リフルは口内で膨れ上がる『旨み』に意識が遠退くほどの衝撃を受けていた。
「これ、なに」
次いで体内から泉の如く湧き出る妖力に動揺を隠しきれない。
そして舌の上で踊るあまりの『美味さ』に脳細胞が弾けるような感覚を味わっていた。
口の中で溢れ出る瑞々しさと、噛めば噛むほど滲み出る旨み。
快楽すら伴う食事に、だらしなく緩みそうな口元を『両手』で必死に押さえ付ける。
このままだと、全てを貪り尽くしてしまう。
それはリフルの望みではなかった。
──何よりも、このままエマニュエルの思い通りになることなどリフルのプライドが許さなかった。
強烈な意志の力が必要だった。
屈しないという根源的な衝動ともいうべき、精神的な支柱が求められた。
今回その天秤はリフルに味方し、吊し上げていたエマニュエルを放り投げることに成功する。
渾身の、ギリギリの面持ちで投げ捨てたリフルの表情に余裕はなかった。
そんなリフルを、放物線を描いて地に堕ちる
眉を顰めざるを得ない事実。
──エマニュエルの目的は、己を食わせる事だったのだ。
「……計画通りって訳ね。まんまと一杯食わされたわ」
「文字通りにって? 上手いこと言うじゃないか」
「ほんと、ムカつくわぁ……」
気がつけば貪り食っていたことを思い出してさらに強く眉を顰める。
どれほどの時間を掛けたのか。一分、十分、いや、それ以上か。
味覚に全ての時間感覚を奪われた。それほどに旨すぎた。
覚醒してから、リフルはそれほど多くの人間を食べ比べてきた訳ではない。
だが、それでも本能で理解する。
──あれ以上の『モノ』はこの世に存在しないと。
「気に入ったか?」
「あんた……、あたしに何を食わせたの?」
「何って、私だよ。中身を開いて食べたのはお前だろう」
「ええ、そうね。まんまと食わされたわ。──おかしいと思ったのよ。戦士が美味しそうだなんて、まるで毒饅頭……。そんなことにすら気づかなかった自分に腹が立つ。……あたしはどうなるわけ? 死ぬの?」
食べさせる事が目的だったなら、その次があるはずだ。
覚醒者を殺せる毒など聞いた事がないが、体内に取り込ませる事が目的なら、真っ先に思い浮かぶのはやはり毒の存在だった。
しかし、エマニュエルはキョトンとした表情を見せて、おかしい事を聞いたようにくすくすと笑った。
「ははは、その様子なら私の計画は失敗だよ。……まぁ安心していい。私はただ『旨いだけ』だ」
「そんなこと、信じられる訳ないじゃない。毒も含ませずに、美味しいだけの身体を作ったとでもいうわけ? わざわざ覚醒者の餌になるために?」
「ああ、そのまさかさ」
平然と、そう言ってのけるエマニュエルと視線を交わらせる。
──嘘ではない。
それが、理解できてしまうからこそリフルの表情から困惑が滲み出す。
「それ以外に、ありえないだろう?」
柔和な笑みすら浮かべて、エマニュエルはそう続ける。
意図が読めない。リフルはいっそう眉を顰めるしかなかった。
理解できない思想を前にした時に訪れる特有の、得体の知れない何かがじんわりとリフルの身体を侵していた。
「……説明してもらえるんでしょうね?」
「ああ、構わんよ。いまのお前にならば、話しても支障はないだろうからな」
意味深な事を言い、そしてエマニュエルは口を開いた。
──話は、私が半人半妖となった直後にまで遡る、と。