昏き海都は黄砂に沈む   作:非単一三角形

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 シャルロッテ視点。

 原作では思いの外さらっとしていたアレの回。



第27話 告解?

 

 

「――まずは、誤解の無いように言っとくわよ?」

 

 

「ナディさんの気持ちがわからないとは言わないし……まあ、気を悪くしてもいないわ」

 

「そもそもステラやミルカのことを受け入れると決めたわけだし……あんたひとり増えたところでどうってことないわよ、ええ」

 

「でも……でもね、シャリー? これだけは言わせてもらっていいかしら?」

 

 

 

 

「――どいつもこいつも重いのよ!! もうちょっと加減ってもんを考えてくんない!?」

「ですよねっ!? すみませんっ!」

 

 

 薄く隈の浮かんだ目に力を込めて、半笑いで叫ぶ師匠に反射的に頭が下がった。

 ……一瞬、「あたしだけ怒られるのおかしくない?」とも思ったけど、まあ。

 

 

「はあ……まあ、それでもこういうのは半端に関わるのが一番駄目だからね。こうなったからにはあたしも覚悟を決めたわよ、うん」

「な、なんか目が据わってますけど、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫といえば大丈夫……な、つもりではいるわ、多分」

 

 …それ絶対大丈夫じゃないやつです。

 

 

「見てなさいよ……背負うにしても、もっと軽くしてからにしてやるんだから!」

 

 ……ちょっと意味がわからないです。

 

 

 

▲ ▽ ▽

 

 

 

 あの後すぐ、母さんはまた眠るように意識を失ってしまった。…師匠の返答を待つことなく。

 当然それ以上の話は出来なくて…時間も時間だったし、思い悩んでいる様子で帰っていく師匠を見送って、そのまま母さんの様子を見ながら夜を明かすことになって。

 

 傍からは静かに眠っているように見えたけど、いつまた容態が急変するかもわからない。

 ステラは交代で眠りながら見ていようって提案してくれたけど……あたしはそれを断った。

 

 ……正直に言って、あの話の後で眠れる気がしなかったし。

 むしろあたしの知らないところでずっと対応してくれてたステラにこそ休んで欲しかったから、ちょっと強めにそう言ってベッドに入らせた。

 

 

 そうして、家の中からも外からも、物音がしなくなった真夜中。

 小さな息遣いだけを耳に入れながら、母さんの寝顔をぼんやりと見つめて。

 

 

 ――あれが()()()()()()()、どうしよう。

 

 

 不意に頭に沸いてきたその考えに、背筋が凍りついた。

 

 

 

 

 疑問に対して返ってきた答えに、納得出来たかどうかより。

 母さんが抱えてた色々を知って、これからどうするべきかを考えるよりも。

 

 最後を――()()を考えてしまってるあたし自身に、何より身体が震え出した。

 

 

 今は穏やかな呼吸が、次の瞬間には止まってしまうんじゃないかと怖くなって。

 振り払おうとすればするほど、頭の中を悪い考えが覆っていって。

 あたしに出来たのは、ただただ考えないようにしながら時を過ごすだけだった。

 

 起きてきたステラに肩を叩かれて、それでやっと夜明けに気づいたほど。

 一番に顔を洗うように言われたあたり、相当ひどい顔してたんだろうな、あたし。

 

 

 ……ステラも、ミルカも、すごいよ。

 あたしなんて、その()()()を考えただけで、こんなに頭の中ぐちゃぐちゃになっちゃうのにさ。

 本当に……()()、なっちゃって。それでも今は二人とも、しっかり前を向いて頑張ってる。

 二人みたいになれそうか…なんて、あたし口が裂けても言えやしないよ……

 

 

 

 

 

 

「──ともかく昨夜はごめんね、シャリー。まさかあたしが横から話に割り込んだことで、あんな話の流れになるとは思わなかったわ」

「い、いえっ、そんなことっ! 元はと言えばあたしが取り乱したせいなんですからっ」

 

 

 そして翌朝、全身から疲れを滲ませた姿で訪ねてきた師匠に連れられて──未だ目を覚まさない母さんをステラに任せて──やってきたのは街外れ。

 ちょっとヤケ気味な叫びの後で、額を押さえて頭を下げる師匠に、あたしは慌てて首を振った。

 

 …確かに母さんのあれには驚いたけど……あのときウィルベル師匠と話したいたときの母さん、なんだかすごく本音で話してたような気がするんです。

 母さんのあんな姿、あたしは今まで見た事も無かったですし……それだけでも、師匠があの場に居てくれて良かったって、あたしは思っていますから。

 

 

「…そ、そう? まあ、それならそれはこのぐらいにするとして……本題に入りましょうか」

「っ、は、はいっ」

 

「あ、その前に確認なんだけど…あんた、ステラから今まで作ってた薬については聞いた?」

「…………あっ」

 

「……まあ、昨夜はそれどころじゃなかったか。じゃ、そこから話を始めましょ」

「す、すみません……」

 

 

 …そういえば結局昨日、用意してあった薬についてステラに聞くの忘れてたよ。

 あのとき母さんには『時間稼ぎにしかなってないはず』って言ってたけど……

 

 

「──あの子が作り上げていた薬は二種類。一つは、例の商会長さんから『古式』錬金術士向けに依頼されていた、ナディさんが昔から罹っていた病気に対する薬ね」

「…………っ!? え、あ……えぇ!?」

 

 商会長──ペリアンさんから!? ステラにって…え、いつの間に……!?

 あ、いや、そっか、ステラって結構前から『商会』の依頼を……で、でもペリアンさんが……あ、そ、そういえば母さんって……ああ、えぇっとぉ……!?

 

 

「…混乱する気持ちもわかるけど落ちつきなさい。…あの会長さんも、ナディさんの意思を汲んであんたに色々と知られないように、その上で元部下の病状を改善する手段を探してたってわけよ」

「あ……」

 

「…そうして探し当てたのが古式錬金術の本ってのが、悩ましいところだったんでしょうけどね」

「! あ、だから……」

 

 師匠の言葉に、初めてステラを連れてペリアンさんに会いに行った時のことが頭を過る。

 あの時、ステラが古式錬金術の使い手だって聞いて考え込んでたのはそういうことだったんだ。

 

 ……あれ、でもその頃から薬を作ってたなら、もうとっくに治ってても良いはずじゃないの?

 それなのに『時間稼ぎ』だなんて……どういうこと?

 

 

「……今あんたが考えてることは大体わかるけどね。問題は、その本のレシピがそのままじゃ到底使えない代物だったことだそうよ」

「…えぇっ! ど、どういうことですか!?」

 

「調合の難解さもあったらしいけど……最大の問題は、薬効が強過ぎて今のナディさんの身体じゃ耐えられないんですって」

「っ! そ、そんな……!?」

 

「…だからあの子は、症状の緩和と病気の進行を抑える程度まで効き目が落ちる代わりに、身体にかかる負担を少なくした薬を作り上げたそうよ。…『時間稼ぎ』っていうのはそういうことね」

「……!? ステラ……っ」

 

 

 あたしが知らないところでステラがどれだけ頑張ってくれてたのか、頭の中で理解が進むたびに胸が一杯になっていくのを感じる。

 ……ああもう、ステラってば本当に──いや、違う。負けてなんていられない。

 これ以上置いてかれないように頑張んなきゃ! あたしだってもう立派な錬金術士なんだから!

 

 

「…さて。話がここで終わるなら、取りあえず病気の進行は抑えられてたわけだし、あんたの前で今まで通り振る舞い続けることもできたはずよね。…それが良いことだったかどうかはともかく」

「え……? あ、はい。でも……」

 

「ええ、なのに彼女は倒れてしまったわ。それもあんたの目の前で、取り繕うこともできずに」

「……!?」

 

 …そう、だ。

 考えてみたら、おかしい。

 

 ステラの薬で、治ることは無くても悪くなることもなかったはずじゃないの…?

 なのにそんな……それって、今までよりずっと母さんの身体に限界が来てたってことに……

 

 

「……そこで、ステラが作ってた二つ目の薬の話になるんだけど……そっちについては、()()()()()()()()()()()()()だって聞いてるのよね」

「え……あたしも、ですか?」

 

「ええ、その薬と、それが対応する病気と……その原因についても、ね」

「え、と……そう言われても……?」

 

 ……あたしも知ってるはずの薬?

 ステラが作った薬……病気……原因……?

 

 

 

『──村で流行していた病気を……その症状を少しだけ抑える薬、です。…ナディさんの容態が、その病気に似ているなって、思ったから…』

 

『──村の皆が苦しんでいた病気も、そのせいで……? そんな、それじゃあ……』

 

 

 …………あ。

 

 え、でも……それって、つまり……!?

 

 

『──その、村の水源管理装置って……本当に()()()()()()()()()()だったの?』

『……あたしが見た限りはね。街の装置も改めて確認したけど、これといった違いは無さそうよ』

 

 

 ……嘘、でしょ?

 だって、もし、そういうことだったら…………()()()()()()──

 

 

「…………気づいたみたいね」

「っ、し、師匠!? ま、街が!? この街の水も──」

 

「あ、あ~、落ちつけ…とは言い辛いけど! とにかく聞きなさいっ、シャリー!」

「っ、は、はい……」

 

 珍しく語調を強めたウィルベル師匠に、気圧されるような形で息が詰まった。

 それでも黙っているだけ不安が膨れて弾けそうになるあたしに、師匠は諭すように続ける。

 

 

「……発病は体が弱ってる病人、老人から。ソールたちにも話してそれとなく調べて貰ったけど、それらしい患者は今のところナディさんだけみたい」

 

「恐らくは初期段階……ほんの少し、あるいは稀に、身体に良くないモノが装置から湧き出す水に混じってるってところね。勿論、そっちも調査中らしいわ」

 

「水源管理装置の方に異常が出てるのか、それともこの地方の『水涸れ』の進行が原因なのか……その特定ができないのが難しいところだそうだけど」

 

 

「……そんな、ことに」

 

 矢継ぎ早に教えられた情報が、頭の中を巡っていく。

 ……理解出来たのは、とうとう『黄昏』の影響が待った無しになっていたってこと。

 ソールさんやラウルさんたちが、その状況をどうにかするために今頑張ってるんだってこと。

 

 それから……あたしが今更ジタバタしたって、どうにもならなさそうなこと、ぐらいかな……

 

 

「……それがそうでもないのよ、シャリー。というかあたしはまさにその、あんたに向けた頼みの話をするために呼び出したんだから」

「…………え? あたしに、ですか?」

 

 俯いていたところに思ってもみなかった言葉が聞こえて、思わず顔が跳ね上がる。

 向けた視線の先には、表情に微笑みを湛えた……何故かちょっと目を逸らす師匠の姿があった。

 

 

「あ~、ただ……そのためにはまず、先に言っとかなくちゃいけないことがあってね?」

「…え、あ、はい?」

 

「……えっと」

「……?」

 

 

 ……言いながら、師匠の手が顔を隠すみたいに帽子の鍔を掴んで。

 よくわからない沈黙の中、帽子を掴む手が両手になって。

 隠れてしまった口から、微かな唸り声が聞こえて。

 

 

「…やっぱり言わなきゃダメよね……? そのつもりで一晩考えて……でも……」

「…だ、大丈夫ですか師匠? 具合が悪いようならまた今度でも……」

 

「あ、だ、大丈夫よ! そーいうのじゃないから!?」

「は、はあ…?」

 

「だから、ええと……ええい、いい加減腹を括りなさい、あたしっ!」

「し、師匠?」

 

 

 その一言の後で、ぐわっと音がしそうな勢いで師匠は顔を上げた。

 ふわっと浮かんだ帽子の下から、ついさっきも見たようなヤケ気味の表情が現れる。

 

「はぁ……いーい? よく聞きなさい、シャリー!」

「うぇっ!? は、はい、なんでしょ──」

 

 

 

 

「あたし、本当は修行中の魔法使いなの! 錬金術士じゃないのよ!!」

 

 

 

 

 …………えっ。

 

 

 

▽ ▽ ▲

 

 

 

 ――錬金術士じゃなくて『魔法使い』。

 

 

 今まで見せてきたのもそういう道具を作ってたんじゃなく、契約した精霊の力だったり、修行の末に身につけた魔法によるもの。

 

 曲がりなりにも錬金術の指導が出来てたのは、過去に出会った錬金術士との付き合いのおかげ。

 

 元々同類や錬金術士には隠すこともないし、何ならミルカやステラは自力で気づいてた。

 

 

 …………というか何でひとりだけいつまでも気づかないのよ!? ……ごめん、逆ギレした。

 

 

「マ…マジですか」

 

 呆けた頭に次々とそんな内容を浴びせられて、あたしが出せたのはそんな一言。

 

 

「……ええ、うん。そういうことなの。…黙っててごめんね、シャリー」

「え、あ、いえ……えっと…」

 

 目の前で、震えながら両手で掴んだ帽子で目元を隠す姿を、呆然と見下ろして。

 

 

「だから、その……あんたはホントに凄いのよ? あたしの聞きかじりの指導なんかで、一人前の錬金術士になっちゃったんだから。……むしろ天才よ! 怪物よ!? あんたたち二人とも!!」

「うえぇっ!? え、あ、あれ? そういえば……」

 

 その叫びに詰まってたのは、たぶん罪悪感。

 直前の衝撃が強過ぎて、あたしが理解出来たのは一拍置いてからだったけど。

 

 

「だから……えっと……あたしは……」

「……」

 

 ……確かにそれを聞いて、あたしの中にふつふつと沸いてくる想いはあった。

 でも騙されてた、というよりは……もっと、なんだろう……ざわざわする感じというか。

 

 

 …………うん。

 決めた……じゃないや、()()()()()

 あたしが今言うべき言葉は、()()だ。

 

 

「……それでも」

「っ!」

 

 あたしがぼそっと呟いた一言に、帽子の下で息を呑んだのがわかった。

 色々考えてるんだと思いますけど、まずは()()言わせてもらいますよ──()()()()()()()

 

 

「それでも、ウィルベル師匠は…ウィルベル師匠です。今さらそれは変わらないです!」

「……えっ」

 

 

 帽子の下から出てきたのは、あたしを見上げるポカンとした顔。

 そんな師匠に向かって、湧き出てくる言葉を湧き出てくるままどんどん続けていく。

 

 

「そりゃあ、最初はすごい錬金術士の先輩だって、尊敬から始まりましたけどっ! 今のあたしが師匠を『師匠』って呼ぶのはそれだけが理由じゃないんです!」

「う、うん……?」

 

「あたしにとって師匠は優しくて、強くて、あったかくて、それからもひとつ優しくて頼りになる師匠なんですっ! あたしだけじゃなくミルカやステラだって絶対同じこと言いますよ!」

「んぐっ、んぅ……!?」

 

「だから誰が何と言おうとあたしの師匠はウィルベル師匠です! 師匠の方から、やめてくれって言われない限り……いや、もし言われたってあたしは弟子をやめたりなんかしませんよっ!」

「……そこ食い下がるの!?」

 

 

「はい、食い下がります! どうかこれからもあたしの師匠でいてください!」

「食い下がりますってあんた……はあ」

 

 溜息と一緒に頭を抱えて、けれどもう一度顔を上げた師匠は、目尻に涙を浮かべて笑っていて。

 そして聞き取れるかどうかギリギリの、消え入るような呟きがあたしの耳に届いた。

 

 

 

「…………あんがと」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、あたしに頼みたいことって何なんですか?」

「あっ…………えっと、それなんだけどね?」

 

 

「あたしと一緒に『東の大陸』……サンドドラゴンが塞いでた海域の先についてきてほしいのよ。この街の錬金術士として、ね」

 





※原作既プレイの方へ

 原作と違って『水涸れ』調査に直接は関わってない本作シャリーたちを動かす為の理由付け回。
 別名、大人たちが裏で頑張ってましたよ回。…毎回組合で報告会的シーン描くのもアレなので。

 航路の開拓も進んでない内から未踏海域を突破できるような船を所有する原作シャリーたちとは扱いも事情も違うのです。先行して航路確保できるエスカも不在ですし。
 本作ではおそらくホムラ氏あたりが嬉々として対応しています。シャリーたちとは関わる機会が無かったので画面外になりますが。


 原作ペリアンさんがナディさんに気づかれないようにロッテに渡そうとしていた『疾病大全』。
 本作では少々早くにステラの手に渡っていました。まあ、時期以外は原作通りですね。

 …というかロッテに渡すと言って受け取ったそれを、今のままじゃ渡しになんていけない…とか言い出して、自分の手で薬を調合することに拘りだすんですよね、原作ステラちゃん。
 プレイしていて、ちょっとそれどうなんだ、と思ったのは作者だけなんだろうか。
 そのせいでステラ編7章でやる事に対してロッテ編7章が(ry


※原作未プレイの方へ

 作中でもとある人物から「怪物級の錬金術士が二人…か」と評価されています。才能の鬼。
 ゲーム的要素とはいえ、これまでの主人公たちなら3~5年で培う腕前に年単位の時間は掛けずに追いついているわけですから然もありなんというところ。

 …まあ、以降の作品からは制限時間が撤廃されたことでそれがデフォルトになるんですが。
 『シャリー』以降で唯一期限のある『フィリス』も一年間の出来事になりますし。

 またそうなると錬金術のれの字も知らない状態で始まるフィリス、ライザが特にヤバイという。
 物語開始前から錬金術士、調合経験あり、過去作主人公の弟子といった設定が多いですからね。

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