時間軸、村の火事以降らへん。
「私はねぇ、千空が大好きなんですよじつはぁ。本当にねぇ、やばいくらいに!あんなイケメンほかにいます?いやいませんて、へへっ!」
テヘヘと顔を赤めて話すのは茉莉で、それを眺めているのが石神村のご隠居達。その場に若者の姿はなく、皆微笑ましく茉莉を眺めていた。
それはあるみを筆頭して開かれた茉莉へ向けた感謝の宴。勿論千空にも声はかかったのだが、茉莉が心を開いているのはある意味ご隠居達だと理解していた為今回は身を引き、それに伴い若い村人も参加をとりやめた。何故ならば彼らは茉莉が人間嫌いだと思っている節がある。故にその決断が良かれと思ったからである。
しかしそれが仇となり、茉莉はうっかりと、否、うっかり呑んじゃったテヘペロと己から自己破滅へ導く酒を飲んでしまったのだ。
そしてその結果、酒に飲まれて普段隠し切っている本音をペラペラと語り尽くすこととなったのである。
「千空は頑張り屋さんなんですよぉ、マッジで頑張り屋さんでそれこそちぃさい頃から物に対しての興味が尽きなくて調べ尽くして?いやぁ、マッジで好奇心旺盛的な!それを支える百夜さんもいいお父さんなんすよ!もう!石神親子さいこーふぅー‼︎」
「あらあら、茉莉は本当に千空が好きなのねぇ」
「もう大好きっ!もうあのフッワフワの髪の先から愛してますが問題でもありますぅ?ふへっ!千空さんは人間大好きで誰にでも頼ってくれるじゃないっすか、どんな人間でもやれる事はやれるんだって役割くれるし。そんな上司がいたらマジで惚れる。つまりは千空パイセンのことなんですけどね!いやぁ、なんであんなに尊いんですかね、存在が。あと頑張ると褒めてくれるのも好きぃ、百億点ほしいぃ。間違ってもそれを全否定しないで頑張ったなって言ってくれるところがお優しいぃ!なんであんなに優しいのかな?あの知識量からしたら威張ってもおかしくのに、そんな事しないのも凄いと思いません?威張るやつが悪いと言いませんけど、俺にも出来ないことあるからと自信を卑下するのもだいしゅきホールドしたい。ひぃー、なんであんなにいい子なんですかね?もういっぱいしゅきぃ」
語彙力が低下している茉莉はさらに酒をあおり、空っぽになった土器にはさらに酒が注がれる。
何故ならばあるみたちは孫のように茉莉を可愛がっているから。
その孫が普段は絶対しない幼なげな笑顔を見せながら我らが村長(千空)について語り、その話の内容ほとんどが千空への愛語り。ずっと聞いていたくなるもので。
他のメンバーの色恋よりも可愛らしくて見てて癒される。
「ふふ、それじゃあ将来は千空のお嫁さんになるのかしら?」
「それはないよぉ、あるみさーん。だってね、千空の近くには超きゃわわなコハクがいるでしょう?美人三姉妹でも見ててよきよき!それに何より千空には恋愛脳皆無だし、私みたいな能無しに恋愛感情抱くないんです皆無皆無ぅ!千空のお好みは仕事ができる人だからね、百億パーセントないおはなしれすよー!」
「あらあら、千空でなくて茉莉の気持ちの問題ではないの?」
「私の気持ちなんて二の次三の次、もしくは底辺くらいで彷徨ってるのがちょうど良いんれすわぁ!第一私なんかがそれを望むなんて場違いにもほどがあるぅ!何せ私、一回千空見殺しにしてんすよぉ?んな人間がそばにいる事自体間違い間違いぃ!本来ならば死んで詫びろってレベルの存在が無理して生きてんすよぉおお!ヒン、生存しててごめんなさい!」
「そんなこと言わないの。茉莉のお陰で私たちは幸せよ」
「はぅ、あるみさん達優しすぎでは?流石千空の民。みんなお優しい!いっぱいしゅき」
「あらぁ、嬉しいわね」
ゴキュゴキュと喉を鳴らし、茉莉はさらに酒を流し込む。
それを見ていたメンバーはみなにこやかに、されど内心ギラついてその話を掘り下げていく。
御隠居といってもまだまだ現役、クロムとルリをひっそりと見守っていたものもいれば子供が少なくなってしまった村の行末を心配していたものもいる。
そんな中で増えた千空と茉莉、そしてゲンは村の存続にも関わるであろう人間でもあった。
千空のいっている司帝国がどんなところであろうと血脈を残す事を考えれば人が増えるのは大いに歓迎だが、その為にすでに繋がっている縁を切ろうとは考えてはない。ましてやそれが村の飯事情を担っており、可愛がっている孫(ではない)ときたら無理強いはよろしくない。
その為彼らの関係性をそれとなく突いてみれば、あらあらまぁまぁと和かになってしまう話が発掘されたわけである。
掘り返されないわけがない。
そこ掘れワンワンばりに、人の色恋沙汰をつまみに話は進められていく。
「じゃあ、うちの孫なんてどうだい?」
「いやいやうちの方が……」
「いっそマグマもありでは──」
千空とはないと茉莉が発言した為に話に組み込まれていく嫁入り先候補、それに停止をかけたのも勿論あるみであった。
「こらこら、茉莉は千空が好きなのだから。そんなこと言っちゃだめですよ。ねぇ、茉莉。千空が一番好きなのよね?」
「へへっ、世界一好きぃ」
「ほら見なさい。この笑顔をさせるのは千空だけよ?」
にへらと目を潤ませてわらう茉莉の表情を見たものはもう何も言えなくなり、茉莉の千空語りに耳にタコができるまで付き合う羽目となったのである。
「あるみー、茉莉の奴起きてっから──って酒くさっ⁉︎まさか飲ませたのか⁉︎」
「ほんのちょっとよ?今ちょうど寝ちゃってね」
「……マジで爆睡じゃねぇか。動かすのも一苦労だし、このまま寝かせてても問題ねぇか?」
「えぇ、大丈夫よ。千空、頑張るのよ?」
「あ"ぁ?」
「ふふ、頑張りなさい」
あるみは語らない。
一部の村の住人が茉莉を嫁にと狙っていることも、その茉莉が千空しか見ていないことも、何も語らない。
※※※
オマケ
あるみとご隠居達と。
「金狼はどうだ?真面目だから合うだろう」
「銀狼がちょっかい出すんじゃないの?」
「マグマは?ちょっと仲良いだろ」
「あの子はほら、巫女様をお嫁にしたがっていたし──」
「やっぱり千空しかいないわよ。だってあんな幸せそうに笑ってたのよ?」
『それもそうか』
※※※※
もしも、もしもの話。
千空のお迎えが早かったらなってたかもしれない√。
『こらこら、茉莉は千空が好きなのだから。そんなこと言っちゃだめですよ。ねぇ、茉莉。千空が一番好きなのよね?』
『へへっ、世界一好きぃ』
『ほら見なさい。この笑顔をさせるのは千空だけよ?』
「──は?」
扉越しに聞こえたその会話に、千空は困惑した。
幼少期以降目すら合わせなかった人間が自分を好いているのだから困惑するしかない。
その後も千空のどこが好きだやら何が好きだやら、ダラダラと一方的に褒められ語られ。
誰が聞いても、そして自分自身が聞いても好かれているとしか思えない途方もない告白に思わず赤面したのは恋愛脳云々は関係はなく。
ただそのストレートに伝えられる言葉に変な動悸すらする気がする。
「──ふざけんなよ、オイ。そんな目ぇ、してなかっただろオメェは」
大樹が杠を見つめる目を千空は知ってる。
杠が大樹を眺めるその瞳を千空は知っている。
だから、そんな目を自身に向けたことのない茉莉の感情は間違いであれと。
「ふざけんなよ、ホントに……」
千空は思わず頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。
「──嘘だろ」
そして否定する。
彼女の言葉ではなく、思わず脈打ってしまった自分の心を、その感情を。
否定して、蓋をして。
「あ"ー、クソっ」
大樹の気持ちを僅かばかり理解してしまった自分を嘆いた。
茉莉さん、ある意味原始の世界じゃ有能なので嫁にと望まれててもおかしくないんじゃないかなとおもって……。