昏き海都は黄砂に沈む   作:非単一三角形

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 メインキャラその4見参。
 彼女だけは外せません。色々な意味で。



第3話 願う太陽

 

 

「――ちょっと前から遠目に見えてたけど…完全に牧羊犬に追い立てられる羊だったわね」

「……」

 

「その中に人間が混じってるのに気づいたときには、ホントびっくりしたわ」

「わ…わわ……」

 

 

「しかも見てる傍からヤバそうなことになってるし、慌てて加速して……って、ちょっと、あんたさっきから聞いて―――」

「わああっ! と、飛んでる!! ()()()()()()()()()()!?」

 

 

 助かったという安堵より、助けてもらったという感謝よりも。

 あたしは今、自分が置かれたこの状況に、どうしようもなく感動してしまっていた。

 

 

 ──視界の大半を埋める、真っ青な空。

 足の下で、どんどん小さく遠くなっていく、砂に埋もれた地面。

 地平線の向こうに見えるステラードの街なんて、もう豆粒か何かみたいで。

 

 

「あー…しっかり掴まっててよ! 落ちても、助けないからね!」

「は、はいっ!! …あわっ!?」

 

 言われて、夢中でホウキを掴んでた手に、意識的に力を込めようとして。

 けれど思った以上に力が入らず、崩れかけた体勢から必死に手を伸ばして。

 …気づけば、助けてくれたこの人の服にあたしの手が掛かっていた。

 

 

「あ、ちょ、ちょっと! 変なとこ掴まないでよ!」

「そ、そんなこと言われても!」

 

「うわっ! 服引っぱんないでってば! 伸びるでしょうが!?」

「だからそう言われても!!」

 

「ぐえっ!? あ、あんたねえっ!?」

「すいませーんっ!!?」

 

 

 怒られて、慌てて手を放して。

 支えの少なくなった身体が、空の上でぶらんぶらん揺れて。

 ぞわっと襲ってきた浮遊感に、泡を食って伸ばした手が掴んだのは、またその人の服の端で。

 

 …しかも位置がさらに悪くなったらしく、苦しそうに仰け反ったのが見えて。

 「んぐぐ…」と唸りながら姿勢を戻して振り返った顔は、わかりやすく『呆れ』が滲んでいた。

 

 

「まったく……このまま振り落としてあげましょうか?」

「ご、ごめんなさい、ごめんなさ――あぐぅ……っ」

 

「ん? …って、そうだっ、あんた引っ掻かれてたじゃない!? ああもう、引っ張り上げたげるから動くんじゃないわよ?」

 

 脇腹の傷から血が抜けてるおかげか、興奮が少し冷めて身体が寒くなってきた。

 それと同時にホウキを掴む腕からもどんどん力が抜けてきて――ずり落ちそうになったところを支えられて、そのままホウキに跨らせてもらう。

 

 

「うわ…やっぱり結構酷い傷じゃない。よくこれであんなに騒げたわね」

「い、いやあ、お恥ずかし……い、痛たた…!?」

 

 服をめくられて初めてしっかり見た傷口は、思ったより深くて出血も酷かった。

 直接目にしたことでやっと感覚が追いついてきたのか、ジワジワと痛みが襲ってきてる。

 

「爆弾使ってるところも見えてたけど……薬は持ってないの?」

「う、は、はい…あ、生憎品切れだったというか……」

 

 持ってない、っていうのと、こんな傷をすぐに治せるような薬は作れない、の両方だ。

 あたしの作れる薬で治せるのは、精々擦り傷とか腰痛ぐらいだし……。

 

 …ていうか痛い! イッタイ!! …あ、やばい、傷口見てるとクラクラして……っ!

 

 

「そう。それじゃしょうがないわね。…一応覚えといて良かったわ、【ヒールオール】」

「わ…あ……!」

 

 そう呟くが早いか、傷に向けてかざされた手がポワっと光ったのが見えた途端、熱く煮えていた痛みが嘘みたいに和らいでいった。

 次々と目の前で起きる異常事態に、あたしはただただポカンと口を開けるばかり。

 

「す、すっごい……」

「んー、あんまりこういうのは得意じゃないからねえ。暫く動かさない方が良いと思うわよ」

 

 みるみるうちに傷は小さく、血まで止めてみせたその結果に、それでもこの人は納得していないとばかりに首を振っていた。

 …何か、もう……すごい。あたしなんかとは、全然──

 

 

「……あら? 諦めが悪いのね、あいつ」

「へ…? うわっ!?」

 

 その人が向けた視線の先を振り返ると、さっきの『ワイルドハウンド』が足の下を走っていた。

 …とはいっても、あいつがちょっと跳ねたぐらいで届くような高さじゃない。

 おかげでさっきのみたいな恐怖を感じることは無かったし、それになにより――

 

「それじゃ、もう一度痛い目みときなさい――【ボルケーノ】」

「うあ……っ!?」

 

 パチン、という指鳴らしを一度。それで今度降ってきたのは剣じゃなくて、炎。

 雨のように降り注ぐ炎の弾がすれ違っていくのを、あたしは呆然と見送って。

 

 

『ギャ──』

 

「…ま、こんなもんよね」

「…………すごい」

 

 無数の炎弾が砂地を抉る音に、ソイツの悲鳴は掻き消されて。

 当然とばかりに口角を上げたその横顔に、あたしはもう一度、そう呟いていた。

 

 

 何もかも、何もかもが圧倒的。

 今までボンヤリと描いていた理想も、夢も、軽々と飛び越えていくその姿。

 

 感謝と、尊敬と、憧憬と、その他色々が心の底から一気に溢れたあたしは――

 

 

「――師匠」

「……へ?」

 

 

「お願いします師匠! あたしを弟子にしてくださいっ!」

「はあっ!?」

 

 

 気づいたときにはもう、力一杯に叫んだ後だった。

 

 

 

▲ ▽ ▽

 

 

 

「──お願いしますっ! あたし、一応錬金術士なんですけど、まだまだ何もできなくって…でも一人前になりたいんです!」

 

 

 ステラードの街外れにある空き地の中。

 危険の無い場所まで運んでもらったその足で地面を踏みしめつつ、あたしは間違いなく今までの人生でも一番の熱を込めて頼み込んでいた。

 

 

 ウィルベル・フォル=エルスリート。

 それが師匠――もとい、あたしの命の恩人の名前。

 

 より大きな力を求めて世界中をさすらう旅の途中、ここら周辺でも一番大きい街だと聞いていたこのステラードに向かっていたところで、偶々窮地に陥ってたあたしを見つけてくれたらしい。

 …力を求めてさすらってる──なんてカッコイイ響き…!

 

 

「い、いや、錬金術士って言われても、あたしは──」

「…やっぱりあたし、錬金術の才能ないですか…? あのとき使った爆弾だって全然でしたし…」

 

「え!? いや、あの、そーゆーことじゃなく…」

「っ! じゃあお願いします! 何でもします! 師匠!」

 

 何だか迷っている様子で視線を逸らすこの人に、あたしは必死になって食い下がった。

 

 モンスターを簡単にあしらう力。

 深い傷でもあっという間に癒してしまう力。

 そして何といっても、大空を自由に飛べる力!

 

 どこをどう切ってもこの人は、あたしの遥か先にいる()()()()だったから。

 始めはお父さんが遺してくれた本で学んだといっても、ほとんど我流のまま進んできた錬金術にとっくに限界を感じつつあったから。

 

 

「……『師匠』…」

「お願いします! 弟子入りするならもう、この人しかいない、って…!」

 

 

 大したことなんて何もできないあたしから、変わりたい。

 あたしにしかできないことがあるような、誰かに誇れる何かを持ったあたしに、なりたい。

 

 そんな気持ちに炙られながら、縋りつく想いで必死に頭を下げまくった。

 …塞がったばかりの脇腹がチクチク痛むけど、そんなの気にしてらんないよ!

 

 

「『この人しかいない』……ふふ…ふふふ……」

 

 

 そんなあたしの嘆願に返って来たのは、何だかボソボソと思案するような呟き。

 そおっと視線を上げてみても、大きなとんがり帽子の鍔に隠れてその顔は見えず。

 

「……やっぱりダメ、ですか?」

 

 初対面でいきなりコレは、やっぱり無理があったかな~…っと、どこか頭の冷静な部分が今頃になって働き始めていた。

 助けてもらっといて厚かましすぎる気もしてきたし……いや、それでも諦めるわけには──

 

 

「し、仕方ないわね…いいわ、面倒みてあげる!」

「っ!! ほ、ほんとですかっ!?」

 

「あ、と、とはいえあたしも自分の事で忙しいし、付きっ切りってわけにはいかないからねっ?」

「は、はいっ、勿論です! ありがとうございます!!」

 

 

 一瞬諦めかけたその瞬間、待ち望んでいた言葉に思わず叫び声が出た。

 そんなあたしにこの人は、「わかったから落ち着きなさいって」と軽い苦笑いを一つ。

 

 

 ──受け入れて貰えた。

 これであたしも、この人みたいな立派な錬金術士になれるかも…いいや、絶対なれる!

 

 嬉しくて、嬉しくて、泣きそうになりながらまた頭を下げた。

 ……きた。きたよ! ビバ! あたしの時代っ!

 

 

「それで、あんたは……そういえばあんた、名前は?」

「あっ! しゃ、シャルロッテ。シャルロッテ・エルミナスです。下町で、駆け出しの錬金術士をやってます!」

 

「ふぅん…シャルロッテ、ね」

「皆からは大体『シャリー』って呼ばれてるんで、師匠も気軽にそう呼んでください!」

 

「そ、そう。じゃあ、シャリー」

「はいっ、なんでしょう!」

 

 

 

 

「さっきあの場所にいたのは…まあ、錬金術のために素材採取をしてたんだろうけど、何か急いで作らなきゃいけないものでもあったんじゃないの?」

 

「…………あ」

 

 

 ……忘れてた。

 すっかり忘れてたよ、そうだあたし、薬を作るために来たんだったんじゃん。

 

 あ、か、カゴ…採取品を詰めてた籠は……っ、良かった! 無事だ!

 中身も…う、うん、これなら必要な分ぐらいには大丈夫!

 

「…え、えっと、これからあたし、薬を調合しないと……」

「そんなとこだろうと思ったわ。…誰かを待たせてるんでしょ? いいから行ってきなさい」

 

 結局まだ碌なお礼も出来てない……と後ろ髪引かれるあたしへの返答は、軽く振られる手。

 人差し指を立てる仕草と共にその人から──ウィルベル『師匠』が言ってくれたのは、あたしが欲しいと思っていた言葉。

 

 

()()()()()()()()、シャリー」

「っ! …はい師匠! また今度っ」

 

「うむ――って、こら走るな! 傷口開くわよ!」

 

 

 師匠の心の広さに感謝しながら走り出す――直前で忠告に従って早歩きに移行した。

 …いつの間にかまたピリピリし始めてたよ、脇腹。あぶないあぶない。

 

 

 …あたしはきっと、今日この日の事を一生忘れないだろう。

 未来の一流錬金術士、シャルロッテの歩みはこうして始まったのであった──なあんてね!

 

 

 

 

 

 

「──全く、騒がしい子ねえ。…悪い子じゃなさそうだけど」

 

 

「……師匠。あたしが、師匠、かあ」

 

 

「…………うへへ……」

 

 

「……」

 

 

「…………」

 

 

 

「錬金術の、師匠……」

 

 

 

「……どうしよう」

 

「え、待って、どうするのよ、あたし?」

 

「…なんで受け入れちゃったの!? 『仕方ないわね』…じゃないわよ、あたし!?」

 

 

 

「い、今さら……あたし()()()()()()()()から、なんて絶対言えないわよ……っ!?」

 

 

 

「……」

 

「…………」

 

「………………あ」

 

 

 

「アーシャぁ……エスカぁ……たすけてぇ……」

 





※原作既プレイの方へ

 某イベントにてエスカちゃんの元に全力ダッシュするウィルベルさんに腹抱えて笑った記憶。
 ほんとイイ齢(シャリー時点で24歳)して何やってんだ、この人。

 エスカ&ロジー(PLus版)の音楽館でコッソリ言及されてたりするんですが、無印版発売当時ウィルベルさんDLCキャラ扱いに結構な反響があったそうで。
 その声に応える(?)べく次作シャリーでは物語最初期に加入させる流れにしたのだとか。
 思えばこの頃から既にDLCイベントを正史にする流れが浸透してたんだなあ。


 ……余談ですが、作者はソフィーDLCを購入せずにフィリスへと進んだ為、とあるイベントにて『なんか錬金術使えちゃってる某お二人』に宇宙猫になりました。キミら使えちゃダメやろ…?


※原作未プレイの方へ

 今回はわりかし原作通り。

 ウィルベルさんは黄昏シリーズでは数少ない皆勤キャラの一人です。
 また他の皆勤キャラがサブキャラ枠なこともあり、メイン格の中では唯一でもあります。
 (『エスカ&ロジー』ではストーリーには関わるもパーティ加入はDLC、という扱いでしたが)

 そして何れのタイトルでも細部は違えど古典的な『魔法使い』の格好をしていらっしゃいます。
 具体的には「ハロウィンの魔女コスプレ」あたりで検索すればとても近い画像が出てきますね。

 ……なんでこれ見て錬金術士という発想になるんだ、シャルロッテさん。
 シャリステラは「(…どう見ても、魔法使いだよね)」と心内台詞で呟くぐらいなのに。


 余談になりますが、アトリエ20周年人気投票におけるウィルベルさんの順位は6位。
 1~5位は主人公を務めた面子が並んでますので、非主人公勢の中ではNo.1だったり。すごい。

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