魔法少女シトラス the series   作:御鈴

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生徒会長の相談室

 

聖フローラ学園高等部、カフェテリア。

 

「……それで、結局一晩ではどうすればいいか決められなかったんだ?」

 

キルシェの言葉に、シトラスはしょんぼりとした様子で頷く。昼休みになってようやくゆっくり話す機会を得、シトラスは昨晩ひとりで考えたことを一通りキルシェに聞いてもらっていたのだ。

 

「私、どうしてこういう時すぐ答えが出せないんだろ……優柔不断で嫌になっちゃうよ」

 

「それだけ、エリックさんのこと信じたいって思ってるんでしょ?でもシトラスは優しいからポメポメやレオンさんのことも無下にしたくなくて、板挟みになっちゃってるんだよ」

 

購入したバニラフラペチーノと、自前のサンドイッチを交互に口に運びつつキルシェは言う。

 

「そういえばポメポメって……」

 

シトラスはふと思い出したように口を開いた。

 

朝からポメポメの姿や気配は全く感じられない。休み時間になったらキルシェに聞こうと思っていたのだが、今日に限って日直だったシトラスは授業が終わった瞬間に担任の先生に呼び出されてしまい、有耶無耶になってしまった。

 

「疲れてたみたいだからそのまま寝かせてきちゃった。お昼ごはんはちゃんと用意してきたから安心して!今日の放課後、お迎えがてらうちに寄っていきなよ」

 

「ありがとう……ごめんね、迷惑かけちゃって」

 

しゅんとするシトラスに、キルシェは笑って首を振る。

 

「いーのいーの!てか、それを言うならあたしも昨日、シトラスの気持ちを考えないで勝手なこと言っちゃってごめんね」

 

キルシェの言葉に、シトラスはぶんぶんと首を横に振る。

 

「キルシェは何も悪いことなんて……」

 

「したよ。シトラス、自分でもどうしたらいいかわかってなかったのに『シトラスが思ったことを信じたらいい』なんてえらそーなこと言っちゃったじゃん」

 

そう言って、キルシェは僅かに視線を下に向ける。

 

「そんなこと……だってキルシェ、私の思ってること、否定しないでいてくれたじゃない」

 

そう言うと、キルシェは少し驚いたような顔をした後、照れ臭そうな笑みを浮かべた。

 

「だってシトラスがいい人だと思った人のこと、悪いやつだって思いたくなかったし」

 

その言葉に胸が温かくなるのを感じた。キルシェが自分のことを信じて、寄り添ってくれることが心強い。

 

悩みや心配が解決していなくても、その事実でシトラスは安心できた。

 

「それでポメポメ……どうだった?」

 

「いい子だったよ!それと、すごい楽しかった!なんかもし、下にきょうだいがいたらこんな感じなのかなって」

 

けたけたと笑いながら言う彼女につられて思わず笑みを溢す。ポメポメと会話が出来るようになってから、確かにペットというよりも歳の離れた妹のように感じていたかもしれない。いずれにしても、ポメポメが大事な家族であることは確かだった。

 

だからこそ、いつも味方であって欲しいと思ったのだけど……

 

「……私のこと、何か言ってた?」

 

おずおず尋ねると、キルシェはうーん、と考える素振りを見せてから答える。

 

「んー、途中でエマちゃんも帰ってきちゃったからほとんど猫ちゃんモードで過ごしてたし、ご飯の時と夜寝る前にちょこっと話はしたけど……」

 

「な、なんて……?」

 

強張った表情のまま続きを促すシトラスに、キルシェは眉を下げて微笑みながら答える。

 

「シトラスを悲しませちゃったって思ってるみたい。心配だからエリックさんに関わっちゃダメって言ったけど、本当にそれで良かったのかなって。でも、仲直りしたいって思ってるよ!」

 

「……そっか」

 

やはり、自分のせいで落ち込んでしまっているのか、と思うと同時に申し訳ない気持ちが込み上げてきた。

ポメポメがエリックを警戒しているのは、善意からだ。自分がそれを黙って受け止めれば済む話なのに。

 

どうしてあの時、自分は素直に頷けなかったのだろう。

 

「シトラスさんや、さては『ポーズだけでもポメポメとレオンさんの言うことを大人しく聞けばよかった』とか考えてやいませんか?」

 

図星だった。ぎくりと肩を震わせると、キルシェは呆れたように溜め息を吐く。

 

「それは違うでしょ。シトラスにはシトラスの考え方があるんだから、空気を読んで自分の意志を捻じ曲げなくてもいいんだよ。むしろ、ちょっと安心したかも。シトラスがちゃんと自分の思ってることを言ってくれて」

 

「そうなの?」

 

意外な言葉に目を丸くすると、キルシェは頷き言葉を続ける。

 

「シトラスってこう……優しいし周りに気を遣えるし、そこがいいところだとあたしは思ってるけど、たまーに気を遣いすぎて自分の意見を言わなくなっちゃう時があるからさ。最初の頃は『もしかして今、シトラスに我慢させちゃってる?』って思うことも何回かあったんだ」

 

全く自覚がなかった。言われてみればたしかに、自分は周りの意見に合わせて行動することが多いように思う。相手に迷惑をかけたり否定されることを恐れて、自分で判断することを避けていたのかもしれない。

 

「でも、最近は困った時にこうやって話してくれるようになったし、昨日も心の底から納得いってないことには頷かなかったし……今はシトラスがちゃんと今どんな気持ちなのか教えてくれて、嬉しいなって思ってる」

 

「キルシェ……」

 

普段の調子からはあまり想像がつかないが、キルシェは周りの人間をよく見ている。その観察眼にはいつも驚かされるが、シトラスは同時にそれが嬉しくもあった。自分を理解し見守ってくれる友達が、すぐ側にいてくれて頼もしい。

 

「ありがとう、キルシェ」

 

「いいってことよ!……とはいえ、エリックさんのこと、どうしようね……レオンさんもポメポメも危ない人かもっては言ってるし、堂々と会いに行くことは出来ないよねぇ」

 

うーんと腕を組みながら考え込んだキルシェは、それからややあって何かを思い出したように顔を上げた。

 

「……そういえば今日、あの日だったかも!」

 

「あの日?」

 

キルシェはほらあれ、とカフェテラスの掲示板を指差す。

生徒会からの広報や部活の勧誘がほとんどを占めているその中に、一際目立つ優雅で華やかなデザインのポスターがあった。

 

よく見るとロゼの顔写真も掲載されていて「毎月第二水曜日は、生徒会長相談室開催!学校生活のことから恋の悩みまで何でもご相談ください!※相談内容は秘密厳守です」とポップな書体で書かれている。

 

「ロゼ先輩……忙しそうなのにこんなことまで」

 

「うちの学校の生徒会長の伝統なんだって。会長がロゼ先パイになってからは特に人気みたいだよ。んで、今日はなんと第二水曜日!!」

 

キルシェはシトラスの肩にポンッ、と手を置いてウインクをする。

 

「えっ、で、でも……ロゼ先輩に迷惑かけちゃわない?」

 

「だいじょーぶ!ロゼ先パイ優しいし、シトラスの相談なら絶対断ったりしないって!あ、生徒会のホームページから予約出来るんだ。どれどれ〜」

 

「あ、ちょっと……」

 

キルシェは借りるね、とシトラスのスマートフォンを手に取ると、手早くロックを解除してポスターに印刷されているQRコードを読み込む。

 

「シトラス、スマホのパスワードは誕生日にしない方がいいよ?勝手に他の人に使われちゃうかも」

 

「そ……そう、だね」

 

今まさにそれを実感しているところだ、とは言えず、シトラスは曖昧に頷く。キルシェは手慣れた様子でシトラスのスマホを操作し、何度か画面をタップするとすぐに顔を上げた。

 

「……これで、よしっと!はい、予約出来たよ!」

 

キルシェからスマホを受け取って画面に目を落とすと、そこには確かに「生徒番号0000XX番、シトラス・ルーシェ様 放課後15:40までに生徒会室横の相談室へお越しください」とあった。

 

「ほ、本当に予約しちゃったの……!?」

 

驚くシトラスをよそに、キルシェはにこにこと頷く。

 

「うん!こういうのはやっぱり、頼れる人に頼らないと!」

 

それに、と彼女は声を顰めて続ける。

 

「この相談室、ロゼ先パイ以外の人は部屋にいないんだって。学校とか鍛錬の時だと、どうしてもレオンさんやポメポメがいるじゃん。二人きりでオープンに話せるチャンスってなかなか無いし、ロゼ先パイの率直なアドバイス聞けるかもしれないよ?」

 

なるほど、一理あるかもしれない。しかしそれでもまだ、ロゼに対する申し訳なさの方が優っていた。そんな彼女の気持ちを察したのか、キルシェは再び口を開いた。

 

「大丈夫だって!ロゼ先パイがシトラスの気持ちを無視するようなこと言うわけがないし、多分あたしよりちゃんとしたこと言ってくれると思うよ!」

 

ね、と背中を軽く叩きながらキルシェが笑う。

 

確かに、知り合ってから月日は経っていないが、ロゼは他人の考えを蔑ろにしたり頭ごなしに否定するような人間ではない。それは、シトラスも理解している。この機会を逃したら、しばらくロゼと二人きりでゆっくり話すことは出来ないだろう。

 

「やっぱり、相談してみようかな。ロゼ先輩にも」

 

「そうこなくっちゃ!ロゼ先パイあたし達と一個しか違わないけど人生経験豊富そうだもんね〜!すっごいいいコト言ってくれそう」

 

キルシェはそう言って、再びサンドイッチを食べ始める。

その様子を眺めながら、放課後にロゼに話すことをある程度考えておかないと、とシトラスは思考を巡らせた。

 

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