魔法少女シトラス the series   作:御鈴

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『変身(コンベルシオン)』

「え……?何、ここ……」

 

シトラスは先ほどまでの街中ではない、不思議な空間に居た。身体は重力の干渉を受けておらず、ふわふわとした浮遊感に包まれている。周囲には色とりどりの光が漂っており、まるで宇宙の中にいるよう。

 

そんな幻想的な光景に目を奪われていると、着ていた学校の制服が光の粒子になって消え始めた。

 

(え!?ちょ、ちょっと待って!!裸になっちゃう……!)

 

慌てるシトラスだったが、彼女の意思に反して衣服は次々と消滅していき、あっという間に一糸纏わぬ姿になってしまった。

 

(だ、誰も見てないよね……?)

 

反射的に胸元を両手で隠そうとした時、さっきのあのブローチが胸の中心に張り付いていることに気が付く。

 

どんな原理でそうなっているのかはわからないが、ブローチは重力に引かれて落ちることもなくそこにあった。

 

シトラスがそれを不思議そうに眺めていると、次の変化が起こった。

 

ブローチからオレンジ色のリボンのような光の束が無数に飛び出し、それがシトラスの身体を包むように巻き付いていく。

 

服の形のように巻き付いたそれはまず、レオタードタイプのインナーを形成した。そしてその上から着せるように重なったリボンが、パフスリーブのシャツ、そしてパニエの入ったオレンジ色のワンピースに変化する。

 

それから手足にも巻き付いたリボンは、それぞれ手首までの長さのリボンのついたグローブ、くるぶしまでの丈のショートブーツを形成していった。

 

そして後ろ腰に大きなリボンが出現してドレスの構築が完了する頃、ブローチからまたオレンジ色の光が放たれた。

 

それはやがて、杖のように横長に伸びていったかと思うと、黄金色の柄にオレンジの切り口のような可愛らしい頭部を持ったハンマーに変化する。

 

シトラスがそのハンマーの柄を握ると、この空間で起こるべき事象は全て終了したらしい。万華鏡のように煌めいていた辺りの景色は元の街中に戻った。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「やったポメ!魔法少女シトラスの誕生ポメ!!」

 

「え……えっ!?」

 

変身の過程を終えて現実世界に戻ってきたシトラスは自分自身の姿を確認するなり驚愕する。

 

オレンジ色のフリルたっぷりなワンピースに、これまたオレンジを模した大振りのハンマー。小さな頃にテレビで見た変身ヒロインが活躍するアニメを彷彿とさせる姿だった。

 

「これが……私?……なんか、変な感じ……」

 

「変じゃないポメ!これでシトラスは魔獣からみんなを守れる魔法少女になったポメ!!」

 

その言葉に、シトラスはハッと顔を上げる。

 

そうだ、助けるために出来ることがあるならやる─さっき、自分でそう決めたのだ。

 

「ポメポメ、キルシェのことをお願い!」

 

シトラスはそう言うと地面を蹴り、光の壁の外に飛び出した。

鳥型魔獣達は獲物が自ら飛び出してきたことに驚きつつも、好機とばかりにシトラスに向かって急接近してくる。

 

「……って、出て来ちゃったはいいけど、どうしたらいいの!?」

 

勢いに任せて飛び出してしまったものの、魔法の使い方など知らないし、そもそも戦ったこともない。完全にノープランである。

 

「シトラス!そのハンマーを使うポメ!」

 

言われるままに手に持っているハンマーを見る。

身の丈ほどある柄に、オレンジの切り口を模した先端部分が付いているこれをどう使えばいいのかさっぱり分からない。

 

「とにかく、思いっきり振ってみるポメ!」

 

「う、うん……!それっ!!」

 

ポメポメに言われた通り、シトラスは思い切り地面に叩きつけるように振り下ろした。すると次の瞬間、凄まじい衝撃波が発生して鳥型の魔獣達を吹き飛ばしていく。

 

「──ッ!?すごい……!」

 

とてもただのハンマーとは思えない威力に思わず目を見張るシトラス。

しかし驚いている暇はない。体勢を立て直した鳥型の魔獣達が再び襲いかかってきたからだ。

 

「次はこっちから行くよっ!」

 

今度はシトラスの方から攻撃を仕掛ける。勢いよくジャンプし、上空にいる鳥型の魔獣を目掛けてハンマーを振りかぶる。

 

「やぁああーっ!!」

 

─ドゴォオオンッ!!という轟音と共に、激しい衝撃が巻き起こった。

ハンマーによる打撃をもろに喰らった魔獣はなすすべもなく吹き飛ばされていき、やがてオレンジ色の光へと変化しながら霧散していく。

 

「消えた……?」

 

「シトラス、前から来るポメ!!」

 

「えっ、」

 

目の前の変化に気を取られていたせいで反応が遅れる。避けるのが間に合わずに鳥型魔獣の体当たりを正面から受けてしまった。

 

「きゃあっ!?」

 

軽く吹き飛ばされ、コンクリートの地面に叩きつけられる。

普通の人ならば、すぐには起き上がれないばかりか、全身打撲を負っても不思議ではない衝撃だっただろう。しかし、

 

「いたっ……くない?どうして……?」

 

シトラスの身体には痣ひとつなかった。転んだことによる衝撃自体はあったが、痛みはほとんど感じない。

 

「その魔装ドレスはシトラスの身体を守ってくれるポメ!!だから今のシトラスは普通の人よりも頑丈になってるポメ!!」

 

魔装ドレス、というのはシトラスが今身に付けているオレンジ色のフリルたっぷりなこのワンピースのことだろう。

 

(この服にそんな力が……?)

 

一見するとなんてことのない可愛らしい衣装だが、思い返せば先ほどあの不思議な空間の中で無から作り出されたものだ。ただの服ではないということは容易に想像できる。

 

納得したシトラスは立ち上がってハンマーを構え直す。再び体当たりしようと飛び上がった魔獣に向けて、シトラスはそれよりも大きく跳躍し、勢いよくハンマーを振り下ろした。

 

「はぁあああッ!!」

 

鈍い音と共に、魔獣はそのまま地面に叩きつけられる。どうやら致命傷になったらしく、そのまま先ほどの個体と同じようにオレンジ色の光に包まれて消えていった。

 

「やったポメ!2体の浄化に成功したポメ!!」

 

「浄化……?」

 

またも聞き慣れない言葉が出てきたので聞き返すと、ポメポメはコホン、と咳払いをして口を開く。

 

「そのハンマー─魔槌(まづち)オレンジ・スプラッシュで魔獣に攻撃すると魔獣は浄化されて、あるべき場所に還っていくポメ!そうすれば魔獣たちはもう、この世界の人に危害を加えることは無くなるポメ!」

 

つまり魔獣をこの武器で浄化し、人間たちからエナジーを奪うのを止めさせるのがシトラスのすべき事ということだ。

 

(よし……!)

 

気合いを入れ直し、まだ残る魔獣に対して武器を構える。

 

「シトラス!オレンジ・スプラッシュはそのままでも強いけど、呪文を使えばもっと強い魔法が使えるポメ!!」

 

「じゅ、呪文?そんな、急に言われても……!」

 

呪文なんてわからないよ、と言おうとしたシトラスだが、ハッと気付いたように目を見開いた。

 

聞いたこともない、知らないはずの呪文。

 

だけど、頭の中にはっきりと言うべき文言が浮かぶ。

起こしたい事象と、それを叶えるための鍵(ことば)が。

 

「『止まって(アルテ)!!』」

 

こちらに向かってきた鳥型魔獣達に向かってそう叫ぶと、魔獣たちはその場に縫い付けられたかのように動きを止めた。

 

─グァアアアアア!?─

─ピギィイイッ!!─

 

驚愕の表情を浮かべながら必死に動こうともがく魔獣たち。シトラスはその隙を逃さずに、次の魔法を詠唱する。

 

「『流れ星(エトワール・フィロント)』!!」

 

瞬間、オレンジ・スプラッシュから放たれた光が一筋の光となり、空を駆ける流星のように一直線に飛んでいく。

 

光はまるで軌道で星座でも描くかのように空間に縫い止められた魔獣達を順番に貫いていき、その場にいた鳥型魔獣達を全て光の中へ還した。

 

「やったポメー!シトラスはすごいポメ!ポメポメの目は間違ってなかったポメ!!」

 

防壁の中でポメポメは、全身で喜びを表現するかのように飛び跳ねてはしゃいでいる。

 

「……今の……、私が……?」

 

信じられないといった表情で自分の手を見つめるシトラス。

今まで戦い方なんて知らずに生きてきたし、魔法も空想上のものだと思っていた。それなのに、自然に体が動く。呪文が、すらすらと出てくる。まるで最初から知っていたかのように。

 

「私、本当に魔法が使えるんだ……」

 

そう思うとなんだか嬉しくなって、自然と笑みがこぼれてしまう。しかし、そんな場合ではないことを思い出し、すぐに表情を引き締め直した。

 

「ポメポメ、あとはあの大きい奴だけだよね?」

 

「そうポメ!!ヤツを倒せばこの一帯に起きた異常は収まるはずポメ!!」

 

なら、早く見つけなければ。そう思って辺りを見回すと、

 

─グギャァアアア……ッ!!!

 

上空から響く不気味な咆哮。見上げると、そこには大きな翼を広げた巨鳥型の魔獣の姿があった。

 

己の生み出した手下が倒された気配を察知してきたのだろう。怒りに満ちた表情を浮かべながら、こちらを見下ろしていた。

 

「もうあなたの好きにはさせない……!あなたを倒して、キルシェも街の人たちも助けるんだから!」

 

─グァアアアアアァアア……ッ!!

 

シトラスの紡いだ言葉の意味を理解しているわけではないだろうが、それでも挑発的な態度に激昂したのか、大魔獣は目から光線を放つ。シトラスはそれを避けると、空中へ飛び上がって攻撃を繰り出す。

 

「はぁぁああああっ!!!」

 

気合いの声と共に振り下ろされた魔槌は、見事に大魔獣に命中し、鈍い音を響かせた。しかし大魔獣は一瞬ふらついただけで、すぐに体勢を立て直す。

 

(やっぱり呪文を使う魔法じゃなきゃ効かないんだ……!だったら、)

 

シトラスは魔槌オレンジ・スプラッシュを握りなおす。

 

「『流れ星(エトワール・フィロント)』!!」

 

飛び出した光が軌道を描きながら大魔獣へと命中する。直撃を受けた大魔獣はバランスを崩すが、咆哮と共に持ち直してしまう。

 

着実にダメージは与えられているものの、未だ決定打には至っていない。やはり小型の魔獣とはわけが違い、簡単には倒れはしないようだ。

 

─グァアアアアア…ッ!!

 

シトラスが普通の人間たちと違うと判断を下した大魔獣は、実力行使に出ることにしたらしい。翼を振り上げると巻き起こった風をシトラスに向かって放つ。

 

「きゃあっ……!」

 

吹き飛ばされたシトラスの体は地面を二回ほどバウンドし、ようやく止まる。しかし無防備なシトラスに向かって、再び翼を振り下ろされようとしていた。今度は、明確に本人を狙って。

 

─グギャァアア……ッ!!

 

「『防壁(バリエ)』!!」

 

しかし、シトラスと魔獣の間に現れた壁が魔獣の攻撃を阻んだ。仰向けに転がったまま防御魔法の発動に成功したのだ。

 

「………っ、くぅ……!」

 

しかし大魔獣の翼の一撃は重く、一枚壁の盾のような防壁はミシミシと音を立てていた。このままでは破られるのも時間の問題だろう。

 

「っ、どいて!!」

 

シトラスはそのまま防壁ごと大魔獣の翼を払いのけ、魔獣が体勢を崩した隙に起き上がって脱出する。

 

(本当にこんなの、私に倒せるの……?)

 

焦りと不安から思考が鈍り始める。そんなシトラスをあざ笑うかのように、大魔獣はシトラスに向かって猛攻を開始する。

 

─グギャァアア……ッ!!

 

「っ……!」

 

風の魔法だろうか。先ほどの翼で起こされたそれとは違う、明らかに質量を持った突風がシトラスを襲う。

 

「シトラス、避けるポメ!!」

 

ポメポメの声を受け、咄嗟に横に転がる。直撃は免れた。しかし─

 

「うそ……、」

 

余波を受けた魔装ドレスのパフスリーブが、ざっくりと切り裂かれていた。

 

─グギャァアア……ッ!!

 

「あれはただの風じゃないポメ!あの風に触るのはナイフに触るのと同じポメ!」

 

それは、切り裂かれたドレスの袖を見ればわかることだった。

 

再び大魔獣が翼を広げる気配を感じ取り、シトラスは横に跳ぶ。

大魔獣の翼が巻き起こす突風を避けながら、地上を走り続ける。避けきれない分はオレンジ・スプラッシュで打ち消し、また跳ぶ。その最中、大魔獣の頭部を見たシトラスは目を見開いた。

 

「っ、あそこ、」

 

魔獣の頭部にある、結晶。

そこから、エナジーが溢れ出している気配があった。

 

「ポメポメ、こいつの弱点がわかったかも!頭の結晶を狙えば……!」

 

キルシェを、街の人たちを、助けることが出来るかもしれない。シトラスは希望を抱き、もう一度魔槌を握りしめる。

 

「これで、終わり………っ!?」

 

その時だった。

 

「───っ!?」

 

それまで目が合わなかった大魔獣と、視線がかちり、と合う。その瞬間、

 

(うそ、身体が、)

 

まるで金縛りにあったかのように、体が動かない。物理的な干渉を受けていないのに、シトラスの身体は空中で時が止まったかのように静止していた。

 

─グギャァアア……ッ!!

 

鳥型大魔獣は翼を大きく広げ、シトラスに向かって風の魔法を放つ。動けないシトラスは、それを避けることが出来ない。

 

 

 

 

 

 

鋭利な風の刃は、容赦なくシトラスの体を斬り裂いた。

 

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