TSサキュバスの酒場娘【ダイジェスト版】   作:ぷに凝

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“兎の眷属”

「はぁ〜……」

「どうした、メリリア」

「これから行くとこを考えて憂鬱になってます……」

 

ある日の朝。

 

私はレオンと一緒に、足取り重く“あの場所”へと向かっていた。

 

風俗街……ではなく、冒険者ギルドです。

 

「無理をする必要はない。金なら俺が……」

「いや、いいの。私がやりたいって言い出したことだし」

 

……ぶっちゃけ、最近私の収入よりもレオンの稼ぎの方が大きくなってきてて危機感を抱いてる所存だ。

 

冒険者って儲からないはずなのに、一体どうやってそんなに稼いでるのかと聞いたら「一日に割のいい依頼をいくつもこなしてるから」と来た。

それは、何かね。仕事がない日は風俗街でキャッキャしてる私に対する当てつけかね。

 

ってかコイツ、家事も仕事もできておまけにフードを外せばなかなかの男前と来た。もし顔を隠してなければかなりモテそうな気配がある。

 

レオンがモテたところで、すでに女の身である私からしたらどうでもいいんだけど……例えば、レオンに好きな女が出来て一緒に住みたいとか言い出されたら困るわけだ。家主としての威厳を失いかけてる私からしたら断りづらい。

 

だからこそ、私がここで一発ガツンと稼いでレオンにふんぞり返って命令を下せる地位を取り戻さなくてはいけないのだ。

 

というわけで、やってきました冒険者ギルド。

 

「くっそー。今日はシケた依頼(クエスト)しかなかったなぁ……」

「早くたくさん人間をぶっ殺せる依頼がやりてぇなぁ」

 

うーん。

 

相変わらずここの周りだけ世紀末なんよな。

 

区画の外に出れば割と普通の光景なのに、一歩こちらに入れば途端にトサカ頭とパンク服だ。RPGのエリア移動じゃないんだから。

 

「ねぇレオ……フェン。今日ってあれやるんだよね?」

「あぁ、“徒党(パーティ)”登録だ。以前は時間ギリギリになってしまったからな」

「あの行き遅れ中抜き野郎のせいでね」

 

徒党(パーティ)”はギルドで正式に受理されて初めて成立する。私とレオンは仲良しなのでパーティで〜すって言っても大学のサークルより説得力がないわけだ。

なので今日はギルドで徒党登録を済ませなきゃいけないのだが……それには当然、窓口係の受付嬢の顔を見ることになるわけで。

 

「私の足を重くする最大の元凶め……」

 

思い出しただけでムカついてきた。今日もあの憎まれ口を聞くことになるのか……。

 

「……シェリーラは、非冒険者専用の窓口だ。今日は彼女と話す機会は少ないと思うぞ」

「お!マジ?ラッキー!」

 

な〜んだなんだ。それならいいんだよ。

 

ちょっと気が楽になってきた。勝ったなガハハ。

 

 

 

「こんにちは」

「……」

「わかりやすく嫌そうな顔をしますね。私も同じ気持ちです」

 

……とか思ってたら最初にエンカウントしちゃった。やる気−5億。

 

ギルドに入ると、ちょうどシェーなんとかさんは入り口近くの調度品を清掃している所だったらしく、手にはたきを持って三角頭巾を被ったわかりやすい清掃員の格好で、あの憎たらしい無表情を向けてきている。

 

ってか掃除とかも役員の仕事なの?意外と大変そうですね。それとも花嫁修行かな。

 

「花嫁修行などではなく、ただのギルド役員の業務ですが」

「心読むなや!!」

 

心の中で吐いた悪態に皮肉を返されて私は逆ギレした。

 

独身だからって読心スキルを有するなよ、お前。

 

「心を読まずとも、貴方みたいな単純な思考回路の人は顔を見れば何を考えているかわかります。スキルなんて持っていませんよ」

「……」

「ならば何も考えないようにする。それにどんな意味があるんですか?」

「私やっぱお前嫌いだわ!!」

 

こいつ受付嬢のクセに愛想が悪すぎるぞ……!!

 

それとも、私だけに対してこんな態度なの?その特別待遇、全然嬉しくないんだよな。

 

「……メリリア。目的を忘れるな」

「だって……だってこいつが……っ!」

「そうですよ。“徒党”の登録に来たんでしょう?早く済ませてしまった方がいいですよ。これから混むので」

「てめ……ッ!!くぅ……!!」

 

味方であるはずのレオンにすら正論で殴られ、私は歯を食いしばって血涙を流した。

 

レオンの憐れむような目とシェリーラの無感情な瞳に挟まれて、もうこのまま死んでしまいたい気持ちになる。

 

前門の行き遅れ後門の獣人族(ビースト)だ。

 

「おやおや、どうしたんだい。シェリーラ君」

 

そんな風に入り口でわちゃわちゃしていたからだろうか。

 

建物の奥……恐らく事務室に当たる部屋から一人の男性が出て来て私たちの会話に混ざって来た。しっかりとスーツを着こなして、物腰が柔らかそうな男性だ。髪には僅かに白髪が混じり、初老の紳士という印象を感じる。

 

誰だろ?このおっさん。

 

「ギルド長……申し訳ありません。業務中に」

「いやいや、いいんだよ。役員と冒険者が仲を深めることは、私としても喜ばしいことだからね。ははは」

 

なんと、ギルド長だった。

 

それがどれくらい偉い役職なのかは知らないけど、“長”って付いてるんだからかなり偉いんだろう。多分このギルドのトップかな?

朗らかに笑うその姿からは高い立場の人間が持つ特有の気品みたいなものが感じられる。この世紀末みたいな雰囲気の冒険者ギルドのトップにしてはすごくしっかりした人っぽい。

 

「というわけで、私とも仲を深めようじゃないかシェリーラ君。今夜にでも」

「嫌です」

 

全然だったわ。

 

バリバリ部下にセクハラしとるやんけ。

 

「おや……そちらのお嬢さんは?」

「メリリアさんです。新人冒険者の」

「今夜どうだね?」

「嫌です」

 

見境なしかい。

 

「……ギルド長。奥様に知られるとまずいのでは?」

「おっと」

 

しかも妻帯者。全部ダメじゃん。

 

……なんかこのギルドが荒れ放題な理由がわかった気がするね。トップがダメだと組織は全体的に腐敗するもんだよ。

 

「さて、気さくな挨拶も済んだところで本題に入ろうか。シェリーラ君」

「挨拶の段階でこれ以上話したくなくなりましたが」

「ははは、手厳しいね」

 

僅かに表情に疲れを見せたシェリーラに、ギルド長はいっそ清々しいまでに爽やかな笑顔を向けている。

 

……初めてあんたに同情したよ。シェリーラ。

 

「シェリーラ君。実は君に本部の方から召集がかかっていてね」

「……本部ですか?」

「あぁ。ギルド本部だ。こんなことはあまりないのだが、緊急とのことでね……すまないが、身支度をしてもらえると助かる」

「……」

「嫌なら私の家に逃げ込んでも」

「では、荷物を整理して来ます」

 

ギルド長のセクハラを躱し、シェリーラはすたすたと建物の奥へと入っていく。

 

話を聞くになんか偉い人に呼ばれた感じなのかな。まぁ、あの性格だからね。なんか上の人間の気に障るようなことやらかしていたとしても不思議じゃない。ふっ、存分に怒られてくるといいよ。

 

「……さて、メリリア君だったかな?私の用事は終わったが、“徒党(パーティ)登録”がしたいという話だったね。どれ、未来ある新人君のためだ。私が直々に手続きをしてあげようじゃないか」

「え……いいんですか?」

「構わないよ。それにフェン君は我がギルド始まって以来、前例のないスピードで成果を上げて来ている期待の新人からね。それがこんな可憐なお嬢さんと一緒になると言うのであれば、ちょっかいを出したいのが年寄りというものだよ」

 

一緒になるってなんやねん。結婚でもすんのか私たち。

私はともかくレオンが嫌でしょそんなの。

 

「……ギルド長。すみませんが、メリリアのことは」

「あぁ、わかっているとも。私の方で彼女に手を出す者がいないか目を光らせておこう。フェン君のお気に入りのようだからね」

「助かります」

 

……なんか、すごい過保護な感じの話されてない?

 

別に大丈夫なんだけどなぁ。私そこそこ強いし。正直相手が男なら負けなしよ?

 

「ではメリリア君……奥へ、行こうか?」

 

……今んとこ、一番危険なのはこのセクハラジジイなんだけど。

 

 

 

「うん。これで書類は全部だよ」

 

ギルド長に連れられて入ったのは、寝室……では流石に無く、普通に応接室っぽい部屋だった。机の上には数枚の書類が並び、これが“徒党(パーティ)”の登録に必要なものらしい。

 

書類と言ってもそんな難しいものじゃない。そもそも文字が書ける人がこの世界そこまで多くないし、必要になる個人情報は名前と冒険者ランクくらい。冒険者の中には定住者すら少ないからね、住所とか所帯とか書ける人のが少ない。

 

私が前世含めて今まで処理してきた書類に比べれば、こんなもん園児の自己紹介カードみたいなもんだ。実際それくらいの知識量でも問題ないしね。

 

私はすらすらと隣に座るレオンの分も含め書類の空欄を埋めていく。意外でもないかもしれないが、レオンは文字が書けない。文章を読むにも少し時間をかける。そこんとこは私がばっちりサポートしてあげて、恩を売っていきたい所存だ。

 

ほとんどの欄はよどみなく埋められたが……ある項目に行き着いた時、私の筆が止まった。

 

「“徒党(パーティ)名”かぁ……」

 

徒党(パーティ)”というものには、当然名前が付く。名前がないなら、徒党なんて無いのと同じだ。そして名前を考えるのは、(レオンの推薦により)徒党のリーダーとなる私の役目だった。

 

しかしだね。

 

「……どーしよこれ」

「名前か」

「うん……」

 

お世辞にも私のネーミングセンスは良いとは言えない。今はオセロットと呼ばれてるヒツジ亭の愛猫を「どすこい丸」と名付けようとしたのも記憶に新しい。私にそれらしい名付けなんて出来るはずもないのだ。

 

「レ……フェン、なんかいい案ある?」

「……すまない。こういうのは俺も苦手だ」

「だよね〜」

 

レオンにもいい案は浮かばず、と。私もレオンも、結構特殊な身の上だからね。こういう“普通の感性”を求められる仕事はとことん苦手だ。

思えばレオンも私も純粋な人間じゃないんだよなぁ。私に至っては夜の眷属であるところの“淫魔”だし。

 

「……ふむ」

 

……“夜の眷属”って響き、今思ったけどなんかいいな。かっこいいかもしれん。名前これにするか。

そのまま夜の眷属……だとなんかエッチな感じの響きになっちゃうな。しかも私の正体に直球すぎるし。もうちょっとオシャレな感じにしたいよね。

 

夜……星……月……餅つき……ウサギ……?

 

……これにすっか。

 

「……“兎の眷属”か。素敵な名前だね」

「はい。ありがとうございます」

 

“兎の眷属”。

それが熟考(約5秒)の末、私が考えついた徒党名だった。

 

我ながら意味不明のネーミングだ。別に兎でも眷属でもないのに。

でもそれが逆にいいんじゃないかな?可愛いしね、兎。私は割と気に入った。

 

「とても淫靡な雰囲気が感じられて、高まってしまうね」

 

なんでやねん。

 

どんな思考回路してんだこの精○スプリンクラーは。

 

「では、これからよろしく頼むよ。“兎の眷属”のメリリア君、そしてフェン君。君たちにはギルド長としての立場だけでなく……個人的にも大いに期待している。頑張ってくれたまえ」

「……はい、よろしくお願いします」

「期待には応える」

 

ギルド長はそう言って、とても穏やかな笑みを浮かべた。

 

いやホント……この顔でセクハラと労いを同時にしてくるからこっちの思考回路がバグりそうになるんだけど。

 

こっちが本当の顔なんだと信じたい。

 

「……ところでメリリア君。この町で冒険者として働くなら、私と仲良くしておいて損はないと思うのだが」

「嫌です」

 

……こんなのしかいねぇのか冒険者ギルドってのは!

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