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マリアさん、もといマリアベルに差し向けられた銃口がマズルフラッシュを焚き、夜の暗闇を明るく照らす。
「メリリアさん!一旦建物の中に!」
「う、うん!」
私とシェリーラはすぐさま踵を返し、家の中へと退避した。
……その際に、地面に倒れたギルド長の死体が目に入り、きゅうっと胸が締め付けられる。
「……参りましたね。まさか第四位がここで出てくるとは……」
「……あの人、教会のシスターだったおばあちゃんだよね?なんで若返ってんの?」
マリアさんの背中から、白い翼が生えてきてマリアさんの体を包み込んだ次の瞬間に彼女は美女の姿に変身していた。そんな気軽に若返りされてしまうと、前世のクレオパトラ辺りがツタンカーメンを叩き割ってブチギレる事案が発生してしまうのだが。
「“変身魔法”でしょうね。自分の姿を別人に見せかけることができます。あの姿が変身“後”なのか“前”なのかはわかりませんが」
「でもおばあちゃんが銃とか扱えなくない……?」
「腕の筋肉が異様に発達した老婆なのでは」
それは……嫌だな。
想像しちゃうじゃん。そのロックな姿を。
「どちらにせよ、実力者であることは疑いようもありません。正面から戦いを挑んでも勝算は薄い……メリリアさん。あなたは戦いの際に何ができますか?」
「金玉を潰す」
「わかりました。逃げましょう」
そんな即決しなくても。
「彼女は私たちが建物の中に隠れているから、まだ仕掛けていません。しかし、時間をかければかけるほど不利になるのは私たちです。マリアベルが応援を呼ばないとは限りませんから」
「じゃあ、裏口からこっそり出る?」
「裏口なんてあるんですか?」
「ないけど、窓から出ればいいんじゃない?」
と、私は窓に近づいて鍵を開けた。
──パパパパパン!!
「おわぁ!?」
「当然マーク済みですね。この狭い家なら一人で四方をカバーできます」
「狭くて悪かったな!」
窓枠を撫でるように銃弾が飛んできて、私は尻餅を突いたことで事なきを得る。
どうやらマリアさんはこの家の玄関だけじゃなく、窓も含めたすべての出入り口を視界に収めているらしい。そして少しでも扉が開けばすぐに銃弾の雨だ。
「あっ、それだったらさ、窓とかドアをパカパカして無駄撃ちさせてさ!弾切れさせればいいんじゃない?」
「銃弾は“魔力”で作られています。“銃”の構造は魔法の杖と少し似ていて、使用者の魔力を銃弾形状に精製する機構を備えているんです」
「じゃあ、実弾じゃないってこと?」
「えぇ。以前メリリアさんが私が狙撃された時に「魔法か」と聞いてきましたが、あれは実は半分当たっていました。おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
……ということは。
「“魔力切れ”の線もナシ……?」
「彼女の魔力量はきっと膨大です。やるなら長期戦で、この家が朝までに崩落する覚悟をするべきですね」
「うーん、別にもうこの家に未練はないけど……」
朝まで、となるとやはり長期戦だ。そうなれば向こう側の戦力が増える可能性がある。
……長期戦は無理。家から出るのはリスクが大きい。正面から戦っても勝機は薄い。
なにか方法は……。
「……あ」
ふと、床を見るとそこに転がっていたのは。
いつかの時に手に入れた“コスプレセット”だった。
「シェリーラ!これ!これだよ!」
「……はい?まさか、また変装するつもりですか?料理人の格好をしていれば“なんだただの住み込みの料理人か”と疑われずに脱出できると?」
シェリーラは、ハァ……と溜息を吐いた。
「完璧な作戦です。それで行きましょう」
「行くわけねーだろ」
どうもこいつ、前回の大成功のせいで一般常識が狂ってしまった節があるな。
「一見隙がないように見えても、相手は所詮“一人”でしょ?」
一人の人間に“目”も“手”も二つずつしかない。
じゃあ、それ以上の数のものを狙わなければいけなくなったら?
「……なるほど。つまり」
そこまで言ってシェリーラも理解したのか、地面に落ちてたコスプレ衣装を拾い……窓枠に近づく。そして。
「ほっ」
投げた。
──パパパパパ!!
と、同時に蜂の巣にされるバニー服。セルフ逆バニー状態だ。
「そぉい!」
そして、バニー服がボロ切れになった瞬間私は反対側の窓から料理人の衣装を投げ出した。
「あっ」
あっ、じゃねぇよ。名残惜しそうな声を出すな。
少し遅れて、その衣装も銃弾の雨に晒される。
「ふんっ」
と、今度はシェリーラが玄関のドアを蹴破って家の中にあったパーティドレスをぶん投げた。そして細切れになる。
……ちなみに今のは、コスプレとかじゃなく、私が誕生日に、マスターから貰ったものだ。
うん。
別にいいけどね。どうせ持ってけないし。
……。
「ちっくしょおおおおおお!!!」
私は様々な感情がないまぜになって家の中にあった衣類を一気に窓から外に放り投げた。
そして反対側からはシェリーラは衣服に限らず、家具やら小物や寝室の棚の奥に仕舞ってたちょっとアレなグッズやらをポンポン外に投げていた。ってどうやって見つけたんだよソレ!!絶対見つからない場所に置いてあったはずなのに!!
服。家具。装飾品にア○ルトグッズ。魑魅魍魎がありとあらゆる窓やドアから飛び出していく。すごい勢いで排出されていくあらゆる種類の物品に、流石のマリアさんも対応しきれなくってきたらしく撃ち方が止まった。こんなくだらんものを撃つ気が失せただけのような気もする。
「よしっ!んじゃそろそろ服の中に紛れて脱出するよ!」
「改めて、イカれた作戦ですね」
うるせぇ!
最後に勝ちゃいいんだよ、勝ちゃあ。
「……ん?」
と、全身をナース服で固めて飛び出そうとした直後。
今度は逆に窓から何かが投げ込まれた。
手のひらサイズのそれは、レバーが付いた小さな卵形の鉄の塊であり、プシュゥゥ……という何かが燃えるような音が内部から……って!
「グレネードォォォ!!!」
叫ぶと同時に、その“爆弾”は炸裂した。
◆
──!!!
「ふぅ、この手に限るわね」
内部から爆炎を噴き出した小さな家屋を、マリアベルは遠巻きに見つめている。
「中の二人は死んだかしら?嫌なのよね。これで殺すと死体がぐちゃぐちゃになっちゃって」
マリアベルはふぅと溜息を吐いて、黒煙を上げる窓を見やった。
……すると、そこから“黒焦げ”の何かの塊が出てきた。
「……あら。生きてたの」
「……ぷっはぁ!危な!コスプレガードなかったら即死だったぁー!」
それは、様々な衣類に丸まって“蓑”を作ったメリリアだった。
「ふぅん。面白い方法で生き残るのね?まぁ、それでも……」
「いっ!?」
マリアベルは、出てきたメリリアの頭部に銃口を合わせた。
「ここで同じ運命を辿るのですけど」
「……見逃してもらえたりは……?」
「気をつけてくださいね?この銃弾は、魔族にとっては掠っただけで致命傷となり得ますので」
「聞く耳持たず!」
メリリアは銃口を避けるように咄嗟に飛び退き、距離を取った。
「無駄な足掻きを……あら?」
離れようとも、マリアベルの銃の腕は正確だ。十分射程距離内だと照準を合わせると……その照準からメリリアが“消えた”。
「……なるほど。“お仲間”がいたのね。理解し難いわ。私たちは人類のために最善の行動を取っているだけなのに……」
「それが“迷惑”だということに、いい加減気づいてください。マリアベル様」
カチャ、と背後から音がした瞬間マリアベルは跳んだ。
その股下を、銃弾が掠めるように飛んでいく。
「……シェリーラ。裏切り者がのこのこと、よく姿を現せたものね?」
「現せられなかったから、今まで逃げていたんですけどね……」
マリアベルを撃った下手人、シェリーラは……その手に“銃”を持っていた。
「“親友”を殺されかけたら、薄情な私でも流石に黙っていられませんでした」
「愚かだわ」
次の瞬間、二つの銃口から閃光が迸った。