シャルロッテのターン。
「――うひゃぁぁぁぁぁぁ!?」
清々しい青空、眩く燃える太陽の下、高々と響き渡る
……誰の声って? 何を隠そう、このあたしです!
お空は遠くて近いんだ~♪
近いけどやっぱり遠──って、あーっ、駄目だ~!?
「あーあー……ほら、こっち跳んできなさい、シャリー」
「は、はぃい! 師匠──どわあぁっ!!」
ぐるんぐるん回る『機体』から手を離した瞬間、あたしの身体は跳ぶまでもなく宙へとダイブ。
視界は真っ青な空と砂一面の地面がぐるぐる、全身はヒヤっとする風に包まれて──次の瞬間、温かい空気に受け止められるような感覚と一緒に、視界が急激に安定した。
「――よっ、と。……せめて悲鳴は、きゃあ、ぐらいにしときなさいよ」
「……次、余裕があれば?」
「…次は無い方が良いでしょうが」
「あはは……そうなんですけどねー……」
本日数回目の『空中シャルロッテ捕獲』を無事成功させた師匠のホウキに乗せてもらいつつ、ゆっくりと地上に帰還。
『出発地点』に戻ってみれば、そこには早くも今回の『機体』の設計図を広げる二人の姿が。
「……やっぱり、空中での姿勢制御が難題」
「浮遊、発進までは思ってたより簡単に進んだのになあ」
広げた図面を指差しつつ、早速『次』について相談しているミルカにステラ。
……もうちょっとあたしの心配してくれてもよくない? え、慣れちゃった? そっかあ。
「また補助機構を増やして対処するしかないわね」
「でも、機体がこれ以上重くなったら、また出力も上げないと飛び立てなくならない?」
「……そうね。いっそエンジンをもっと強力なものに取り換えましょうか」
「……それだと制御出来なくなったときが今より大変なことになりそうだけど……」
「……大丈夫よ、シャルなら」
「……それもそうだね」
「いやいやいや、ちょっと二人とも!?」
なんだか話が無責任な方向に進んでいってる二人を慌てて止めに入った。
いやいや…理屈はわかるけど、それで毎回空中錐揉み回転してる身にもなってよね!?
──ステラに引かれる形でミルカも巻き込んで、本格的に始まった『空を飛ぶ道具』作り。
ステラたちの船に使われてた技術を参考に始まった
……初めの内は地面からちょっと浮かぶぐらいだったし、さっきみたいに姿勢が崩れちゃっても地面にベチャっと落ちるぐらいだったんだけどね?
しっかり空に飛び上がる為の推進力を付け始めたところから『乗る』っていうより『掴まる』になってきて……ちゃんと『乗り込む』形にしないと振り落とされるとわかったのがその辺り。
……で、高く飛ぶことを目標に作った試作一号機に乗ったまま、
そこからは空中で操縦不能になっても師匠が助けてくれるようになったけど……むしろそれから遠慮が無くなってきてない、二人とも?
「……言っとくけど、あたしが対応できる範囲にも限度があるからね?」
「わかってる。冗談よ」
「本当にぃ?」
「大丈夫だよ、ロッテ。それに、ほら――」
そう言ったステラが指差す先は、操縦者を失って出鱈目に空で踊っている『機体』。
勿論ずっと浮かんでる筈もなく、見ている傍から何かに叩かれたみたいにがくんと落ちてきた。
落下地点は、周りに何にもない黄砂のど真ん中。
そりゃあ、こんな試行錯誤を街中で出来るわけないからね。あんまり遠くに行ってモンスターに襲われても大変だから、街が見える範囲ではあるけど。
……で、あれを見てステラは何を言いたいの?
「何って…遠くまで飛んで行くようになったら危険でしょ? ──ロッテはともかく」
「そうね、変な所に落ちたら危険よ。──シャルはともかく」
「…………ちょっと、ステラぁ! ミルカぁ!」
ここぞとばかりに澄まし顔で声を揃える二人。…本当仲良くなったよね! 良かったよ、もう!
そりゃ、元気と度胸にそれから丈夫さはあたしの取柄だけど、それを前提にしないでよね!
「……というかあんたたち、幾らあたしがいるからって、製作過程が体当たり過ぎない?」
「「「ああ、そこは錬金術士ですから!」なので」だから」
「…………アーシャもエスカも安全面はおざなりだったわね。言われてみれば」
「――シャリーちゃんは今日も楽しく頑張ってるのね」
「う、うーん……否定はできないなあ…」
その後も何度もお空を
大変な目にも遭ってるんだけど…充実、かな? 楽しんでるって言われたらそうなんだよね。
「そういえば、今日はシャリーちゃんとは一緒じゃないの?」
「へ? …………ああ、ステラはちょっと用事があるからって」
街までは一緒に帰って来たんだけど、遅くなるかもだから先に行ってって言われちゃってさ。
…というか、一瞬何を言われたのかわかんなかったよ。だから呼び分けてってば、母さん。
「ウィルベル師匠やミルカも一緒だったし大丈夫だよ」
「そう、なのね」
「? 母さん、何かステラに用事でもあったの?」
「……ええ、ちょっとね」
あたしがそう聞き返すと、母さんはちょっぴり考え込むみたいに口元に指を当てた。
そのまま「うーん…」と明るく唸った後で、どこか遠くを見ながら呟くみたいに話し出す。
「……二人は、ウィルベルさんと一緒に行っちゃうんだったわね」
「あ……うん。今すぐのことじゃないけど……さみしくなるよね」
あれからステラは色々話をして、将来的には師匠の旅について行くことに決まったらしい。
その事はあたしも先に聞いてたし、素直に良かったなあって思ったんだけど……まさかミルカもだなんて思わなかったよ。……まあ、一緒に納得もしちゃったけどさ。
……だって元々ミルカの夢は、『中央』で勉強してえらい錬金術士になることだったし……
今はステラードに帰ってきちゃってたけど、またすぐ街を離れていく日は来ると思ってたから、それに関しては……いや、やっぱりさみしいとは思っちゃうなあ……
行先はちょっと変わっちゃっても、ウィルベル師匠と一緒なら、きっとその夢も叶えられるよ。応援してるからね、ミルカ。
「…………ねえ、
「へ? ……か、母さん?」
気づくと、母さんがいつになく真剣な目でじっとあたしを見ていた。
……ど、どうしたの、母さん? なんだかいつもと雰囲気が──
「あなたはきっと、何だってできる。私の娘なんですもの。私はそう信じているわ」
「う、うん…?」
「私は……あなたに、心からやりたいと思えることを見つけてほしいの。その為にも……」
「……その為にも?」
「……もっと、広い世界に行ってみたいと思わない?」
「え……っ?」
……母さんが、突拍子もない事を言い出すのは珍しいことじゃない。
あたしなら毎日24時間働いてすぐに偉くなれるわ、とか冗談なのか本気なのかもわかんないこと言われることもあったし、その度に適当に聞き流すのだって慣れたもの……の、はずだったのに。
なのに今は、不思議と目を逸らすことも出来なくて。
気づけばあたしは、母さんの目を見つめ返しながら、返す言葉を必死に考えていた。
――広い世界。
ステラードの外にあるはずの、大きな世界。
……考えたこと、ないわけないよ。あたしだって。
まだ見たこともないものへの、期待や楽しみはある。
でも、自分なんかがそこへ入っていけるのかっていう、不安や恐れの方が大きくて。
小さい頃から何となく、あんまり深く考えないようにしていた気がする。
……ううん。それは今も同じかもしれない。
あたしは怖いんだ。この街から離れることが。
生まれたときからずっと傍にあった、いてくれた人たちとの別れを考えることが、どうしても。
「……今なら、シャリーちゃんに、ミルカちゃん。ウィルベルさんもいるでしょう?」
「あ……!」
『――ひ、ひとりやふたり増えたところで、どうってことないわよっ!』
ウィルベル師匠の声が頭の裏を過った。もうずいぶん前のことな気がするけど。
…しかもこれそういう意図の発言じゃないよ、あたし? 都合の良い頭でごめんなさい、師匠。
…………でも、きっと笑ってくれるだろうなあ、師匠は。…苦笑いかもしれないけど。
あたしが今すぐステラみたいに頼みにいけば、同じような啖呵を切って頷いてくれる気がする。
こめかみに手を当てて「しょうがないわね」なんて言ってくれる顔まで、想像できちゃうなあ。
ステラやミルカと一緒に、ウィルベル師匠の旅についていく。
みんなと一緒なら、怖いものなんて何もない。恐れる心配なんていらない。
一緒に『黄昏の海』を越えて、空の向こうへ、どこまでも。
それはきっと、凄く幸せな未来。
まさしくあたしが思い描く、夢そのもの。
──
本当にそれは、あたしが心からやりたいこと? 叶えたい、夢?
「…………ううん。やっぱり、ないよ」
「シャリーちゃん…?」
想像できる眩しい未来と同じぐらいに、頭の中に浮かんでくるのは、この街の景色だ。
広場を。港を。目抜き通りを。組合を。
行き交う人達の活気と、笑顔が。
ラウルさんたち、組合の人たちから頼りにされて。
ペリアンさんたち、商会の人たちに喜んでもらって。
ステラードという街を、これからも錬金術という力で支えていくこと。
誰かのために頑張ること──あたしの夢の原点は、やっぱりそこにあるんだ。
うん、母さんのおかげであたし、やっとそれに気がつけたよ。
「…あたしの気持ちは、きっとどこへ行ってもずっとこの街にあるから。無理について行っても、あたしだけすぐに帰ってきちゃうんじゃないかな、きっとね」
「そう……そうなのね」
憧れないわけじゃないけど。
二人を、羨ましく思わないことはないけど。
……この街が、良いところばかりじゃないことだって、今ではちゃんとわかっているけど。
それでもあたしにとって一番大事なものは、ここに、この街にある。
勿論、母さんを一人で置いてけないって気持ちもあるけどさ。
……あ、でも母さんは割と平気だったりするかな。母さんだし。
「…………じゃあ、すぐ帰ってきたくなる、までご一緒させてもらったら?」
「え? ……いや、そんな虫の良いこと言えないでしょ」
「それに、お空を飛べるようになったら、すぐに帰って来れるでしょう?」
「いや、師匠の旅はそんな範囲じゃ……というか、何でそんなに食い下がるの?」
「それは……」
「……それは?」
なんか急に変な……いや、いつも通りのぽやっとした雰囲気に戻った母さんに、視線を向けた。
いつも通りの笑顔のまま、母さんはまた頬に手を当てて、無言で……あ、目を逸らした。
……最近何となく思ってたけど、母さんってば何かあたしに隠し事してるみたいなんだよね。
これは母娘揃って隠し事できない人だったのか、それともずっと前から隠してたことにあたしがようやく気づいたのか、どっちなんだろう。
そんな母さんを、今度はこっちの番、なんて思いながら、じぃっと見つめる。
……あたしは自分で気づいてなかったことまで全部言ったんだもん、今日は誤魔化されないよ?
じー……
じーー……
じぃ~~~…………
「――ただい……何これ? どうしたの、ロッテ?」
「あ、ステラ。おかえ――」
「シャリーちゃーん、おかえりなさーいっ!」
「「っ!?」」
睨まれてるとこに帰ってきたステラに、途端母さんはあたしの声を遮って飛びついていった。
突然の事に目を白黒させるステラ。……多分あたしも今、同じ顔してる。
「え、ええと、ナディさん、どうしたんですか?」
「それがねー。聞いてほしいのよ、シャリーちゃーん」
「は、はい……?」
……なんか、あたしが苛めたみたいじゃんか、もー。
ステラにも同じように見えたみたいで、母さんの肩越しに怪訝な視線が飛んできたし。
いやいや! なんにもしてないからね、あたしは!
母さんも、傷ついた、みたいな顔してステラにしがみついてないで何とか言って──
「私ね? もう、限界みたいなの」
「「……え?」」
…………え、なに?
母さん、なに言ってるの?
ほら、ステラもわけわかんないって顔して…………え?
「だか、ら……あとは、おねが……ね? しゃりぃ、ちゃ――」
ぐらり、と。
母さんの身体が傾いていくのが見えて。
「……っ、ナディさん……!」
表情を険しいものに変えたステラが、その身体を抱き留めていて。
「…ロッテ! ベッドを!」
「え、あ……うん」
言われるまま、寝かせられる用意をして。
そこに母さんを横たえさせたステラが、すぐ傍の棚から何かの箱を取り出して。
「…………ステラ?」
そこにあったのは、
まるで
「……ステラ」
「…………」
手は止めないまま、目線だけ思わずといった様子で逸らす姿に。
「ステラ」
口から出た呼びかけは、驚くほど冷たかった。
※原作既プレイの方へ
シャルロッテのターン(強調)。
今回は原作通りのタイミングですね!
『空を飛ぶ道具』作成のヒントのうち二つが不在。故に試行錯誤が地味に増えてます。
……しかし『空を飛ぶ道具』が攻撃アイテム扱いなのは良いんですかね、ロッテさんや。
起動 → 暴走 → 墜落 → 爆発炎上 → Vサインってそれどういう精神状態なのよ?
※原作未プレイの方へ
使用アイテム 終末の種火:世界を終末に導く炎の種火(出演作品:ソフィーなど)
使用アイテム N/A :世界丸ごと破壊する爆弾(出演作品:フィリスなど)
使用アイテム N/A typeΣ:宇宙を巻き込み対消滅させる爆弾(出演作品:リディー&スール)
……フレーバーテキストを本気にすると世界どころか宇宙もマッハなアトリエ世界。
安全管理という言葉から最も遠いのが錬金術士であり主人公'sでもあります。加減しなさい。