元鬼殺隊星柱・星野アイ   作:真ゲッター月姫

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 ハーメルン十一周年記念日なので初投稿です。

 てか自分十一年もここ使ってたのか(驚愕)



 あ、途中にシリアス君っぽいのがいますが、割りとすぐログアウトするのでどうぞ安心して最後までお進みください。

【7/15 20:37 追記】
 投稿時、一個前のデータを入れていたので編集済みです。ゴメンネ



転生者✕転生者✕転生者

 

 アイがその兄妹に初めて出会ったのは、柱合会議でのことだった。

 

 柱合会議とは読んで字の如く柱たちが集合して行う会議である。議題はその時によって様々だが、主に鬼殺隊の近況や鬼の討伐記録について話し合っていた。ちなみに結構ダルい。か、かん……甘露煮のみっちゃんとお話できるのが少し楽しいかなーくらい。

 

 だから、本当は出席する予定はなかったのだ。――――今のアイに、その資格はないから。

 

 人喰い鬼を狩る組織・鬼殺隊。実力と成果に応じていくつかの階級に分かれているが、その最上位に位置するのが『柱』と呼ばれる者たちだ。

 柱の名を関する者はその画数に因んで九人。当時の柱はアイを含めて九人全員揃っていた。

 そんな中、近々新たな柱・霞柱が就任するらしいと風の噂で聞いて、アイはふと思ったのだ。

 今のところ柱を引退する者はいない。誰かが殉職したとも聞かない。つまり新しい柱を入れれば十人。一人、定員オーバーだ。

 ならば自分は不要だろう。ちょうどいい。思い立ったが吉日。星柱の地位を返上する旨を手紙に綴って、お館様宛で鎹烏(かすがいがらす)に送らせた。

 

 故に、今のアイは星柱ではない。

 

 鬼殺隊の隊士にとって『柱』には特別な意味があるらしい。アイと会う隊士たち皆が、どういうわけかキラキラした目を向けてきた。視線には畏敬の念が込められていた。

 だが、アイ自身は『星柱』という肩書きに何の魅力も感じなかった。

 

 鬼と()()し続けていたら、いつの間にか着いていた位だ。地位にこだわりはなかったし、むしろそれに付随したアレコレの方が煩わしかった。与えられた屋敷の手入れ、継子(つぐこ)を作れと迫る輩、その他諸々。

 

 ――――そんなことをしても、己の欲しいものは何一つ得られないのに。

 

 だから、いい機会だったので『もう柱やめてもいいよね?』といった内容を書いて、お館様に送ったのだ。

 正しく渡りに船。ありがとう、まだ見ぬ霞柱。これで面倒事とはおさらば。探しものに集中できる。

 

 柱合会議なのだから、柱でない者が参加するわけにはいかない。

 一応開封したものの、届いた便りも無視しようとしていた。そのつもりだった。

 

『鬼を連れた隊士がいる』

 

 ――――その言葉を目にするまでは。

 

「――――――カラス君!!」

「ダカラ、イツモ言ッテルケド僕ノ名前ハ――――」

「柱合会議! いつ!? どこでやるの!?」

「カァッ!? 急ニドウシタノ、アイ?」

「これ、ここ見て!!」

「カァ?」

 

 手紙の文面を突きだす。それだけで付き合いの長い鎹烏は得心したようだった。

 

「落チ着イテ、アイ。日時モ場所モ全部手紙ニ書イテアル。今日カラ二日後、鬼殺隊本部! オ館様ノ所!」

「そっか…………なら今すぐ連れてって、古屋敷様のところに!」

「カァ! 不敬!! ()屋敷違ウ、()屋敷ィ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不運にも目的地まで距離があったために、アイが到着した時には柱合会議はとっくに始まっていた。

 

 柱は九人全員勢揃いしていて、見覚えのない隊士が一人庭に転がっていた。多分、鬼を連れた隊士というのが彼だろう。ボロ雑巾のような有様だが、私刑(リンチ)でも受けていたのだろうか。

 古傷だらけで人相最悪な風柱はイキり立って座敷で自傷行為中。あとで掃除する人が大変そうだ。そして、顔面だけで人を殺せそうな風柱の前に、もう一人。大きな木箱に隠れるように小さな影があった。

 

 あの子が、鬼。

 

「――――誰かと思えば職務放棄した()星柱じゃないか」

 

 横からネチネチと嫌味が飛んできた。蛇柱だ。名前は確か、

 

「うん。久しぶり、腹黒しなない君」

伊黒(いぐろ)小芭内(おばない)だ、人の名前もまともに言えないのか貴様は」

「ごめんごめん。私、人の名前覚えるの苦手でさ。それでマグロ君」

「貴様さては覚える気がないな?」

「あそこにいる女の子が手紙に書いてあった鬼ってことで合ってる?」

「見ればわかるだろう」

「だよねー」

「待て星野、一体何を――――」

 

 お歯黒君はまだ何か言っているようだったが、アイは気にせず座敷に乗り込んだ。

 何かを喚き散らす人相の悪い方のしなないサナギ君を追い出して、鬼の前に立つ。

 

 風柱の血がかかったのかと思っていたが、鬼からも血が出ていた。怪我でもしているのだろうか。疲弊しているようにも見える。鬼なのに、傷が治らないというのもおかしな話だが。

 

 いや、そんなことはどうでもいい。

 

「ねぇ、『愛』ってなに?」

「……………ぅ?」

 

 問い掛けに反応してか、アイと鬼の視線があった。

 鬼はどこかぼんやりした目をしていた。今まで出会ってきた鬼たちの、ギラついた餓狼のようなものとは違う穏やかな瞳。

 

 落ち着いた受け答えができるのかと思ったが、一向に答えはない。これはおかしい。理性皆無の鬼ですら『肉』の一言ぐらいは喋るのに、眼の前の鬼からは唸り声すら上がらない。

 

 まさか、喋れないのか。

 

 改めて観察してみると、鬼は竹轡をしていた。喋らないのはこれのせいか。

 外してみたが、

 

「ねぇ、答えて? 君にとっての『愛』ってなに?」

「うー?」

 

 やはり、答えはない。これもハズレか。

 

 ――――ああ、今までの鬼とは様子が違うから、今日こそ見つかると思ったのに。

 

「…………もう、いいや」

「待っ――――――!?」

 

 期待は失望に。見つからないなら、もういらない。

 どこかで誰かが何か喚いているが、構うものか。

 

 アイが鯉口を切る寸前。

 

 ぽんぽん。なでり。

 

「え――――――」

 

 ――――それは優しい手つきだった。

 

 鬼の手を通して、アイの頭に温かな体温が伝わってきた。

 

 知らない。知らない。こんなものは知らない。そのハズなのに、鬼の手を振り払えない。

 

 何か…………なんだ。昔、似たようなことがあった……ような。いや、そんなハズはない。なのに、何かがあった気がする。

 そうだ、確かこれは、母と同じ――――。

 

「すみません! 禰豆子(ねずこ)は暗示で周りの人が家族に見えるようになっていて――――」

 

 不意に微睡みから引き戻される。

 少年の叫び声を認識して、ここは柱合会議の場だとアイは思い出した。

 彼らは裁判の被告人。鬼殺隊の秩序を乱すモノ。このままでは遠からず――――死ぬ。ならば。

 

 自分が今やるべきことは、わかりきっていた。

 

「ねぇ、名前は?」

「えっ!?」

「君たちの名前だよ。なんて言うの?」

「俺は竈門(かまど)炭治郎(たんじろう)です! 妹の名前は禰豆子」

「そっか、()()()()()()ね」

 

 アイが兄妹の名前を復唱すると、アチコチから驚愕の視線が突き刺さった。

 何かおかしなことでも言ったかな。小首を傾げたが、考えてもわからないものはわからない。

 

「ね、お館様」

「どうかしたのかな、アイ」

「その子たち、殺さないでほしいな」

 

「それは、星野アイとしての言葉かな? それとも――――星柱としての言葉かな?」

「あー、そっか」

 

 柱には様々な特権があるが、これは強力な鬼を打破し、鬼殺隊を支えるという責務を全うするが故。義務を果たすから、権利を行使できる。

 

 隊律違反の隊士を庇い立てするには、一般隊士では役が不足している、と。

 なるほど、道理だ。

 逆に柱であれば叶えられる、と。

 

 ――――これはうまく使われたかな。

 

 彼はアイに星柱として動いてほしいのだ。

 だから多分、これは取引。この兄妹の助命嘆願したければ、柱としての務めを果たせ、と。

 

 柱を辞したアイに手紙を送ったのも、このためだろうか。

 全く、これだから頭がいい人間は。どうにもこうにもやり口が回りくどい。

 

 でも、まあ、

 

「決まってるでしょ」

 

 いいだろう。そのぐらいお安い御用だ。

 

()()だよ。だからお願い」

 

 鬼殺隊の主人は微笑んだ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 夜の星野家。

 今日も今日とて双子はグッスリ寝ている。子供は寝るのが仕事とはいうが、修行疲れも多分にあるだろう。二人のかわいらしい寝顔には疲労感が滲んでいた。

 

 疲れてヘトヘトな寝顔でもかわいいなんて、うちの子最高では。

 何時間でも時間を潰せそうだが、いつまでも見ているわけにいかない。

 

「えーっと、二人とも水桶五分はクリアしたから次は…………うーん……」

 

 双子を起こさないように別室に移動したアイは、ああでもないこうでもないと、うんうん唸っていた。

 

 アイと双子の関係は親子でもあり『鬼殺の呼吸』の師弟でもある。

 

 鬼狩りを可能とする全集中の呼吸術――――人外の存在に比肩するだけの力を得る修行だ。当然、修行は苦しい。

 でも――――鬼に襲われてからでは、後悔してからでは遅いから。

 だから、アイは心を鬼にして、双子にスパルタ教育を行っていた。

 

 アイの師匠としての仕事は修行内容を考え、その監督を行うこと。

 現在は肺の強化を中心にトレーニングメニューを組んでいるが、次の段階をどうしようかアイは頭を悩ませていた。

 

 アイの使う『星の呼吸』は我流で生み出したものだ。

 きちんとした修行を受けたこともなければ、人に修行をつけたことなんてない。

 

 修行は手探り、見様見真似。合っているのか自信はない。

 

 柱稽古の時も、やってくる隊士を片っ端から昏倒させているだけだったし。

 結局継子はいないままだったし。

 

 唯一参考になりそうなのが、前世で盗み見た天狗の修行風景。アイが『星の呼吸』を身に付けるきっかけになったものだ。

 

 だが、

 

「………………うん、無理だね!」

 

 天狗は弟子と思しき子供たちを滝壺に突き落としたり、罠だらけのデンジャラスマウンテンに放り込んだりしていた。あとは、刀を持たせて走り込みをさせているのも見た。

 

 これらの修行の意図はわからないでもない。恐らくだが、とにかく生存率を上げたかったのだろう。

 それに今だからわかる。天狗の修行には『愛』があった。ただの理不尽では、あの修行はできない。

 

 しかし、アイは修行に使えそうな滝を知らないし、罠を設置できるような山もないし、刀も所持していない。

 代用品で再現できる部分もありそうだが、そもそもの話、多少心肺機能が発達している程度でいきなりこれらの修行をやらせたら可哀想だ。多分、何一つ感覚を掴めずに終わるだろう。

 流石に今は再現できない。

 

 ――――もう少し修行が進んで、二人の体力がついてから、かな。

 

 こんなことになるなら、前世でテキトーな隊士でも捕まえて継子にしておくんだった。練習、大事。ぶっつけ本番、よくない。

 

 でも、やるしかないのだ。

 

 幸い、二人とも飲み込みが早いので、全集中の呼吸自体はほぼ確実に会得できるだろう。この調子なら全集中の呼吸・常中も身につけられるはず。だってうちの子だし。

 

 問題は鬼の存在だが――――。

 

「はぁ………………アクアとルビーの修行と違って、こっちは全然ダメだなー…………」

 

 アイはアイドル活動と並行して鬼の痕跡探しをしているが、こちらの成果は芳しくない。

 

 鬼は今、どうなっているのだろうか。

 鬼殺隊が絶滅させたのか、それとも逃れて生き残っているのか。

 生き残っているのだとすれば、痕跡すら残さずに活動できるほど賢しいのか。組織立って動いているのか。

 あるいは、もっと『上』の何者かが隠蔽を行っているのか――――。

 

「うん、これ以上はやめよう」

 

 一介のアイドルにできることは少ない。お給料も少ないし、自由時間も少ないし、何なら仕事に夢だってない。夢を売る仕事なのに、ないないだらけで困ってしまう。

 

 ああ、それでも、きっと大丈夫。大丈夫にしてみせる。

 自分に言い聞かせ、鎌首をもたげてくる嫌な妄想を振り払う。

 

 もし鬼がいるならば鬼殺隊かそれに類する組織もあるのではないか。そう考えたこともあった。だが。

 

 鬼殺隊、お館様、柱、鎹烏…………その他諸々。思いつく限りの単語を調べたが、何も見つからなかった。

 アイの調べ方が悪かったのか。それとも――――。

 

 鬼殺隊が役目を終え、平和に解体されたのならばそれはそれでよし。

 だが、そうではなかったら?

 

 一番最悪なのは、鬼が生き残っていて、なおかつ鬼殺隊が壊滅しているパターン。

 つまり、あの時の戦いで鬼殺隊が負けていた場合だ。

 

 鬼がいるのに、鬼殺隊は存在しない。そんな冗談のような可能性があるとすれば。

 

 この場合、どこかから日輪刀だけでも確保しなければ、アイは子どもたちを守れない。

 『星柱』は誰かを守りながら戦うタイプではなかったから。雑魚鬼相手ならともかく、子供たちを守りながら日の出まで鬼を縫い止めておくのは現実的ではない。

 

 …………自分一人生き残るだけならば何も問題はないのだけれど。

 もう少し防御方面にもステ振りしておけよ。そう『星柱』に文句の一つでも言いたくなるが、あれもまた自分(アイ)である。そんなことを考えていたなら、多分とっくに『愛』について答えを見つけていた。

 

 あるいは、双子がアイと同程度まで呼吸の精度を高めてくれれば話は別だが、流石にそこまで至るには十年以上かかるだろう。

 

 鬼は子供たちの成長を待ってはくれない。

 

 それでなくとも現代だって十分物騒なのは、己の身を以て証明済みだ。

 

「えっと、とりあえず状況の整理整理……っと」

 

 最優先事項は子供たちに自衛手段を身に着けさせること。

 次いで日輪刀の入手。

 日輪刀さえあれば鬼の大半はさほど怖くないから、鬼の痕跡探しは三番目。

 それと同率で現代の鬼殺隊探し――――だろうか。

 

 鬼殺隊では一般人向けに配布していた『鬼に襲われにくくなるお守り』もあったが、カラス君が管理していたのでアイは詳細を知らない。ぶっちゃけ何か花の香りがしていたことしか覚えていない。

 よって、今回はその存在を考えないものとする。

 

「あとは――――」

 

 アイが転生しているのだから、他の隊士たちも転生しているのではないか。

 別段徳を積んだ覚えのないアイよりも、鬼退治に精を出していた彼らが転生している方がよほど説得力がある。

 

 彼らに聞けば状況把握が一気に進むのは確実。

 

 鬼殺隊探し同様、アイでは探しても見つけられなかったが、これは仲間の名前をロクに覚えていないせいでもある。どうも前世(むかし)から人の名前を覚えるのが苦手だった。

 

 自分ではうまく探せない。それなら、向こうから見つけてもらえばいい。

 

 運のいいことに、もうすぐドームでB小町のリベンジ公演が行われる。

 例の襲撃事件で一度延期していることもあって、世間の注目度も高い。これなら確実に地上波でもアイの写真や映像が流されるだろう。

 

 名前も一緒、見た目もほぼ一緒だから、一目見ればすぐにわかる。アイドルのアイは()()星野アイだと。

 これでみんなから見つけてもらえる、ハズだ。

 

「これで私以外の転生者もきっと…………!」

 

 それなのに胸のざわめきが収まらないのは何故だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 B小町のドーム公演は恙無く、大成功を収めた。

 

 当然だろう。確かにアイはあの襲撃で重傷を負ったがそれも完治して久しいし、全集中の呼吸・常中を行っているからパフォーマンスレベルは以前より数段上がっている。

 

 ライブの中身は最強。話題性も抜群。

 これで成功しなければ詐欺だ。

 

 だが、

 

「今日も見つからない、か…………」

 

 あれから仕事もメディアへの露出も更に増している。一過性のものかもしれないが、今やテレビやラジオでアイの話を聞かない日はない。

 余程世間から隔絶した環境でない限り、アイの名声は届いているハズなのだ。

 

 それなのに、誰からも連絡はない。

 ファンレターもSNSへの書き込みも全て見ているが、鬼殺隊を思わせるそれらしいものは一つとして存在しない。

 

 つまり、つまりだ。

 ここから導き出せる答えは――――――――アイ以外、誰も転生してない。

 

「もしかして、私だけなのかな…………?」

 

 ――――悲しい? 苦しい? つらい?

 

 この胸に渦巻く彼らへの感情はわからない。

 もしかしたら、鬼への対抗戦力が減ったくらいにしか感じていないのかも。

 

 でも、どうだろう。寂しい、とか。それぐらいは感じているのだろうか。

 人間らしく、かつての仲間への情を抱けているのだろうか。

 

 わからない。わからない。

 何故、再び生を得たのが自分なのか。

 鬼殺隊(イチ)不真面目な柱だったアイが選ばれたのか。

 

 自分以外の柱であればきっと、鬼とは無関係なところでも世間に貢献していただろう。なら、自分は?

 

 自分は嘘しかついていない。ファンへ捧げる笑顔も愛も。子供の存在だって隠している。

 もしも神様が実在するのであれば、こんな嘘だらけの人生に一体何を見出している?

 

 アイはこの世界にただ一人の転生者だった。

 

 愛する家族はいる。ようやく得られた家族が。

 探し続けた答えは手に入れた。

 それだけでアイには生まれてきた意味があった。

 

 だが、転生してきたのが自分で本当に良かったのか?

 この幸運は本来別の誰かが享受するものだったのではないか? 

 

 考えれば考えるほど、心に澱が溜まっていく。

 

 ああ――――この境遇だけは誰とも分かち合うことができない孤独だった。

 

「――――ねぇ、ママ? 大丈夫?」

「…………あ、もう二人の修行の時間か。ごめーん☆ ちょっとボーッとしてて」

 

 自宅で、少々気が抜けていたようだ。

 アイは即座に仮面を被り直し、二人に笑いかける。

 

「無理に笑わなくていいよアイ。アイが疲れている…………いや、落ち込んでいるのは何となくわかってるから。それも多分、あのドーム公演の後から」

 

 アクアの鋭い指摘に瞠目する。

 

 ライブ後、落ち込んでいるのを見抜かれていた。

 

 それだけアイを見ていてくれたということでもあり、アイが隠しきれなかったということでもある。

 嬉しいような。悔しいような。複雑な気持ちだった。

 でも、それなら、

 

「そっか…………うん、そうだよ」

 

 心配をかけたくないから黙っていたのに、バレていたのならこれ以上取り繕うことに意味はない。

 

「『探しもの』が見つからなくてちょっと困ってたんだ」

「ちょっとって感じじゃなかったけど?」

「あははー」

「笑って誤魔化さなくていいから」

「ところでママの探しものって?」

「――――――――」

 

 言い淀んだのは一瞬のこと。

 

「転生者」

「……………………えっ?」

「もっと言うと前世の仲間かな」

 

「ママの前世って…………鬼退治してたっていう?」

「うん、その時の仲間。鬼殺隊の人たち。あっ、鬼を殺すって書いて鬼殺隊ね」

「きさつたい?」

「ぶ、物騒な名前……」

「そう? わかりやすくない?」

「確かにわかりやすい名前ではあるけど」

「でも、何で急に?」

「急じゃないよ、ルビー。実は前から探してはいたんだ。鬼を探すついでにね。でも、全然見つからなくって」

 

 彼らのことは覚えている。忘れられるハズがない。顔も、声も、その表情も。

 会えばわかると確信している。

 

 でも、だからこそ。

 

「みんなすごくしっかりしててね。『家族の仇討ちする』とか、『他の人を助けたい』とか。そういう、()()()()()()戦う理由がある人たちばっかりで」

「アイの…………いや、前世のアイが戦っていた理由って……何?」

「『愛』を知りたかったから」

「…………愛、を」

 

「でも、逆にすごいよねー。前の記憶がなかったのに『星野アイ』はずっと同じものを探し続けてたなんて」

 

 ちょっと運命的じゃない? なんて、アイが笑いかければ、双子はどこか悲しげな表情を浮かべていて。

 ああ、やっぱり。二人にはわかっちゃうか。二人とも、頭いいもんね。

 

 何故、どうして、『星野アイ』が愛を探していたのか。その原因に至るのも当然か。

 

「まあでも、そんなわけだから理由を知った人からはあまりいい顔はされなくて。下の階級の子たちからは『星柱様』なんて持て囃されたりもしたけど…………彼らからすれば多分、強ければ誰でも良かったんだろうし」

 

 星柱・星野アイではなく、アイ自身を見てくれていた人間が果たして何人いただろうか。

 

「柱っていう鬼殺隊の上役? みたいなのに就いてたんだけど、色々面倒くさくてそれも一度ほっぽり出したし」

 

 最後の戦いの時だって、仲間と合流する前に殺されてしまった。

 そんなアイだから、きっと。

 

 きっと、嫌われていたから。

 

「みんな、仲間の名前もまともに覚えられない奴に会いたくないのかも」

「そんなこと絶対ない!! だって、だって! ママはこんなに頑張って――――」

「なら、どうしてみんなは会いに来てくれないの? みっちゃんも、しーちゃんも、姫路さんも、レンコン君も、ウズラ君も、しなない君たちも、とっきーも、冨澤君も!!」

 

 アイの叫びを聞いた子供たちの顔が悲痛に歪む。

 ごめん、ごめんね。そんな顔をさせたかったわけじゃない。

 でも、止まらない。もう止められない。

 

 だましだましここまで来たが、心はとうに限界を迎えていた。

 

()()()()()()の! こんな、こんな! 前世なんて曖昧な記憶(モノ)に縛られて、いるかもわからない鬼の幻影に怯えて! それでも! 気付いてしまったから、失うことに耐えられ、なく、て」

 

 ぜえぜえ、と響く不愉快な呼吸音に、ふと冷静になる。

 思えば呼吸を乱したのは久しぶりだった。

 

「なんで、私だけなの? 私しか生まれ変わってないの? どうして………………」

 

 ここまで無我夢中で心の内を吐き出してきたが、傍目には子供に当たる駄目な親だ。

 

 ――――アクア、ルビー、情けない母親でごめん。

 

 二人の様子を確認するのが怖くて、アイは俯いたままだった。

 

 その間、二人からは何も言われない。

 もしかして、幻滅されちゃったかな。

 

 アイが勇気を振り絞って顔を上げると、二人はやけに真剣な顔をしていた。

 

「ねぇママ、あのね、わたしたちに生まれる前の記憶があるって言ったらどうする?」

「…………え?」

 

 生まれる前の、記憶。それって。まさか。

 前世の記憶がある。つまりは『生まれ変わり』ということで。

 

「…………………………嘘」

「嘘じゃないよ、ママならわかるでしょ」

 

 ああ、そうだ。今までたくさん(あい)をついてきたアイにはわかる。嘘を本当に見せる時にどうすればいいのか。どういった仕草で、どのくらいの角度で、どのような声色を出せばいいのか。全部全部、熟知している。

 

 だからこそ、わかってしまう。

 ルビーの言葉は小細工なしの真実なのだと。

 

「おい、ルビー」

「止めないで! お兄ちゃんだってわかってるでしょ!? アイドルの仕事にレッスン、空き時間に鬼を探しながら修行までつけてくれてる。このままじゃママが本当に壊れちゃう!」

「それは…………確かにそうだが。でも、いいのかルビー? あまり前世(まえ)のことは喋りたくないんだろ?」

「………………うん。でも、ママが辛そうにしてる方がイヤだから」

 

 まだ、状況を把握しきれているとは言えないけど。

 それでも二人が誰かの生まれ変わりで、お互いにそれを知っているのは伝わってきた。

 

「あのね、前の私はね、二十年前に生まれたの。生きていたら、ママ――――アイと同い年だった。でも十二歳の時、病気で死んじゃった」

「ルビー…………」

「だから、明治とか大正とか、昔のことはわからない。でもね、一つだけ言えることがある。私は転生するまで四年かかった。ママは百年。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()

「あっ…………!」

 

 ルビーの指摘に目から鱗が落ちた。そんな可能性、考えたこともなかった。

 アイの頭にあったのは、かつての仲間が転生しているか、していないかの二択のみ。

 

「ねぇ、お兄ちゃんはどうだったの?」

「俺は…………死んですぐだったな」

「ほら! ママの前世の仲間はまだ生まれてないのかもしれない。だからね、今見つからなくても大丈夫だよ」

 

 ――――転生していたのは自分だけじゃない。自分は一人ではない。

 

 目から熱い物が流れ出るのに、どうしてか笑ってしまう。

 愛する子供たちが自分と同じなんて。一体どんな偶然だろうか。

 

 でも、そうか。こんな奇跡があるんだったら。きっと、みんなだってこれから。

 

「っ」

 

 そうだ。落ち込んでなんかいられない。

 

 全国津々浦々、老若男女。いや、世界中の人全員の『推しの子』になって、いつどこからでも絶対に見つけざるを得ない状況にしてやる――――!

 

「二人ともありがと!! すっごく元気出た!! 愛してる!!」

「私もママのこと愛してる!」

「俺も――――」

 

 三人でめいっぱい抱き合うと、ぽかぽかと温かな体温が互いに広がった。

 多分、この瞬間のことを、人は幸せと呼ぶのだろう。

 

 ああ――――もう一度、生まれてきて本当に良かった。

 

「でも、良かったのか? こんな普通じゃない子供で」

「んー? 何がー?」

「だって、その、気持ち悪い……とか」

 

 歯切れの悪い言葉の中にアクアの恐怖心が見て取れた。

 前世の記憶を開示することで、今の家族を失うかもしれない。それが怖かったのだろう。

 それなのに、ただアイのことを慮って秘密を明かしてくれた。優しい子だ。

 

 前世のことなんて関係ない。

 アイにとってはただそれだけが全て。

 

「アクアの歳の割りに大人びたところも、家族思いなところも、ぜーんぶ引っ括めて私は愛してるよ」

「アイ…………」

「もちろん、ルビーもね」

「ママ…………! はあああ、うちのママがマジ神すぎる!! 尊い!! ママの笑顔がプライスレス! ああ、貢ぎ先が来い!」

 

 熱心なファンと同じような娘の言動に、くすりと笑いが零れ落ちた。

 本当に、アイドル・アイが『推し』だったのだと実感する。

 

 きっとルビーは前世でもこうしてアイのことを推してくれていたのだろう。

 前世の病気のことは残念だが、こうして家族になったのだ。特等席で、心ゆくまで推し活してもらおう。これも家族サービスというヤツだ。

 

「これからも頑張るぞー!」

 

 アイドル業へむけて気合を入れるアイだった。

 

 

 

「はぁ…………病気のことといい、生没年といい、アイの推しっぷりといい…………本当にルビーはさりなちゃんにそっくりだな……」

「え、何でお兄ちゃんが私の前世の名前知ってるの?」

「えっ」

「えっ」

「えっ」

 

 双子が互いの正体を知るまで、あと僅か――――。

 

 

 

 

 




【鬼殺隊各柱→星柱さん簡易評価表】

炎柱さん:才能の塊。鍛えれば更に強くなるだろう! 会うと蓮根が食べたくなる。

音柱さん:素材は良いのに色々雑なヤツ。もっと派手に行け!! 会うと鶉の卵が食べたくなる。

蟲柱さん:行動の一部がかつての姉を思わせるので少々複雑な気持ち。あと人の名前を間違えるな。それはそれとして柱としての実力は認めている。

風柱さん:言動に一定の理解は示しているが、絶対に相容れないとも感じている。色々複雑。それはそれとして柱としての実力は認めている。

岩柱さん:哀れな子だ……。鍛えれば鬼殺隊最強の称号も夢ではないと思っているが、本人にやる気がないためのらりくらりと逃げられている。

恋柱さん:鬼殺隊志望動機にシンパシーを感じているし、もっと仲良くなりたい。あだ名を覚えてもらうことには成功した。

蛇柱さん:甘露寺の誘いを断りやがって許せん……! それはそれとして柱としての実力は認めている。

霞柱さん:どうでもいい……。→炭治郎の命乞いをしていた? 見る目あるじゃん。

水柱さん:俺は嫌われてない。



 続きはアイちゃんが仲間の名前を覚えてなかったのでありません。

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