魔法少女シトラス the series   作:御鈴

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書架下の作戦会議

膨大な量の資料を所蔵する図書室には、随所随所に高い梯子が設置されている。

 

天井まで届く本棚の上に設置されたそれを利用して、インヴァスは目当ての一冊を選び取って地上に降りた。経年劣化で表紙の革も色褪せており、本文の紙も黄色く変色している古書。もう何年も誰も手にしていないのか、頁の端々が破れてしまっているそれをぱらぱらと捲っていくととある箇所に目を留めてピタリと手を止めた。

 

「……やっぱりね」

 

目当ての情報を見つけたインヴァスは、本に目を落としたまま呟く。

 

「インヴァス?何見てるの?」

 

背後から聞こえてきた舌足らずな声に振り返ると、そこに立っていたのはエルロコだった。インヴァスよりも低い身長を補うような厚底のブーツに、ダークピンクの髪を両サイドの高い位置でお団子にした少女だ。

 

黒を基調としたゴスロリ風の魔装の上から黒いマントを羽織っている。まるでハロウィンに魔女の仮装をして街を練り歩いているような出で立ちだった。インヴァスが手にしている本を覗き込んだエルロコは、あ、と声を上げる。

 

「これって確か黒き明日(ディマイン・ノワール)が過去に行った人間界侵攻の記録だよね?いつ頃の?」

 

「300年前よ。この頃は今とほとんど同じ方法で人間界に魔獣を送り込む作戦が行われていたと聞いたから、参考にしようと思って」

 

ふーん、とエルロコは相槌を打ちながらページを覗き込む。

 

「でもさ、300年も前の作戦の記録なんて、何の参考にするの?」

 

「……ちょっと気になることがあってね」

 

本から顔を上げないまま、インヴァスは続ける。

 

「ここ最近の作戦、確かにエナジーの回収ノルマはクリアしているんだけど、どうも魔獣の耐久性と運用継続率に問題があるわ」

 

「エルロコ知ってるよ〜魔法少女ちゃんのせいでしょ?」

 

「……その通りよ」

 

肯定されて、エルロコは嬉しそうに微笑んだ。

 

「ノルマをクリアしているから上からは特にお咎めがないけれど……ずっとこのままイタチごっこというわけにもいかないでしょう?実際、三百年前の作戦の方が今よりも上手くいっているのよ」

 

見て、とインヴァスはエルロコに開いたままの本の中身を見せた。色褪せたページに、細かい字でびっしりと作戦の内容が書き込まれている。実行された作戦内容から、その結果と功績に至るまで詳細に記されているのだ。しかし、それを見たところでやはりピンと来ないようで、エルロコは不思議そうに眉を寄せている。

 

「ほら、ここよ。300年前の作戦の方が魔獣のエナジー回収率も量も今を上回っているわ。つまり、同じような方法で人間界を襲っているのに、今よりも昔の方が成功してるの」

 

「本当だ〜あれかな?300年前には魔法少女ちゃんがいなかったのかな?」

 

「さぁ……だけど300年前にも人間界に送られた魔獣が消息を絶った記録は残っているわ。当時の魔獣は今よりも脆弱だったらしいから討伐されたというより、単純に寿命を迎えただけの可能性が高いけれどね。それを加味しても─やっぱり今のままじゃ駄目よ」

 

インヴァスは開いていた本をぱたん、と音を立てて閉じた。

 

「邪神様の復活を早める為にも、エナジーの搾取量を上げる必要があるわ。魔獣そのものの性能向上も考えるべきね」

 

「つまり、もーっと強い魔獣を召喚して人間ちゃんからエナジーをガッポガポ取ればいいってことぉー!?」

 

瞳を輝かせながらぴょんこぴょんと跳ねるエルロコに、インヴァスは曖昧に頷く。

 

「あとは彼の協力が得られれば完璧なのだけど……」

 

「彼?」

 

「トルバランよ。現地に送られて魔獣の動向を観測しているのはいいけれど、魔法少女達の正体もまだ特定出来ていないようだし。正直魔獣を倒されないように彼女達を妨害して欲しいのだけど、何を考えているのやら……」

 

あぁ、とエルロコが納得したように頷いた。

 

「トルバラン様でも手を焼くぐらい魔法少女ちゃんがめちゃ強って可能性は?」

 

「無いわね」

 

きっぱりとインヴァスは言い切る。

 

「記録媒体の映像を確認しているけど、明らかに魔法の腕前が甘い。一人だけ筋のいい子がいたけれど、それ以外は素人同然だわ。ただ、やはり人間だけあってエナジー量は目を見張るものがあるわね」

 

「ふーん、魔法少女ちゃん達はパワーゴリ押し系で魔獣を倒しちゃう感じかぁ〜」

 

うんうんと納得している様子のエルロコだったが、ふと何かを思いついたかのように手を叩いた。

 

 

 

 

「……だったらさ、こっちもパワーで押し返してやればいいじゃん?」

 

嗜虐心を隠しきれない笑みを口元に浮かべながら、エルロコは言う。

彼女が良くないことを思いついた時の顔だと察したインヴァスだったが、止める気は無い。

 

「そうね。確か─こういう作戦にもってこいの個体がいたはず」

 

ともかく今は、現状を打開しなければならない。可能性が少しでも感じられる手段は片っ端から試して行こう。

 

 

─邪神様にも、私たちにも、後は無いのだから。

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