ここから本編開始。
なお基本はシャルロッテ視点。たまに他キャラおよび三人称を使用する予定です。
※これが最後の警告となります。
地雷臭漂うタグ群を不穏に感じた方は、今すぐブラウザバックを激しく推奨いたします。
第1話 天落
「――あれは…何、ですか?」
「『黄昏の海』に棲む大型竜、サンドドラゴン…」
「なっ…ここまで来て、何でまた!?」
「──きゃ、あ…!?」
「ぐっ!? こ、コイツ、船を…!?」
「いいや…振り切るぞ! 出力全開じゃ!」
「なっ…! だが親父、もう目の前に…!?」
「止まればこのまま砂の海に引きずりこまれる! 他に選択肢は無い!」
「っ、テオ爺、何が起きてるの!? ねえ、兄さま!?」
「コルテス!」
「…ああ、クソっ! 伏せろ、シャリー!」
「──どうにか振り切れた、が……いかんな。出力が落ちん」
「操縦も…効かん、か」
「…………」
「嬢様。どうか貴方は──」
――代わり映えのしない毎日を、変えたい。
それはいつも通りの『ゴミ拾い』を続ける中で、あたしが少なからず抱いていた気持ち。
「おっそうじしましょっ、さっさっさーっと」
自分で変えてやろうって気持ちも、勿論あったにはあった。
けどまあ、なんというか……いつか誰かが変えてくれないかなー、なんて気持ちが全くなかったなんて言うと、きっとそれはウソになる。
「よーし、終わりっ。あー…たまにはもっとでっかい仕事が欲しいなー」
口にしてればいつか叶うかも、ぐらいの期待にもならない期待を胸に。
今日もまた、いつも通り退屈で、何の山も谷も無い──平和な一日だと、そう思ってたんだ。
「…あ、れ? 何の音だろ……?」
それが始まったその瞬間も、どこか遠くから何だか変わった音が聞こえたなあ、程度の認識で。
「…んぅ? 船? こっち側から見えてるなんて珍しいなあ」
普段港で見掛ける船とは別の方角から『黄昏の海』を走ってくる船影に対しても、今から思えば信じられないぐらい暢気に近づいていって。
「…え、ちょ、なんか速くない、あの船? それに全然減速する素振りが――」
近くに来れば、見上げなきゃいけないぐらいの大型船。
そんな大質量がこちらへ真っ直ぐに、見たことないぐらいに高速のまま突っ込んできてる。
……それを理解できたのが、もう本当に呆れるしかないぐらいなギリギリのタイミングで。
「――ひ、ひぃええぇえええっっ!!?」
背中を向けて、走った。
それはもう必死に走って、走って、とにかく真っ直ぐ『それ』から離れようとした。
……冷静になれる今なら、進路を横切る形で走れば良かったんじゃないかと思うけど、その時はとにかく足を動かすこと以外は何も考えられなかった。
撒き散らされた瓦礫――船体に抉られた家やら路地やらかな――が、何度も背中を撫でた。
轟音の中に悲鳴とか色々、混じってたとは思うんだけど、あんまり覚えてない。
とにかく走って、跳んで、頭を抱えて、砂煙にえずいて…
石や壁が砕ける音が聞こえなくなって、ホッとして振り返って──目の前数尺まで迫った
……うん、いつの間にか船首には追い越されてたわけだもん。
あとほんのちょっと船の進路がズレてたら思いっきり…よく生きてたよね、あたし。
「…し、ししし死ぬかと、おもっ……!」
──だから。
間違いなくあたしはあの時、誰よりあの船に一番近い所に居た。
だからこそ、あたしが『あれ』を見たのは、きっと……必然だったんだと、そう思う。
「――っ、て…」
小さな小さな、声がしたんだ。
あたしの距離からじゃなきゃ、絶対に聞こえなかっただろう囁きみたいな声が。
立っていた場所のすぐ傍、船側に裂けるようにして空いていた穴。
そこが声の出元だと認識するかしないかぐらいに、誰かの腕が一本、突き出てきて。
疲れと、驚きとで動けなかったあたしの視界の中で、その腕は一回もがくみたいに虚空を掻いて――それから穴の縁に手を掛けて、力を込めたのが、見えて。
「――を、…ぁし、て……っ」
あたしより一回り小さな身体に、細い手足。
長い黒髪の下から覗いてた、お人形さんみたいに綺麗な顔が、苦しそうに歪んでいて。
「ぇ、か…! て、を……して、くださ――」
船から這い出してきたその子の足元には、何かがぼたぼたと零れてた。
赤い、液体の、何か──彼女の頭や手足から垂れてる血なんだと、遅れに遅れて気がついて。
「……っ」
「あ……わ、わぁっ!?」
助けなきゃ、手を伸ばさなきゃって、あたしが思った瞬間、その子の身体は傾いてた。
あの時は夢中でちゃんとした考えなんて無かったけど……散乱した瓦礫の上に倒れてたらもっとひどい事になってたよね。咄嗟に飛び込んで抱き留めたあたし、いい仕事したよね、うん。
「えっ…と、…だ、大丈、夫?」
……言った後で気づいた。大丈夫なわけないじゃん。
手足に、頭に、あちこちから血を流して、干上がるみたいな浅い呼吸を喉から絞り出してて…
どこからどう見ても重傷者。それも今にも死にそうなぐらいの。もうちょっと何か…
……あ、まず意識の有無を確認するのは必ずしも間違いじゃない? そうなんですね…。
「ッ! 手を、貸して、ください…っ! みんながまだっ、中に…!」
でも、その子はそう言った。
自分も…自分の身体も、そんな状態だったのに。
──後ろに居る誰かを、助けて欲しいって。
「…みん、な?」
あたしは、それを聞いて、彼女が這い出てきた穴の先を覗きました。
滅茶苦茶に折れて、砕けて、積み重なった瓦礫のその下に、あたしは、見た。
見て、しまった。
「しゃ……りぃ……」
仰向けの体勢で目を大きく見開いて、震える腕をこちらに伸ばす、男性。
その傍には、ピクリとも動かない……たぶんもう一人誰かの、腕。
「ちからを、かし……みん……を、たす、け…っ……」
腕の中から聞こえる声は、確かに耳に届いてた、はず。
その言葉の意味は、理解できてた、はずなのに。
なのにあたしは、あたしの身体は動かなかった。……動けなかった。
「あ……ああ……」
視界の真上、船に抉られた家屋が、
たぶん、奇跡みたいに残ってたその空間が、どんどん
「…っ! く、そ……っ」
中に居た男の人も、すぐにそれに気づいたらしくて。
ゴボリと血を吐いて、悔しそうな顔をして――彼女を抱える、あたしを見て。
「逃げ、ろォッ!
…………あたしが、崩れていく船から駆け出すことが出来たのは。
この叫びのお陰だったと、そう思います。
「──わかった。もういい。…良く、報告してくれた」
「っ……ラウル、さん」
耳に入ったその声で、弾かれるみたいに意識が浮かび上がった。
……長々と話してる内に、いつの間にか夢と走馬灯の間にいるみたいな状態になってたらしい。
あのとき見たもの、聞いたもの……ちゃんと伝えられてたのかな、あたし?
そんな思いでノロノロと顔を上げれば、見たことも無いほど疲れた様子の顔と目が合って。
少しの間、言葉を探してるみたいにそうしていたラウルさんは、ふうと息を吐いたかと思うと、あたしの隣の席にどかりと腰を下ろした。
「…いいんですか?」
「ん? ああ……こういうときに指示出す奴があちこちうろついたんじゃ逆効果だからな。現場はなるべく別の奴に任すんだよ」
組合本部の中、慌ただしく動く人達を見ながら聞いてみれば、そんな答えが返ってきた。
そういえば、あたしから話を聞き始める前に何人かの人達に指示を出していたなあと思い出す。
「まあ、なんだ……また、エライもん見ちまったな」
「はい…………うぷっ」
「お、おい、大丈夫か?」
言われて、考えて。
また頭の奥に、あの時の光景がハッキリと広がっていく。
コップをひっくり返したみたいな量の血を吐きながら、吠えるように叫んだ男の人。
その傍にあった瓦礫、隙間から覗いていた……真っ赤な血に塗れた誰かの、腕。
まだ……間違いなく
喉までせり上がってきたものをどうにかこうにか飲み込んで、ゼイゼイ息をするあたしの背を、ラウルさんは大きな手でポンポンと摩ってくれて。
そのまま暫く、やたら空気を欲しがる肺を落ち着けて……やっと色々考えれるようになってきたところで、あたしの口から一つの疑問が零れた。
「あの、ラウルさん……あの女の子は、その……どう、ですか?」
「ん、ああ……どうやら命に別状はないらしいが、意識が戻らん」
……船から出てきたあの女の子は、あたしが抱えて走り出した時にはもう気を失っていた。
他にどうする考えもなくて、とにかく組合本部に駆け込んで……集まってくれた人たちの手で、奥にある医務室へと慎重に運ばれていくのを見送ったのが最後。
「…何処から来た何者なのか、どういう訳であんなことになったか……色々と聞かなきゃならねえことは山程あるんだがな……」
「…………」
現場の状態を確認してきた人に曰く、抉られて崩れた家屋が船を半分以上埋めてしまっていて、どういう船だったのかもまだほとんどわかっていない状態らしい。
瓦礫を片づけていけばそのうち調べることは出来るだろうが、それまでどれだけ時間が掛かるかわかったもんじゃねえからな……と、ラウルさんはぼやく。
「それに、あの民族衣装……少なくとも俺には見覚えがねえ。おそらく、昔この街と交流のあった少数民族か何かなんだろうが……まあ、まず近郊ってわけじゃねえだろう」
「うあ…」
「突っ込んできた船のせいで、あっちこっちに少なくねえ被害も出ちまってるし……だが、責任を追及するったって、なあ」
「…他に、船の中から出てきた人は居ないんですよね?」
「ああ。お前の話も合わせて聞く限り、言いたかないが絶望的だな」
女の子が運ばれていった扉の方を見ながら、また苦々しい顔でラウルさんが呻く。
その苦悩の意味も、あたしにはわかる。…あたしにだって、わかっちゃう。
『――これは一体、どこの船なんだ!?』
『――この街に対する敵対行為か!?』
『――船の責任者はどいつだ! 早く出て来い!!』
あたしが
あの人たちの怒りや焦りが向けられる先は、一つしかない。……ひとりしか、いない。
「……あの年齢なら確実に親なり保護者なりが同乗してただろうしな。そういうもんまで何もかも失っちまったあんな子供を責め立てるってのは……だが、やらねえわけにもいかねえ」
「……ッ!」
……想像した。
どこか遠くから船に乗ってこの街までやってきて、何もかもを――自分の命以外の全部を失ってしまった、あの女の子。
あの男の人の最期の叫びがあの子に届いていたかどうかも、あたしにはわからない。
その姿が瓦礫に消える瞬間も……できれば、先に気絶したのであって欲しいなんて思っちゃう。
でも…………目を覚ましたら、そこには
誰も知り合いのいない遠い土地で、突然ひとりぼっちになって……なのに、あんなに無茶苦茶に怒ってる人たちの前に出ていかなきゃいけない……なんて、考えるだけでゾッとする。
それでも、ラウルさんは──財協組合の組長で、街のまとめ役の一人でもあるこの人は、被害を受けた人たちの先頭に立って、あの女の子を責めなきゃいけない。
ぶっきらぼうで、荒々しくて、でも実は面倒見が良くて……それ以上に、街を一番に考えなきゃいけないこの人は、みんなを納得させる為にそうするしかないんだ。
「起きたとしても話せる状態かどうか…聞き取り調査も滅多な奴にやらせるわけにゃ──」
「あ……あのっ!」
…だったら。
「あたしのところで、お世話しましょうか?」
「…は?」
だったら、こうする。
これが、あたしにできること。
あたしにしか、できないことだ。
「いや、世話するって、お前…」
「その…あの子が最後に見たのはあたしなわけですし、少しは話してくれやすいかもですよ」
ラウルさんの「…本気なのか?」って目線が顔に突き刺さる。
「どういう状況か本当に理解してるか?」って、疑うような視線も。
……ええ、たぶんわかってる、と思いますよ、ラウルさん。
確かにまだまだ大した仕事もできない半人前ですけど……これだけは、任せてもらえませんか?
ひょっとしたら、あたしの自己満足って言われちゃうかもだけど、これは――
「……わかってて言ってんのか、
――あの
※原作既プレイの方へ
巨大な竜を振り切るべく出力全開、
からの出力制御および操縦不能に陥った大型船が市街に突っ込んだ。
……これで大惨事に至らないはずがないでしょう。
「やさしいせかい」でもない限り。
※原作未プレイの方へ
原作同時期におけるラウル・シャルロッテのやり取り(意訳)がこちら↓
ラウル「事故船のせいで手が足りねえ! ちょっといつもと違う仕事やってくれ!」
シャルロッテ「ひゃっほーい! あたしの時代がキター! いくわよ、追い風のシャルロッテ!」
……本作との温度差よ。
それではここで改めてもう一度。
この展開が絶対に許せない、という方はそのままブラウザバックをお願いいたします。
そして原作をプレイして、この「やさしいせかい」に癒されてきてください。是非に。