前話後書きにて述べた通り、本作シャリーたちには原作ラスボスに辿りつける由がありません。
そのため原作ストーリー的には前話でほぼ終了しています。
……ちょっとこれだと盛り上がりに欠けますね?
──なるべく早く、地下にあったあの装置を止める。
長い話し合いにはなったけれど、その結論だけは動かなかった。
けどその前に『組合』と『商会』、それから『中央』とで色々擦り合わせなきゃいけないこともあるから、実際に止める時期についてはそれから決めることになる、らしい。
この地方から水が全く無くなるわけじゃないにしても、生きていける人の数はどうしても少なくなるだろうこと、それに伴って発生する移民の受け入れ先の用意、さらに混乱を抑えつつその事を周知する為の段取り──今から頭が痛いと、ぼやく大人たち三人の姿が目に残る。
それから最後に、錬金術士じゃなきゃ装置の扱いがわからない可能性が高いし、『中央』からの派遣が間に合わないようなら、あたしたちに頼むことになるかもしれない、という見立てを残して話し合いは解散になった。
「──って、感じになったよ、母さん」
「……そう……なのね」
ペリアンさんが用意してくれた、『商会』の部屋の一つ。
あたしから話を聞いた母さんは、少し前よりは格段に良くなった顔色で……だけど流石に沈んだ様子で頷いた。
……母さんを苦しめていた原因のうち、一番深刻だったのが……この街の水。
それさえなければステラの薬で、これ以上病気が悪くならないようにはできる。
その事がはっきりした今、ペリアンさんが母さんの為にって、なんとかステラードの外から水を調達してくれてる……らしい。
自分が特別扱いされてる事を母さんはあんまり良く思ってないみたいだけど……それだけ大事に想われてるってことなんだから、こればっかりは大人しく受け入れてよね、母さん?
「……シャリーちゃんは、これからどうするの?」
「あ、えっと……ミルカやステラとも話したんだけどね。あたし、あともう少しだけステラードの為に頑張ろうって思ってるんだ」
「ステラードの為に…?」
「うん! …やっぱり『誰かの為に頑張ること』が、あたしの一番やりたいことだからさ」
装置を止める日が結局いつになるかはまだわからないけど……『水』のこともあるし、そう長い時間は掛からない……というより、
一年か、半年か……長くてもそれぐらい収めてみせるって、ラウルさんたちは言っていた。
……けど、そんな『突貫工事』で話を進めようだなんて、手が幾らあったって足りないはずだ。
「……この街が無くなっちゃうことについては、もうどうにもなんない。だったら逆に、あたしに
資材にしても、道具にしても……錬金術で作っちゃえば揃える時間を短くできる物は山程ある。
移住の為に必要な水や燃料、長持ちする食料だって、錬金術ならどんどん作れる!
……ひょっとしたら『中央』からもそういう支援はあるかもしれないけど、だからこそあたしにできることをやりたいんだ!
「今まで過ごしてきたこの街に『ありがとう』…って言う為にも、最後までやれることをするって決めたんだよ。
「…………大きくなったわね、シャリーちゃん」
「え? …えへへ、そうかな?」
「ええ、流石は…………シャリーちゃんだわ」
「ふ、くっ……!? な、なにそれ、母さん……ていうか今、めちゃくちゃ悩んだでしょ?」
「うっ…だ、だって、何て褒めたら良いのかわかんなくて~」
「だからって……! ふ、くく……っ!」
「あ、ああっ、そんなに笑うなんてひどいわ、シャリーちゃ~ん!」
……別に『母さんの娘だから』でも、あたしは構わないんだけどなあ。
まったく母さんったら、本当にふわっふわの天然さんなんだから──
「……えっ?」
「あら?」
──コトン、と。
何か、軽い物が床に落ちる音が、部屋の隅から聞こえた。
不思議に思って向けた視界に映ったのは、白い四角形の……封筒?
「……お手紙、かしら? いつの間に……あ、シャリーちゃん宛てよ」
「ちょ、ちょっと母さん? そんな怪しいモノいきなり拾っちゃ──あ、本当だ」
──シャルロッテへ、ウィルベルより
そんな一行だけが表に書いてある、ちょっと厚みのある封筒。
母さんが拾い上げたそれは、さっき突然現れたことを除けば何の変哲もない手紙だった。
「……そういえば、さっきのお話にウィルベルさんが出てこなかったけど、どうかしたの?」
「あー……実は師匠、『東の大陸』からこっちに帰ってくるときに船酔いしちゃったみたいで……具合が悪いからってことで、ミルカのアトリエに残ってたんだよ」
「あらあら、そうだったのね」
「でも何であたしに手紙なんか……何かあったのかな?」
送り主が師匠ってことなら、手紙が突然現れたことは納得できる。……魔法だよね、たぶん。
代わりにそのこと自体が不思議っていう疑問が出てくるけど、中身を読めばわかるかな?
そんなことを考えながら、封を切って。
中に入ってる紙束──えっ、束? ……束の中から一枚、手紙を取り出した。
"シャルロッテへ。
最初に言っておくけど、これは魔法の手紙よ。
その束になってる手紙を一枚ずつ読んで、
それぞれの最後にある質問に答えてから
次を読まないと意味がないから気を付けるように。
というわけで最初の質問よ。
この手紙のことは理解できたかしら?"
「……うえぇっ!? ……は、はい、わかりましたっ! ……すっごいなあ」
"理解できたよう ね。よろしい。
さて、この手紙を送った理由だけど、
単刀直入に言うと もう待てない わ。
未来を思えば誰にとっても利点しかないし、
聞くまでも なかったわ ね。
師匠の言葉だもの、異論は無いわ ね?"
「…………え? ちょ、ちょっと待ってくださいよ。そんな急に……」
"急なことで悪いわね。
でも装置を止めるのが早ければそれだけ、
この地域に水が戻ってくるのも早くなるそうよ。
それでも百年、千年、もっと先のことにはなるだろうし、
ステラードで今生きている人々には悪いとは思うけど、
他に選択肢が無いのも確かだから。
あなたは、どう思う?"
「ど、どうって……いきなり水が止まったりしたら、大混乱どころじゃ済まないですよ!? 今、ラウルさんたちがその為の準備をしてるところで……も、もう少し待って貰わないと……!?」
"そんな頼みを聞く理由も、顧みてやる義理も無い わ。
そもそも 今の事態を招いた のは、この土地に住む人間 達の行い。
今まで 素知らぬ顔 で 食い潰し てきておい て、
待ってくれ、が今更通るとでも思う の?"
「そ、そんなの大昔の話だって師匠も言ってたじゃないですか……なのに何で、急に……!?」
"そう よ 大昔の 水 負債
今の人間に 水 払わせるなんて 理不尽
もう少し 待って 水 お願い 水 水水"
「…………なに、これ……師匠?」
"知らヌ ナ
それよリ 大人しク せヨ
かノ 災害ノ 解決 ニ 全力ヲ 尽くス
それこソ ガ 汝ノ 求めタ 盟約 デ あろウ?"
「……っ! 違う、これ、師匠じゃ──!?」
"水の 王
水水 盟 約 水
拡大 水 水水 意思 "
「師匠!? いったい何が起きてるんですか、ウィルベル師匠っ!?」
"案ずル コト ハ ナイ
盟約 ニ 従イ 全力ヲ 尽くさセテ いル だけノ コト
カようナ 手ヲ 残してイル とは 思わなンダ ガ
こレデ どうナル ものデモ あるまイ?"
「……っ! ……師匠? 聞こえますか、ウィルベル師匠っ!?」
"水水たす水水水 水水水水
水 水水水 水水け て水水
水水 水水水水水水水
しゃ水水水水水水水水水
水水水水 水り水ぃ水水 水"
「…………ミルカぁっ! ステラぁっ!!」
『――シンギ ニ モトル トハ オモワヌカ? カゼ ノ』
『アア メイヤク ヲ ナント ココロエテ オルノダロウ ナ? ヒ ノ』
「……」
長く、深く、地下へと続く、人々の記憶から消え失せていた通路。
苔に覆われた床を踏みしめる足音が、はたと途切れた。
『セイシキナ ケイヤク ヲ カワシタ モノ ヲ コノヨウニ アツカウ トハ』
『オオク ノ シンコウ ヲ エラレル オウ ハ ヤルコトガ チガウ ノウ』
「……やかましイ。矮小ナ 王どモ ガ」
常は弟子たちを慈しむ口から溢される、凍てつく雹の如き呟き。
帽子の下から切り裂くように虚空へと向けられるは、鈍く輝く青の双眸。
「ワラワ ノ 妨害でモ しよウト 言うノ カ?」
『イヤイヤ コンナ シンコウ ノ タイハンヲ ナクシタ オウ ナド ガ マサカ ソンナ』
『シンコウ ヲ ホシイママ ニ スル オウ ニ イケン スル ナド ト マサカ ソンナ』
「……ならバ サレ」
噛み合わせた歯を軋ませて、しかしそれ以上は言葉を紡ぐことなく視線は切られる。
再び訪れた静寂の中、足音だけが微かに響き渡った。
『……ソウマデ ニンゲンガ シンヨウ デキヌ カ? ミズ ノ』
「ッ……」
『ワカラヌ デハ ナイガ ナ。ダガ ソヤツニハ──』
「やかまシイ ト 言ってイル」
歩みを止めることも、視線を逸らすこともなく、放たれるは極寒の囁きのみ。
不敵な笑みに慣れた顔を苛立ちに歪ませ、『彼女』は吐き捨てる。
「原因ヲ 目ノ前ニ しなガラ 引キ返シタ。…ワラワ ニ とってハ それダケ ガ 事実ヨ」
『……ヒトノヨ ニモ イロイロト ジジョウ ト イウモノ ガ──』
「知らヌ。ワラワ ガ 慮ル 必要 ナド 無イ」
にべも無い拒絶と共に、その足は恙無く進められる。
地下に広がる植物の園、
──遥かな昔、この地に水をもたらす『女神』となるべく造られた『命』。
自我も、意思も、必要とはされず、ただ複雑怪奇な『制御』を担うべく組み込まれた『部品』。
厚いガラスの向こう、満たされた液体の中に浮かぶ、この地を蝕む『災厄』の『核』。
「……あア、そうダ。考エル事なド ナイ」
彼女も、『彼女』も、周囲に佇む雑多な機械に関する知識を持ち合わせてはいない。
だからこそ、採り得る手段は最も単純で──身も蓋もない『解法』。
「コヤツ ヲ
緩やかに、しかし決然と『彼女』の手は翳される。
一呼吸の後、虚空より作り出されるは、蒼く力を湛える一条の槍。
──役割以外の一切を与えられなかった身体に、薄く開いたままの瞳が穂先を映す。
されど視界、という映像を処理する機能すらそこには無いのか、外界とを隔てるガラスの裏には身動ぎの気配すらも起こらない。
「…………ドコまでモ 救イ無き モノ ヨ」
溢されたその言葉に宿っていたのは、怒りか、辟易か……あるいは哀れみか。
弦を引き絞るが如く微かに引かれた槍を、撃ち放たんと手が振り上げられ──
『トキニ ヒ ノ。ソナタ サイダンガ トウクツニ アッテイタ トハ マコト カ?』
『ウム、チョット キヲ チラシテオッタ スキニ ナ』
「…………」
一瞬、止まりかけた『彼女』の手が、しかしまた再び動き出す。
やはり視線を向けられることは無いまま、しかし二体の王のやり取りは続いた。
『フゥム? アタリハ ヒニ アフレテオッタノ ダロウニ、サイダンニ チカヅク モノ ニ キヅカナンダ ノカ?』
『ウム ミヨウ ト スレバ ミエル コトデモ、ウッカリ ミノガス コトハ アルユエ ナ』
『マア ホカニ キヲ ムケテイレ バ ソウイウ コトモ アルカ ノ』
『ソウトモ。マア、サイダンヲ ハカイ サレタデ ナシ、ダイジ ニハ イタラナンダ』
『ホウ、サイダンハ、ブジデ アッタカ。ソレハ ヨカッタ ノウ』
『アア、サイダンハ、ブジデ アッタワ。カワリノ ホウギョク ヲ ササゲニ キタ ニンゲンタチ ノ オカゲ デ モトドオリ ジャ』
「…………?」
どこか『含み』を感じさせる応酬に、今度こそ『彼女』の手が止まる。
何らかの『懸念』が湧いたか、青く光を湛えるその瞳が、徐に深く閉じられ――
「な、ア……ッ!?」
大きく、裂けんばかりに見開かれた瞳は、『彼女』が受けた『驚愕』の証。
呆然と立ち尽くすその背に、どこか喜悦を含む声が浴びせかけられる。
『オヤオヤ、ナニガ ミエタ カノウ?』
『サテサテ、ナニヲ ミタノ カノウ?』
「き……さま、ラ……ッ」
『オモウニ イソグ ベキ デハ ナイノカ? イダイ ナル オウ ヨ』
『マンガイチ サイダン ニ ダイジ ガ アレバ コト ダカラ ノウ』
『ウム、サイダン ハ ソウソウ カンタン ニハ ナオセヌ カラ ノウ』
『アア、ホウギョク ノ カワリヲ ヨウイ スルトハ ワケガ チガウデ ノウ』
「……ッ!!」
水を伝い、流れを渡って、『彼女』は
憑りついた表情に浮かぶのは、怒りを遥かに凌駕する焦燥と──恐怖。
『ソノ カラダ ノ シンパイ ナラ イラヌ ゾ』
『ダイジ ナ ダイジ ナ、ワラワタチ ノ ケイヤクシャ ダカラ ノ』
『トク イカレル ガ イイ。ソノ フベンナ カラダナド ココニ ステサッテ ナ』
『トク イカレル ガ イイ。ワイショウ ナ ワラワタチ ナド キニ セズニ ナ』
答えることなく、ぐらり、と。
青の輝きを失った身体が傾く。
その身体が何れかに受け止められる様も、背に投げかけられた声を聞く間も惜しみ。
本来の有り方へと戻した『身体』で、数百里という『水』を駆け抜けて。
瞬き程の時間さえかけることなく、『彼女』は再び
風光明媚なる『彼女』の地に、天変地異もかくやと
『『イカリクルッタ
神聖なる祭壇に、
原作ストーリーが終わった?
ならばここからは好き勝手できるな。
※原作既プレイの方へ
お礼は何が良い?
→ 野菜
果物
おこづかい
読んでる人間の返答で中身が変わる手紙とは。さすが魔法。
これは流石の錬金術でも真似できな……平行次元干渉やらかしたルルアあたりならやれそう感。
今話の為に本作前半に『風』さん『火』さんの出番を捻じ込んだまであります。
本来同格なところを信仰マウントとってきた『水』に嫌味返しするお二人の図。これはひどい。
精霊の王同士がどういう会話をするのか、公式の方で描いてくれたりしませんかねー。
まあ流石にこうはならないと思いますけど。……ならないよね?
※原作未プレイの方へ
原作『水の王』さまはこんな無体はなさいません。念のため。
本作の彼女(?)は『ニンゲン』という種族へのブチギレ具合、および枯れゆく世界への焦りが五割増しぐらいなのです。