20周年人気投票において、シャリステラは28位、シャルロッテ24位、ついでにミルカが23位。
そんな微妙な位置の彼女達にスポットを当てたいという想いから本作が生まれた次第なのです。
まあ、彼女らが不人気というよりは人気キャラが多すぎる弊害ではないかと思われますが。
なんせ主人公に限っても二十人少々いるわけなんで、多少はね?
……とはいえ主人公が揃って
「――う……ぁ……?」
最初に聞こえたのは、小さな小さな呻き声。
一瞬、気のせいかなと思いながら向けたあたしの視線が、きれいな深紫の瞳と重なって。
「っ、こほっ…! け、ほ……っ」
「…え、あ!? お、起き……!?」
あたしの家、あたしのベッドで、この三日間眠ったままだった女の子。
その彼女が目を覚ましたのは、丁度あたしがすぐ傍で作業をしていたタイミング。
「ぅ、く……ぇほ…っ!」
「わわっ…だ、だだ大丈夫…じゃないよね!? え、ええっと……!」
あたしを見て一瞬、目を大きく見開いた女の子は……何かを言おうとしたんだろう。
けれど、ひゅっ、と一度息を吸い込む音が出ただけで、咳き込みながら顔を伏せてしまった。
「こ、こは……なに、が──うぁっ!?」
「わあっ! きゅ、急に起き上がっちゃダメだって!?」
苦しそうに、でも焦ったように浅い息を繰り返しながら起き上がろうとして…危うくベッドから落ちそうになった女の子をギリギリのところで抱きとめた。
…この子、思いっきり混乱して……そりゃそうだよね。
それでも今は、なんとかして落ちついてもらわなきゃ……えっと、でもどうしたら──
「……あ」
「えっ…?」
錯乱しかけていた女の子が、急に何かに気づいたみたいに動きを止めた。
そのままじぃっと何かを見て……あれ? ひょっとして、あたし? これ、あたしを見てる?
「…あなたは……あの時、の?」
「! う、うん、そうだよ! …あたしのこと、見えてたんだ?」
「はい。ボンヤリとでしたけど…」
意識を失う直前に顔を合わせてたあたしのこと、覚えててくれたみたいだ。……良かったあ。
…意外と大人びた感じの子だし、これなら話もしやすそうかな?
「……助けていただいた、みたいですね。ありがとうございます。…えっと……」
「え? …あ、そっか。あたし、シャルロッテ。『シャリー』って呼んでくれていいよ! …あ、そういえばあなたの名前は?」
「……シャリステラ、です」
「あ、それじゃ……シャリステラの『シャリー』ちゃん、だったんだね」
ようやくわかった彼女の名前に、ふと
…あのときあたしは一瞬自分が呼ばれたみたいに錯覚して──崩れていく現場から彼女を抱えて逃げ出すことが出来たのも、きっとそのおかげだったなあ…。
「…? はい。わたしも、みんなからは『シャリー』と呼ばれ、て……っ!」
「……あっ」
シャリステラ──シャリーちゃんの言葉が、突然途切れた。
元々良くなかった顔色が、波が引くみたいにさあっと青褪めていく。
……ヤバイ。思い出したのは、あたしだけじゃなかった。
この子、落ちついてたんじゃない。
「わ、わたしのっ! わたしの他にあの船に乗っていた人は――げほ…っ!?」
「うわっ、ちょ、ちょっと…っ!?」
「兄さま…! テオ爺…っ! …あんな……あんなの、ゆめにきまって……ッ」
……っ! 見て、たんだ。やっぱり…!
あの人たちが……あの人たちが居た空間が、崩れる瓦礫に呑み込まれてく様子を、きっと…
今度は今にも壊れそうな、でも暴れる力も無いらしい肩を咄嗟に掴んで……そのままあたしは、どうしていいかわからなくて、ただただ項垂れる彼女の頭を見下ろしていた。
……どうしよう。この子になんて声を掛けたらいいのか、全然わかんない。
まだ船の部分は『発掘』が進んでないからわからないとか……いや、でも、変に希望を持たせるようなこと言うのも、無責任な気がするし……
い、いやいやでも何か言ってあげた方が…あ、あああ、掴んでる肩がどんどん震えて──
「──あらあら、大丈夫よ。大丈夫だから、お布団に戻りましょう。…ね?」
「え……?」
「か、母さん…?」
そんなあたしを見かねてか、いつのまにか母さんがすぐ傍に来てくれていた。
シャリーちゃんが息を整えられるように宥めて、撫でて、その流れのままベッドに戻らせてく。
「え…あ、あの……」
「シャリステラ……シャリーちゃん?」
「は、はい」
「私はこっちのシャリーちゃんのお母さんで、ナディっていうの」
「…ナディ、さん?」
「ええ。…『お母さん』って呼んでくれても良いのよ?」
「…えっ」
「…えっ、ちょっと母さんっ!?」
前に言ってた『娘が二人になったみたい』って、もしかして本気だったの!?
ああほら、シャリーちゃんもついていけてないから! 目を白黒させてるから!
「え、えと、その……わたしの他のみんなは……? それに街にも、被害が――」
「シャリーちゃん」
言い募ろうとするシャリーちゃんに、母さんが見せたのは笑顔だった。
何かを話すわけじゃなく、けれどじっとシャリーちゃんの目を見つめて、それから口を開く。
「シャリーちゃんがまずしなくちゃいけないのは、しっかり休んで、食べて、元気になることよ。話をするのは、それからね」
「…………はい」
……母さんすごいや。有無を言わせない。シャリーちゃんまだ色々聞きたそうにしてるのに。
そりゃあ、何の話をするにしても、今のこの子の容態で無理をさせちゃいけないってぐらいは、あたしにもわかるけどさ。
「それじゃ、
「え、あ、うん、わかったよ、母さん」
あ……そうだね、連絡は大事だよね。わかってるよ?
…でも両方『シャリーちゃん』だとややこしいから呼び分けてよ、母さん。
「――ラウルさーん!」
「…お、来たか、シャリー」
財協組合本部の扉を開けると、一斉に集まってくる視線。
その中で、すぐにそれぞれの手元に戻らず、あたしに向いていたのは三つ。
一つはラウルさん。二つ目はそろそろこの場所にも馴染んできたソールさん。
そして最後の一つは――
「…シャル」
「あれ、ミルカ?
いつも通りのクールな様子で、カウンターの前に立っていたミルカだった。
以前本部の前で会った時もそうだけど、
「ちょっと、依頼があって。…今はそれよりもシャルの用事を優先して」
「あ、うん、ありがとう。えっと…ラウルさん?」
「ん? ああ、ミルカ嬢ちゃんなら大丈夫だ。話はしてある」
シャリーちゃんの事……あの船の『生存者』の存在についてはもう隠してはいないそうだけど、その所在についてまでは明かしてないって聞いている。
そういう意味で向けたあたしの視線に、ラウルさんは頷いて答えた。
「相変わらずシャルはお人好し」
「まあ、そうでもなければ混乱は必至でしたから、助かりましたが」
「…シャルから言い出したんじゃなきゃ、許さなかったわ」
「お気持ちは察します」
「え、えーと……?」
…なんか、ミルカとソールさん、仲悪い?
そう思ってラウルさんを見ると、こっちも頭に手を当てていた。
「そのぐらいにしといてくれミルカ嬢ちゃん。話が進まん……で、どうなった?」
「あ、はい。遂にシャリーちゃんが目を覚ましましたよ!」
「「「…『シャリーちゃん』?」」」
「あっ」
……気を取り直して、あたしは三人に話していった。
シャリステラという名前に、目を覚ましてすぐの様子と、今は母さんが看てくれていること。
それから、他の乗員の安否に次いで、自分たちの船が街に出しただろう被害について気にしてる素振りがあったことも。…母さんに寝かしつけられてたけどね。
「――そいつはまた、幸い…と言えば幸いか?」
「ええ、会話が可能な精神状態であるというのは朗報に数えてもいいでしょう」
「…えっと、それってどういう…?」
「ああ、そりゃあれだ。…何にも状況をわかってねえって可能性もあったからな」
不思議に思って詳しく聞くと、あの子がもっと精神的に幼い場合を危惧してたらしい。
何が起きたのか、今どういう状況なのかも理解できないような子どもだったら、調査から何からものすごく難航しただろうとのこと。
「しかし他の乗員のことはまだ伝えてない、か。まあ、その方が良いとナディさんが判断したってことなんだろうが…」
「はい。その……
言わなかったこと。言えなかったこと。…言いたくなかったこと。
あの時、震えるシャリーちゃんを前に飲み込んだ言葉が、頭の中を駆け巡る。
母さんに任せる形になったのも勿論だけど…あたし自身が信じたくなかったのもあるんだ。
だってあたしは……中に居た男性と、顔を、目を、合わせてしまったから。
──自分が『知った』人が……死んだ、なんて、考えたくなかったから。
「……あの日お前から聞いてすぐ、
「仮にそのとき奇跡的に息があったとして、そこから三日が経過しています。外からの呼びかけに如何なる形での返答も不能な状態でその経過時間となると、確定と言って相違ないでしょう」
「無理に撤去を進めて二次被害を起こしてたんじゃ冗談にもならねえからな」
「少なくとも現実的な手段で、あれ以上の対応は不可能だったと思いますよ」
そんなあたしの願いは、二人にさっくりと切り捨てられた。
それも、バカなあたしにだってわかりやすい、理解しやすい説明で。
「変に希望を持たせる方が残酷よ」
「…ミルカぁ」
「…シャルが言えないなら、私が言うわ」
「っ、ミルカ!?」
萎れていたあたしの耳に、突然そんな言葉が聞こえて。
驚いて上げた顔を、ミルカの翡翠のような瞳がじっとりと見据えていた。
「シャルは隠そうとして、私が勝手に伝えた。これならその子の中で、悪役は私になる」
「そ、そんなっ!? そんなの──」
「シャルはナディおばさんと一緒に慰める側に回ればいい。…名案でしょう?」
そんなとんでもないコトを提案しながら、ミルカはラウルさんに顔を向けた。
釣られて思わず持って行かれた視線の先には、さっきより更に頭の痛そうな様子で顔を覆う姿。
「…………悪くない案、だな。俺たち大人の情けなさを横に置けばだが」
「ら、ラウルさん……」
「シャリーひとりに任すよりは安心できるが……本当に良いのか?」
「構わない」
…その言葉は、どこかミルカを巻き込むことへの申し訳なさが滲んでる気がして。
向けられたラウルさんの目に「やっぱこいつにはなぁ…」って、言われたような気分になった。
……そりゃそうだよね。あたしじゃ……あたしひとりじゃ、やっぱり何も――
「――えっと、母さん? 何して……いや、
「あ、おかえりなさい、シャリーちゃん。それがね? シャリーちゃんが、どうしても自分も何かしていないと落ち着かないっていうから──」
ミルカを連れて家に帰って来たあたしは今、予想もしなかったものを見ていた。
……というかお願い、呼び分けて。ややこしいから。
「まあ! ミルカちゃんも来てくれたのね。こんにちは、久しぶりねえ」
「…お邪魔します」
寝かされていたはずのシャリーちゃんが、ベッドを抜け出している。
そりゃ、寝たきりよりは元気な方が良いし、無理はしてないっていうならその方がいい…の?
……さすがに、その…『作業』は
「今日はパンを焼こうと思ったんだけど、丁度【
「……あの、出来ました」
説明している母さんの後ろ、あたしの視線の先で、作業は完了していた。
あたしの錬金釜と道具を使って行われた、【シェルバニ粉】の『調合』が。
「ありがとう、シャリーちゃん。…それでね? シャリーちゃんもシャリーちゃんと同じ錬金術士だから、そのぐらいの調合なら出来る、是非自分にやらせてほしいって言って──」
「あ、うん、そう……」
色々と、言いたいこととか…胸につっかえてたモヤモヤとか、あったはずなんだけど。
ニコニコ笑顔の母さんと、その後ろで少し…ほんの少し表情が柔らかくなったシャリーちゃんを見ていたら、それ以上何か言う気になんてなれなくて。
「……シャル、聞いてない」
「……いや、あたしも今知ったし」
力の抜けた目で見上げてきたミルカに、あたしはそう返すしかなかった。
※原作既プレイの方へ
ミルカからシャルロッテへの感情の熱量は実につかみ辛いです。
冷たくドライなようでいて案外熱かったり重かったり……
言い表すなら、自分と正反対な性根を眩しく思っている、という辺りなんでしょうかね。
シャリステラとは気が合うというか、好む空気が似ているのか結構すぐ仲良くなりますけど。
とりあえず本作の二人はこういう空気感ということで一つ。
※原作未プレイの方へ
シャルロッテ:身長162cm、18歳、薄緑髪、緑瞳
シャリステラ:身長155cm、16歳、黒髪、紫瞳
ミルカ:身長152cm、16歳、金髪、緑瞳
身長差や出会い方も相まって本作シャルロッテの中では完全に庇護対象な本作シャリステラ。
まあ原作でも初対面から「ちゃん」付けで呼んでたりするので、第一印象にそこまで大きな差は無いんじゃないかな?