昏き海都は黄砂に沈む   作:非単一三角形

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 改変要素の本格的開示回、その二。
 本作ストーリーの構築はここから始まったと言っても過言ではないです。

 例のムービー付き三十行越え長台詞はそのままにするべきか割と悩みました。
 カットできない重要な話なんですけど、如何せん量が多いゆえ規約に引っかかりそうで……
 というわけで思いっきり要約しています。解釈に間違いがあったら申し訳ありません。

 ……地味にテキスト読み返しの対象外なので書き起こしにも苦労してたり。



第32話 海都の選択

 

 

「──つまり、その装置を止めればその時点で、この街は半ば終わるも同然」

 

「ただし止めなけりゃ……何年か先には、辺り一帯巻き込んで『黄昏の海』に沈む」

 

「おまけにその頃にゃ、ルギオン村で起きたことがこの街でも再現されてるってわけだ」

 

 

「何もかもが枯れ果てる前に、残り少ない寿命ごと街を終わらせるか──見なかったことにして、長く苦しみながら地域一帯丸ごと滅びるかの二択……そう言いてえわけだな?」

 

 

「……はい」

「……すいません、ラウルさん」

 

「……馬鹿野郎。お前らが謝ることじゃねえよ」

 

 

 ──『東の大陸』、地下の薬草園で辿り着いた、この地方の真実。

 とんでもない二択を突き付けられて、あたしたちが選べたのは……とにかくステラードに帰ってこれからどうするべきか相談することだった。

 

 ……どんな選択をするにしても、あたしたちだけで決めて良い事じゃないと思ったから。

 実際には難しくても、なるべくステラードに生きる皆で考えなきゃいけない事だと思ったから。

 

 

「……そうだな。お前らだけで決めようとしなかったことを、まずは感謝しとくぜ」

 

「しかしまあ……正直、議論の余地があるとも思えねえな」

 

「…………さっさと止めちまえよ、そんな胸クソ悪い装置は」

 

 

「っ、ラウルさん…!」

 

 迷うことなく言い切った姿に驚いて、俯いていた顔を上げる。

 そんなあたしと、すぐ傍で同じように目を丸くしていたステラを見下ろしながら、ラウルさんは苦笑いと一緒に言葉を続けた。

 

 

「……他を切り捨てりゃ、ステラードだけでも守れるってんなら俺も迷ったかもしれねえがな」

 

「どのみち全部無くなっちまうってんなら、少しでも希望がある方を選ぶべきだろうよ」

 

「第一、装置をそのままにするってことは……シャリー嬢ちゃんの『家族』と同じ目に遭う人間を増やすってことだろ? それも、原因を知った上でな。……誰が好き好んでそんなもん選ぶかよ」

 

 

「あ……」

「……やっぱり、そうですよね」

 

 ステラを見ながらちょっと後ろめたそうに、だけどはっきり言ってくれたラウルさんのお陰で、あたしも目の前が少しだけ晴れていく気がした。

 ……そうだよ。未来の事を考えれば、あたしたちがやるべきことは決まってる。

 

 

「……このまま壊れた過去の遺物を、そのままにしておくわけにはいかない。特にあの装置は……目先の利益だけを追求して結果を顧みない、そんな人間の醜さの塊だもの」

「ミルカ……」

 

「たとえ、そのまま自然が回復することなく死に絶えて……人が滅んじゃっても」

「……だ、大丈夫だよ、きっと! この世界の自然は強いんだから!」

 

 きっと……装置を止めればきっといつか、自然は元通りになるんじゃないかな?

 それに『水の王』さまだって、もうあの装置に大地が蝕まれることは無くなった…ってなれば、もう一度、そのためになら力を貸してくれるかもしれないし!

 

 あたしたちが生きている間には無理でも、遠い遠い未来には、きっと──

 

 

 

()()()()()

 

 

 

 その一言は、静かに。

 だけど何故だか怒鳴られるよりも重く、耳に響いた。

 

 

「このステラードは、水の街として周辺の集落や中央に対して影響力を持っているのだ。その水が失われれば、たちまちステラードの名は地に伏すことになる」

「おいおい…この後に及んで我が身可愛さか、会長さんよ」

 

 あたしたちから話を聞いてこの場所を──『商会』の()()()()()()()()()()、ペリアンさんは。

 憤るラウルさんから視線を受けても堂々と、目に強い光を宿したまま睨み返していて。

 

 

「我が身可愛さ…か。そう言われても無理はないが、私が守りたいのはこの街の名誉と繁栄だ」

 

 そうして、深く、深く、息を吐いて。

 その口から続いたのは、この『ステラード』という街が歩んできた軌跡だった。

 

 

 

 ──この街が、『水の都』になったのは、『ステラード』という名前が付くよりも更に前。

 

 農業に、工業に……生きていくために必要不可欠な水を求めて人々が集まったのが、この地域の人里としての始まり。

 

 そうして周辺に幾つもの集落が生まれ始めたことで、流通、生産の拠点としての『ステラード』という街の発展が進んでいくことになる。

 

 

 ……けれど元々この地域には、ステラードを除けばあまり大きな水源は無かった。

 

 集落が村へ、街へと大きくなっていけば、必要な水はそれだけ多くなる。

 小さな水源を中心に出来たそれらが生きていくには、どうにかして水を手に入れるしかない。

 それは次第に、水を求める争い、またそれによる貧富の差にまで繋がっていく。

 

 ……結果的に、水を手に入れた集落が生き残って、そうでないものは滅びる。

 そんな時代が、ごくごく自然なままに始まってしまったそうだ。

 

 

 そこでステラードが始めたのが、水源管理装置を使った水量の管理。

 

 無駄な消費を避けて、必要な量を必要なとき、必要な場所へと水を供給する。

 

 そうやって地域一帯の水を、それを巡る争いからこの地域に住む人々みんなを守る……それが、この街が選んで、ずっとずっと担ってきた役割、だった。

 

 

「──『ペリアン』は、先祖代々このステラードの水源管理を生業としてきた者たちだ」

 

「我々が管理能力を失えば……そのことが知れれば、また水による争いが起こりかねん」

 

「そして何より……ステラードは水の不足に喘ぐ者たちにとっての希望の街なのだ」

 

 

 ……この街から、水が無くなるということ。

 

 そのこと自体が、この一帯に住む人たちから、その希望を奪い取ることになる。

 

 たとえ実態がどうであっても、この『ステラード』があるからこそ、今を生きていられる人が、この地域には少なからず存在している。だから──

 

 

「安易に装置を止めるなどと…そんなことに…賛同はできん」

 

 

「……言いてえ事はわかったが……だからといってな…会長さん」

「……私たち人間は、責任を取らなきゃいけない。せめて、そのくらいの恥を知るべき」

「ああ、君たちに言われずともわかっている。……他に道がないことくらいはな」

 

 ……話し終えたペリアンさんは、ついさっきまでよりずっと老け込んでいる感じがして。

 ラウルさんとミルカ……二人の声にもう一度だけ顔を上げて、小さく呟いた。

 

 

「私とて、本当の意味で枯れ果てたこの街を……歪んだ『水』に侵され、病に苦しむ街の者たちを見たくなどない。…君たちの好きにしたまえ」

 

 

 

「──しかし実際、この件をどのように『中央』に報告すべきか、非常に考えさせられますね」

「どのように報告を…ですか?」

 

 考え込むラウルさんの隣でそう呟いたのは、いつもの鉄面皮をより険しくしているソールさん。

 零れた言葉を聞き返したステラに、珍しく少し迷ってる様子の答えが返ってくる。

 

「ええ……『中央』には、『黄昏』への対処方法を求めると同時に、あわよくば()()()()()()()()()()()()()()()手にしようとする動きがあるのです。…意味はわかりますか?」

 

 ……古代錬金術文明? 技術的遺産?

 あの、地下にあった遺跡や、あの装置を作ったような技術…ってこと?

 

 

「過去から何も学ばないまま、錬金術文明を蘇らせようとしている…そういうことでしょうか?」

「古代の優れた文明が滅びた理由を考えないまま、原因かもしれない遺物を取り入れようとする。本当に、()()()()っていう良い証拠」

「……我ながら役人の分を越えた懸念を抱いているとは思いますけどね」

 

 ……二人の()()()()()を耳に入れながら、あたしの頭の中には『あるもの』が浮かんでいた。

 あの遺跡の、遺物……それって、ひょっとして──

 

 

「あの……()()()()()()()()()、『()()()()()』、も?」

「っ、ロッテ…!?」

 

「あ…………す、すみません!?」

 

 

 

「……いえ、実のところ、『()()()()()()』は()()()()()()()()()()()()だということを、自分は知っていたような気がします」

 

 

 

 ……あの地下であたしが、()()()()()()()()()()()()のままで。

 『あたしが小さい頃からペリアンさんの秘書をしていたリンカさん』は、そう言った。

 

「…幼少時の自分と姉妹たちは、何者かの手引きにより、どこか薄暗い場所から逃げ出した記憶があります。その後、姉妹は離散したのです」

「それが…あの地下の施設だったのかな…」

 

「見ていませんからわかりませんが、恐らくそうだと思います。……『人工生命体』というものが存在するなど、全く知りませんでしたが……」

「リンカさん……」

 

 

「……以前から姉妹にしては似過ぎていると思ってましたが、このような事実があったんですね」

「っ、ソールさん?」

 

 話しながら、視線を落としてしまったリンカさんが、ソールさんの言葉に顔を上げた。

 ……えっと、そういえば前にウィルベル師匠が、ソールさんの前の職場にリンカさんそっくりの人が居るって話をしてたような……

 

 

「…確か、コルセイトには『末っ子』が居るのでしたね。……元気にしているのでしょうか」

「ええ、私見にはなりますが……悩みからは遠い日々を送っているように見受けられますよ」

 

「っ、……それは何よりです」

 

 あ、リンカさん、ちょっと笑った。

 ……ソールさんのそれ、あんまり誉め言葉には聞こえないんだけど、良いのかな?

 

 

「……あなた方『姉妹』を目にしてしまうと、私たちは何をすべきなのかと考えてしまいますよ。今の我々の技術では、『人工生命体』など夢のまた夢ですが──」

「そのまま夢で終わらせるべきよ。あんな技術、『中央』の人間には絶対に渡せない」

 

「……発言は差し控えさせて頂きましょう」

「ミルカ……」

 

 ……そのソールさんも、一応『中央』の役人さんなんだけど?

 あ、でもこの様子だと、意見はミルカと似てるのかな。……報告、本当にどうするんだろうね。

 

 

「……リンカ」

「……問題ありません、会長。たとえ自分が何の為に造られた何者であろうとも、自分にとっては会長と……ナディさんに拾い育てて頂いた今の自分が全てですから」

 

「そう、か」

「はい。……ですから、あまり気にしないでください、シャルロッテさん」

「っ、は、はい…!」

 

 沈み込むように椅子に座っていたペリアンさんと、うっかり不味そうな一言を口に出しちゃったあたしに向けて、リンカさんはもう一度笑いかけてくれた。

 ……そっか。ペリアンさんと母さんが、リンカさんの……

 

 

「……我々が代々守り継いできた水の実態が、まさかこんなものだったとはな……」

 

 

 …………ペリアンさん。

 それは、だって……しょうがないですよ。

 このステラードって街が出来るずっと前から、あの装置はこの地域にあったわけですし……

 

 

 

「ああ、道理で──()()()()()()わけだ」

 

 

 

「……直す?」

「……おい、会長さん? そいつはどういう──」

 

 

「待って」

 

 

 ペリアンさんが溢した不思議な一言に、反応したのはあたしとラウルさん。

 だけど、身を乗り出そうとしたあたしたちを制止したのは、ミルカの挙げた手だった。

 

 

「……良いのね?」

「……ああ。ここに至って殊更隠し立てる意味もあるまい」

 

 ……ミルカ?

 な、何? 急にペリアンさんと目配せなんかして……どういうこと?

 

 

「……私、『中央』からこの街に帰ってきてすぐに、この人(ペリアン)から依頼されたことがあったの」

 

 依頼……? 街に戻ってすぐってことは、一年以上前の話、だよね?

 なのに今回の事でって……いったい何を──

 

 

 

「依頼の内容は、この街の『水源管理装置』の──『()()()』よ」

 

 

 

▲ ▽ ▽

 

 

 

「──ええ。以前に『故障』したことがあった、と……私が知ったのも、その依頼を受けたとき」

 

「これまでこの事を言わなかったのは……さっきの街の話に、共感するところがあったから」

 

「……それ以上の詳しい事は、私も聞かされていないけど」

 

 

 

「……今から数年前のことだ。部下から『水源管理装置』の異常と、それをその場で修理した()()()()()()について、私が報告を受けたのはな」

 

「何でも、前時代の錬金術に関する研究の為にこのステラードを訪れ、その際、偶然装置の故障を見つけたのだと、そう言っていたそうだ」

 

「騒ぎになることを回避できたのは喜ばしかったが、再発の可能性等を確認せんわけにはいかん。故に、如何なる修理を行ったのか本人から直接話を聞くことにしたのだが……」

 

 

「自分がしたのは、修理などではない。……単なる()()()()()に過ぎんと、そう返されたのだよ」

 

 

 

「──依頼内容を正確に言えば……()()()()()()()の把握と、()()()()()()に対応可能かの確認」

 

「でも、ちょっと『中央』で学んできた程度の……()()()錬金術士な私じゃ、その一時しのぎすら理解できなかった」

 

「私にわかったのは、街が遠からず寿命を迎えようとしていること。……ただそれだけだったの」

 

 

 

 

「──あの装置は、前時代文明の遺物の一つだ。ならば、その研究を推し進めれば何らかの糸口が掴めるかもしれん。……当時の私はそう考え、その道に明るい者を集めることにしたのだ」

 

「丁度、不肖の息子がそちらに傾倒していたところだったからな。私の名代として、集めた人材と共に研究の旅に送り出したのだよ。…結果が得られるまで街には戻らせぬと、発破を掛けてな」

 

「……尤も、そちらの成果が上がるより先に、既に()()()()()()と判明してしまったわけだがね」

 

 

 

 

 

 

「……会長さん、あんた……いや、言っても仕方ねえがなあ」

「……」

 

「大事な『跡継ぎ』を放り出すなんて、何を考えてんだと思ってたが、そういうことかよ……」

「……ああ。なかなかどうして、すぐに勉学から逃げ出していた姿からは想像もできん程には日々励んでいる様子が伝わってきているとも」

 

「……親心、ってやつか?」

「……否定はせんよ」

 

 

 

「──もっと早く言ってくれれば……なんて、とてもじゃないけど言えないなあ」

「シャル……?」

 

「いや、だってほら……その頃ってまだウィルベル師匠が街にやって来る前でしょ? そのときのあたしが聞かされてたとして、できることなんて本当に何も無かっただろうし……」

「……そうね」

 

「……あ、そこで頷かれるとフクザツなんだけど!?」

「うるさい。……ありがと」

 

 

 

 

「──そういえば……おい、シャリー?」

「ラウルさん? どうかしましたか?」

 

「いや、ちょっとな。……まあ、『旅人』ってことで遠慮したのかとも思ってたんだが──」

 

 

 

「その()()使()()殿()()()()()()()()()のは、何か理由があるのか?」

 





※原作既プレイの方へ

 主人公たちが数人ずつ意見を聞いて回るのって、ゲームでは良くても小説だと冗長ですよね。
 ……というわけで描きましたは一斉意見交換回。


 『商会』の跡継ぎたるアルバート君が不在?
 → 跡継ぎ教育以上に優先する事象がある、ということですね。

 アルバート君的には『運命の女性』を追っていった?
 → その時点で『運命の女性』さんに出会っている、ということですね。

 さて、原作において『黄昏』の真実を追う『某御仁』が調査後もこの地方に留まった理由は?
 → 原作シャリーたちに、改めて検証する価値のある情報を持ってこられたから、でしたね。



 タグ:「不在キャラ多数」 該当キャラその4、『キースグリフ・ヘーゼルダイン』
           および該当キャラその5、『オディーリア』

 本作世界線においては本作開始の以前にステラード地方に来訪、そして「この地の『水涸れ』は『黄昏』に直接関係無し」という原作通りの結論を出して去ってしまった後だったのです。
 原作通りステラードの水源管理装置に修理という名の一時しのぎを、およびアルバート君の脳をこんがりと焼いていった(笑)ということですね。


 ……では何故、彼らの来訪が早まったのでしょうか?

 この世界線で「起きなかった事」を作中で言及するのは難しい為ここで明かしてしまいますが、『アーシャ』~『シャリー』間の彼らの道程が短縮される要素があった、ということになります。
 こちらについても一応、それを予想できる材料をこれまでの作中に忍ばせてありました。

 例えばそう……原作から『同行者』が減っている、とか。



 タグ:「不在キャラ多数」 該当キャラその6、『アーシャ・アルトゥール』

 この世界線の彼女がどこでどうしているのか、ヒントは本作序盤のとある台詞に。
 ニオの処遇や『エスカ&ロジー』の時期にあったらしい、遺跡をぶっ壊して指名手配が云々……という件が無ければ、多少なり『前倒し』されるだろう、と解釈いたしました次第です。



 あらすじに記載しました本作のコンセプトは「やさしくないせかい」。
 そして裏コンセプトは「過去作主人公不在のシャリーのアトリエ」でした。
 錬金術士が彼女たちしかいない状況で物語がどう動くかを描いてみたかったのです。


※原作未プレイの方へ

 キースグリフというキャラを端的に表すなら、『黄昏』シリーズにおける問題解決装置(デウスエクスマキナ)です。
 さらに『シャリー』でのアーシャは(当人たち曰く)そんな彼の上位互換であるとのことで。
 ……そんなの「やさしくないせかい」に出演させて良いわけないよなあ?


 『黄昏』シリーズ作中に登場する『リンカさん』は『地下の彼女』も含めて計五名。
 また設定上、未登場の『姉妹』が更に四名存在するようです。

 見た目は双子もかくや……なのですが、設定から受ける印象に反して意外と個性豊かだったり。
 気になっ(ry

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