原作ウィルベルさんが単身で東の大陸に行くことを諦めていたのは何故なんでしょうね?
調査隊の進行ルートを聞いて「ムリ」と判断していたようですが。
「──ともかく、あたしの修行は力のある精霊との契約を結ぶこと。……以前見せた『風の王』や『火の王』みたいな、ね」
「ソールに調べて貰った『東の大陸』……サンドドラゴンが塞いでた海域の先にある土地の情報の中に、同じような精霊の情報…らしきものがあったのよ」
「それもなんと、水の精霊たちの王さまって話なの。…元々『東の大陸』はこの辺りに比べて今も水が潤沢らしいんだけど、あたしはその『水の王』がいるからだと睨んでるわ」
「水を司る精霊たちの王なら、この地方の『水涸れ』についても何か知ってると思うの。そこで、『東の大陸』にあるっていう『水の王』の祭壇へ契約に向かう……ってのが、あたしの目的よ」
――かつてサンドドラゴンの縄張りがあった領域からさらに東。
何十年か振りに使われたその航路には、数えるのにも苦労するような数の船の残骸がうずたかく積み上がっていたそうだ。
『東の大陸』との交易が盛んだった頃から、つい最近のまで混じった……帰って来なかった船。
そのどこまでがサンドドラゴンにやられたものなのかまでは、もう誰にもわからないけど。
「──で、それを精霊に関しては省きつつ、伝承に残る祭壇とやらを調べたい……ぐらいの感じでソールたちに話したら、それなら錬金術士を誰か連れて行ってほしいって頼まれちゃったのよ」
「なんでも、『東の大陸』については『中央』独自の調査もされているんだけど、これがいまいち進んでないとかで……できれば、錬金術士の目で直接見てきてほしい場所が幾つかあるそうなの」
「ただ、この街の錬金術士ってあんたたちしかいないわけじゃない? それをまだまだ危険もある『東の大陸』調査隊に同行させるのは難しい。せめて錬金術士と同行した経験があって腕も立つ、そんな人材がいてくれたら……なんて言われちゃってさ」
「あたしも調査隊のルートを聞いて、目的地まで飛んでいくのはちょい厳しいかなと思ってたし、それで船を出して貰えるなら万々歳…ってわけで、あんたに声を掛けたわけなんだけども──」
「……とりあえず、あたしは何も言ってないですよ、師匠?」
「そ、そう……
「まあまあ、そう言わないでください、姉さ……ウィルベルさん」
「シャルだけ連れて行こうだなんて、水臭いこと言わないで」
半笑いで腕組みをする師匠を前に、澄まし顔で声を揃えるミルカにステラ。
……いやあ、師匠と一緒に船に向かったら、二人して
ステラなんて、あたしが家を出たときは見送ってくれたよね? いつの間に追い越してたの?
「ナディさんのことなら心配いらないよ。もうロッテに隠す必要もなくなったからなのか、素直にペリアンさんたち『商会』を頼ってくれるみたいだから」
「やっとおばさんが自分たちに
「あ……ペリアンさんたちに……そっか、それは良かった、けど……」
「……ミルカ、あんたアトリエは?」
「……この機に店仕舞にしても良いかなって」
「ちょ、ちょっとミルカ!?」
「冗談。…でも事業の縮小はもう始めてるわ。このまま少しずつ休業日を増やしていくつもり」
「そ、そっかあ……街を離れる準備、もう進めてるんだね」
ミルカのアトリエ、あんなに繁盛してるのに勿体無い…って思っちゃうけど、仕方ないよね。
それに、毎日似たような錬成の依頼ばっかりでうんざりするとも言ってたし、ミルカにとってもその方が良いのかも知れないなあ。
「……今日明日のことじゃないわ。それに私も、生まれ育った街への義理は通したいから」
「一番はナディさんの為だけど……ルギオン村のみんなみたいに『水涸れ』に苦しむ人をこれ以上増やさない為の手がかりになるなら、わたしも協力したいの」
「ミルカ……ステラ……うん。一緒に頑張ろうね、二人とも!」
……頭の片隅に、チラっと。
もしかしたら、これがこの二人と遠出する最後の機会になるかもなあ、なんて考えが過った。
母さんには色々言われたし、その気持ちもちゃんと話して、聞いて、理解したけど……あたしの夢については、やっぱり変わんない。
誰かの為に……ステラードに暮らすみんなの為に、あたしはこれからも頑張りたい。
…そのためにも、ここらでバシっと『水涸れ』を解決しちゃわないとね!
きっと『水の王』さまなら何か知ってるはず。頼りにしてますよ、ウィルベル師匠!
「……ねえ、今更なんだけど……やっぱり、『師匠』なわけ?」
「はい、勿論です! 師匠は、『師匠』なんですから!」
「で、でも、あたしの錬金術の知識なんか大したことないし…弟子よりしょぼい師匠なんて……」
「そんなの関係ないですよ! ねっ、ステラ、ミルカ?」
「ふふ…っ、はい。何があってもわたしとロッテの『師匠』ですよ、ウィルベル姉さま?」
「…ええ。この先に何があっても、ベル姉さんはベル姉さんよ」
「…………あんたたちのはなんか違わない!? というか、流れに乗せようとするなぁ!?」
……ほら、あたしの言った通りだったでしょう?
そろそろ諦めた方が良いんじゃないですかね、師匠ー。
「──ここが、精霊の祭壇ですか…」
「と……とうとう来ましたね、ウィルベル師匠!」
「……」
調査隊が『東の大陸』で拠点にしている集落『ファーヴ村』から、北に進むこと数日。
事前に聞いていた通り、ステラードの周りよりもずっと豊かな水、豊かな自然の中を掻き分けて進んだ先に、その光景は広がっていた。
──薄く虹色に光る石や砂でできた、無数の窪地。
そこに湛えられた、近づけば顔を映せるぐらいに澄みきった、沢山の水。
高台に立って遠くまで見渡せば、目に入るのは水面に映った空色の穴。
……こうしてると、まるで空を切り取って地面にちりばめてるみたいにも見えてくる。
その景色の彼方、窪地の中心に聳え立って見えてるあれが『水の王』さまの祭壇、なんだろう。
ここからだとよく見えないけど……まるで天蓋みたいになってる岩の下に、何かが捧げられてる台座らしいものがあるのがわかる。
「ほ、ホントに精霊が出てきそうな雰囲気だね! …あ、出てくるのか…」
「……確かにそれぐらい神秘的な景色、だけど……何、この感じ…?」
「以前、精霊の王さまたちに会ったときと似てる……けど、何だか重苦しいような…」
顔をしかめるミルカの傍で、ステラもちょっと気味悪そうに腕を撫でている。
……やっぱり二人も何か感じてた? ……うん、あたしもだよ。
こうして遠目に祭壇が見える距離まで来る途中でも、何度か不思議な感覚が襲ってきていた。
誰かにじっと見られている、あるいはざらつく何かが肌をすり抜けてくみたいで……
近づくほど強くなっていたそれは、今ではもう痛いと思うぐらいになっている。
「……何だか、近づくな…って言われているみたい」
「精霊の王さまが居る場所って、いつもこんな感じなんですか、師匠?」
「…………」
不安気に呟いたステラに頷いて、先頭を歩いていた師匠に問いかけた。
だけど返事がない……というか、思えばだいぶ前から師匠の声を聞いていないような?
……師匠? どうしたんですか、ウィルベル師匠ー?
「……なに、これ」
「……え?」
「なんで、こんなに怒って……それに、こんな力……」
ずっと黙ったままだった師匠から聞こえてきたのは、どこか呆然と呟く声。
あたしがどうしていいかわからずに立ち尽くしているうちに、その姿は両手で帽子を掴んで蹲る姿勢に変わってしまった。
「……水の王さんが、この近くにいるんですね?」
「あたしたちにも何となくわかりますけど……」
「…………この先、よ。今はまだ、
「……これ、近づいて大丈夫なの?」
「……
二人からの質問に、師匠は蹲ったまま辿々しく答えた。
けれどそれを最後にまた師匠は押し黙ってしまって……あたしはどうするべきかと考えながら、後ろに立つ二人に目を向ける。
しばらく三人で視線を向け合った後で、小さく頷いたのはミルカだった。
「ねえ……精霊との契約って、具体的にはどうするものなの?」
「っ!」
「私、なんとなくの想像でしか考えてなかったし……ここに来るまでは随分余裕を見せてたから、そう難しいものでもないのかと思ってけど、違ったみたいね」
「……ええ」
ミルカの問い掛けに反応して、師匠はゆっくりと立ち上がった。
……確かにあたしも、師匠から具体的な方法については聞いてなかったなあ。
なんか、難しい呪文を唱えるとか、そんな感じかと……それに、師匠は既に『風の王』さま、『火の王』さまとも契約しているわけだし、すっかり慣れてるものだとばっかり……
「……純粋に強さを見せて、相手より契約者のほうが格上だってわからせるのよ」
「えっ……け、結構強引なんですね?」
「……話に聞いた限りだと、人が自然を司る存在の格上に立つなんて不可能に聞こえるけど?」
「…そうね。単純な強さだけってわけじゃないわ。精霊の王が出す試練を乗り越えられるか……『火の王』なんかは、自分を楽しませるだけの力を見せてみろ……みたいな感じだったし」
その言葉に師匠は暫く考え込んだ様子になって、それから背中越しにもわかるくらいに頷いた。
…そうだよね。あのとき見た精霊の王さまはどっちもとんでもない存在感だったし、戦って勝てなんて言われても人間には絶対に無理な気しかしないよ。
「あの……それって結局、精霊の王さまの匙加減ってことなんじゃ……」
「…っ、ふ…!」
「? ウィルベル師匠?」
淡々と答えていた師匠が大きく反応したのは、ステラの呟き。
目をパチパチさせるステラと顔を見合わせてるうちに、小さな笑い声が聞こえてくる。
「あ、あの、ねえさ……ウィルベルさん?」
「ふふ、ごめんね、思い出しちゃったのよ。初めて契約を求めて『風の王』に挑んだ日のこと」
「『風の王』さまに?」
「ええ。……あの頃のあたし、ほんっと若かったなあ~って」
そう言って振り向いた師匠の顔は、誇らしさ半分の恥ずかしさ…みたいな表情が浮かんでいた。
そのまま大げさなくらい首を横に振って、強張った口の端をグッと引き上げる様子が見えて。
「はあ……こんなことでびびっちゃうなんて、あたしもすっかり
「師匠……?」
「うん……契約できるかできないかは、やってみればわかる。なら、やるしかない」
続いた言葉は、たぶん自分自身に向けた独り言。
そうしてあたしたちに向けて制止するみたいに片手を掲げてから、師匠はハッキリと告げた。
「あんたたちはここであたしが戻ってくるのを待ってなさい。これ以上近づくと危険だから」
「えぇっ!? あ、あの、だったら――」
「うっさい、師匠の命令よ! 良いわね!?」
「ひゃっ!? は、はいっ!?」
睨みが混じった初めての『命令』に、あたしは反射的に答えると同時に頷いていて。
そんなあたしに満足気に頷いた師匠の視線が、その横に立つ二人に向けられる。
「……ベル姉さん」
「……ウィルベル姉さま」
「あんたたちも。……そうね、ここから三人で応援しててくれる?」
「は、はいっ!」
「……わかったわ」
「よろしい。それじゃ……行ってくるわ」
もう一度、あたしたちに笑いかけてくれた師匠が、くるりと背を向けて。
次に見えたのは、いつものように外套を広げて飛び立っていく師匠の後ろ姿だった。
「……大丈夫、なのかな?」
「「……」」
祭壇に向かってだんだん小さくなっていく背中に、そんな呟きが零れた。
二人も同じようにそれを見つめながら、息を呑んでいる様子が何となくわかる。
遠ざかっていく師匠とは反対に、さっきまで感じていた気配は遠のいていく気がした。
たぶん、『水の王』さまの意識があたしたちから師匠一人に集中してるんだ。
重苦しい感じが消えて、なのにどんどん息苦しくなってく気がする。
……大丈夫、なんですよね、師匠? なんだか、さっきからすごく嫌な予感が──
「「「…………え」」」
……次の瞬間、あたしたちの目に映ったのは。
師匠の姿を一息に呑み込む、
※原作既プレイの方へ
原作では一回ヘタレてステラードまで帰っちゃうウィルベルさんなのですが、本作ではまさしく『背水』の姿勢で臨んでます。がんばれ、弟子から褒め殺しくらったお姉ちゃ(ry師匠さん。
……メタ的にはここで帰られると戻ってこれないので踏み止まって頂きました。
原作と違って好きにステラードと東の大陸を行き来できる状態に無いので……
※原作未プレイの方へ
黄昏シリーズ一作目となる『アーシャ』の物語開始時点でのウィルベルさんは14歳。
当時はわりと人生舐めてるタイプの根拠の無い自信に満ち溢れた少女でした。
『風の王』相手に「一発ぶっ叩いて言うこと聞かせる!」とか宣うベルちゃんマジベルちゃん。
リスクを恐れて尻込みする彼女の姿に、大人になったなあと思わされたものです。