私は食事を提供した後、お腹に食い付いた子。アザレアに幾つかの問答をして──。
具体的には私がなぜアザレアを追いかけていたのか、などの話題だが。
普通に勧誘するだけで殺すつもりなどなかった事、ダメなら単独行動を取るつもりだったと教えて、その後に恥入るように顔を覆った元戦士の頭を撫でてやっていた。
「──落ち着いたか?」
「うう。は、はい」
場所は変わらずだった。
アザレアが覚醒した余波で薙ぎ倒された森の只中で、私の膝枕にオデコを預けるのは美しい容姿の女──アザレアである。
戦士時代はその瞼を縫い合わせていたが、いまはもうそんな真似をしておらず綺麗な紫色の瞳を見せていた。
髪色も元に戻っているが、そちらも紫色。
紫髪紫眼、とでもいうのだろうか。
そんなことを考えていると、おずおずと頭を上げたアザレアの上目遣いと視線が合った。
「あ、あの。──つかぬ事を聞きますが」
「なんだ?」
「なんで、覚醒しないんですか? ──あ、いえ。覚醒してないですよね?」
「してる訳ないだろ」
「で、ですよね。再生能力も凄いしつい……」
「ん。最初からこうなんだよな、理由は知らんが。──で、なんで覚醒しないのかって?」
「は、はい。もしよければ教えてほしいです」
覚醒直後のハイになっていた面影は微塵もない。
オドオドとしている姿には沸々と嗜虐心が──。
「おほん。さすがに初対面でそれはないな」
「そ、そうですよね」
「ああ、いや。こっちの話。簡単に言えば、私には性欲がないんだよ」
「え?」
「詳しい話はまた今度。それより、お前はこれからどうする? 組織に戻る訳にもいかんだろう」
「そ、それは、そうですよね。覚醒しちゃってますし」
シュンとした表情だった。
犬耳があったら垂れ下がっていそうな姿に思わず口角が釣り上がりそうになるのを抑えつつ、真面目な顔で続ける。
「だろう? で、もう覚醒した訳だが──」
ビクリと反応するのは責められると思ったからか。
そこには言及せずに続ける。
「人間の内臓を、食べたいと思うか?」
「──っ」
鎮痛な表情を作りながらも無言の返答だった。つまりは同意。
そのことに不思議はない。覚醒とはそういうものだ。語弊を覚悟で言えば、睡眠欲、食欲、性欲などあらゆる欲望が一つに統合されて、人間の内臓を欲するようになる。
アザレアはそういう状態のはずだ。
内臓を食べることが当たり前で、それが全てになる筈だ。
だが、アザレアは明らかに人間の内臓を食べることを嫌がっている。
本来ならば何故そんな『当たり前のこと』を聞くのかと、キョトンとしながら頷いても良さそうなものなのに。
──覚醒者が人間の内臓を食べるのを嫌がる。
そんな話は、いままで聞いた事もない。
「いまの反応で理解した。お前、意識が人間寄りのままなんじゃないか?」
「……食べたい、とは思ってしまいます」
「ああ。だが、そのことに罪悪感を感じるんだろ」
「──はい」
「……有り得ないなんてことは、ありえない。なるほどな。非常に興味深い」
この時、私はリフルのことを思い出していた。
奴は人間を食うことにまったく抵抗感を持っていない様子だった。
覚醒者とは、そういう存在だ。
覚醒するとはそういう状態になる筈なのだ。
だが、ここに来てイレギュラーが生まれた。
アザレアが特殊であるのか、あるいは私を食らった事が理由なのか。
もし前者であれば今後に活かす事は難しいが、もしも後者であるのなら。
──組織があらゆる犠牲を払って手に入れようとしている、覚醒者の完璧な制御に対する最終回答の一つにすら、成りかねない事実を前に。
私は、歓喜で頬が歪むのを抑えられそうもなかった。