昏き海都は黄砂に沈む   作:非単一三角形

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 もう一人の『シャリー』サイド入ります。

 しつこいくらいに書きますが、こちらも様々改変が入っておりますので受け付けないと感じたら無理せずブラウザバックを。



序章-3 青空を望む太陽

 

 

「──貴様の持ってきた調査結果は、本当に信じられるのか?」

「それなりの信憑性は保証しましょう」

 

 『黄昏の海』に在りて豊かな営みを保てし『海の都 ステラード』。

 その要であり心臓部──今も滾々と水を湧かせる『水源管理装置』の前に立つは、互いの表情を探り合うように立つ三人の男達。

 

 一人は、鉄面と評されるだろう表情を貼り付け、淡々と答える年若い黒髪の男。

 もう一人は、厳格な顔つきに浮かべた苦々しげな視線を彼に向ける、初老の男。

 最後の一人は、そんな二名の視線による応酬を、肩を竦めて見守る赤毛の男性。

 

 立ち尽くす彼らを包むは、規則正しく響く水のせせらぎ。

 身動ぎも憚られる緊張の中、今一度確認を重ねるといった調子で、初老の男が口を開く。

 

 

「本当に、この街の水が()()()()()()と?」

 

「ええ」

 

 

 隠す素振りも無い疑心を込めた問い掛けに、黒髪の男からにべもなく返されたのは、実に簡素な肯定の一言。

 再度訪れた沈黙を破ったのは、絶句した質問者の隣に立つ赤毛の男の溜息だった。

 

「…誰もがいつまでも湧き続けると信じて疑わなかったツケ、だな」

「……!」

 

「昨日今日、水が減り始めたわけじゃねえ。少しずつ少しずつ減り続けて、ようやっと目に見える情報になったってことだ。…で、どうするんだ、『会長』さん?」

 

 赤毛の男から告げられた言葉に、会長と呼ばれた初老の男は無言のまま口元を歪める。

 一度、二度、水を吐き出す苔むした装置を見据えた後で、微かな唸りを最後に目を伏せた。

 

 

「……何にせよ、これは『中央』にとっても憂慮する事態の一つです」

「っ、都合のいいことを」

 

 

 二人のやり取りに冷めた眼差しを向けていた黒髪の男の口から呟かれた言葉。

 それを耳にするや否や、初老の男は憤懣遣る方無しとばかりに気炎を上げる。

 

「『中央』が、この辺境にある我々の街にどれほどの関心を持っているというのだ」

「…ステラードは、この一帯で唯一の水源を有する街ですから」

 

 ぶつけられる激情を柳に風と──少なくとも表面上は──受け流しつつ、彼は続ける。

 

 

「この街の水が失われれば、辺りの村や集落も軒並み枯れ果てていく」

 

「そして『黄昏の海』はさらに広がり、いずれすべての地域を呑み込んでしまうでしょう」

 

「今やこれは、あなた方だけの関心事ではありません。その点は理解していただきたいものです」

 

 

「…………」

 

 淡々と、唯々淡々と返される言葉に、初老の男の勢いは鎮火されていく。

 行き場を失くしたその視線が向けられたのは、遥か昔より街をぐるりと囲う黄砂の『海』。

 

 

「すべてを呑み込む、『黄昏の海』か……」

 

 

 

▲ ▽ ▽

 

 

 

「──シャリーちゃん、ご飯はもういいの?」

「うん、もうお腹いっぱい!」

 

「まだ残ってるじゃない。しっかり食べないと、お昼の前にお腹がペコタンよ?」

「もう、ちゃんと食べたってば!」

 

 

 ステラードが中心、目抜き通りに構える小さな一軒家。

 申し訳程度に『アトリエ』の看板を掲げるその中に在るは、なんてことのない母娘の日常。

 

「そういう母さんこそ、最近全然食べてないじゃん!」

「私はダイエット中なの」

 

「はあ…いい歳してダイエットって…」

「ふふふ、まだまだシャリーちゃんには負けないんだから」

 

 

 自他共に認める──娘の立場からは肯定しにくいだろうが──美貌を湛えた母、ナディの言葉に微笑ましい反骨心を抱く娘、シャルロッテ。

 幾度と繰り返されてきたやり取りに息を吐く娘に、笑みを崩さないまま母の問いが掛けられる。

 

「それで、今日もラウルさんのところに行くの?」

「あ、うん。『財協組合』に行けば何かしら仕事はあると思うから!」

 

 元気よくそう宣言したシャルロッテに、ナディは笑顔のまま、しかし僅かに小首を傾げた。

 

 娘の答えが意外だったから──ではない。

 

 彼女の口から出た『財協組合』とは、古くより『相互扶助』を題目に住民を纏める自治組織。

 揉め事の解決から足りない物資の要望、果ては通りの清掃といった雑用に至るまで、住民の声を取りまとめ、それらを解決できる技量、技術、あるいは余暇を持った人間へと『依頼』という形で斡旋するという役割を担ってきた組織だ。

 

 良く言えば『地域貢献』。

 くだけて言えば『何でも屋』。

 そこに足を運べば、動く手足と体力さえあれば『何かしら』出来る仕事はあるだろう場所。

 

 

 すなわち娘の言葉は誇張でもなければ謙遜にも当たらないわけだが──

 だからこそ、という意思を込めて母親は言葉を重ねた。

 

「『何かしら』なんて言ってないで、おっきいのを取ってらっしゃいな」

「あのねぇ…世の中はそんなにうまくいかないの」

 

「…シャリーちゃんなら大丈夫。とにかくアピールあるのみよ!」

「はいはい、母さんはいっつもそうなんだから。…じゃ、行ってくるね~!」

 

 母の意気込みに返されるは、聞き飽きたとばかりの娘の対応。

 それでも「なるべく頑張ってくるよ」と一応の言葉を重ねて、娘の姿は戸の向こうへ消える。

 

 

「…………行ってらっしゃい、シャリーちゃん」

 

 

 閉じた扉を暫し見つめ。

 その身体はゆっくりと、日常の家事へと動き出すのだった。

 

 

 

 

「──さてと、母さんにはああ言ったけど…今日は組合にいつもと違う仕事、あるかなぁ?」

 

「…ラウルさんっていっつも雑用しかくれないんだよね」

 

「うー…そろそろおっきな仕事をスパーンと終わらせて、バコーンと稼ぎたい!」

 

「…なんて、人生そんなに甘くないよね…」

 

「でもでもでも、ひょっとしたら…!」

 

「あ~う~、今日はいいことありますように!」

 

 

 

▽ ▽ ▲

 

 

 

「──おう、シャリー。今日の仕事だが、いつもの『ゴミ拾い』頼めるか?」

「(ですよね~)」

 

 

 『財協組合』組長を務める赤毛の青年、ラウルから開口一番告げられたのはその一言だった。

 

 ゴミ拾い、すなわち彼女の自宅兼アトリエが面する目抜き通りの清掃活動。

 扱いが日雇いであるため勤続年数といった概念は無いが、始めてそれに従事した日から数えればベテランと呼んで差し支えない程にこなしてきた、まごうこと無き雑務の極み。

 

 ついでに言うなら先日も。

 さらにを言えば先々日も。

 最早受けなかった日を思い出す方が難しいのではと思うほどに彼女が受領してきた仕事である。

 

 ──そもそも通りを歩く人間には掃除婦としか思われてないのではなかろうか?

 ──そういえば、ずっと店舗としてのアトリエが機能したことないかもなあ。

 

 そんな益体も無い思考を漏らしつつ、物は試しとシャルロッテは口を開く。

 

「あの~、組長? 他のってあったりしませんか?」

「…他の? どんなのだ」

 

「えっ? その、ええと…お役人さんのお手伝い、とか…」

 

 やや虚を突かれたようではあれ、耳を傾けてもらえる空気になったことを意外に思いつつ、急ぎ説得の材料を探すシャルロッテ。

 泳がせた視線が止まった先は、見慣れたカウンターの奥に座る、未だ見慣れない黒髪の男性。

 

 つい先日、この地方の調査を目的に『中央』から派遣された役人……と、シャルロッテを含めたこの場を利用する面々へと紹介された人物──ソール・グラマン。

 彼の座る机の上に山と積み上げられた書類を、感情の見えない表情で読み進めていくその姿が、ここ組合の景色となって早数日。

 

「ソールの手伝いって…お前に何ができるんだよ」

「あ、あはは~…ですよね」

 

 生まれてこの方ステラードという街を離れたことのないシャルロッテにとって、『中央』という言葉は伝聞でしかその実態を知らない未知そのものであった。

 

 曰く、とにかく巨大な…とにかく多くの人、物、技術の集まる街である。

 曰く、最も進んだ技術、最も進んだ学問を学べる場所である。

 曰く、ステラードのような『田舎』など歯牙にもかけない大都市である…などなど。

 

 

「(初対面の時、錬金術士です! ってアピールしてもめちゃくちゃ反応薄かったもんなぁ)」

 

 この街で唯一、もとい、()()()()()である『それ』をして、何の熱も引き出せなかった鉄面皮。

 今もこちらに意識を向けているのかいないのか、手元の動きを止めない彼を視界に収めながら、シャルロッテは必死に頭を回す。

 

 

「(きっと『中央』じゃ錬金術士なんて珍しくもなんともないんだろうな……というか、あたしの錬金術なんて、そもそも大したもんじゃないし…)」

 

 彼女の持つ知識には今一つ具体性が無く……しかしてそれは翻って、ステラードに暮らす一般の住民にとっての忌憚のない『中央』への認識でもある。

 今も彼が行っている仕事──書類の内容一つとっても、己には理解の一欠けすら難しいのではと乏しい想像力を働かせるシャルロッテ。

 

 ……いわんや、何を以て彼の『手伝い』足り得るかをやだ。

 

 

「……やれやれ、お前に頼めないなら仕方ねえな。掃除も報酬も、別の奴に──」

「やややりますっ! やだなー、もう、組長ったらー! もうっ! いぶし銀!」

 

「…なんだそりゃ」

 

 結局彼女に出来たのは、提示された依頼を引っ込められる前に受領してしまうという選択のみ。

 勢いに任せて口から飛び出した賛辞(?)に首を傾げるラウルに見送られながら、組合の施設を慌ただしく飛び出していくシャルロッテなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……相変わらず賑やかなお嬢さんですね」

「ああ…元気だけが取り柄だからなあ、あいつは」

 

「おや、錬金術士としてはどうなのです? 腕を振るわれたと見える物は拝見していませんが」

「ん? ああ、つってもなあ…大したモンが出来るものでもないだろ?」

 

「いえ、そこは腕次第だとしか。……それでなくともこの街に錬金術士は二人しかいないと聞いていますし、頼れるものなら頼りたいんですよ」

「頼るって…あいつにか?」

 

「ええ。…たった二人でも、居ると居ないとでは事の進み具合が雲泥の差ですからね……」

「…妙に実感が籠ってんな。だが、そんなに変わるもんか?」

 

「ですから、腕前次第です。…彼女の腕前というのをご覧になったことは?」

「ああ、そりゃ……俺も錬金術って奴を見たことぐらいはあるが──」

 

 

「あんな()()()()()()()薬やら爆弾やらが作れるなんぞ、何かの冗談としか思えなかったな」

 

 

「…………」

「実際に出してくる品は、まあ、そりゃ悪いもんじゃなかったが……どうした?」

 

「いえ、なるほど──」

 

 

 

 

「釜、ですか」

 





※原作既プレイの方へ

 こちらもちょっとずつ改変入り。
 作品全体としては大きな変化を一つ、他は玉突き的に変化が波及しているイメージです。


※原作未プレイの方へ

 シャリー(ステラ)シャリー(ロッテ)を取り巻く空気の温度差よ。
 これについては概ね原作通りです、念のため。

 『シャリーのアトリエ』はシャリステラとシャルロッテのダブル主人公で物語が進行します。
 それぞれのOPを観た後で、どちらの視点でプレイするかの選択を迫られる形ですね。
 前作『エスカ&ロジー』も似た形式だったのですが、ちょっと変化に乏しかった反省なのか、『シャリー』本編にて二人が本格的に顔を合わせるのは結構先だったりします。

 ちなみにソールさんは『エスカ&ロジー』から続けて出演しているキャラです。
 前作主人公であるエスカとロジーの同僚という立場でして。つまりそういうことですね。


 ……しかし、eschatology(エスカとロジー)(訳:終末論)とかいうド直球なネーミングよ。
 ホントこの頃の○ストさん何があったんすか。完全子会社化? アッハイ。

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