

 

 

 ──ウィルベル姉さまに、ベル姉さん。

 

 …………一応二人とも、本気で言っているわけではないらしい。一応。

 

 

 シャリーと全く同じ気持ちだとは思わないけど、と前置きしたミルカ曰く、

 

「少しの間……一人で前を向いていられるようになるまで、寄り掛からせて貰えたら十分だから」

 

 ……だ、そうだし。

 師匠だって、実は悪い気はしてないんでしょう? ……それとこれとは別? あ、ですよね。

 

 ……でも、さっきは否定してなかったじゃないですか。

 何か心境の変化があったとかじゃ……説明するから座れ? あ、はい。だってさ、二人ともー。

 

 

 

 え? ステラの村が……水源が……

 

 

 …………え?

 

 

 

▲ ▽ ▽

 

 

 

「──と、まあ……これがあたしの見てきた、ルギオン村の現状よ」

 

「「…………」」

「……そう、ですか」

 

 ……それだけ言って、ステラは俯いたまま黙り込んでしまって。

 あたしも、多分ミルカも……とてもじゃないけど掛ける言葉が見つからなかった。

 

 

 子供や老人、病人を中心に、既に村の人間の半分以上が、原因不明の――ということになってる体調不良を自覚して、それぞれの家で寝込んでいる状態。

 元々体の弱い人なんかは、もう起き上がることすら難しいほど。

 村に着いたその時から、村の規模に対して表を出歩いてる人間がやけに少ないなって、違和感があったんだと師匠は言う。

 

「…正直、よく村の体裁を保ってるなと思ったわ。もう動ける人も殆どいないみたいだったのに」

 

 そしてその原因は、どう考えても……水源。

 もっとはっきり言えば、水源管理装置から出る、真っ黒に濁った『水みたいなモノ』。

 

 装置があるのが族長さん以外立ち入り禁止の場所だったから、ステラも直接見たことは無かったらしく、そのことにも驚いていたけれど。

 

 

「……いつの頃からか、村では一日に使える水量を族長が管理するようになったと聞いてました、けど……それなら、お父様はそのときからずっと……!?」

「……そういう水…みたいなものから飲める水を作るとかって、あんたたちにもできるの?」

「『中央』式の技術でなら、できるわ。…方式が同じどうかは、わからないけど」

 

 師匠の質問に対するミルカの返答に、あたしもレシピを頭に浮かべながら頷く。

 ……うん。ちょっぴり濁った水から綺麗な【蒸留水】を作るぐらいのことなら、あたしにだって難しいことじゃない。……量を考えなければ、だけど。

 

 でも、族長さん…ステラのお父さんは、村の人たちが使う水を全部『調合』してた…ってこと?

 い、いくら街に比べたら暮らしてる人の数は少ないって言ったって、そんなの……

 

 

「……村の皆が苦しんでいた病気も、そのせいで……? そんな、それじゃあ……」

「本人は『腕が足りず』とは言ってたけどね。……他に考えられる原因とかって、ある?」

「……その『水』の毒性が強すぎた、そもそも抽出法に問題があった……後は単純に疲れからくる失敗なんかも、可能性としてはあるかもしれない」

 

 ……だよ、ね。そんなことをずっと一人でやっていて、疲れないわけないよ。

 ステラと二人で…ってわけにもいかなかったのかな? いや、もしかしたらそのためにステラの錬金術士としての腕前が上がるのを待っているところだったのかも。

 

 だけど、いよいよ病人が出始めて、どうしようもなくなって……このステラードに助けを求めることにした、って感じだったのかな。

 …………でも、族長さんには悪いけど、この街も──

 

 

「その、村の水源管理装置って……本当に()()()()()()()()()()だったの?」

「……あたしが見た限りはね。街の装置も改めて確認したけど、これといった違いは無さそうよ」

 

「っ……その状態になるまで、後どのぐらいの余地が……『組合』では、何か言ってた?」

「二人してまさにその懸念で頭を抱えてはいたけど、具体的には何にもって感じだったわね」

 

 そうだよ、何より問題なのは……ラウルさんたちが頭を抱えていたのは、()()なんだ。

 ステラの村で今起きてることはそのまま、()()()()()()()ステラードの光景かもしれないんだ。

 

 『中央』がこの街に注目しているのも、街の水源管理装置に異常――現時点では湧き出す水量の減少――が確認され始めたからで。

 役人としてソールさんが派遣されてきたのも、その原因や解決法を探る調査の為で。

 

「……」

「ミルカ……」

 

 ……それと同じ装置ってことは、そのどちらも……まだ何もわかっていないってことで。

 ステラードには調査を待つ余裕がまだあるけど、話を聞く限りじゃ、ステラの村には、もう……

 

「……今後の、村への対応はどうなるの? 殆ど猶予は無さそうだけど」

「……ソールも決めかねてる様子だったけど……以前、井戸が涸れた村から住民を移住させたって話を聞いたことがあるわ。この分だとあの村も同じような対応が取られることに──」

 

 

 

「それで…………村のみんなは、救われますか?」

 

 

 

 …ぎゅっ、と。

 

 ステラが、服の裾をきつく握りしめる音が、聞こえた。

 

 

「……少なくとも最善は尽くされる…と、思うわ」

「…………」

 

 ステラの呟きに、師匠は深く考え込んで、それから静かにそう告げて。

 もう一度、顔も見えないくらい俯いてしまったステラを、あたしはただ黙って見つめることしかできなかった。

 

 

 

▽ ▽ ▲

 

 

 

「――ステラ、大丈夫?」

「え? ……あ、うん、大丈夫だよ、ロッテ」

 

 

 家に戻ってからも、ステラは何度も考え込むように目を伏せていて。

 心配に思って問いかけたあたしに返ってきたのは、何故かちょっと困ったような微笑みだった。

 

 ……あ、あれ? 思ったより思い詰めてる感じじゃないね?

 いや、その方が良いと言えば良いんだけど……?

 

 そんな思いが顔に出てたのか、ステラはあたしの顔を見ながら少しだけ頬を緩めて……それからどこか遠くを見ているような表情で、口を開いた。

 

 

「正直に言っちゃうとね? …村の事はもう、わたしの手からは離れてしまった気がしているの」

「え……? ど、どういうこと?」

 

「その……仮に今から村に行っても、わたしに何かできることがあるとは思えないし……」

 

 問い返したあたしに、ステラは少しずつ言葉を探すみたいに答えていく。

 いつものように胸元に左手を添えながら、目を瞑った姿で。

 

「お父様が、何をしていたのか……何を考えていらしたのかも……多分、わかったから。それならわたしも、お父様の想いに応えなくちゃいけないって、思えてきたの」

「そ、そうなんだ……」

 

「ただ……問題はね?」

「…?」

 

 話しながら、目を開いたステラが苦笑いを浮かべながら首を傾げる。

 

 

「わたし、今まで村のみんなを救うことと、後は将来族長になるかもしれないってことしか考えてなかったから……これからどうしようかなって、何だか途方に暮れちゃって……」

「あ……ひょっとしてさっきまで悩んでたのって、そういうこと?」

 

「うん。そこでなんだけど……ねえ、ロッテ?」

 

 頬に手を当てたステラが、すいっと視線を動かした。

 つられて顔を向ければ、そこにはずんと部屋に居座らせた錬金釜。

 

 

「……空を飛べるのって、凄いよね」

「え? …う、うん、そうだね?」

 

「あの『黄昏の海』だって簡単に越えられる……それって凄いことだなって、改めて思ったの」

「あ、ウィルベル師匠の……うん、そうだね」

 

「それで考えたの。…わたしたちの錬金術なら、『空を飛ぶ道具』も作れるんじゃないかって」

「……!」

 

 

 力強くそう言い放ったステラに、思わず息を呑んだ。

 

 ――空を飛ぶ。

 

 あたしが師匠に弟子入りしたとき、一番に憧れた、あたしの夢。

 その後しばらくして、師匠の場合は精霊の力を借りているとかって話を聞いて、あたしたちには真似できそうにないなあって思ってしまっていたのだけれど。

 

「ロッテだって、諦めたわけじゃないんだよね?」

「そ、それは、勿論! …だけど、どうやったら良いのか、全然……」

 

 

「──考えなら、あるよ?」

 

 

 口ごもったあたしに、ステラはハッキリそう言った。

 驚きに固まったあたしを尻目に、家の中から一冊の本を手に取ってきて。

 

「これ、村への航路と一緒に見つかった物なの。わたしたちが村から乗ってきたあの船の、動力に関する資料なんだけど……ほら、わたしたちが使うのと同じ錬金術が使われていたみたいだよ」

「え? …うわ、本当だ!? あの素材にこんな使い方があったなんて!」

 

「他にも色々問題はあるし、すぐに上手くいくようなものじゃないとは思う。でもね──」

 

 

 

「わたしとロッテとミルカ。三人なら、どんなことでもできるんじゃないか、って思ってるの」

 

 

 

 ステラの瞳に、いつか見たような深紫の輝きが、きらきらと光っていた。

 ……ううん、あの時よりもずっと強く、未来を見据えているような気がする。

 

「山も、森も、『黄昏の海』だって飛び越えて。どこでも、どこへでも、どこまででも……それが出来るようになったら――」

「……なったら?」

 

 ぐぐっと、胸元で拳を作って、声にも熱を入れていたステラが急に口ごもった。

 不思議に思ったあたしが先を促すと、ほんの少し目を逸らしてから……呟いた声が耳に届く。

 

 

「――ウィルベル姉さまの旅に、ついて行けるんじゃないかな……って」

 

 

 …………あたしがその言葉の意味を理解するまでには、少し時間がかかった。

 どうして? という思いが先に来て…次第に霧が晴れてくみたいにステラの考えが見えてくる。

 

 

 ステラは、もう()()()()()()つもりなんだ。

 ……いや違う。もう()()()()()()んだと、師匠の話をそう受け取ったんだ。

 

 

「……あ。えっと…その、違うんですよ? 決してロッテの夢を利用しようとか、そういうことを考えてたわけじゃなくって……」

「え? あ、ああ~……あはは、そんなのあたし、考えもしてなかったよ」

 

 反応が遅れたあたしが固まってたのがどう見えてたのか、ステラが慌てて言い訳を始めた。

 ……ちょっと口調が前に戻っちゃってるよ。ごめんごめん。

 そんなステラの後ろめたさを笑い飛ばそうと、あたしはぐっと頬を上げた。

 

「……そうだよ、あたしたち二人が力を合わせれば、何だってうまくいくに決まってるんだから! そしたら今度はミルカも入れて、『四人』で空の旅を楽しもうね!」

「! うん……ありがとう、ロッテ」

 

 

 ……ちょっとだけ。

 ちょっとだけ、ね? 羨ましいなと思う気持ちもあるんだよ?

 いつかまた旅に出ちゃう師匠に、ついて行けるようになるステラの事を、さ。

 

 それでも、そうなったら良いなって思う気持ちの方がずっと強いし、そのためにあたしに出来ることなら何でもやろうって、そう思う気持ちにだって嘘なんか無い。

 ずっと誰かの為に頑張ってきたステラが、自分の幸せを見つけられたなら、それが一番だから!

 

 

「…………ところで、()()()?」

「うん。姉さま」

 

 ……ただ、その……ウィルベル師匠ー?

 やっぱりステラは結構本気で言ってるんじゃないかなあと、あたしはそう思う次第です。

 





※原作既プレイの方へ

 本作ではシャリステラの方が本気になりました。
 シャルロッテ編限定イベントだなんてもったいないですよね、あのくだり。

 原作と違い、一般船より図抜けて丈夫な船を所持しているわけではない本作シャリーたちには、東の大陸調査隊に参加できる理由がありません。そのため色々と展開が変化。

 水源が完全に使用不能になった村への対応については『エスカ&ロジー』の辺境集落を参考に。
 やはり物理的にどうしようもないので移住を勧める、という形になるようですね。


※原作未プレイの方へ

 ゲーム原作からだいぶ流れが変わってます。
 なんせ本来はシャリステラ一行の船が復旧してますからね、サンドドラゴン討伐前に。
 そのため主人公たちの行動指針もまるっきり違うのです。気になる方は原s(ry

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