TSサキュバスの酒場娘【ダイジェスト版】   作:ぷに凝

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本作はノベルピアにて連載予定の「TSサキュバスの酒場娘」のダイジェスト版となります。


酒場の名物ウェイトレス

「メリリアちゃーん!ちょっとこっち来て一緒に飲もうぜ!!」

 

どれが誰の声かもわからない、騒がしくてやかましい憩いの場。

 

それがここ、『月夜のヒツジ亭』だ。

 

「嫌でーす。バダスさん酒癖悪いんだもん」

「えー!?んなこと言わずにさぁ!奢るよ今日は!!」

「そんなこと言って、いつもやっすいエール酒しか頼んでくれないじゃないですか」

「ちっちっち。今日は商人の護衛任務で、臨時収入が入ったんだ。一番高い酒瓶でも開けちゃうよ?」

「マスター!!この最っ高にかっこいいバダスさんに“アルベリア・ローズ”一本〜!!」

「いや切り替え早いな!!」

 

私はカウンター席に座る、革鎧を着込んだ中年男性…バダスさんの隣に座り、ぎゅっと腕を絡めた。その瞬間にチラリと私の胸の谷間を覗き見るバダスさんだが、私は知らんぷりだ。

 

そもそも『ヒツジ亭』のウェイトレス服は、肩も胸元も大きく開かれた“見られること”を想定したデザインだ。ここで働いてていちいち男の視線を気にしていたらキリがない。

 

まぁ、“元男”として思うところがないわけじゃないけど。

 

客観的に、私の胸は普通の服を着ていても大きく目立ってしまうくらいに自己主張が激しいので仕方ない。

 

「いや〜、やっぱメリリアちゃんはかわいいなぁ。正直、今まで俺が会った女の中でぶっちぎりの一番だ。しかも明るくて話し上手で……もうメリリアちゃんと話すためだけにここ通っちゃってるよ」

「あー、いけないんだ。バダスさん奥さんいるのにー」

「いやぁ、女房はさ……“ここ”がよぉ?やっぱ、こう、垂れてきてんのよ最近。正直もうアレを女とは見れねぇよ」

 

バダスさんはそう言いながら、胸の前でお椀を作り、持ち上げるようなポーズを取る。

 

女性視点で、控えめに言っても最低の物言いだが同時に男としての性質を併せ持つ私には、バダスさんの言うことはわからなくもない。

 

男というのは、おっぱいとケツと太ももに簡単に理性を溶かされてしまう哀れな生き物であるが故に。

 

ただそれとこれとは別として、バダスさんが妻帯者でありながら、他の女……特に私に対してセクハラまがいの言動を取ってることは『ヒツジ亭』では密かに広まっている。近々、彼は奥さんに魂の土下座を敢行することとなるだろう。

 

「仕方ないなぁ。ま、今日は高いお酒奢ってくれるから許してあげる」

「え!?マジ!?触っていいの!?」

「いいわけねぇだろ、このスケベ親父!!」

 

私は暗い未来が待つバダスさんをぶん殴りつつ、滅多に楽しめない高いお酒を楽しんだ。

 

……とまぁ、これが私の日常の風景。

 

“元男”なのに酒場で女を売るような真似をする。これは決して、私が元々そういう性癖を持っているとか、男を誑かすことを生業としているとか、そういうわけじゃない。

 

私は“元男”にして、“淫魔(サキュバス )”だ。そしてこの『月夜のヒツジ亭』のウェイトレス。

 

 

TSサキュバスの酒場娘だ。

 

 

 

「今日はありがとー!また来てね!」

「おうよ。今度また乳揉ませてくれ!」

「二度と来ないでね〜!」

 

さて。

 

陽がすっかり沈み込んでしまったどころか、もう数時間で次の陽が昇ってきてしまうという時間になってようやく最後の客が帰った。

 

最後の最後までセクハラしやがって。それで稼いでる俺が言えたもんじゃないが。

 

「あ、マスター。私、店じまいやっておきますよ。マスターは先上がっちゃってください」

「(ふるふると)」

「いやいや、いいですって!私、夜型なんで!マスターは明日に向けて休んどいてください」

「(……こくこくと)」

「はーい。お疲れ様でーす」

 

若干申し訳なさそうにしつつも、私に後片付けを任せて、マスターは帰路に就いた。

 

「……さて、と」

 

そうして、『月夜のヒツジ亭』に残ったのは私一人となった。

 

私はよっぽどの事がない限り、こうして最後まで酒場に残る。

 

それは仕事熱心だからとか、マスターに媚を売りたいからとかではなく……いや、ある意味ではそうなのかも?

 

少なくとも、この“憩いの時間”が無ければ明日の業務に差し支えるのだから。

 

「ん、しょ……」

 

私は誰もいなくなった酒場で、徐に服を“脱ぎ始めた”。

 

パサリ、と音がして元々布地面積が少ない制服が床に落ち、私の身を包むのはただの紐と言っても差し支えない下着のみ。

 

「ん……」

 

それすらも脱ぎ去って、私は酒場で……正真正銘生まれたままの姿となった。

 

いや、私が生まれた時は股間に別のモノが付いてたな。この世界で生まれたままの姿だ。

 

「ふぃ〜……」

 

そうして何もかもから解き放たれた私は、酒場の机にぐったりと寝そべった。

 

衛生的に非常によろしくないが、どうせ後で水布巾をかける。今はただこの解放感を楽しみたい。

 

私は“淫魔”として生まれたからか、厚手を好んだ前世とは打って変わって衣服を着る事に強い違和感を覚えてしまう体質になった。

 

『ヒツジ亭』の露出過多な制服でさえ、私には窮屈な拘束具のように感じてしまう。だからこそ、こうして誰もいない時間帯の酒場で私は一人、誰かに目撃されれば変態露出魔として通報待ったなしの姿を晒している。

 

しかし心配はない。酒場の入り口にはすでに侵入を阻害する結界と認識を惑わせる幻惑術を施している。誰かが来てもこの酒場に入ろうとは思わないし、入ることも中を見ることもできない。

 

「つっかれた〜」

 

私は“淫魔”と呼ばれる“魔族”の一種だ。

 

ここは人間達の街の中にある酒場。当然、私が魔族だとバレれば無事ではいられない。

 

具体的には、中央都市から怖い騎士さん達がやってきて、私を捕らえようと包囲網を敷くことだろう。

 

それを撃退することも、逃げ出すことも……この世界に生まれたと同時に培った、魔族としての強靭な肉体や、自己研鑽によって編み出した魔術の数々があれば不可能ではないだろう。

 

だけど、私は追われ続ける生活も、野蛮な魔族達の中で騒がしい毎日を送るのも御免だ。マスターがいて、私に会いに来てくれる常連さんと、仲が悪い先輩と、可愛い後輩と。皆がいるこの場所が好きだ。

 

だから私は正体を隠す。気を抜けば頭から生えてきてしまう角も、先がハート型に尖った敏感な尻尾も、性を満たせば浮かび上がる淫紋も。

 

全てを隠し通して、ただの酒場の娘として過ごす。それが私がこの世界で生まれ変わり、選んだ人生だ。

 

「……そろそろ片付けるかぁ」

 

私は素肌に触る冷たい木の感触の誘惑を断ち切り立ち上がった。

 

『月夜のヒツジ亭』は、今日もひっそりと夜を明かす。

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