CRYMORE   作:風梨

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風梨と申します。
よろしくお願いします。





黒眼の斬殺者

 

 

 鮮血が舞っていた。

 紅に染まった剣閃が弧を描き、地べたに放射状の血痕を撒き散らす。遅れて、複数の斬撃を受け、肉片となった妖魔がボトボトと地べたに落ちる音がした。

 事を成したのは、銀髪の女だった。

 整った顔立ちをしている。だが人を寄せ付けない雰囲気があった。

 

「──仕事は成した。報酬は黒服の男に渡せ」

 

 ガシャリと鎧が立てる音を響かせ、その背に大剣を仕舞い込む。

 軽く振った頭と共に靡く銀の長髪は美しかった。しかし、その美しさに見惚れる者は誰一人として居なかった。彼女を見つめる村人たちの瞳には、恐怖と畏怖と侮蔑が強く滲んでいる。

 

 それも当然だろう。

 妖魔を狩る、大剣を背負いし()()()()は妖魔との混血。

 人ならざる怪物の血と肉を取り込み、人であることを捨てて、半人半妖と化した化け物だからだ。

 

 男の戦士は耐えられず、女の戦士のみが素養を有する。それ故に産まれるのは女戦士は身丈に合わぬ大剣を軽々と振る冷徹な殺戮兵器だった。

 そんな彼女らはこう呼ばれている。

 

 ──『CLAYMORE(クレイモア)』と。

 

 人形ような感情のない瞳と表情。

 妖魔を惨殺する容赦のない行動。

 町や村が傾くほど要求される法外な報酬。

 何よりも、その身に妖魔の血肉を取り込んだという忌避感から人々に『化け物』と忌み嫌われている。

 

 

 

 

 ──私は、そんな『化け物(クレイモア)』の内の一人として生きている。

 

 

『転生』というものがある。

 一度死んで、そして生まれ変わるというものだ。

 私はそれを経験した。

 死んだ瞬間の事は今でも明瞭に思い出せるが、あまり思い出したい類の記憶ではない。そんな経験を経て私は転生した。

 

 だが戸惑う余裕はなかった。

 生まれ変わった先は中世のような世界観で、私はただの農民の子供だった。

 なまじ歳の割には賢いせいで早くから馬車馬の如く働かされた。そうせざるを得ないほど貧しかった。

 

 物凄く大変だった。

 力仕事も任されたり、脳みそを引っ繰り返す勢いで中身を思い出して生かしたり。

 何より胃が空っぽのひもじい思いをしながら必死に働くのは辛かった。

 

 ──けれど、新しい家族と共に汗水を垂らして生活するのは、あえて言い換えれば『誰かに必要とされる日々』は悪くなかった。

 だが、そんな温かな日々は『妖魔』によって簡単に瓦解し、ようやく私は、自分が良く見知っている『CLAYMORE』の世界に産まれ落ちたのだと気がついた。

 

 そこからはよくある話だ。

 辛うじて生き残り、孤児となって黒服に拾われた。組織に身体を切り開かれて、半人半妖の戦士──、いわゆるクレイモアになった。

 

 戦士は銀髪銀眼に陶磁器のような白い肌を持ち、尚且つ一定以上の老化は防止され若い姿を保つ。

 半人半妖の戦士となってから続く夜も眠れぬほどの激痛と精神的な苦痛の影響であるのか、はたまた妖魔を取り込んだ拒絶反応か、身体の色素が抜け落ち、身体は徐々に化け物として固定されるからだ。

 

 私も似たような特徴を持っているが、唯一他の者と異なる点があった。

 ──機を伺っていたのか、村の長がおずおずと口を開いた。

 

「あ、あの。あなたは、本当にクレイモアなのでしょうか……?」

 

「──この瞳か?」

 

 トントンと指で叩いて見せる。

 私の瞳はクレイモアの特徴の一つである筈の、銀眼ではない。──今は亡き口の悪い友人曰く、この世の不幸と負の感情全てを煮詰めたような『黒眼』だった。酷い言い草だが、確かにと納得してしまう私もいた。

 

「は、はい。大剣を持った、銀髪に『銀眼』の者。それがクレイモアの印と聞いていたもので……」

 

「その通りだ。私を除いて、今の戦士に銀髪銀眼ではない者は居ない。──今回はハズレが来たとでも思って諦めてくれ」

 

 何とも言えない表情を村長が浮かべた。

 さもありなん。『はい、そうですね』なんて化け物相手に言えるわけもない。少し意地悪すぎたか。

 

「まぁ仕事は成したんだ、文句は聞かん。お前たちからすれば、妖魔さえ退治すれば誰でも構わんだろう?」

 

「は、はぁ……」

 

「ではな。──忠告だが、金は黒服に渡せよ。お互いのためにもな」

 

 返事は聞かずに、そのまま歩き出して村の外に向かった。

 

 村のすぐ近くには森があった。

 木漏れ日の差し入るいい森だ。近くの森に入ってすぐ適当に木の枝を集めて焚き火を揚げる。

 その中に煙の出やすい水分を含んだ木の枝を放り込めば、ひとまず仕事は終わりだ。

 未だ陽光が照っているが、あとは組織の使いが来るまで待てばいい。

 

 地面に突き刺した大剣に背中を預けながら座り込む。

 この身体になってから、柔らかなベッドとはすっかり縁遠くなってしまった。背に感じる硬さに心地良さを覚えながら、私は瞼を閉じて睡眠に入った。

 

 

 

「──待たせたか」

 

 男の声が聞こえる。

 パチリと瞼を開けば、すっかりと夜になっていた。

 焚き火を挟んで向かい側に黒服の男が座っているのが見える。不気味な、ともすれば幽霊とも見間違えそうな不健康な男だった。

 

「オルセか。……いや、今来たところだ」

 

「なんだそれは」

 

 半ば呆れた表情を見せる黒服のオルセにくすくすと含み笑いを返せば、疲れたようなため息を返された。

 

「相変わらずだな、お前は」

 

「そうか? まぁそうかもな」

 

「そんなお前に、知らせを持ってきてやったぞ」

 

「あまり良いニュースじゃなさそうだ」

 

「にゅーす? ……お前は時々意味不明な言葉を使う」

 

「はは、そうだな。で、なんだ?」

 

「──組織のナンバー1。リフルが覚醒した」

 

 覚醒。それはクレイモアにとって最も恐ろしいものだ。

 妖魔を狩っている自分が、妖魔側に堕ちる事を覚醒という。以前から思っていたが、堕天という言い方の方が的を射ている気がする。人から、妖魔の側へ堕ち、覚醒前は高潔であった者でさえ、人の臓物を好んで喰らうようになるのだから。

 

「ほぅ、『深淵』の誕生か。まだ任命して一月も経ってないだろう?」

 

『深淵』とは、覚醒したクレイモアの中でも特に強力な個体を指す。

 具体的には、組織のナンバー1を背負う時代最強の戦士が覚醒した場合にだけ用いられる名称だ。

 

「そうだ、厄介なことになった。女であれば覚醒しづらい筈だが、幼くして頂点を極めた奴だからな。例外かもしれん」

 

「うん。確かにリフルは強かった」

 

「オクタビアの奴にも伝達が行っているが、身体に問題はないか」

 

「ぜーんぜん。覚醒の兆しすらないよ」

 

 肩をすくめてヒラヒラと手を振ってやれば、オルセが眉間に皺を寄せる。

 

「もう少し真面目に答えろ、お前の『立場』をよく思い出せ」

 

「ああ、わかってる。その上で問題ない」

 

「……ならいい。そんなお前に任務だ。ここまで話せば、察しのいいお前ならわかるだろう」

 

「ふぅん。覚醒者狩りか、メンバーは?」

 

「喜べ、お前一人だ。手柄は独り占めだな」

 

覚醒者狩り。

それは本来なら一桁ナンバーの実力者が最低三名以上は必要である、大仕事だ。

 

「……へぇ、使い潰す気か?」

 

「バカを言うな。お前のような希少な戦士を、そんな使い方をするものか」

 

「そういう事にしてやるよ」

 

大剣を抜き放って背負う。

予定とは違うが、ここでリフルに会うのも悪くはない。

少しだけ笑みを浮かべながら、私は任務を了承したと伝えるために、後ろ手に手を振った。

 

「吉報を持ち帰るよ」

 

「……お前に、覚醒の兆候があればすぐに声をかけろ、拠点に連れ帰る」

 

「あいあい、キャプテン」

 

「……」

 

 軽薄に手を挙げて見せれば、頭が痛そうにオルセが額を抑えるのだった。

 

 

 

「──まったく。こちらの気も知らずに呑気なものだ」

 

 ザクザクと森を進むのは黒服のオルセだった。

 ボヤく内容はつい先ほどまで話していた組織の戦士のこと。

 

「アレは例外、か。ダーエの奴め、それほど気になるのならば己の足を運べば良いものを」

 

 この大陸ではない、何某かの国の文字が記された紙を取り出して、その内容を反芻する。

 先ほどの者を指す名を。

 

「──組織のナンバー3。『黒眼』のエマニュエル」

 

 読み上げるのはそこまでだ。

 誰が聞いているともわからない状況で、それ以上の内容は読み上げる必要がない。

 

 しかし、視線を下す先の用紙にハッキリとこう記されていた。

 ──新たなる『深淵』と引き合わせ、エマニュエルの覚醒を促させろ、と。

 

 クレイモアの覚醒とは、人類の敵を生み出す事であるというのに、オルセの表情には何の戸惑いも存在していなかった。

 

 

 





※諸事情で執筆が覚束ず、リハビリも兼ねた二次創作になります。

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