魔法少女シトラス the series   作:御鈴

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見つからない答え

 

「え……、」

 

エリックと関わってはいけない。

ポメポメとレオンにそう告げられたシトラスは困惑した表情を浮かべる。

 

─あの優しくて親切なエリックさんが、魔族?

─今まで人間界に魔獣を送り込んで、大勢の人を危険に晒していた張本人……?

 

そんなはずがない、きっと何かの間違いだ。

しかしそんなシトラスの思いを打ち砕くように、レオンは口を開く。

 

「現状でラコルトに送り込まれている天界人は私とポメリーナだけ。魔法少女はシトラスさんとキルシェさん、ロゼお嬢様の三人だけです。それ以外に魔法を使える者がこの街に潜んでいるのだとしたら、それは魔族以外に考えられません」

 

「っ……!」

 

レオンに返されたハンカチを、シトラスはぎゅっと握りしめる。

 

(だけど……、だったら……どうして私のことを助けてくれたの?どうして……優しくしてくれたの?)

 

もし本当に彼が黒き明日(ディマイン・ノワール)の手先なら、敵対勢力である自分に親切にして一体何になるというのか。

 

 

─他人と同じくらい、自分を信じることが出来るようになれば─きっと大丈夫ですよ。

 

 

あの言葉も、嘘だったと思えばいいのだろうか。

 

「ちょ、ちょっと待ってよレオンさん!何も魔族だからってこっちの敵だって決まったわけじゃないじゃん!人間に優しい魔族だっているかもしんないし……!」

 

シトラスの様子を見ていられなくなったのか、黙って動向を見守っていたキルシェが横から口を挟んだ。

 

「……それが向こうの作戦だとしたら?」

 

「えっ、」

 

そんな彼女の言葉を、レオンは冷静に否定する。

 

「シトラスさんの信頼を得て油断させ、こちら側の情報を引き出したり、魔界や自身の利益になるよう利用する……そんな算段で行動している可能性だってあります」

 

「そんな、憶測で決めつけなくたって……!」

 

「では聞きますが、キルシェさんは彼が絶対に敵ではない、シトラスさんに危害を加える恐れが全くないと断言出来るのですか?」

 

「……っ!!」

 

そう言われると反論できないのか、キルシェは黙ってしまった。その様子を一瞥し、レオンは再び口を開く。

 

「とにかく─私たち以外で魔法を使う、得体の知れない者が現れたということは事実です。─くれぐれも油断しないよう」

 

そう言うと、レオンは聖獣族の装束からいつものアルページュ家の執事としての装いへと戻った。

 

「ロゼ、今ならまだ開演に間に合います。会場に戻りましょうか」

 

「え、ええ……」

 

促されたロゼも、ブローチに触れて魔装を解除する。

 

夜の公演で、演者も観客も大人が多いからだろうか。紺色のエレガントなステージドレスに、長い髪をアップにしたヘアスタイル。うっすらとメイクを施されているロゼは、シトラス達と一つしか年が違わない高校生にはとても見えない。

 

「それでは、今日はこれで失礼致します」

 

レオンは最後にそれだけ言うと、少女たちに背を向ける。

 

「レオン!……ごめんなさいね、シトラスちゃん、キルシェちゃん。この件は、またゆっくりお話ししましょう?」

 

「……はい」

 

頷きながらもどこか浮かない表情の二人に少し困ったような表情を浮かべた後、ロゼはレオンを追うように小走りしてその場を後にした。

 

「レオンさん、あそこまで言わなくたっていいじゃん……」

 

レオンとロゼ達が去った後、残されたキルシェが不満の滲む声で言う。

 

「師匠を悪く言っちゃダメポメ!師匠の言ってることは正しいし、ポメポメは最初からアイツは怪しいって思ってたポメ!!」

 

「確かに良い人かわからないけど、悪い人だって決まったわけでも無いでしょ!?エリックさん、シトラスにあんなに優しくしてくれてたのに!」

 

二人の口論も耳に入らないまま、シトラスは黙り込んでいた。

頭の中で色々な考えがぐるぐると巡って止まらない。自分はこれからどうすればいいのだろう。どうすれば正解なのだろう。

答えを出そうと焦れば焦るほど分からなくなってくる。

 

「シトラスはどう思ったポメ?アイツが魔族かもしれないなら、やっぱり危ないヤツポメよね?」

 

「いやいやそうとも限らないって!シトラスが思ったことを信じれば良いんだから、ねっ!」

 

ポメポメとキルシェから詰め寄られ、シトラスは思わず一歩後退る。

 

「わ、私は……」

 

二人の顔を交互に見つめる。

 

ポメポメもキルシェも、意見は違えどシトラスを心配しての発言だということはよく分かる。だがそれでも、何が正しいのかがわからない。自分がどうしたいのか、どうするべきなのか。

ここで自分の出した答えがどちらであっても、誰かを落胆させてしまうかも知れない。それがシトラスには耐え難かった。

 

「ごめん……ちょっと、ひとりで考えてもいいかな」

 

シトラスはそっと、胸元のブローチに触れる。その瞬間オレンジ色の魔装ドレスがリボンに戻って解け、やがて聖フローラ学園の制服姿へと戻る。

変身が完全に解けたことを確認すると、シトラスはそのまま逃げるようにキルシェとポメポメの間をすり抜け、ビルから出て行ってしまった。

 

「あっ!待ってシトラス!!」

 

慌てて追いかけようとするキルシェだったが、「ひとりで考えたい」というシトラスの言葉を思い出し立ち止まる。

今は誰とも話したくない─そんな雰囲気を感じ取り、これ以上追いかけることは出来なかった。

 

「行っちゃったポメ……」

 

「………やば、やっちゃったかも」

 

キルシェは先ほどの自分の発言に頭を抱える。あくまで自分はシトラスの味方でいるつもりでいたけれど、果たして本当にシトラスに寄り添ってあげられているだろうか。

ただの善意の押し付けになってはいないか──

 

「ポ、ポメポメのせいポメ……シトラスのためだと思って、言い過ぎちゃったポメ……」

 

キルシェの隣で、ポメポメもまた己の発言を反省して肩を落としていた。

 

「……ううん、あたしも悪いよ」

 

「キルシェはシトラスの味方だったポメ、シトラスが悲しむようなことは言ってないポメ」

 

キルシェは首を左右に振って、ポメポメの指摘を否定する。

 

「味方なつもりだっただけ。シトラスの本当の気持ちはシトラスにしかわかんないのに、あたしは勝手にエリックさんを信じたいんだと決め付けちゃった。

シトラスは信じるか信じないかとかの前に、どうしたらいいのかわからなくて困ってたのにさ」

 

自嘲気味に笑うキルシェに、ポメポメは返す言葉が見つからなかった。代わりに黙って彼女の手を握ることしかできなかったのだが、それだけでも充分伝わったようで、彼女は少し目を見開いた後にふわりと微笑んでくれた。

 

「帰ろっか、ポメポメ」

 

ブローチに触れて変身を解きながら、キルシェが言った。それを見て、ポメポメもヒトの姿から猫の姿に変身する。ヒトの姿の時に聖獣族の特徴である猫耳と尻尾を隠すことの出来ないポメポメは、魔獣が出ていない時は仔猫の姿で世を忍ぶしかない。

 

「けど、今帰ったらシトラスが……」

 

「ちがうちがう。さっき言ったじゃん。『ポメポメのことは今日はあたしが見ててあげる』って」

 

「ポメ?」

 

言われてポメポメは思い出す。確かにショッピングモールでシトラスと別れる前、そんな事を言っていたような気が……

 

 

「シトラスも今日はひとりになってじっくり考えた方がいいと思うし、後で連絡するからだいじょーぶ!ささ、一緒にキルシェちゃんちへレッツゴー!!」

 

そう言うが早いか、キルシェはポメポメを抱き上げてシトラスの家とは反対方向の彼女の自宅に向かって走り出した。

 

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