昏き海都は黄砂に沈む   作:非単一三角形

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 本来は全てカタカナなんですが、技名だけルビの形で漢字を当ててみました。
 その為、既プレイの方にとっては多少イメージと異なる表記になっているかもしれません。



第30話 水の試練

 

 

 ――精霊の王とは大いなる自然を司る、あるいは意思を持った自然そのもの。

 

 それは決まった形が持っているわけじゃないし、並みの手段で傷付くようなものでもない。

 

 

 幾ら魔法使いと言ったって、そのままじゃとてもじゃないけど戦いになんてなるわけない。

 だからこそ、敢えて戦いが成立するように作られた実体を相手にする()()()こそが『試練』。

 

 現に今も間違いなく、『試練』と銘打てる程度には加減もされている。

 最初に叩きつけられたような、回避も抵抗も許さない『攻撃』は使われていないんだから。

 

 取りつく島も無かった最初の状態を思えば、これ以上なく上手く話が進んだ結果と言える。

 今この状況こそあたしが望んで、足掻いて、引き当てることに成功した奇跡。

 ……うん。それについては、今更疑いようもないのだけど――

 

 

 

『【イカリノアメ(怒リノ雨)】』

「ぐえっ…!? またそれなの…っ!?」

 

 すっかり()()()()()()()()()()()と共に、また一段と勢いを強くする雨。

 全身を打つ雨粒の、さらなる密度と量の増加に、思わず口から弱音が漏れた。

 

 

 ──『水の王』が試練の場として即座に創り出したのは、氷のような雨が降りしきる空間。

 視界も、体力も、体温も、身体の動きまで阻害してくるその雨の影響を受けるのは、当然ながら水そのものたる『水の王』に対峙するあたし一人。

 

 

『【ミズノモン(水ノ門)】』

「う、ぐっ、ああもう!?」

 

 続く宣言は、範囲を狭めた滝のような雨を重ねて頭上に降らせる一手。

 立ち止まっていればそれだけ水に叩かれるとわかっていて、その場に居られるわけもなく。

 堪らず()()()から()()()()()あたしを、槍を構えた『水の王』の視線が追ってくる。

 

 

『トビマワリ ニゲルダケ カ? ハムシ ノ ヨウダナ』

「う、うっさいわね!? 誰が羽虫よ!?」

 

 雨を吸って重くなった外套に『風の王』の力も纏わせて、祭壇の周囲を全速で飛び回る。

 そんなあたしの姿に『水の王』から聞こえてきたのは淡々とした、だけど呆れたような呟き。

 ……走って逃げまわるのは速度、体力両方の意味で無謀だからとこうしているのに、それを虫に例えられるのは心外なんだけど!?

 

 

『マアヨイ ソレガ ノゾミ ナラ ツキアッテヤロウ。【タイカイフメツ(大海不滅)】』

「え、うわっ、ちょっと……っ!?」

 

 『水の王』がかざした手から放たれた、槍のような水流が視界を横切っていく。

 ……避けそこなったら、それこそ虫みたいに叩き落とされるわね。……ええい、あっちの言葉に乗るわけじゃないけど、逃げてばかりじゃどうにもならないわ!

 

 

「『火の王』よ! 力を貸してっ! 【ダンシングソード】!」

『ム……【メッスイノイカリ(滅水ノ怒リ)】!」

 

 水にも通じるだろう『火』を込めた剣を数本飛ばせば、脅威に感じたのか水流弾は止まった。

 代わりに槍を地面に刺して……げっ、何あれ!? 吹き出した水に剣が全部弾かれて──

 

 

「【スイギョノカゲ(水魚ノ影)】」

「くっ……あ、嘘っ!? げぼっ!?」

 

 攻撃を防がれた驚きに浸る暇もなく、放たれた応手は壁のように迫ってくる波。

 回避しようにも思った以上に速度が出せず、足先から波の中へと引きずり込まれた。

 

 

「(んぐっ……『風の王』っ!)……ぷはっ! ひぃっ!?」

 

 身体に重く纏わりついてくる水を『風』で吹き飛ばして、また全力でその場を退避。

 直後、数本の水柱が背中を擦って、もう何度目かになる背筋が凍る想いを味わった。

 

 

「(……し、死ぬ。これ、本当に死ぬやつ……!)」

 

 ああ、もう……本当に、落ち着いて息をする暇もないわね!

 『試練』の開始から何度も水に打たれて、呑まれて……手足から内臓まで絞られてるみたいよ!

 

 

 一応、手心は加えてくれている……はず、よね?

 本気なら最初みたいに、この祭壇丸ごと水柱で埋めてしまえるわけだし。

 あのとき集めてた周囲の窪地の水だって動かす様子もないし、延々と雨を降らせる程度で──

 

「(その雨がまた、重いのよっ! それに、身体がどんどん動かなく……っ)」

 

 服や帽子だけじゃない。手足にまで染み込んでくるみたいな水に、もう身体が震えてきてる。

 重さで機動力を削られてるのも問題だけど、寒さで感覚が鈍くなってきてる事の方がマズイ。

 『火の王』の力も借りて温めてはいるけど……追いつかなくなってくるのも時間の問題だ。

 

 

「……っ、【オールレンジソード】っ!」

『ヌゥ…… マダ アガク カ』

 

 一度に出せる全力の本数の『火』の剣を放って、多少デタラメにでも嗾ける。

 ……幸いというべきか、『火の王』の力を込めた剣には『水の王』も迎撃を優先するらしい。

 

 目に見えて攻撃が緩んだおかげで息はつける……と言っても、消耗する魔力が多過ぎる。

 これじゃ多用はできないし、何より時間を稼げるだけで状況を変えられるわけじゃない。

 

 …とはいえ、それなりの本数じゃないとその効果すら見込めないし、かといって集中に焼き切れそうな頭に鞭打って剣の数を多少増やしたところで――

 

 

『【シュゴスイテン(守護水纏)】』

「……こうなるのよねえ」

 

 『水の王』を覆うように広がった水が、無数の剣を十把一絡げに絡め取り、消滅させた。

 これを避けて対空させてたとしても、降り注ぐ雨にやられてそのうち消えてしまうのは同じ事。

 

 

『ハチ キュウ ジュウ ……コレダケ カ』

「うわっ、と!? ……いっ!? ぐぅ……」

 

 そして飛ばした剣の数だけ差し向けられる水流。…これこそ加減の一環なんだろうけど。

 躱そうとして飛行に入った身体を掠めたのが数本、腕に当たったのが一本。

 ……即落下するほどの威力じゃなかったけどキッツイ……これ、骨大丈夫かしら…?。

 

 

『【ウミノボルミタマ(海昇ル御魂)】』

「うおわぁっ!? ぐ……っ」

 

 一瞬、腕に意識を取られて、戻した視界の目前に『水の王』が迫っていた。

 実体を一度水に戻して、こちらのすぐ傍の床の水から再び実体化しつつの槍の一撃。

 不意打ち気味に突きこまれた槍先をどうにか避けて、だけど身体は少なからず悲鳴をあげた。

 

 ……下手に近づくとこうなるのよね。

 消される隙も無いぐらいに近くで『火』の剣を出せたらとも思うけど、それはこの槍の間合いに自分から飛び込むってことになる。…うん。串刺しにされる未来しか見えないわ。

 

 

 飛び回り続けることでどうにか致命の攻撃を躱して。

 隙を見て放つ攻撃は、大した苦も無く防がれて。

 仕置きとばかりの反撃でふらついたり、避ける先を読み違えて接近、あわやというところで槍を躱す……『試練』が始まってから、ずっとそんなことの繰り返しだ。

 

 四肢も頭もずっと前から限界を訴え続けて、息を吸うだけで身体中が痛む。

 水に体温を奪われていくせいで、段々歯の根も合わなくなってきた。

 ……むしろ我ながらよく戦い続けられてるわね、本当に。

 

 

 あたしの基本の戦い方は、遠距離からの飽和攻撃だ。

 自前の魔法でも、精霊の王たちから力を借りられるようになっても、それは変わらない。

 相手の手が届かない所から空間を制圧して勝ちを取ってきた。

 

 だけど今この場では、その肝心要の物量と制圧力で負けてしまってる。

 手札が『火の王』による熱と、『風の王』による機動力だけなのも不味い。

 どっちも降り注ぐ雨で確実に弱められている。

 

「(…このまま遠距離戦を続けても勝ち目がない? そうは言っても……)」

 

 ……近距離戦闘? いや、無理だから。

 あたしにそんな心得は無いし、準備だってしていない。

 まあ、こうして飛ばしてる剣を握れば、剣士の真似事ぐらいは出来るかもだけど――

 

 

『……コレ モ カワス カ』

「(……あれ?)」

 

 槍を振るった姿勢の『水の王』の姿に、頭の中で何かが引っかかった。

 ……だけど何が気にかかったのか、判然としないまま今一度()()に目を向ける。

 

 

 槍……槍先……?

 そもそも、あたしは……っ!?

 

 

「『火の王』よ! 応えなさい! 【ボルケーノ】!」

『ム……』

 

 剣を一本頭上へ飛ばし、込められた『火』を炎弾の形で解放、相手に向かって降り注がせた。

 本来なら沢山の標的、あるいは巨大な相手を焼くための一手に、『水の王』が疑問を見せる。

 

 相手の意識が頭上に向かったその瞬間。

 そこを狙ってあたしは、『水の王』へと()()()()()()()()()()

 

 

『…? オロカ ナ』

「さて、どうかしらね!」

 

 脅威になり得ぬとばかりに、纏った水に炎弾の対処を任せた『水の王』。

 その手に握られた槍の穂先が、飛び込むあたしの頭に向けて真っ直ぐに突きこまれる。

 

 

 ──()()()、と。

 とんがり帽子の先から、青く輝く穂先が顔を出した。

 

 

『……ン?』

 

 

 聞こえた呟きは、あまりに呆気ない幕引きに対する疑問に満ちたモノ。

 けれどすぐにその顔は、初めの当惑とは異なる色に染まっていく。

 

 そりゃあそうだ。突き刺した帽子には、その()()()()()()()()()()()()()んだから。

 水を垂らす帽子だけがそこにあって、だけど()()()()を突き刺した手応えだけがあったはず。

 

『コレ ハ…… ナニ ヲ──?』

 

 槍が貫いている、帽子の中にある『何か』。

 『水の王』の意識が『それ』に集中している、その刹那に。

 

 

 

「……タネも、仕掛けも、ございませーん!」

 

『ッ!?』

 

 

 

 場違いなほど明るく、大きく。

 『手品師』を名乗って糊口をしのいだあの日の経験を乗せた口上を切る。

 

 そうすれば、ほら……『水の王』の意識は、背中に立つあたしに向いた。

 槍に突き刺された帽子の中の、あたしが生み出した『それ』から真逆の方向に。

 

 

 

「ただの『()()()()()()』よっ!!」

『ナ…ッ グアッ!?』

 

 

 ──【パンプキンボム】。

 

 まだ碌な魔法も使えなかった頃のあたしが愛用してた、当時のあたしの精一杯の攻撃魔法。

 当然、大した威力なんかないけど……この()()()()()()()()()()()()()()、話は別でしょう?

 

 

『キ、サマ ……ッ』

「【ファントムソード】」

 

 狙い通り、少なからずふらつきながら……怒りを向けてくる『水の王』。

 そんな姿を前に、一本の『火』の剣を()()()()()()()()()、構える。

 

 そして、剣の操作に全力の集中を注ぎ──身体を飛行させつつ、()()()()()

 

 

「続いて、見様見真似の……【チェックメイト】!」

『グ、ァ……!?』

 

 ()()()()()()は、何だかんだで一番付き合いが長くなった剣士の技。

 相手の機先を制して動きを潰す……とかなんとか言ってた気がする一撃の、模倣。

 

 本家本元に比べれば、笑っちゃうくらいに威力も重さも無い一太刀だ。

 だけど何度も『見た』剣閃通りに動かせば、付け焼刃程度の鋭さは確保できる!

 

 そして何より──

 

 

「あっは……何よ、その槍遣い。全然()()()()()わよ、『水の王』!」

『グ……』

 

 

 ──あたしがついさっき気づいた違和感の元。

 それは、『水の王』の槍の攻撃を、他ならぬあたしが()()()()()()()()ことそのものだ。

 

 

 あたしはこれまでの旅の中で、結構な数の人間と行動を共にして、肩を並べて戦ってきた。

 『魔法』にも、『爆弾』にも頼らずに、モンスターと渡り合う姿を様々目にしてきたんだ。

 

 剣、短剣、ツルハシ、戦鎚、刺突剣――

 その中に槍を使う人間こそいなかったけど……今、目の前で槍を振るってる『水の王』の姿は、言っちゃ悪いけど彼らとは比べものにもなんないのよね。

 

 

 …まあ、考えてみれば当然かもしれない。手ずから武器を振るう機会なんて、幾ら悠久を生きる精霊の王でも……いや、むしろだからこそ数えるほどしかなかっただろうから。

 少なくとも人を相手に武器をかち合わせた経験なんて、ほぼほぼ無いに等しいんじゃない?

 

 それを言ったらあたしにだって、剣を握った経験なんて無いけどね?

 でも『無い』同士なら条件は同じ。歴然とした差がある遠距離戦よりは喰らいつける目がある!

 

 

『……ッ、【シュゴスイテン(守護水纏)】!』

「っ、【ノックアウト】ぉ!」

 

『ナ ニ……ッ?』

 

 槍を弾かれた『水の王』が作り出す分厚い水の壁を、これまた猿真似の技で強引に切り裂く。

 今まで飛ばした剣はこれに阻まれて消火されてたけど、握った剣でなら破ることができた。

 

 あたし自身を空に飛ばしてしがみ付き、()()()()()()形で記憶のままに剣を振るう。

 こんなムチャクチャな戦い方をする日が来るなんて、五分前のあたしでも信じやしないだろう。

 

 それでも手から離さなければ──『火』が水に消される端から力を注げる。

 こうすれば、『水の王』の防御を破って『火』の剣を突き付けられる!

 こんな簡単な理屈に今の今まで気づかなかったなんて、我ながら間抜けな話ね、全く!

 

 

 頭に思い描くのは、下手すりゃあたしより重そうな鉄塊を軽々とぶん回していた大剣使い。

 荒っぽく振り回してるようで、ちゃんとした剣技になってたって言うんだから恐ろしい。

 

 聞いた話じゃ、狩人と一緒に空飛ぶ竜を叩き切ったって言ってたっけ。

 ……うん。今更だけどあいつ本当に人間だったのかしら? 技を借りといてなんだけど。

 

 

 何にせよここが、この瞬間が、きっと最大にして唯一の勝機。

 手品紛いで騙くらかして、形だけの剣技で不意を突いて、ようやく迫れた喉元。

 もう一度やれと言われて出来る気なんかしないし、やらせてくれるはずもない。

 

 

「もういっちょ、見様見真似のぉ――」

『シレモノ ガ!』

 

 だから、目一杯剣を振り上げる、つもりで引っ張られるように上昇させて。

 水に阻まれても貫けるよう、剣身が白熱するまでありったけ魔力を注ぎ込む。

 

 

「【ワンカットブロウ】っ!」

『【ヒョウバクタイザン(氷爆泰山)】ッ!』

 

 

 振り下ろした剣と、噴き出した水柱が真正面からぶつかり合って。

 夥しい蒸気が噴き出して、視界の一切が真っ白に沈んだ。

 

 

 剣を握る腕が弾かれそうになるのを、『風』も使って縛り付ける。

 急速に消されていく『火』を、頭が煮える勢いで補充し続ける。

 

 返ってくる抵抗に、水流に、腕が痺れて、頭の中が白くなって。

 身体中、バラバラになりそうな痛みの中で、必死に歯を食いしばって。

 

 

「っ……う……!?」

『……』

 

 

 一瞬、晴れた蒸気の向こうに、静かに光る『水の王』の瞳が見えた。

 

 

 

『……ソガウツワ ワレヲ ウケトムルニ タルカ?』

 

「……えっ?」

 

 

 直後、見えたのは『水の王』の実体に沈んでいく白の輝き。

 再び噴き出した蒸気に視界が染まる中、全身に感じていた威圧がプツリと掻き消えて。

 

 

 

 ──ケイヤクハ セイリツシタ

 

 カノ メイヤク タガエル コト ナキヨウニ ネガウ

 

 

 

 頭のどこか奥で、そんな声が聞こえた。

 

 

「…………やった、の?」

 

 零れた呟きに応えるように、降り注いでいた雨が止んだ。

 同時に、どっしりと肩に感じていた重しが嘘のように消えていく。

 

 

「あ、は……わっ」

 

 途端、力が抜けた身体が尻もちをついた。

 目の前の光景を現実と受け止められないまま、ぼんやりと見つめて。

 

 

「(あ、やばっ……意識、が……)」

 

 祭壇の上で倒れるなんて、とか。

 外に待たせてるシャリーたちが、とか。

 頭では色々考えているのに、遠のく意識が戻ってきてくれなくて。

 

 

「(大婆、様ぁ……)」

 

 耳の奥に、痺れるぐらい聞かされたお説教の声が蘇ってきて。

 景色がふっと暗くなったことで、瞼が落ちたことに気がついて。

 

 

 

「(これで、あたし……『一人前』、に…………)」

 





 アトリエ戦闘文章化第二弾。ただし錬金術士不在。
 ……これ普通のファンタジーものだな?


※原作既プレイの方へ

 今話執筆の為に原作での『水の王』さんの各技とモーション確認。
  → ……これ槍、掲げたり地面に刺したりしてるだけで槍として使ってなくね?
   → ファッションで槍持ってる説浮上。

 『アーシャ』が三年、『エスカ&ロジー』が四年、『シャリー』は年単位の時間経過なし。
 前二作に共演したリンカさんとの付き合いが実は一番長いんですよね、ウィルベルさん。


※原作未プレイの方へ

 今回は特にゲームシステムには則ってません。
 それどころか過去作の技や別キャラの技まで持ち出してきてます。
 どんな技なのか気になる方は、黄昏シリーズを(ry

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