「な、なんだオマエッ!?」
突然その場に乱入したカイトくんに、アッシュくん(?)が狼狽する。
私も同じ感想だ。マジで何者……?
「俺は新人冒険者だよ」
お前のような新人がいるか。
「ってわけでメリリアちゃん!ここは俺がなんとかしとくから!早く逃げちゃって!」
「……いいの?本当に行くからね!?」
「いいって!そのために来たんだから!」
私はもにょもにょと口を動かしながらも、カイト君の背中から“強い人特有のオーラ”みたいなものを感じ取って、素直に従うことにした。
いや、ドラゴンボールの世界の住人でもないしそんな見ただけで強さとかわからないけどね?なんかそれっぽい雰囲気があるのだ。
「……わかった!ありがとう!!」
「今度会えたら結婚してよ!!」
「会えたらね!!」
「メリリア!こっちよ!」
私はカイト君にそう返して、先導するアズ先輩の後を追った。
「いろんな知り合いがいるのね?あなた」
「まさか駆け付けてくれるとは思わなかったけどね……」
でも確かにカイト君。彼は謎の存在だ。今見せた強さと言い昨日のギルド長との謎の密談と言い……そういえば、今思えばあの二人は多分シェリーラの協力者だったんだよね?今回の脱走の計画にはレオン以外にも協力者がいたって話をしてた気がする。当の私は全然知らなかったわけだけど。
……だけど秘密裏に進められた今回の脱走を、“聖天騎士”はまるで予知してたみたいに襲ってきた。計画を知ってたとしか思えない。
「……」
……そういえば。
ギルド長が死んだ時。
なんでシェリーラはすぐに襲撃に対応できたんだろう。
私は動けなかった。目の前でそこまで親しい仲ではなかったとはいえ、知人が急に殺されたんだから。なのにシェリーラは、私よりギルド長と仲が深いはずなのに全く動揺してなかった。単に肝が据わってるだけ?
それに、シェリーラの言ってた限りではマスターは私の敵って話だった。だけど実際にはマスターは敵じゃなくて、私を逃がしてくれた。
……私を誘導しようとした?
「……」
そうじゃないって、そう思っていいんだよね?
シェリーラ。
……
…………。
「メリリア。この先に馬車が停めてあるわ。御者には信頼できる人を選んである。その人に隣町まで連れて行ってもらいなさい」
「気をつけてくださいね。メリリア先輩」
街の外れ。エンディの外周に辿り着くと、二人は立ち止まった。
「うん……二人は?」
「私たちはここまでよ」
と言って、アズ先輩はふっと笑った。
「あなたに関わるとロクな目に遭わないもの。離れられてスッキリするわ」
「メリリア先輩、アズ先輩はこう言ってますが、落ち着いたら必ず会いに行きますね。必ずです。アズ先輩が言い出したことなので」
「ちょっ、マシロ余計なこと言わないで!…….って、きゃっ!?」
「メリリア先輩!?」
私はその場で言い合う二人に、両腕を回して抱きついた。
「ありがとう。大好きだよ、二人とも」
「……メリリア先輩」
「……こんな小っ恥ずかしいことよく出来るわね」
「マスターにも同じこと言っといて?」
「了解しました」
私たち三人は、その場でぎゅっと抱き合った。
……しばらくして私は離れると、二人の手を握って言う。
「……んじゃ、行ってくるわ!」
◆
「……あれ?アグロさん?」
「来たか、メリリアちゃん。詳しい事情は知らんが、隣町まで行くんだろ?連れてってやるぜ」
二人の言う通り、街の外には馬車が停めてあった。そして御者台に乗っているのは……なんと、アグロさん。いつものパンクな服装ではなく、普通の村民が着るような服だ。一瞬、誰かわからなかった。
「えっ、待って?アグロさんって内通者じゃなかったの?」
「内通者ぁ?何の話だ?」
「……あれー」
「俺は日頃から“ヒツジ亭”のマスターにゃ世話になっててな。これはその恩返しみたいなもんだよ。いやー、まさかメリリアちゃんがあそこで働いてたとは!気づかなかったぜ」
……おかしい。聞いてた話と違う。
シェリーラは嘘を言ってたのか?いや、でもマスターが“聖天騎士”っぽかったのは本当だ。まるっきり嘘ってわけじゃない。というかそもそもアグロさんの件はあくまで推測って感じだったし……単に間違えただけ?
「メリリアちゃん、やばい状況なんだろ?早く乗りな!」
「あっ、はい」
……アグロさんに嘘をついてるような様子はない。やっぱりいい人?アズ先輩も信頼できる人って言ってたし……。
……ダメだ。また何も信じられなくなってきた。
「……ん?誰か来たぞ」
「え?」
私が首を捻りながらも馬車に乗り込もうとすると……アグロさんが私の後ろを指差して言った。振り向くと、夜の闇から……確かに誰かがこちらに歩いてきている。
「……レオン」
それは、レオンだった。
「……メリリア」
「……無事だったんだね」
「あぁ」
レオンは、静かにそれだけ言ってその場から動こうとしなかった。
「……早く乗って!レオンも一緒に行くんでしょ!?」
私は馬車から降りると、レオンに近づいてその手を取ろうとした。
今日は色々あったが、今は状況が状況だ。細かいことを気にしている場合じゃない。
「いや、ダメだ」
「……え?」
だけどレオンは、私の手を拒絶した。
「……なんで?さっきのことのことなら、私が悪かったから。ごめん。いきなり怒って」
「いや、それとは関係ない。あれは……俺が不用意なことを言ったせいだ」
「じゃ、なんで……」
「俺に、メリリアと一緒に行く資格がないからだ」
……ダメだな。話が見えてこない。そもそもレオンは今までどこにいたんだろう?
“聖天騎士”に狙われなかったのかな。
「資格なんて必要ないでしょ?就職でもあるまいし……ほら、乗って?時間ないよ?」
「いやダメだ。メリリア、君は一人で行くんだ」
「一人って……私とレオンと、シェリーラ。三人で逃げるんでしょ?そういう話だって聞いたよ?」
シェリーラ。私がその言葉を言った途端。
レオンの眦が、見たことないほどに吊り上がった。
「……メリリア。ダメなんだよ。俺もシェリーラも、君と一緒にいる資格はないんだ」
「……シェリーラも、って……なんで……」
私がそう問いかけると、レオンは後ろを振り向いた。
「……いい加減、隠れてないで出てきたらどうだ。シェリーラ」
「……へ?」
レオンは背後の夜の闇……何もない場所に向けてそう言った。
「出てこないなら、出てこなければいけない状況にするだけだ」
そう言って、レオンは腰のショートソードを抜いた。
何をする気なのか、と私は不安げに様子を見ていると……。
「……え」
目の前に、一瞬で剣の刀身が近づいた。
──キィン!!
「うわっ!?」
目前で火花が散り、私は思わず目を覆った。
「……え?」
そして目を開けた瞬間、飛び込んできた光景は。
「……なんの真似ですか。レオンさん」
「俺のセリフだ。それは」
レオンとシェリーラが、お互いに武器を持って鍔迫り合いをしている光景だった。