茉莉は目の前で唸る南とニッキーを前にして首を傾げた。
一体何があったのかと尋ねてみればどうやら杠の元気がないらしく、どうにかして彼女の元気を取り戻したいとのこと。
「でもなんで元気ないの?」
「んー、元気がないっていうより集中できてないというか……」
「ほら、杠って物作りが好きだろ?最近好きなものが作れてないからねぇ」
「なるほど。じゃあ好きなもの作らせてあげればいいのでは?」
「簡単に言ってくれるねぇ。杠にはみんな助けられてるけど、一人だけ特別扱いはできないだろ?だからどうにかして都合つけられないか考えてるんだよ」
「今がハロウィンとかクリスマスだったらみんなでコスプレしちゃいましょ!とか言えるけど、流石に今は……」
んー、と三人で頭を悩ませて良い方法がないかと考える。
とそこで、前世オタクの茉莉の知識が不意にその言葉を吐き出したのである。
「じゃあ、バニーは?」
「──バニー?バニーってうさぎのことかい?」
「もしかして、バニーガールのことかしら?」
「あー、今7月終わりじゃん?んで8月2日は8と2でバニーの日ってのがあるとか聞いたことあるようなないような?」
あ、これオタクだけの知識か。やっちまったなと茉莉が失態に気付いたところでもう遅く、ピタリと動きを止めるニッキーとは反対に南はにっこりと笑う。彼女は面白そうね!と杠の元へと颯爽と駆け出していった。
「ちょっ!南⁉︎」
「あー、どんまいニッキーちゃん」
なんて焦るニッキーに声援を送る茉莉であったが、のちに語られることになるバニーの日の一因になってしまったのである。
そして来る8月2日。
その日デパートセンクウの前には復活組、石神村の民関係なく女だけが集まっていた。無論、茉莉もコハクとルリ、スイカに逃げ道を塞がれて連行されている。
では何故女だけが集まったか、それは単純に杠が可愛い服を作りたかったからでもある。
別に男にスーツタイプを着せても良かったのだが、筋肉質な男どもが多い分可愛いは作りにくい。
ゲンや千空、銀狼などはギリいけただろうが、それ以外は少々厳しいものがあり、暑苦しいものは見たくないし男はやらなくてもいいならとバニーの日を開催して良いとゲンからOKがでたのも理由の一つだろう。
「じゃじゃーん!沢山作っちゃいました!ワォ!」
「──うわぁー、流石杠ちゃんだぁ」
「うむ!これを頭につけるのか?」
「うさぎの耳?を、ですか?」
「そうよ!一人だと恥ずかしいかもだけど、よーく考えたら布面積は今と変わらないし!せっかくだから楽しみましょう!」
バニーガールを楽しむ、とは?
流石パリピの考えはわからない。茉莉は宙を仰いだ。
きゃっきゃと着替えるキラキラ三姉妹はセクシー系、コハクとルリは可愛い系。
恥ずかしがり屋なニッキーとスイカはワンピース型を。
そして当たり前のように南はバニースーツと呼ばれるものを着ており、茉莉はさらに混乱した。
パリピ達にコスプレの概念はないのだろうかと。
まぁみんながやる気なのだから一人だけ何もしないのもアレかと、茉莉も一応頭にウサ耳カチューシャをつけて逃げ出そうとする。
だがしかし、それを許す杠ではなかった。
「茉莉ちゃん!茉莉はこっちね!テーラージャケットも付けたから!似合うと思うの!」
「ア、ウン、アリガトウ」
もう逃げられないと、茉莉は悟った。
着替え終わった大量のバニー達が外へと放出されると、それをそっと、ではなく。嬉しそうに観察してくる野郎ども数名。
銀狼は金狼に縛られているし、復活組はどこかよそよそしい。
ニヤニヤと笑っているゲンは手を振りながら杠に近づいた。
「いやぁー、みんな素敵だね♪男性陣のやる気あがっちゃうかも〜!」
「ふふ、実はゲンくんにも用意してありますぞ?」
「え"、俺は耳だけでいいかなぁ?」
着替えるのが嫌なのであろうゲンはその頭に白黒の耳をつけ、杠に手渡された箱を持って男性陣の元へと戻っていく。
そして女だけではなく、男の頭にも可愛らしい耳が生えた。
恥ずかしがるものもいれば、楽しむものもいて造船作りの良いストレス発散にはなっただろう。
現に杠は楽しそうだし、いつもと違う服を身につけた女性陣も大満足。それを見ている男も大満足。良いことずくめでもある。
はっはーと高笑いする龍水(黄色の耳)は皆美女だと叫び、それに従うフランソワ(黄土色の耳)。呆れ顔の羽京(帽子に垂れ耳)に楽しそうになんだコレ!とはしゃぐクロム(黒耳)。カセキさえも白耳をつけて楽しんでいる。
茉莉は視線を流しながら目的の人物を探し出す。それは勿論、彼女の推しである千空だ。
ようやく視界に収めることができた千空の姿だが、その頭に耳は生えていない。
内心ウサ耳千空を見れるのではとはしゃいでいた茉莉は、うっかり眉を顰めた小言を吐き出した。
「──千空君だけズルくない?」
「──あ"?オメェだって着てねぇだろ」
「着てるよ、中に」
茉莉の小言を拾った千空は彼女に反論し、茉莉はきちんと着てることを主張する。
茉莉は確かに着てはいるのだ。
テーラージャケット付きのバニースーツを。
ただその上にいつもの服を着ているだけで。
茉莉は徐に自分の頭についていた耳を外すと、背伸びして千空の頭にそれをのせる。残念なことにウサ耳は千空の髪の毛の中に埋まり、存在が隠れてしまった。
「なるほど、こうなるわけか。ならしょうがないね。……私、仕掛けてた罠見回らなくちゃだから、一旦離脱するね?」
「あー、いってらぁ」
「いってきまー」
なんとなく茉莉が逃げたのだと察した千空は何も言わずに彼女を送り出し、茉莉もまたそれに甘えて狩りへと向かった。
パリピの仮装大会にはついていけん。
それが茉莉の心情なのである。
石世界の仮装大会を抜け出した茉莉は夕方まで時間を潰し、日が落ちる手前で皆の元に戻った。相変わらずウサ耳をつけた男女が楽しんでいるが、ほとんどのものが既に着替えを済ませている。
コレならもう脱いでも大丈夫だろうと茉莉は判断し、急足で自身のテントへ向かった。
「あっつーっ」
ぱさりと上着を脱げば、テーラージャケットとバニースーツに早替わり。けれど鹿の皮ではなく麻布でできたスーツは吸収性がよく、ややしっとりして張り付きはするが着心地は悪くない。腰元にある紐で縛り止めている為、コルセット代わりにもなるし使い方次第で腰痛に効きそうだとも茉莉は考えた。
「上だけの作りにして貰えばボディースーツにできそうだなぁ、杠ちゃんに相談しよ。なれない作業で腰痛めてる人いそうだし」
とそんなことを考えていれば、テントの幕が開く。
「茉莉、帰ってっか?」
「お邪魔ー♪って、メンゴ⁉︎お着替え中⁈」
「んー、平気平気ー。で、何よう?」
突然の訪問者に内心驚いている茉莉はいつも通りの笑みを見せ、二人の話を聞くことは忘れない。淡々と今後の仕事の話をして数分もしないうちに二人は帰っていき、思わず安堵の息を漏らした。
本音を言えば、この姿を千空に見せたくなかったのだ。
茉莉曰く、誰がこんな貧相な体を見せたいと思う?つるぺたやぞ⁉︎
とのこと(余談であるが、茉莉はまだ貧乳のステータス性を知らない)。
故にグラマー体型の多いストーンワールドでは劣等感が凄まじく、その体型を隠したがるのである。
しかしながらそんなこと知ったこっちゃない某科学少年は再度テントへ足を運び、まだ用があるのと首を傾げた茉莉の頭に薄緑色のウサ耳をつけた。
「預かってたの返すわ。それに、テメェはそんなんなくてもウサギだわ」
「へ?」
「さっさと着替えとけよ、いくらなんでも汗かいた後だと夜は冷えっぞ」
「おー?」
グシャリと髪をひと撫でした千空の背中を眺めながら、茉莉はその言葉の意味を深々と考える。
なくてもウサギとは?なにゆえ?
考えて考えて、答えは見つからなかった。
※※※
オマケ
ゲンと千空。
「バイヤー、ジーマーでバイヤーなんですけど⁉︎茉莉ちゃん細すぎじゃない⁈もっといっぱい食べさせないと‼︎」
「アイツは見かけの割に筋肉あんだよ、心配すんな」
「え、そーなの?でもまぁ確かに、俺たちより体動かす仕事してるし?」
「鹿くれぇなら担いで帰ってくっからな」
「確かに」
陽と千空。
「千空!この世界で作れるか⁉︎ボンテージを‼︎」
「作る暇ねぇよっ‼︎」
南と茉莉。
「今日こそ写真撮らせてもらうわよ⁉︎」
「この姿だけ後世に残ってたら、一生の笑いもんだろうなぁ。張り切ってバニー着てるwwって言われるんだろうなぁ」
「うっ……!しょうがないわねぇ。今回は諦めてあげるわよっ!」
「アザス」
千空と杠
「──手芸部」
「なんだいね、千空君」
「悪りぃが、バニーは禁止だ。野郎どもが働かなくなる」
「えぇ!毎年やろうと思ってたのに!」
「布面積ひろくすんなら、まぁ、いいが。バニースーツはやめてくれ」
「……みた?千空くん。茉莉ちゃんみた?」
「──面積広げろ」
「しょうがないなぁ!」
茉莉=ウサギ。
臆病、警戒心が強い。ちょっとしたことが気に触る。
穏やかな落ち着ける場所が必要。