「──ほ、本当にやるんですか?」
「当たり前だろう。そのために、わざわざここまで来たんだぞ?」
「それは、そうですけど」
困り顔を浮かべるアザレアだった。
そんな私たちが訪れているのは聖都ラボナだ。
中央部の名に恥ない発展を遂げている都市に、私たちは足を運んでいた。
「一応、色んな訓練は受けてきましたけど。……その、貴族の娘の所作とか、娼婦の色目とか、そんな方にも成れるように。でも、さすがに聖職者のルールとかまでは知りませんよ? あれって基本的に男性だけですから」
「わかってる。初めは内部に潜り込むだけで良いし、それも私がなんとかする。こういう小細工は得意なんでね」
「……むしろ、あなたに苦手な事があるってことの方が不思議なんですけど」
「ははは、そりゃあるさ。未熟者の化け物なんでね」
「さいですか」
そう言って、不貞腐れて頬を膨らませるアザレアだった。
時は少しだけ、彼女に聖都ラボナに向かうと告げた時にまで遡る。
アザレアが覚醒した跡地で、私は朗々と述べていた。
──聖都ラボナ。
言わずと知れた信仰の中心地であり、修行過程を終えた者の終着地でもある。もう少し先の未来であれば妖魔に抗う術を信仰に追い求めているが、それはまだ先の話。
「今のラボナは妖魔と関係がない。恐らくはこの先の100年で着々と築き上げるであろう妖魔に対する反感と対抗手段(といっても微々たるものだが)を、ラボナは現時点で持ち得ない」
「……は、はぁ」
何故ラボナに向かうのか。
その説明のための独白に、アザレアは困惑気味に首を傾げた。
「それが、なんの関係があるんですか?」
「つまりだ。この早い段階から私たちが『妖魔に対する解決手段』となってしまえば、信仰の中枢に潜り込む事ができるという訳だ。それも、不老の存在としてな」
「……そうなんですか?」
あまりしっくりと来ていない様子のアザレアに苦笑を返す。
「そうなる。いや、そうさせる。──だから、アザレアが覚醒したのはむしろ天啓だな。良かったかもしれん、最初の一人は重要だからな」
「……」
理解できないという表情のアザレアに、私は微笑を浮かべる。
「本来なら妖魔に対抗するために専用の兵士を鍛えるラボナだが。──それを秘密裏に『理性的な覚醒者』で代用させる。それだけの話さ」
突然の私の発言を、アザレアは困惑しながらも理解したのだろう。ごくりと生唾を飲み込む音で喉を鳴らせた。
つまり、私はこう言っているのだ。
──聖なる都を、裏から覚醒者が支配する、と。
本来なら、私がまず乗り込み、状況に応じて支配下に置いた覚醒者たちを参入させる予定だった。
銀髪銀眼ではない彼女らを用いて100年近く後に訪れる最良の機会を待つべく身を潜めるためには、この隠し方こそが虚を突くものになる筈だ。
むろん、各地に分散させる方法もあるが、それでは私の内臓を全員に食わせる事が難しい。一箇所に集める必要があった。
北のイースレイ。西のリフル。
彼ら彼女らのように、南を支配することも考えたが、今後において南を支配するであろう新たに生まれる『深淵の者』が存在する未来を知っている私からすれば、あまりにハイリスクだ。支配下におくにせよ、撃退するにせよ、『深淵』を組織が観察しないわけがないから、芋蔓式にこちらの存在が露見しかねない。
だから、南は使えない。
それでも最低限の備えとして。
組織が気が付いたとしても手出しを躊躇するほど強力無比な戦力(妖力解放できない私だけでは心許ないため)を溜め込むまでの間、バレない拠点が必要だった。
場面は戻る。
「──本当に、やるんですね?」
「うん。安心しろ。長年組織を利用して準備してきたし、こう見えて『
自信満々に、私は頷いて見せた。
──信仰とは虚像。
人が心の内に作り上げるものなのだから。