魔法少女シトラス the series   作:御鈴

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雑音を掻き消して

 

「……って来たはいいけど、キルシェ、音響室の機械いじったことある?」

 

「ううん、全然‼︎」

 

自信満々に答えるキルシェに、シトラスとポメポメは脱力する。

 

「そんなことだと思った……私もないけれど。どうすればいいんだろう……」

 

音響室という名前だけあって、室内にはホール内のマイクやスピーカーの音量を制御するためであろうミキサーや、CDの音源を流すためのプレイヤーといった様々な機材が並んでいる。

 

しかし、こういった設備と普段は無縁なシトラスとキルシェにとっては、何をどうすればいいのかさっぱり分からない。

 

「とりあえず、いじってみる?」

 

「闇雲に触ったりしたら壊れ……ってもう触ってる!?」

 

シトラスが言い終わる前に既にキルシェは機械をいじり始めていた。

 

「えーっと、これが電源ボタンでしょ?そんでもって……あった!これだ!」

 

「ま、待ってキルシェ!ほんとにそれで合ってるの!?」

 

「だって書いてあるよ?ほら」

 

キルシェが指さす先を見ると、ミキサー盤には何やら印字のあるラベルが数枚貼り付けられていた。

 

そこにそれぞれ「ワイヤレスマイク音量」「会場内スピーカー」「音量7以上はハウリングの恐れあり」など、誰が見てもどこを操作すれば良いのかわかるよう簡潔な指示が書かれている。

どうやら音響の専門知識のない教員や生徒が操作することを想定していたらしい。キルシェはそれを見ながら操作したようだ。

 

「よ、よかった……ちゃんと書いてあったんだ」

 

「親切ポメ……」

 

シトラスとポメポメが安堵したその時だった。

 

 

 

 

 

─ドンドンドン!!

 

 

「っ!?」

 

音響室に自分たちがいることに気付かれたのだろうか。凄まじい勢いで、外から扉を激しく叩く音が聞こえる。

 

「まずいポメ!早く音色を掻き消さなきゃポメ!!」

 

「うん!キルシェ、スピーカーの音量を上げて!」

 

「了解!」

 

キルシェはミキサー盤の中から「会場スピーカー」と書かれたボリュームバーのつまみを思い切り引き上げた。すると会場内スピーカーから大音量でロゼの優雅なバイオリンの音色が流れだすが、急激に音量を上げたせいかキィーン、という高い音が響きわたる。

 

「き、キルシェ!上げ過ぎかも!」

 

「耳が痛いポメ〜!」

 

「ごめんごめん!待ってて!」

 

シトラスとポメポメが耳を塞ぐのを見て、キルシェはスピーカー用のボリュームバーを下げる。するとすぐにハウリング音は収まり、ロゼのバイオリンの音色が一定のボリュームでホール全体に流れ始めた。

 

ピアノの伴奏の音が聞こえなくなる音量に調整し、キルシェは顔を上げる。

 

「これで大丈夫……かな?」

 

キルシェと顔を見合わせたシトラスは不安げに呟く。その直後、

 

 

 

 

 

─バンッ‼︎

 

 

扉が蹴破られて数名の生徒たちが雪崩れこんできた。

 

彼らの目は血走っており、どう見ても正常ではない。中には手に掃除道具の箒や野球バッドなど、使いようによっては人を傷付けかねないものを構えている者もいる。

 

「うっそ!?全然ダメじゃん!!」

 

「二人とも、早く変身するポメ!!」

 

が、ポメポメが叫んだのとほぼ同時に、押し寄せてきた生徒たちの動きはだんだんと鈍くなっていく。猛るような怒鳴り声は次第にか細くなり、やがて押し入って来た生徒たちは次々とその場に倒れ伏していった。

 

 

「え……?」

 

キルシェは恐る恐る倒れた生徒の一人に近付き、様子を伺う。肩を揺すっても反応は無く完全に意識を失っているが、苦しそうな様子はない。ただ眠っているだけのように見えた。

 

「もしかして、うまくいったの……?」

 

シトラスが疑問を口にすると、ポメポメは確信に満ちた声で言う。

 

「……みたいポメ。会場から殺気を感じなくなったポメ。みんなにかかってた魔法は解けているポメ」

 

「よかった……」

 

生徒たちの暴動を止めることが出来たことに、ひとまず安心するシトラスとキルシェ。だが、スピーカーから流れるロゼのバイオリン演奏はまだ続いていた。

 

それは同時に、ピアニストの魔獣がまだピアノを奏で続けていることを意味する。

 

「ロゼ先輩を助けに行かなきゃ!!」

 

「おっけー!カッコよくロゼ様を救って、魔獣もばばーんっとやっつけちゃお!」

 

シトラスとキルシェは、それぞれ制服のポケットから変身ブローチを取り出す。

 

二人の意志に呼応するように、表面を飾る宝石がキラリと光を投げかけた。

 

「シトラス─」

 

「キルシェ─」

 

 

「『変身(コンベルシオン)』!!!」

 

瞬間、音響室内は眩い光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

幻想的な光が煌めく空間に二人の少女が浮かび上がる。

 

 

 

外からの干渉を受けないこの空間は、少女たちに特別な力を授け、使命を与える場所でもあるのだ。

 

シトラスの着ていたえんじ色の制服が、光の粒子に変化する。折れてしまいそうなほど華奢で線の細い、だけど慎ましい膨らみと柔らかさのある身体が露わになった。

 

キルシェの着ていたピンク色のカーディガンと制服のスカートもまた、光の粒子に変化する。普段の彼女の雰囲気に反してしなやかで瑞々しい、少しだけ大人びた肢体が姿を現した。

 

程なくして、一糸纏わなくなった二人の胸元に浮かぶブローチから二人の魔力光の色に染まったリボンの束が溢れ出す。

 

 

シトラスは太陽の温かさを思わせるオレンジ。

キルシェは女の子のときめきを形にしたようなピンク。

 

二色のリボンが少女たちの身体を包み込んでいき、魔装ドレスを形成していく。

 

シトラスの身体を包み込んだリボンは、オレンジを基調としたパフスリーブの愛らしいワンピースに。

キルシェの身体を包み込んだリボンは、ピンクを基調としたフリルがたっぷりのセパレートドレスに変化した。

 

魔装ドレスが完成するその瞬間、二人のブローチからもう一度光が放たれた。

 

その光はやがて、彼女たちが魔に立ち向かうための力となる武器を形作る。

 

オレンジの切り口を模したハンマー、魔槌オレンジ・スプラッシュはシトラスの手に。

 

桜色のキャンディのようなスピア、魔槍ピンキー・スイートはキルシェの手に。

 

つい先ほどまで普通の女子高生だった二人の少女は、悪しき魔獣に立ち向かう魔法少女へと変身を遂げた。

 

 

 

 

「シトラス、キルシェ!ここからステージに移動出来るポメ!」

 

 

変身を終えた二人が床に降り立つと、人間の少女のような姿に変身したポメポメが魔法陣を展開して移動先を確保していた。

 

ポメポメの正体は、天界から「女神」の指令で人間界に降り立った聖獣族の少女。聖獣族はヒトと動物の二つの姿を自在に変身することができる天界の種族。今のポメポメは、ヒトの姿を取っていた。

 

「ありがとう、ポメポメ!」

 

シトラスはお礼を言って魔法陣の中に飛び込み、キルシェとポメポメもその後に続く。

 

 

魔法陣の行先は、未だにロゼのバイオリンと魔獣のピアノの音色が拮抗するステージの上だ。

 

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