※ご都合主義です!
本編とは別物とお考えください。
書くの楽しかった!
メンタリスト曰く、茉莉という少女の内面はそう簡単には理解できないものらしい。
何故ならば彼女はどこか人を遠ざける癖があるのだ。千空と幼馴染だと知ったところでそれが本当なのか怪しんだものだし、石神村の住人にもあまり馴染めていなかったような気もする。旧司帝国と合併した今でこそ表面上は他者と仲良くしているように見えるが、内心どう思っているかは不明。
彼女の目がどんよりと曇ってしまう地雷は思いもよらないところに転がっているし、対話するのもなかなか難しい。
故に、メンタリストあさぎりゲンにとって茉莉という少女はいまだに理解不能なのである。
だというのに目の前にいる少女はラボの机の下に隠れ、潤んだ瞳でゲンを見つめていた。
そして──。
「ヒッ、知らない人がいるよぉおおお!せんくタスケテぇぇええ!」
「え、何?え、え?ま、茉莉ちゃん!?」
泣き叫んだ。
思いもよらぬほど大声で、泣き叫んでゲンに怯えたのである。
ことの始まりは数時間前まで遡る。
帆船作りの作業中、マグマの運んでいた丸太が茉莉の頭にクリーンヒットしてしまったのが要因だったのだろう。
当たった瞬間茉莉は前のめりで倒れて意識を失い、そのまま近場にあったラボへと運び込まれた。当たったのが後頭部だったこともあり、万が一のためにその場に配置されたのが不幸にもゲンであったのである。
万が一なんてないよねと安易に考えていたゲンであったが茉莉が目覚めたところで声をかけると、顔を真っ青にして机の下に逃げられた。今度はどんな地雷を踏み抜いてしまったのだろうと思考しつつ、彼女へと声をかける。
大丈夫?気分は悪くない?
そんな相手を気遣った言葉だったというのに茉莉の顔はさらに青くなり、最終的には瞳に涙を溜め始めたのだ。
この時点ですでにゲンは気づいていた。茉莉の様子がおかしいと。
だが、こんなことになるなんて誰が思おうか。
「ヒッ、知らない人がいるよぉおおお!せんくタスケテぇぇええ!」
「え、何?え、え?ま、茉莉ちゃん!?」
普段では絶対他者に見せないであろう茉莉の涙でまず驚き、その言葉遣いにも驚愕するしかない。
まず茉莉は千空をくん付けで呼ぶし、このように叫んだりはしないのだ。
だというのに、これは一体どういうことだ?
「ま、茉莉ちゃーん?」
「ヒッ!なんで名前知ってるのぉ、こ、殺されるっ。バラバラにしてすてられるんだぁぁああ!」
「そんなことしないからジーマーで!?」
ヒン、と鼻を鳴らして頭を抱えて泣き叫ぶ茉莉の声にいち早く気がついたのは耳の良い羽京であった。
羽京は泣き声を察知するや否やラボへ突入し、ゲンへと冷たい視線を向ける。
その視線は一体何をやらかしたのだと問いかけていた。
「ゲン、君は……」
「違うから!俺は何もやってないから!信じてよ羽京ちゃんっ!」
「──じゃあなんで茉莉が泣いてるの?」
「俺もその訳を知りたいよっ」
あたふたとするゲンに向かってため息を吐きながら、羽京は茉莉に問いかけた。
まさかこの子が泣くなんて一体何をされたのだと若干ゲンを疑いながら、優しく茉莉に問いかけたのである。
「茉莉、ゲンに何かされたのかい?大丈夫?」
「ヒェっ、また増えたぁぁぁあ!もぅいやぁぁあああぁあぁぁあ!せんくぅぅううう!?ころされる!売り飛ばされる!内臓取られるぅうう!」
「ちょっ、茉莉!?」
「ひぇぇえええ!」
ズビズビと鼻を啜りながら泣き喚くその姿は、まるで別人である。
その声を聞きつけてまた一人と人は増えていき、そしてまた叫び泣かれ。茉莉がその度に千空の名を呼んだことによりギャラリーが十人近くになった頃、ようやく彼は姿を現せた。
「何やってんだテメェらは。さっさと仕事しろ」
「千空ちゃん⁉︎ジーマーでバイヤーな状況なんだけど⁉︎なんとかして!」
「あ"?」
「早く!」
ゲンに言われるがままラボへ足を踏み入れた千空が見たものは、机の下でブルブル震えながら泣く幼馴染の姿であった。
その姿に何処か懐かしさを感じつつも千空は彼女に近づき、そしていつぞやの記憶を辿って手を差し伸べたのである。
「コイツらは平気だ」
「ふぇ、ころさない?みうりされない?ひょうほんにされない?」
「ころさねぇし、身売りもしねぇ。標本なんか論外だ馬鹿。一体どこでその知識をつけてんだよオメェは」
「……おかぁさん」
「──あ"ー、あの人ならやりかねねぇか」
遙か彼方の記憶を思い返してみれば、茉莉の母親は彼女を心配するあまり過剰なほどに危険を教えていた気もする。そのせいで泣き虫に拍車もかかったのだが、このギャン泣きのおかげで迷子になってもすぐに気がついたものだ。
そう千空は脳内で思い出をリプレイしながら茉莉を机の下から引き摺り出した。
茉莉は一先ず千空の姿が見えたことに安堵しつつも、相変わらず知らない人間がいるからとその背中に隠れる。それを見ていたギャラリーは一体何がどうなっているのかわからず、千空に説明を求めたのである。
「コイツさっき頭打ったんだろ、そのせいか記憶が退行していやがるみてぇだな。手っ取り早く言えばストレスなんかで幼児返りすることあんだろ、そんな感じだと思え」
まぁ、茉莉の場合もストレスが引き金となってそうだが。
とまでは伝えることはしなかった。
「え、でもさ、千空ちゃん。まぁ幼児返り?記憶退行?だったとして、違くない?性格?」
「あ"?これが素だわ」
「嘘でしょ!?」
「ひっ」
「デケェ声出すなメンタリスト。茉莉がまた泣き出すだろっ──ってか泣いただろうが!ビビらすんじゃねぇよ」
ズビズビとまたしても泣き出した茉莉を抱き寄せ頭を撫でる千空の姿に、ゲンやその他ギャラリーは宇宙を背負った。
仮に千空の言う通り記憶が退行していたとして、茉莉がそんな性格だったとして。千空までも性格が変わるのは違くない?
そう誰しもが思ったのである。
そんな事を思われていると知らない千空は茉莉の態度から年齢を割り出し、大体5、6歳まで戻っていると判断した。
つまりは茉莉が千空を避けるようになる前、まだ後追いされていた時期である。そのため千空はその時をなぞる様に行動をしていたのだが、その真意を知るものはいない。
「ゲン、今からスイカと未来呼んでこい。アイツらなら問題なく対処できんだろう」
「ちなみになんでか聞いても?」
「年齢がちけぇ」
「なーるー。おーけーおーけー、連れてくるよぉ」
とゲンはスイカたちを呼びに行き、千空は茉莉に言い聞かせをする。
今から来るのは害のない奴らだから平気だと。そして何か困ったことがあったらそこにいる羽京に言えと。
茉莉は大人しく頷いては見たが一向に千空から離れるつもりはなく、スイカたちが来るまで抱きつき虫と化していた。
それを眺めていた羽京は二人の関係を微笑ましく思うと共に、何故これがああなってしまったのだと頭を悩ませたのである。
その後茉莉はゲンの連れてきた女児二人と花冠を作ったりお散歩に行ったりおやつを食べたりと遊び、その途中途中で千空に笑って報告をする姿が見受けられた。
何も知らずにそれを見たクロムは茉莉の頭がおかしくなったのかと疑うも、試しに炎色反応を見せればキラキラとしたお目目ですごい凄いと褒められていい気分になり。コハクとルリは女児三人がめっぽう可愛いと癒しとして眺め、頭を殴打したマグマはビビられ泣かれながらも怒ってないから平気よ?と許されて。
その日はどの作業場にいってもほんわかとした雰囲気が流れていた。
ただし茉莉は龍水の笑い声と欲しい!発言に対しては何回聞いても半泣きになり千空の元に駆け寄り、そして千空も躊躇いもなく茉莉を腕の中に隠すまでがデフォとなったのは言うまでもないだろう。
「──ねぇ千空ちゃん」
「んだよ」
「どうして昔?の茉莉ちゃんはこんなに素直で可愛いのに、今の茉莉ちゃんはあんなに大人びてるの?」
「んなの俺が知るわけねぇだろ」
「ふーん、じゃあ、いつから今の茉莉ちゃんになったの?」
「……7歳ん時だな」
「そっかぁ──」
何があったんだろうね。
ゲンは小声で疑問を口にしたが、答えは返ってこなかった。
太陽が傾き始めた頃には女児三人は砂埃に塗れ、杠たちを女性チームが風呂と着替えを手伝おうとするも茉莉は嫌々と逃げ回る。
それは母親からいくら同性でも無闇矢鱈に肌を晒してはいけませんと教えこまれていた為でもあったが、そのせいで皆を驚愕させる問題が起こってしまったのである。
「茉莉、千空とお風呂に入るもん!いつも一緒に入ってたもん!」
「──千空、くん?」
「昔の話だわ。茉莉も我儘いわねぇでスイカたちといってこい。杠たちなら大丈夫だ」
「……溺れない?ししゃそせーしてくれる?」
「溺れねぇし、心肺蘇生な」
「──わかった!おねーさんたちと一緒に行ってくるね!」
バイバイと手を振る茉莉に千空も振り返し、背後でニヤニヤ笑っているゲンを小突いた。
「いったーい、千空ちゃーん!」
「──文句あんなら聞いてやる」
「えぇー?俺はただ、千空ちゃんてば優しいなってぇ♪」
「……中身6歳児だから仕方ねぇだろ」
「本当にそれだけぇ?」
「あ"?他に何があんだよ」
千空からしてみれば、見た目は変わらずも中身は六歳児の慣れしたしんでいた茉莉でしかない。
けれどそれを知らない者達からすれば、千空が世話を焼いている様にも見える。頭を撫でたり抱き寄せたり、そんなこと普段の千空ならしない行動なのだ。それ以上の何かがあると怪しんでもおかしくはない。
案の定風呂から出てきた茉莉は当たり前の様に千空の隣に陣取り夕食を食べ、千空の腕に抱かれてスヤスヤと眠る。
六歳児の茉莉にとって知らない人しかいない世界で、唯一安心できるのが千空の側だったのだ。そしてそれを理解している千空もまた、それを良しとしていた。
「うむ。千空、茉莉はこのままでいいのでは?めっぽう可愛いくてたまらん」
「何言ってんだ、馬鹿か。マンパワーがまだまだ足りてねぇんだよ。早く戻ってもらわねぇと困んだよこっちは」
「でも、めっぽう可愛いぞ?」
「確かにお可愛いが、それとこれとは別だ」
そう言って頭を撫でる千空をみて、コハクはニンマリと笑う。まさか千空もそう思ってまでいるとは思っていなかったのだ、笑うしかない。
「ふふ、千空も可愛いところがあるではないか」
「意味わかんねぇこと言ってる暇あったら働けー」
「まぁいいだろう、そういうことにしておこう」
たとえ中身が六歳児だとしても、そんな愛しげな目で人を見れるのだなとコハクは一人思ったのである。
そうして日が落ち辺りが寝静まった頃、千空もまた茉莉を腕に抱いたまま瞳を閉じた。
明日もこのままであったのならば、どうにか元に戻す術を探らなくてはならないだろう。
けれど、このままで良いと願う気持ちも少なからずあるわけで。
「んなこと、あっていいわけねぇのにな」
珍しく、何も不安なんてない様な顔で眠る茉莉の頬を一撫でして、千空もまた眠りについたのであった。
翌る日、茉莉は声にならない声をあげ森へ駆け出していく。
千空の枕元にはご迷惑おかけしましたと書かれたメモ書きが一枚。
その後二週間、茉莉の姿を見たものはいなかった。
「モウコロチテ」