私は、半人半妖の戦士となる手術を受けた。
──目を覚まして始めに見えた光景は天井の無機質な剥き出しの岩肌と、私の周囲を埋める手術器具と血痕ばかりだった。
手術を終えた身体を起き上がらせるが正常には程遠い。
ズンズンと内側から熱を持ったように湧き上がってくるコレはなんだ。
……わかっている。これが妖魔の血肉を埋め込んだことが理由だなんて。だが、これほど暴れ狂うものだとは思ってすらいなかった。
「あ、ああ……」
弾け飛びそうな身体を自らの手で抱きしめながら、私は備え付けられていた鏡を眼にする。
全身の色素が抜け落ちて、銀髪銀眼となった己が、鏡の中から見返してきていた。
──半人半妖の戦士。
そう言われる存在に変わってしまった事を自認する。まだ記憶に新しい、家族との日々が脳裏を過ぎる。
もう戻れない。
だが、だからこそ出来る事があるはずだ。この組織の中だけで出来る事が──。
「──おい、意識はハッキリしているか? 歩く事はできるか?」
小突かれて、問われたその声に埋没していた意識を取り戻す。
身体の感覚が覚束ないがなんとか歩く程度はできそうだった。手術台から立ち上がって、そのまま宛てがわれている部屋にまで、壁に手を当てて伝いながら歩いていく。
まるで燃えているようだった。
次から次に溢れ出る何かが内側を焼き尽くす。
息は荒くなって、身体は痛みで軋み上がる。その感覚すらバカになってしまいそうな朦朧とする意識の中で、私は歩き続けた。
辿り着いたのはまるで蟻塚の如く山に開けられた穴の一つだった。
質素すぎるベッドと、テーブルが一つだけ。テーブルには既に配膳を終えてある食事があった。
食欲はない。
とても食べる気にはなれなかった。
だが、食べねば体力がつかない。
無理矢理にでも食ったほうがいいと思い、スプーンを掴み椀に入ったスープを数回掬って飲んでみるが、激烈にマズかった。
塩と芋と水の味しかしない。
芋の半生で煮えているだけのゴリゴリとした食感が口の中で食事の邪魔をする。程よい歯応えは旨く感じるものだが、コレはダメだ。食事に対する冒涜とも呼べそうな組織の食事係の醜態を無理やり胃に流し込んだ後、這うようにしてベッドに身体を横たえた。
後になって懐古すれば、それらの色々な組み合わせがその結論に至らせたのだろうとは思う。
内側から生じる熱から逃げるように思考はあちこちに飛び、思考ですら誤魔化せない苦痛が訪れた時はベッドの上で丸くなって耐える。
──『CLAYMORE』
その物語の結末は私が思うところによれば、描き切ったとも呼べるし、さらに描くこともできるだろう、という感想になる。
舞台となったのは島国だ。
作中当初はその島国しか登場しないが、後々に別の大陸があることが明らかになる。
そして物語の舞台となったこの島が、別の大陸の者たちの実験場だということも。
だが、『CLAYMORE』の原作では物語は大陸にまで波及しない。この島国の中で完結する。
別の大陸はフレーバーとしか存在しないのだ。
故に普通なら気にしなくていい話ではある、だが。
──私は、私たちはこの世界で生きている。物語が収束した後も生きるのだ。
ならば、原作が完結した後のことも考えなければいけない。
例えば、大陸の者たちが攻めて来る可能性も考慮せねばならない。
この先でさらなる惨劇が起きないなどと誰が保証できるのか。
未知という恐怖はいつでも人の心を縛り付ける。
私もその例外ではなかった。
──病に冒された者は精神的に脆くなる。
そのことも影響していたのだとは思う。
気がつけば、私はその大陸という強大な敵といかに渡り合えば良いのかばかりを思考し続けていた。
その中の案の一つ。
あまりにもマズかった食事を食べたからか思いついた、気が狂っているとも思える計画。
戦力が必要なら集めればいい。
単純なその思考は一つの戦力に辿り着いた。その戦力にはあてがあった。
──覚醒者だ。
人を食う彼ら彼女らではあるが、唯一無二の美味を饗することが能うならば、覚醒者たちは喜んで私を守るだろう。
美味で腹を満たせれば、それよりも味の劣る人の内臓を喰らう必要もない。
美味すぎる食事は麻薬にも等しい禁断症状を生み出すだろう。
そうなれば、私に忠誠を誓う他なくなる。
──想像を絶するほどの莫大な妖力も、無限とも思える再生能力も、その両者を己が兼ね備えていることなど、この時の私は知らなかった。
だから、こんな。
自らの体内を作り替えて、覚醒者の餌として生きるなどという、悍ましくも荒唐無稽なこの案が、十分に考慮に値するものであると。
実を結ぶ余地があることを、この時の私は知る由もなかったからこそ、真剣に計画を練ることが出来た。
そして紆余曲折を経て私は体内で人間に勝る美味の臓物を生み出すことに成功して、いまここにその成果がある。
目の前で半ば唖然とした表情を浮かべるリフルに向かい、私は朗々と語り終えるのだった。