昏き海都は黄砂に沈む   作:非単一三角形

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 もう一人の『錬金術士』紹介回。
 序章もこれにて終了です。長かった……

 なお今話もやっぱり独自設定乱舞です。
 ついて行けねぇよ……と感じた方は今のうちにブラウザバックを。



序章-4 理に立ちし槌

 

 

「──あーあ、またゴミ拾いかあ……」

 

 

 『財協組合』本部の扉を背に、溢されるは徒労感を滲ませた呟き。

 同じく『組合』にて仕事を探しに来る同業者──『ハンター』諸兄の視線を感じつつ、受領したからには仕方ないかと、その場から歩き出すシャルロッテ。

 

 言い表すならトボトボといった風情で彼女が歩くのは、建物周辺に確保された広場。

 それは組合本部、とは呼べどもそう広くは無い施設の利便性確保が為、いわゆる『順番待ち』の時間を過ごす人間の為に用意された空間。

 

 青空の下に並べられた机や椅子、そしてそれらを利用する者向けに簡易な飲食店まで構えられるようになり、いつしか『ハンターたまり場』なる名称を付けられるに至った憩いの場だ。

 

 

 今日もまた、今もまた、正しく『順番待ち』から単に余暇を過ごしにきた者まで、様々な人間が傍を歩く彼女へと視線を向ける。

 しかしてその多くは気まぐれに、あるいはいつものことだなという軽い納得を伴って、誰が何を言うことも無く三々五々に散っていった。

 

 何故かを問えば、多少歩調は違えど彼女の姿がそこにあるのは、誰にとっても日常でしかなく。

 それはシャルロッテ当人にとっても同様で──そもそも殆どが特筆すべき交流こそ無いにせよ、少なからず顔馴染みからの視線なので──あるからして。

 

 視界には入れど意識には含めず。

 そんな感覚のまま彼女は、慣れ親しみ過ぎた仕事場への道を一路進んでいたのだ。

 

 

「──シャル……どうしたの?」

「へ…? あれ、ミルカ?」

 

 事をこの場所に限れば、あまり見掛けることのない『友人』の声に顔を上げるまでは。

 

 

「10回潰された『食料ウサギ』みたいな顔して、考え事? 似合わない」

「…べ、別に…ミルカこそ、どうしたの? こんな下町に来るなんて珍しいじゃん」

 

 突如浴びせられた暴言(?)に面食らいつつも、そう問い返すシャルロッテ。

 長い金髪の下から身長差由来の上目遣いを見せる彼女の『幼馴染』は、問い返されたその言葉に普段から熱量の薄い瞳を眠たげに細めた。

 

 

 ───ミルカ・クロッツェ。

 

 住まいはシャルロッテの自宅兼アトリエが存在する目抜き通りから一つ外れ、より街の中心地に近づいた場所に位置する『ステラード広場』に構えられた、彼女のアトリエ。

 いわゆる一等地と遇されるそこに、繁盛の一途を歩み続ける店を持つ、まさにこのステラードが誇るべきもう一人の『錬金術士』。

 

 年齢の近さを理由に交流があったシャルロッテは、やや雲の上に行かれてしまったという思いも抱いてはいるが、それはそれ。

 問い掛ける彼女の頭に浮かんでいたのは、純粋に「こんな所」で時間を潰していて大丈夫なのかという、親友に対する憂慮の念。

 

 

「…………サボリよ」

 

「ええっ!? だ、大丈夫なの? あんたんとこ、いつも大忙しでしょ?」

 

 

 されどそんな想いに対して返ってきたのは、ある意味では予想通りな「大丈夫ではない」一言。

 しかし慌てる彼女が掛ける言葉を見つける前に、当のミルカは一本調子に吐露を続ける。

 

 

「…似たような依頼ばかりで、うんざりするの」

 

「毎日、毎日…毎日毎日毎日毎日、来る日も来る日も、明日も明後日も…」

 

「とにかく『錬成』するだけ。……本当に、嫌気が差すわ」

 

 

「……うっわぁ、贅沢言ってるなあ……」

 

 言葉だけは羨むように、しかして光の消えた瞳に淡く抱いた羨望を光速で摘み取られ。

 苦笑い気味に返したシャルロッテの顔を、ミルカもまた微かな笑みの欠片と共に見上げた。

 

「うちなんか、アトリエだけじゃ食べていけなくて、こうして日雇い仕事やってんのに…」

「……っ」

 

 おどけるように続いたシャルロッテの言葉に、ミルカの肩がピクリと動く。

 そんな幼馴染の様子に気づくことなく、自嘲を交えた彼女の独白は続けられる。

 

 

「まあ、あたしの腕が大したことないのが原因なんだけどね。ミルカみたいには到底…」

「──シャルも」

 

 

「えっ?」

「…シャルにも、できるはずよ。もっと…錬金術の腕を磨けば…っ」

 

 続けて溢されるシャルロッテの愚痴を、どこか熱を宿した呟きが遮った。

 驚く彼女が目を向けた先には、先とは異なる鋭い光を湛えたミルカの瞳。

 

 

「シャルは……シャルには『調合』が出来るんだから。日雇いなんかやめて、もっと腕を磨いて、お得意さんを作って…そうしたら──」

「ちょ、ちょっとミルカ? 落ち着いてってば!」

 

「…っ、ごめんなさい」

「あ、いや、こっちこそ…?」

 

 らしくもなく──とシャルロッテには思えた──気炎を上げていたミルカが視線を下げる。

 幼馴染に何を謝られたのか、今一つ掴めなかった彼女は気鬱を振り払うように声を上げた。

 

 

「…そ、そんな顔しないでよ、ミルカ!? ええっと、ほら……『中央』に留学できたあんたは、あたしの誇りなんだからさ!」

 

 

 ──彼女が留学を終え、再びステラードの地に戻ったのは数年前のこと。

 世界でも最も進んだ技術力を保有する都市『中央』にて最先端の『錬金術』を学び取り、彼女は生まれ故郷へと戻ってきたのだ。

 

 そこで培われた『見識』は既に、街の評判を含めた『実績』となって彼女の足元を固めている。

 それらを踏まえて、自分の事など気にせずに自らの功績を誇ってくれと、シャルロッテの言葉はそんな想いから形作られていたのだが。

 

 

「…………シャル」

「あ、あれぇ……?」

 

 対して、俯いた幼馴染から返されたのは、常にも増して消え入るような呟き。

 「あたし何か間違えたっぽい」ということのみ認識したシャルロッテは、自他共に認める(?)軽い頭を必死に猛回転させる。

 

 

「えっ、と…わかった! あたしも頑張る! …そのうち頑張るから!」

 

「ミルカぐらい…は、無理でも! ぜったいアトリエを繁盛させてみせるよ、うん!」

 

「だから、その…今にきっと、あたしたち二人ででっかいことしてやろうよ! ね!?」

 

 

「……そうね」

 

 果たして彼女が夢中で吐き出した台詞は、どこかで幼馴染の琴線に触れたらしい。

 何やらしょうがないモノを見るような目をしつつも、確かに和らいだ表情がそこにあった。

 

「…じゃ、じゃあ、あたしは仕事があるから! またね~!!」

「ええ……またね、シャル」

 

 その様子に安堵を抱きつつ、また何かの地雷を踏む前にと走り去るシャルロッテ。

 遠ざかる背中を見つめていたミルカもまた、小さな溜息と共に再び歩き出すのだった。

 

 

 

▲ ▽ ▽

 

 

 

「はー…あたしってば、何してんだろ……」

 

「…もういい、やめやめ。気を取り直して仕事しなくっちゃ」

 

「さーってと、元気にゴミ拾ってこー!」

 

 

 愛用の箒を片手に、『目抜き通り』にて力強く宣言するシャルロッテ。

 生来の明るさ、切り替えの早さを存分に発揮し、威勢良く清掃活動に従事し始める。

 

 

「ゴ~ミゴミゴミゴミヒロ~イ♪ ホウシュウゲキヤス~♪」

 

 彼女の気分が赴くまま、即興で紡がれる歌詞に旋律。

 舗装された通りを掃く音を加えたそれは、一帯を生活圏にする人々にとっての日常の一片。

 

 

「…おっ? この鉄くず、錬金術に使えそう。拾っとこっと」

 

 そして、一般に『ゴミ』とされる物体すらも『素材』に利用し得るが彼女の扱う『錬金術』。

 文字通りゴミを集めるだけの雑務も、錬金術士にとっては素材採取の一環となり得る。

 これが『激安』と言っていい報酬ながら、彼女の日々の仕事として成り立つ理由の一つ。

 

 

「ふふ、今日のゴミたちは、中々デキそうなゴミたちじゃない…!」

 

 …傍から聞けば奇人変人そのものな発言だが、少々見方を変えれば草むしりの仕事中に生い茂る雑草の中から薬草を見出し摘み取っていく薬師の()()と大きな違いは無い。

 当人に自覚があるかはさておき、『ゴミ拾い』という仕事をこれほど熱心に行える人間など他に居ない、というのもまた事実ではあった。

 

 

「──ぃよっし、終わり! う~ん、我ながらカンペキな仕事っぷり!」

 

 有り余る経験のもと、手際良く進められた仕事が終わりを迎えたのは数時間後。

 見違えるほど…とまでは言わずも歩行者の目にゴミが映ることはなくなっただろう通りを前に、やり切ったとばかりにシャルロッテは手足を伸ばす。

 

「それじゃ、ラウルさんに報告しにいこう! …さあて、今日はいくら貰えるかな~っと」

 

 拾い上げた一部のゴミ、錬金術士にとっての採取物を小脇に抱え、シャルロッテは歩き出す。

 請け負った仕事の達成を報告すべく、再び財協組合が本部へと。

 

 どれほど小さな『雑務』であろうと、仕事は仕事。

 『依頼』の形式をとっており、『達成』されたとなれば『報酬』が発生するのだ。

 

 ……求められた『質』と『仕事量』に見合った、『報酬』が。

 

 

 

 

「──安い! やっっすい! いつも通り!」

 

 財協組合が本部、依頼受領報告を扱うカウンターにて、明るく響いたはシャルロッテの嘆き。

 

「…文句あんのか?」

「いえいえ、ないですけど~…って、前にもやったじゃないですか、このやり取り」

 

 その手に握られるは今しがた受け取ったばかりの、子供のお駄賃もかくやといった『報酬』。

 面倒臭げなラウルに苦笑気味に返すシャルロッテの声にはしかし、言葉ほどの悲壮感は無い。

 

「ああ、前にも言ったな。報酬を増やして欲しいなら──」

「腕を磨け、ですよね? あと、人はみんな小さくて…ええっと……」

 

「……小さいところから積み上げて、でかくなっていくんだ」

「あ、そうです、それそれ!」

 

「…………はぁ」

 

 この問答もまた、細部は変われど幾度か繰り返されてきたものであり。

 畢竟、シャルロッテ当人も特に期待など抱いていたわけではなく。

 あるとしても硬貨数が一枚変わるか否か──大仰に嘆くほどの感性は流石に残していない。

 

「……で、お前さんはあれから何か人生設計(プラン)は考えたのか?」

「えっ」

 

「そのうち『バーンとでっかいことして、ドーンと大物になってやる』だったろ?」

「う…お、覚えてたんですね」

 

 それは、数か月前にこの場所で為されたやり取りの焼き直し。

 「どうせ何も考えてやしないだろ」と、確と書かれた顔に見下ろされ、黙り込むシャルロッテ。

 

「図星かよ…お前さんもそろそろいい歳だろう? そうやっていつまでもぼやぼやしてたんじゃ、終いにゃナディさんが泣くぞ?」

「…………」

 

 しょぼんと肩を落とした彼女の頭に降り注いだ忠言が、その心中に一層暗く影を落とす。

 ()1()8()()()()、シャルロッテ・エルミナスの脳裏には今、過去の自分の大言壮語が過っていた。

 

 

「(「でっかいこと」かあ…今日、ミルカにも言ったっけなあ)」

 

「(ああ、ラウルさんの目…「お前に何が出来るんだよ」って言ってきてる……)」

 

「(そりゃそうだよね…たかが下町の流行らない錬金術士の卵じゃ──)」

 

 

「……ほら、用事が済んだならさっさと帰れ。お前も一応店舗を構えてんだろうが」

「ふぁい…」

 

 常の元気も今ばかりは鳴りを潜め、シャルロッテは重い足取りでカウンターを離れていく。

 

 

「(……ミルカには最新式の『錬成器』と『中央』で勉強してきた知識がある)」

 

「(でも、あたしには殆ど独学な錬金術の技と…元気しかない)」

 

「(どうすれば……この毎日を変えられるんだろう?)」

 

 

「(何でもいい。ゴミ拾いじゃない仕事がしたい)」

 

「(もっと広い世界に飛び出したい)」

 

「(あたしにしかできないことをして、ちゃんと認められて、母さんを喜ばせたい)」

 

 

 

 

「……あたしにしかできないことって、ないのかなあ……?」

 

 

 

 

 その背中が扉の向こうへと消えるまで、注がれていた視線に彼女が気づくことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり何度聞いても、あいつに何が出来るとは思えないんだがな」

 

「それに錬金術士っつうなら、ミルカ嬢ちゃんの方が……」

 

「錬金術…………『()()錬金術士』、ねえ」

 





※原作既プレイの方へ

 本作を書くにあたって公式サイトで色々と確認を挟みました。
 そしてシャルロッテ18歳に吹きました。マジでか。
 登場時点(ゲーム開始時)の年齢でいえば主人公勢の中でも年長側なのかよ。この言動で。

 ちなみに(作者が調べた範囲で)最年長はマリーの19歳。
 対して最年少はトトリの13歳でした。

 …ゲーム開始時点の年齢ならロジー(18歳)とタメ年ってマジかこの子。


※原作未プレイの方へ

 ここから先にも何度となく出てくる予定の『中央』なる地域(?)に関してですが、その実態については原作中でもあまり具体的な描写はされません。
 首都圏、大都市、メトロポリス……そんな雰囲気の何某、的な表現に留められている印象です。
 本作でもそれ以上に踏み込んだ言及を行う予定はございませんので、ご了承の程を。


 またゲーム原作ではシャリステラを『月』に、シャルロッテを『太陽』に準えたサブタイトルが各章に付けられています。
 例を一つ上げると、シャリステラ側でシャルロッテと顔を合わせる章が『太陽との邂逅』。
 シャルロッテ側の同じ章が『月との邂逅』といった具合ですね。
 本作でもこれを踏襲したサブタイトルを採用していく……予定です。

 ステラ(Stella)なんだから『星』じゃないの? と思ったそこのあなた。
 ……作者もそう思います。じゃあ何故って? ガス○さんに聞いてください。

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