昏き海都は黄砂に沈む   作:非単一三角形

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 原作シャルロッテさん、『食料ウサギ』のこと『ヒツジ』って呼んでるんですよね。

 モンスター名は『食料ウサギ』、会話の中では『ヒツジ』。
 図鑑説明文によれば品種改良された『ウサギ』、ただし頭には巻き角。
 ドロップ品は『ウサギ毛』、鳴き声は「めぇ~」。

 ……どうなんだこれ。



第2話 太陽の出会い

 

 

 ――惨事を起こした船の関係者……生存者の所在は隠した方がいいと、ラウルさんは言った。

 少なくとも事情を聞ける状態になるまでは、『被害者達』の目から離しておきたい、と。

 

 当時の状況からして、あの子が船から出てくるところを見たのも、あたし以外にはほぼ居ない。

 怪我で運び込まれたのも一人二人じゃないし、数日程度なら誤魔化しもなんとかなるだろうと。

 

 人の口に戸は立てられないし、いずれ広まってしまうだろうけど、身動きも取れない今の状態で衆目に晒されるのは不憫に過ぎる。

 せめて目を覚まして……事態を受け止められるだけの時間を設けてやりたい、と頭を抑えながら唸るラウルさんに、周囲のハンターや組員さん──特にあたしに担がれた彼女を見ていた人たちが揃って頷いてくれていたように思う。

 

 

 

「──そう…とっても頑張ったのね、シャリーちゃん」

 

 そうして意識の無い女の子を連れて帰ってきたあたしからあらましを聞いた母さんは、いつもと変わらない笑顔でそう言ってくれた。

 ……せめて母さんには相談してから決めるべきだったと気づいたのもその時。ゴメンね母さん。

 

「…ふふ、いいのよ。それがその時シャリーちゃんがやりたいことだったんでしょう?」

 

 やりたいこと…に、なるのかなあ?

 どっちかというと、やるべきこと……あたしが、やらきゃいけないって思ったような……

 …うん、今でもよくわかんないよ。

 

 

「それじゃあ、まずはお着換えさせてあげないとね。女の子がこんな姿のままだなんてかわいそうだもの。えっと…シャリーちゃんの昔のお洋服が確かこの辺りに……」

 

 その言葉で、あたしは初めて女の子が着ている服──血と土埃に塗れた『それ』に目が向いた。

 ラウルさんが言ってた通り、色々な人がやって来る港街でもあるこのステラードで生まれ育ったあたしでも、全く見慣れないどこかの民族衣装。

 ……これだけでもこの子が、相当遠くの街から来たらしいことがわかる。

 

「──あったあった。シャリーちゃんが大きくなって着られなくなったお洋服。…また出番が来るだなんて、きっとこの服もビックリしてるわね」

「あ……」

 

 母さんの手で、ボロボロの民族衣装を着替えさせられていく女の子。

 そのたびに、服の上からじゃわからなかった痣や生傷が目に映って……手当てのために用意した救急箱を持ったまま、あたしはともすれば目を逸らしたくなってる自分が嫌になりそうで。

 

 

「…ふふっ、なんだか娘が増えたみたいで嬉しいわあ」

 

 …………強いなあ、母さんは。

 

 

 

▲ ▽ ▽

 

 

 

 母さんとの二人暮らしだったあたしの家に、新しい住人が加わってから、二日。

 ……あの子はまだ、目を覚ましていない。

 

 

 事故現場の状態も、傍から見るだけで殆ど処置が進んでないのがわかっちゃう有様だ。

 なんでも瓦礫を除けるそばから次々崩れてきちゃうそうで、まずどこから手を付ければいいかを考えるところから始めなきゃいけないんだとか。

 

 ……住宅地の真ん中って場所が場所だけに変に崩すと周りに被害が出かねないし、爆弾を使って一度大雑把に吹き飛ばす、なんて手段も当然だけど選べない。

 おかげで瓦礫に埋もれている船について調べられるようになるのは一体いつのことやら……と、前にも増して疲れた様子のラウルさんから聞く事になった。

 

 そういうわけもあって、あの船が()()なった経緯を調べるためにも、あの子が目を覚ますときが心待ちにされている……らしい。

 ……それを言ってたときの顔からして、良い意味で、じゃないんだろうなあ。

 

 

 

「──ただいま~」

「あら、お帰りなさい、シャリーちゃん。…帰ってきてすぐで悪いんだけど、ちょっとお願いして良いかしら?」

 

「へっ?」

 

 それは現状を聞きに組合本部まで行った帰り、家の玄関を開けてすぐのこと。

 ちょっぴり眉を下げた母さんが持ってたのは、すっかり()()()()()()()()らしい救急箱だった。

 

「そろそろ換えのお薬が無くなっちゃうの。補充をお願いしてもいい?」

「えっ、薬? ……あ、うん、わかったよ、母さん」

 

 箱に詰めてたはずの軟膏、【ヒーリングサルヴ】の事を思い出して、ああと納得した。

 そうだね、その薬って何かあったときの為に、あたしが作り置きしてたヤツだもんね。

 あの女の子の傷の治療に使って、少なくなってきたならあたしが補充しなくっちゃね。

 

 

 なんたってあたしは、この街にアトリエを構える錬金術士だからね!

 …まだまだ駆け出しか卵かってとこだけどさ。

 

 

「それじゃあ早速調合を……あっ」

「…? どうかしたの、シャリーちゃん?」

 

「材料が無いや…あたし、ちょっと外で採ってくる!」

 

 使う材料を取り出そうと、錬金釜の傍に置いたコンテナを開けたところで思わず声が漏れた。

 …こないだの調合で植物素材を切らしちゃってたの、すっかり忘れてたよ。

 流石にゴミ拾いで集まる素材からじゃ薬は作れないからなあ。

 

 

「あらあら…シャリーちゃん、一人で大丈夫?」

「大丈夫だよ。そんなに遠くまで行くわけじゃないし。それじゃ、行ってくるね!」

 

 

 

 

 

 

 ――そう言って街から飛び出したのが、数時間前のこと。

 

 『黄昏の海』が広がる南側、東側を避ければ、歩いて行ける採取地はそれなりにある。

 薬に使う材料なら、すぐ近くでちょっと採ってくればそれで済むし。

 

 大丈夫。大丈夫。

 問題無いって。

 普段のゴミ拾いの延長みたいなものだよ。

 

 ……そんな風に考えて、最寄りの採取地に向かったあたしは、今──

 

 

 

『めぇ~~~~~!!!』

 

「ひゃあああああ!!!」

 

 

 

 採取中に出会したモンスター『食料ウサギ』に追っかけられてる真っ最中!

 いやあ……なんでこんなことになったかなあ!?

 

 元々この辺りはモンスターが出るって言っても、この野生化した『食料ウサギ』ぐらい。

 膝丈ぐらいの大きさに対して意外と力持ちなヤツだけど、そうそう脚も早いわけじゃないし、襲ってこられても走って逃げればそれで十分……なハズだった。

 

 

『『『『『めえぇぇぇ~~~~~!!!』』』』』

 

「な、なんで今日に限ってこんなに沢山いるのおおおぉっ!?」

 

 

 ……それが一匹、二匹だったなら。

 

 数える気にもならないぐらいに、視界一杯のヒツジ、ヒツジ、ヒツジ。

 …この辺に来た時から、ちょっといつもよりヒツジ多いかな? とは思ってたけどね?

 

 まあ適当に逃げながら採取してれば大丈夫かなー、なんて考えてたらこの状況。

 こんなに集まってくる前に帰った方がいい、って五分ちょっと前のあたしに言ってやりたいよ!

 

 

『『『めぇぇぇ~~!』』』

 

「……うげっ、こっちからも!?」

 

 そうこうしている間に見えてきたのは、前から迫ってくる別のヒツジ。しかも群れ。

 まさかの挟み撃ち!? …いや偶然かもだけど、勘弁してよお!

 

 

「え、ええい、こうなったら……やってやるんだからっ!」

 

 やけくそ気味に叫んで、鞄に手を突っ込む。

 取り出したのはあたし謹製、投げれば忽ち破裂してトゲをばら撒く爆弾【クラフト】。

 これが今のあたしに作れる最高にして虎の子の爆弾!

 錬金術士が採取に出掛けるなら、これぐらいの武器は持っておかないとね!

 

 …ここまでの大群をどうにかできる威力はないと思うけど。そんなの作れる腕前ないよ。自分で言うのもなんだけどさ。

 それでもこいつらを押しのけて脱出口を作るぐらいはできる、ハズ。

 

 …できる、よね? うん、というかできてくれなきゃヤバイ。

 ……ああっ! こんなことならもっと真剣に作っとくんだったあ!

 

 

「う、う~…いけると信じて…せーの――どかーんっ!」

 

 爆弾を手元で軽ーく放って、箒で打ち込む(バッティング)! これがあたしの爆弾投げスタイル!

 手で投げるより速く遠くに飛ばせるし、威力も出るからね!

 

 

『『『『『『『めえぇぇええぇ~~~~!??』』』』』』』

 

 

 群れの中に打ち込まれた【クラフト】が、中にぎっしり詰め込んだトゲをまき散らして爆発。

 その爆音を掻き消す鳴き声の大重奏が……うるっさ!? しかもやっぱり倒し切れてない!?

 まあ、でもギッシリ集まり過ぎてたせいで揉みくちゃになってる! よし、結果は上々!

 

「よっし! 今のうちに……逃げるっ!」

 

 思ったより効果はあったけど、持ってきた爆弾の数はそんなに多くない。

 ここは囲いが崩れてる今の内に、全力でヒツジ達の隙間を突っ切って――

 

 

「っ!? ……え?」

 

 上手く群れを突っ切れたと思った瞬間、脇腹に走った鋭い痛み。

 葉っぱでも引っ掛けたかな? と咄嗟に痛みの元に手を伸ばして――頭が真っ白になった。

 

 

 手のひら全体に訴えられた、()()()()()()()()感覚。

 驚きに向けた視界、映ったそこに()()()()()()()()()()……真っ赤な、血。

 

 

「いっ!? 痛……あ……っ!?」

 

 遅れて背筋を襲ってきた悪寒に、口からは悲鳴が漏れた。

 何が起きてるのか、回らない頭で答えを探して……見つけたのは、一匹のモンスター。

 

 

『グルル……』

「う、嘘ぉ……!?」

 

 

 ―――『ワイルドハウンド』。

 

 ヒツジと違って、鋭い爪に牙に、人間以上の速さも持ち合わせた、野犬(モンスター)

 それもただの野生の犬(ストレイドッグ)とは区別されて図鑑に載ってる、特殊個体。

 こんな…こんなヤツ、街の近くで見かける事なんて有り得ない、ハズなのに。

 

 

『グルルゥ……』

「あ……うあ……っ」

 

 痛みに怯えるあたしに、そいつは舌なめずりしながら眺めていて。

 さっきまでうるさいぐらいに詰まってたヒツジ達の気配が、いつの間にか遠くに行っているのがわかって…あたしはやっと気が付いた。

 

 ──あのヒツジ達はこいつから逃げていた……違う、こいつに追い立てられていたんだ。

 あたしはヒツジに追いかけられてたんじゃない。逃げる群れに飛び込んじゃってたんだって。

 

 

「い……嫌だ……だ、だれか、助けて……っ」

 

 痛くて、怖くて。

 身体は冗談みたいにガクガク震えて、息も出来なくなりそうで。

 

 このとき、この瞬間のあたしは、心の底から『助け』を求めていて――

 

 

 

 

「あんた、何してんの?」

 

 

 

 

『グル―――キャインッ!?』

 

「……え?」

 

 

 ――だから、飛び掛かろうとしたソイツが、突然鳴き声を上げて視界から消えたことも。

 

 その一瞬前に耳に届いた、呆れた様な声のことも。

 

 

「え…っ? あ、あれ……?」

「驚きすぎでしょ、あんた…まあいいわ、よっと…」

 

 

 何処からともなく降って来た、赤い大剣のことも。

 

 いつの間にか目の前に現れていた、綺麗な女の人のことも。

 

 

「ほら、こっちよ! さっさと掴まりなさい」

「へ…!?」

 

 

 ついでにその人に、ホウキに掴まれ、なんて言われたことも。

 

 さらにさらに、そのホウキが宙に浮かんでいたことまでも。

 

 

「は、は、はいっ! ありがとうございますっ!??」

 

 

 疑うとか、不思議に思うとか。

 あたしの頭には、まるで浮かびやしなかったんだ。

 





※原作既プレイの方へ

 食料ウサギの図鑑説明文より、敵として襲ってくるのは野生化した個体と解釈しました。
 …しかしテンパってたにしてもウサギ相手に「話し合おう!」はどうなんだ原作ロッテさん。

 そしてワイルドハウンド氏、迫真のフライングエントリー。
 改変の背景にも設定はありますが……回収できるかなあ。


※原作未プレイの方へ

 爆弾打ち込む(バッティングする)のこの子?
 爆弾打ち込む(バッティングする)んですこの子。箒で。

 これにより道具使用後の待機時間や威力がランダム増減する受動(パッシブ)スキルをお持ちなのです。
 ……暴発誤爆の心配とか、なさらないんで?


 アトリエでは戦闘で敗北しても、大体が荷物半分程度と引き換えに拠点に戻されるだけです。
 倒れた主人公たちを誰が回収してるの案件。回収用の道具を作れるタイトルもありますが。
 特にシャルロッテの倒れ方は完全にギャグ時空。足ぴくぴくさせんなし。実は余裕あるやろ?

 また作中において、落命・流血描写は殆どありません。
 尤も、

 ・ゲーム開始前に故人
 ・誰かを庇ったキャラが負傷
 ・モブがモンスター等に襲われて未帰還

 ・機械と同化して自我消失
 ・呪いに蝕まれて理性消失
 ・"まだ"自我が必要とされなかった時代の人工生命体

 ・数百年前に分割された人の魂を宿し、老いること無く彷徨い続けた人形たち
 ・数百年前に魂を移し、かつて自身が人であったことを辛うじて記憶に残した本
 ・他者の存在しない閉鎖空間内で数百年を過ごす、当人の死後に生じた残留思念

 ……このあたりの展開なら存在しますが。
 なので前話の展開だってそこまでアレなわけでは(ry

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