元鬼殺隊星柱・星野アイ   作:真ゲッター月姫

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 推しの子二期が楽しみすぎるので初投稿です。




元鬼殺隊星柱・星野アイ

 

 愛とは何か。『愛してる』という言葉には何が込められているのか。

 星野アイには愛がわからない。愛を理解できない。

 

 故に彼女は答えを探し続けている。答えを求め、闇夜を駆ける。

 

「――――ねぇ、『愛』ってなに?」

 

 鬼退治の第一声。この問い掛けこそが彼女のルーチンワークだった。

 

 今宵、相対する鬼の答えは――――

 

「グゥ、グルルルッ! 肉!! 肉喰わせろォッ!」

「肉かー、私もお肉好きだよ。美味しいもんね。でもさ」

 

 ひらり、ひらり。舞い踊るような動きを見せるアイに、鬼の攻撃は届かない。

 星には決して手が届かぬように。

 

「この好きは愛? 牛も豚も鳥も、私は『愛してる』って言えるのかな?」

「グガァァァ!! お前ェェェェ肉ゥゥゥゥゥゥ!!」

「ありゃ、もうダメか」

 

 アイは日輪刀をすらりと抜き放つ。月明かりを反射して、刀身は一瞬白く輝いた。

 

「星の呼吸、弐ノ型――――」

 

 上下から抉るような軌跡を描き、鬼の頸に吸い寄せられる刃。衝撃に耐えきれぬとばかりに鬼の頸が千切れ飛ぶ。

 

 答えは、今夜も見つからなかった。

 

「愛、愛かぁ…………今日もよくわからなかったなー」

 

 愛してる。口の中で音を転がしてみるが、やはり何の感慨も湧かない。

 

 昔、母はよく言ってくれた。愛してると。

 だが、母は。その母親は。

 高々、鬼になったぐらいでアイを喰い殺そうとした。

 わからない。わからない。母の言葉がわからない。『愛してる』って、『愛』って、なんだろう。

 ――――あの言葉は嘘だったの?

 

「ねぇ、君はどう思う?」

 

 鬼からの返答はない。

 おや、と後ろを振り向けば、潰れた衣の下で灰がさらさら風に流れるのが見えた。

 

「あ、そっか。私が頸を斬り落としたんだっけ? いやー、うっかりうっかり」

 

 握り締めたままだった日輪刀。その存在にたった今気づいたと言わんばかりにアイは納刀する。

 夜空に似た深い藍色に煌めきが点在する、星空の如き刀身。刻まれた『悪鬼滅殺』の四文字がするすると鞘に吸い込まれていく。

 

「それじゃ、次に行こっか。おーい、カラスくーん!」

「カァ! カァ! オ疲レ様、アイ! デモ僕ノ名前、カラス君違ウ! イイ加減覚エテ!」

「あれ? そうだっけ? じゃあガラス君?」

「全然違ウ!!」

「えー、ならシラス君でいっか。ほらほら、次の任務に案内してよ」

「カァ! 全然良クナイ! ソロソロ僕ノ名前覚エテホシイ!! 次ノ任務地ハ、ココカラ北北西!!」

「北北西だね、ありがとうナマス君」

「ダカラ! 違ウッテバ!」

 

 ぎゃあぎゃあ騒ぐ一人と一羽の声が、夜の森に響き渡る。

 

 鬼殺隊所属、星野アイ。愛を知らず、愛を求める少女。

 愛を知るため鬼を狩り続けるうちに、彼女はいつの間にか鬼殺隊の者から『星柱』と呼ばれるようになっていた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 星野アイはふと、そんな夢を見た。

 いや、夢ではなく、走馬灯か。でも、なんで、走馬灯なんか――――――ああ、そうだ。

 自分は刺されたのだ。アイドル・アイのファンであるリョースケ君に。

 

 自分自身のことなのに、どこか現実感がない。現実味のない、そんな記憶。降って湧いた――――いや、思い出したとでも言うべきか。これは恐らくそう、『前世の記憶』だ。

 そういえば、同じ名前なんだなー、とか。結局カラス君の名前なんだったっけ、とか。

 他に優先すべきことはいくらでもあるのに、つい、つらつらと余計なことばかり考えてしまう。

 早く。そう、早く思考を戻さないと。

 

 ――――これはマズいかな。

 

 己の腹に深々と突き刺さった白刃。ナイフが結構ヤバいところに突き刺さった感覚があった。傷口が深い。腹部からの出血が激しい。

 鬼を狩っていた時だって、最期まで怪我らしい怪我を負ったことはなかったけど。これがかなりマズい状況だということはすぐにわかる。

 

 幸いなことに、下手人は既に現場から立ち去ったので、再び刺される心配はなさそうだ。だが、それで今ある傷が治るわけではない。

 何とかしないと()()()()()()()()

 

 胸の中にアクアがいる。必死になってアイの傷口を圧えてくれている。

 扉の向こうにルビーがいる。アイを求め泣きじゃくる声が聞こえてくる。

 

 なんだろう。胸の奥から込み上げる衝動がある。

 これは、この感情は。

 

「愛してる」

 

 ぽろ、と。己の口から溢れた五つの音を認識して、アイは目を丸くした。

 それは、今まで見つけられなかったもの。前世も、今生も。ずっと探し続けていたのに。

 ああ。なんだ、答えはこんなに近くにあったんだ。

 

「アイ…………! アイ!!」

 

 胸元からアクアの悲痛な声が聞こえてくる。

 死にたくない。まだ、死ねない。

 

 呼吸はまだできる。想定よりも肺は大きく頑丈なようだ。身体もかなり仕上がっている。

 あるいは、無意識のうちに前世を意識した訓練でもしていたのか。記憶はなかったが、アイドルとしてのレッスンやトレーニングがいい方向に働いてくれている。

 これならば、まだ手はある。

 

 全集中の呼吸。

 それは鬼殺隊の奥義。鬼と戦うために生み出された、人並み外れた身体能力を得る戦闘術。ここに活路がある。

 

 できるはずだ、思い出せ。前世の自分(アイ)の呼吸を。

 

 息を吸う。息を吐く。ただそれだけでアイの身体は悲鳴を上げる。

 でも止めない。止めてはいけない。

 まずは、身体中の血流を掌握しなければ。

 

 あとは、傷口周辺の出血を抑えて、周りの筋肉をコントロールして傷口を塞いで。

 ずっと話には聞いていたことを実践する。

 これキツイなぁ。みんないつもこんなことやってたのか。――――なんて、弱音は噛み殺す。

 鬼狩り・アイはほとんど怪我なんてしなかったから。呼吸による止血は、ほぼ無縁だった技術だ。いや、でも最期に多少は試していたかな。…………死に際のことはまだよく思い出せないけど。

 

「ア、イ…………?」

 

 傷口の変化に気づいたのだろうか。アクアから戸惑いが伝わってくる。

 

 アクアに『大丈夫だよ』と言ってあげたい。でも、今は無理だ。呼吸に集中しなければ、容易に命を落としてしまう。己は未だ、死の淵にいるのだから。

 

 まだ死ねない。死にたくない。やっと理由が見つかった。

 この愛は嘘じゃない。

 二人のために生きたい。

 

 だから、絶対に、

 

「――――救急隊です!」

「あっ…………」

「早く、こっちです!」

 

 近づいてくる気配と足音。アクアが呼んだ救急隊員が駆けつけてきた。――――間に合ったのだ。

 

 応急処置を施され、ストレッチャーに載せられ、ようやくアイは己の運命が変わったことを悟った。

 

 

 

 

 

 

 最寄りの病院に救急搬送されたアイは、その後も驚異的な回復力を見せた。

 全集中の呼吸と現代の医療技術との合わせ技のおかげだが、当然そんなことは誰にもわからない。

 

 常識ではありえない回復速度に医者は揃って己の目を疑っていたし、『普通ならとっくに死んでる』『動く死体』『なんでまだ死んでないの?』『大丈夫、致命傷だ(ガチ)』等々、関係者からは散々な言われっぷりだった。

 

 素直に生還したことを喜んでくれてもいいのにな。

 そう思ったが、確かにアイ自身も非常識なことを行った自覚があるので、ここは大人しく口を噤んだ。

 

 全集中の呼吸を行わなければ、間違いなく本当に死んでいた。

 ギリギリだったが――――前世の記憶が戻って本当に良かった。

 

 そんなわけで、死に体だったアイの身体は僅か一週間の入院生活でピンピンになった。もう元気いっぱい。何なら『呼吸』を思い出したおかげで以前より動けるまである。

 今ならやりそこねたドームライブだって完璧にできるはず――――!

 

「一週間で退院するとかアホ言ってんじゃねぇよこのクソアイドル!!」

 

 伝えるや否や、アイは社長に雷を落とされた。解せぬ。

 

「えー、でももう治ってるんだから、これ以上入院するのお金もったいないよね?」

「いやだからなんで治ってんだよ。重体だったろ、生死の境を彷徨ってただろ。何なら最悪の事態を想像して手の震えが治まらなかったんだぞこっちは」

「んー? 日頃の行い? 前世で鬼退治頑張ったおかげ?」

「またわけのわからないことを………………まあ、治ってくれて本当に良かったが」

「あれ、佐藤社長ツンデレ?」

「斎藤だ! いい加減覚えろ!!」

 

 懐かしく感じて、アイは思わず笑ってしまう。そういえば、カラス君とも似たようなやり取りをしていたっけ。

 

「とにかく! わけわからん治り方してるから少なくともあと一週間は入院しとけ! 医者からもそう言われてるから!」

「えー! ぶーぶー!」

「文句言うな! ほら連れてきてやったんだから」

「連れてきたって…………?」

 

 くいっと社長が指差す方を見れば、社長夫人であるミヤコ。と、その足下に小さな影が二つ。

 アクアとルビー。二度目の人生でようやく見つけた、大切な宝物。

 

「個室とはいえ、ここは『外』だからな。人の耳目には気をつけろよ」

「うん………………うん…………!」

 

 空気を読んでか、社長夫妻は席を外してくれた。

 だから、広い個室にはアイと双子の三人だけ。(主に医者が)バタバタしていたせいで、一週間ぶりの再会だった。

 

「アクア、ルビー、おいで」

 

 アイが呼ぶと、おずおずとベッドに近づいてくる二人。

 

「もう怪我は大丈夫なの?」

「うん、元気元気! もう完全に治ってるのに、無理やりベッドに寝かされてるだけだよー」

「そうなんだ、よかった!」

「信じられない…………」

 

 ほっとしたように笑顔を見せるルビーの横で、アクアは暗い表情でふるふると首を振っていた。

 

 扉一枚隔てていたルビーと違い、全ての状況を見ていた分、アクアには信じ難いのだろう。きっとアクアは覚えているのだ。抑えても抑えても溢れ続ける、アイの大量の血液を。

 

「ホントだよー、だって」

 

 全集中の呼吸で傷を塞いだから。

 言いかけて、声が喉の奥に詰まる。

 

 これは、言ってもいいのだろうか。言っても、信じてもらえるのだろうか。――――もし、信じてもらえなかったら。

 鬱屈したナニカが言葉を喉の奥に押し留めてしまう。まるで、暗い感情が全身に纏わりつくような。そんな息苦しさ。

 

 どうすればいいのかもわからなくなって、アイは愛し子の顔を覗き込んだ。

 双子の瞳に、己の顔が映り込んでいる。

 

 ――――また(あい)を吐くの?

 

「……………………うん、そうだね」

 

 二人に隠し事はしたくない。そう思った。

 もちろん仕事のことは守秘義務で言えないし、嘘だらけの自分は、そう簡単に変えられるものではないけれど。

 でも、せめて自分自身のことだけは、きちんと伝えられるようになりたかった。

 例え、ただの自己満足に終わろうとも、二人には真実を話そう。

 

 殊更に明るい声色を作って、アイは双子に問う。

 

 ――――前世の存在って、信じられる?

 

「えっ――――――?」

「ママ…………アイさんが別人だったってこと?」

 

 外だということを思い出したのか、取ってつけたように呼び方を変えるルビー。大声でなければ、そこまで問題はないのに、律儀だ。よく出来た子だ。

 

「んー…………なんて言えばいいんだろ…………私は私のまま、だったんだけど、生まれも時代も違ったし…………別人なのかな……?」

 

「お兄ちゃん、ママが何言ってるかわかる?」

「いや、まだ何とも…………俺たちと事情が違うのは何となくわかるが」

 

 こそこそと小声で喋る双子。

 全部聞こえてるんだけどなー。もう親に秘密ができる頃かー。少し寂しいアイだった。

 

「はい! 質問!」

「なぁに、ルビー?」

「前世の名前は?」

「今と同じだよ? 星野アイ」

「なら、前世で生きていた年代は?」

「明治から大正にかけてだったかな」

「見た目は?」

「鏡を見る機会は少なかったけど、多分今とほとんど一緒だったと思うよ」

 

 『生まれ変わり』というよりも、あえて表現するならこれは『生まれ直し』だろうか。

 

「記憶とか全然なかったんだけどね、こないだリョースケ君に刺された時に前世の記憶がフラッシュバックしてね」

 

「走馬灯で前世の記憶を思い出したってことか」

「そんなことあるの?」

「そもそも前世の記憶があること自体がイレギュラーだろうし、アイが言うんならそうなんだろ」

 

 子供たちは思いの外すんなり信じてくれたようだった。子供だからかな。その純粋さが羨ましい。

 

 でも、

 

「今まで思い出さなかったのになんで――――」

 

 傷があった腹に視線を落とす。

 全集中の呼吸を思い出さなければ、間違いなく致命傷になっていただろう傷。――――前世と同じ。

 

 ああ、そうか、そうだったのか。だから、思い出したんだ。

 だって、ここは、

 

「前世で刺されたのと同じ場所だったから」

「…………アイ?」

「ママ、大丈夫? 顔色悪いよ…………?」

「…………うん、大丈夫」

 

 二人を抱き締める。

 

「今から信じられないこと言うね? 私、前世は鬼狩りだったの。それで『鬼』っていう悪い生き物と戦ってた」

「お、鬼?」

「桃太郎とかに出てくる?」

「実物はもっと残忍でグロテスクだったけどねー。それでね、前世の記憶を思い出したのは――――多分、刺された場所が前世の致命傷と同じだったから」

 

 最期の記憶は、鬼の首魁との戦い。

 鬼殺隊と鬼との全面対決。

 たまたま親玉の近くにいたから戦って。ソイツ専用の特効薬を打ち込む手助けをして。

 ドでかい風穴を開けられた。呼吸で傷口を塞げるといっても限度がある。そりゃあ内臓ごと胴体を抉られていれば普通に死ぬというものだ。

 

 その後の記憶はない。た、たま…………たまさん? の薬は効果があったのだろうか。他のみんなは鬼の親玉の元に辿り着いたのだろうか。

 

 結局、彼らは――――鬼殺隊は鬼を倒せたのだろうか。

 

 わからない。アイには何もわからない。そもそも判断材料がない。

 昔も鬼の存在は伏せられていたから。きっと、現代に鬼が生き残っているとしても、隠されているだろう。

 

 鬼を全て倒せていたら、もっと大変だ。いないことを証明しないといけない。

 ないことを証明するのはすごく難しいのではなかっただろうか。何だっけ…………確か、そう、悪魔の証明だったか。

 

 今のアイでは、アクアとルビーが鬼に襲われないという確たる証拠は得られない。

 思わず、二人を抱き締める力が強くなる。

 

「アイ」

「ママ」

 

 前世でアイが鬼殺隊に所属していたのは、『愛』が知りたかったから。

 鬼に愛を訊ねていれば――――そうすればいつか母の愛がわかると思っていたから。だから、アイは鬼と対峙し続けていた。

 鬼殺隊の面々はどいつもこいつも鬼への復讐心や義侠に駆られる者が多かったから、その中でアイの存在は随分と浮いていたことだろう。

 一般人を守るのは義務だったから。それが普通だったから。守りたいなんて、思ったことはなかった。

 

 でも、今は違う。

 守りたい。心の底からそう思う。守らなくちゃいけない。愛しているから。失うことに耐えられない。

 

「――――守るから。二人のことは絶対に」

 

 この日、アイの二度目の人生は、本当の意味で始まったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 退院後。

 いつかどこかの星野家にて。

 

「よし、とりあえず二人とも肺を強化しよっか? えーっと、修行は…………多分、水桶五分耐久とかからかな?」

「えっ、ママ?」

「ちょっ、多分って」

「それじゃ、修行スタート!」

「待っ――――――あぶぶぶぶ!?」

「いきなり五分は無――――――ブクブク…………」

 

「アイドルも役者も体力勝負だからねー。現代に鬼がいるかわからないけど、『全集中の呼吸』を覚えといて損はないはず!」

 

 そんな地獄のような修行が行われることを、双子はまだ知らない。

 

 

 

 





☆星野アイプロデュース・星の呼吸一覧☆

壱ノ型 一番星(いちばんぼし)
弐ノ型 ■角■■(角っぽい奴)
参ノ型 双つ鋏(ふたつばさみ)
肆ノ型 ■■の■■(意味よくわかんない奴)
伍ノ型 砂■■(砂っぽい奴)
陸ノ型 ■射ち(何とか射ち)
漆ノ型 天■■■■(何か名前長い奴)
捌ノ型 流星群(りゅうせいぐん)



 続きはアイちゃんが自分の呼吸の技名を忘れてしまったのでありません。
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