千空さんと凡人さん。番外編   作:燈葱

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ショートショート。
時間系列バラバラ。


その10。〜いっぱい食べる君が好き〜

 

 

 

 

 羽京とラーメン。

 

「──ング」

「え、大丈夫?羽京ちゃん」

「うん、問題ないよ全然。うっかりラーメンが詰まっちゃって……」

 

 嘘である。

 羽京は今し方とある会話に耳を澄ませ、その結果悶えただけである。

 

 茉莉が生み出した醤油を使いフランソワが作ったラーメンはそれはもう好評であった。勿論それは科学王国のリーダーである千空にも。誰しもが気に留めていなかっただろうが、知る人ぞ知る『唆るぜこれは』の顔になっていたのだから間違いない。

 そんな顔をした千空はフランソワからラーメンを受け取るとキョロキョロと誰かを探し始め、そしてフランソワに言われるがまま店の奥へと姿を消して行く。

 別に羽京とて盗み聞きが趣味なわけでもないが、気になるものは気になるのだ。

 それ故に耳を逸らしていただけで。

 

 そしてその結果。

 

『千空君、誕生日、おめでとう』

 

 の一言を聞く羽目となったのだ。

 

 そういえば千空の誕生日はちょうど一ヶ月前だったなとか、その日は行われたちょっとした集まりに茉莉は来なかったなとか羽京は思った。

 何も知らなかったから、そうとだけ思ったのだ。

 だがしかし、そこで爆弾を落としてきたのは目の前に座るゲン。彼は何気なしに「千空ちゃんってラーメンが好物らしいのよ♪」と笑って囁いたのである。

 

 千空はラーメンが好物+誕生日に来ない茉莉=ラーメン完成からの『おめでとう』

 

 どう考えてもプレゼントだよねコレ。

 

 羽京は思わず咽せた。

 

「ねぇ、ゲン。あの二人って仲悪かったんだよね?」

「んー、千空ちゃん達の事?まぁ悪かったらしいけど、今じゃそんな風に見えないよねぇ」

 

 本当に、そうは見えない。

 耳の良かった羽京だけが知り得た事実を他の誰かに言うことはしなかったが、内心話したくて仕方がない。

 

 羽京は今日も一人願う。

 誰かあの二人のことを語らせて、と。

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 陽とベーコン。

 

 ジュワッと焼ける音と、あたりに立ち込める脂の良い香りに思わず陽はうっとりとした。

 こんな世界に復活してしまってからは久しく口にできなかった濃厚な脂の味は、今となってはちょっとしたら贅沢品の域にとどまっている。

 

「はいどーぞ、熱いから気をつけてくださいね」

「おぉ、サンキューな」

 

 その贅沢品をにこやかに笑う少女(というにはやや大人びている)が作ったとなれば、それはもう鰻登りで人気になるだろう。現に司帝国時代、彼女が捕虜となっただけで生活は幾分か楽になり男女共に好かれてはいる。

 けれども当時、茉莉は決してその行為に甘えることはなかった。

 

 

 逃げ出そうと思えば、逃げられたんじゃねぇの?

 

 

 誰かに好かれるということは、味方ができることでもある。

 故に最終決戦間際ではほぼほぼ監視される事はなくなっていた訳で、信用も信頼もされていたのだ。陽とて逃げたいと懇願されれば散々悩んだ結果、逃していたかもしれない。

 

 しかしながら茉莉はそうはしなかった。

 たった一言、千空君がどうにかするから平気でしょ。

 と淡々と笑って告げて。

 

 確かに彼女の言う通りどうにかなってしまったのだ。

 司は殺されかけ氷月は捕まったが、どうにかなってしまった。

 

 熱々のベーコンを頬張りながらチラリと茉莉の方へ視線を向ければ、そこには旧科学王国メンバーがワラワラと集まっている。

 銀狼はあーんと口を大きく開けて茉莉に食べさせてもらい、それを真似してスイカやコハクも茉莉に向けて口を開ける。

 そして最終的にはあの千空の口にさえ、茉莉は躊躇いもなくソレを運んだ。

 

「──ったく、仲良すぎんだろ」

 

 あれだけ仲が良い仲間がいたからこそ信頼していたとも思えるし、信頼していたからこそ茉莉は逃げようとしなかった。

 そう説明されれば、まぁ納得はできる。

 出来やする──。

 

 そこまで信頼できる理由はなんなんだろうな。

 

 陽は仲睦まじい彼らを見ながら、その若さに憧れた。

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 スイカとチョコレート。

 

 

「ばれんたいんって、なんなんだよ?」

 

 旧人類組がチョコレートを頬張り喜ぶ最中、スイカは一人バレンタインの意味について考えていた。

 

 仲の良い未来も龍水へプレゼントしているし、杠も大樹へと手渡している。確かにチョコレートはいい香りのするお菓子ではあったが、バレンタインだからと渡す意味がわからなかったのだ。

 

「うーん、スイカには訳がわからないんだよ……」

「まぁ、コレはアタシ達旧人類の文化だったからね。それも日本特有な」

「そうなんだよ?」

「そうさ。バレンタインってのは女の子が好きな男の子にチョコレートをあげる日なんだ」

「……はっ!とゆーことは未来は龍水が好きで、杠は大樹が好きなんだよ⁉︎」

「好きには友愛とかも含まれてるからねぇ、一貫して愛してるの方の好き、じゃない事もある。ってなわけでアタシからスイカにチョコレートのプレゼントだよ!」

 

 スイカにも分かりやすいようにバレンタインの説明をしたニッキーは、ハートや星形に形どられたチョコレートをプレゼントする。

 甘くて美味しいよと言われてそれを食べたスイカは、その不思議な甘さにうっとりとした。

 

「美味しぃんだよ!」

「そうだろう?本当、千空様様さ!」

 

 もきゅもきゅとチョコレートを食べながら、スイカはふととあることを思い出した。

 

「ニッキー!バレンタインは女の子から男の子にチョコレートを渡す日、なんだよ?じゃあその逆は?」

「そうだね、海外だと男が花を贈るって聞いてるけど。それがどうしたんだい?」

「んー、何でもないんだよ!」

 

 モグっともう一つのチョコを食べて、スイカを先程見た記憶をしまい込んだ。

 

 

 茉莉が千空にチョコレートを渡すならバレンタインだけど、スイカが見たのは千空が茉莉に食べさせているとこなんだよ。

 それはきっと、バレンタインじゃないんだよ?

 

 だって男がバレンタインにあげるのは花。

 そうニッキーが言っていたのだから、あれは味見だったに違いない。

 

 

 スイカはそう思うことにした。

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 杠と──。

 

 

 ニコニコと杠は笑い、その二人の姿を観察する。側から見れば二人は気の知れた友人のように見えるのだろうが、杠からしてみればそれよりももっと良い関係に見えていた。

 

 復活組の中で3700年前の二人を知る者は大樹と杠しかいなく、その口から仲が悪かったと聞いたところで誰も信じやしなかっただろう。だって──。

 

「茉莉ー、なんか糖分持ってっか?頭がまわんねぇ」

「千空君は人に徹夜するなと言う割に自分ではするよね?はい、べっこう飴」

 

 パクりと、手から口へ運ばれるその行為を見れば仲が悪いと言われても信じられわけがない。

 もし仮にこれが現代であれば茉莉も食べさせるなんてしなかっただろうが、ここはストーンワールド。飴を包む紙なんてあるわけなく、どうせ手が汚れるのならば食べさせたほうが、食べさせられた方が合理的と互いの意見が一致しているのである。

 

「──ふふ、仲が良くていいですなぁ」

 

 杠はこの光景がとても尊いものだと勝手に思っていた。

 あれほど目で千空を追っていた茉莉が、今ではちゃんと目を合わせて会話をしているのだ。嬉しくない訳がない。

 

「このままずっと、仲良しでいてほしいなぁ」

 

 なんて願った杠の思いは、この先数年は続いていくこととなる。

 

 

 

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