千空さんと凡人さん。番外編   作:燈葱

18 / 33
頂いたネタ、茉莉を吸う千空を書かせていただきました!
時間軸 司冷凍後わりとすぐ。


その14。

 

 

 

 眠ぃ。

 

 それが千空の思考を九割占めていた。

 司が死ぬ前に冷凍庫を完成させコールドスリープさせることも無事できたが、それが全てうまくいくかはまだわからない。

 第一に司を石化させる石化装置がこの地球上にあるのかさえ分からないし、その使い方も憶測の域にすら達していないのだ。表面上平気な顔をしているが、心の奥底を曝け出してしまえば不安でしかたなかった。

 

 これが最良だったのだと何度も自分に言い聞かせては目を閉じるも、夢の中の司が目覚めることはなく只々冷たい箱の中でその時を待つだけで。

 千空もゲンも未来もいなくなったその先で、一人復活する日を待つ司の姿が見えてしまう。そして仮に目覚めたところで知人も妹もいなくなった世界だとしたら、司が感じてしまう絶望とは如何程だろうか。

 そんな考えが思考の大半を奪いとってしまえば、いくら千空であってもろくに眠れない状況が作られてしまうものだ。

 

 眠ぃ。

 

 ぼぅっとする頭で皆が寝静まった後もクラフトを続け、体が限界を迎えるのを待つ。

 こんなことを繰り返していればいずれ体調を崩すことは千空も理解していたが、そこまでしないと上手く寝付くことができなかったのだ。

 

「…………お仕事中?」

「あ"ー、まぁな」

 

 そんな中、ぴょこんとラボに現れたのは茉莉だ。彼女も彼女ではっきりとした隈を作っているが千空より思考はまだマシで、その手には白湯の入った湯呑みが二つ握られている。

 茉莉はラボへ足を踏み入れるとテーブルの上を軽く片付け、椅子に座って湯呑みをおく。そして休憩しようともちかけた。

 

「本当はね、ゲン君に頼まれたんだ。千空君をどうにかして寝かせてくれないかって頼まれたんだけどね」

「まぁ、メンタリストが考えそうなこってぇ」

「でもさぁ、誰だって寝れない日もあるからねぇ。だから休憩でいいかなと」

「……あ"ぁ」

 

 少なくとは茉莉は千空と同じ行動をするタイプの人間であった。

 ギリギリまで働いて、気絶するように眠る。それができてしまう人間だからこそ千空の行動を咎める事はできない。

 それに何より何となくだが茉莉は察していたのだ。何故彼が寝れないかを。

 

 少なくとも司の命を奪ったのは千空で、復活させる目処がたっていない。

 そりゃ寝れねぇよ。二十歳前の子供が背負うべきものじゃないもの。

 

 茉莉は石化装置が見つかることも司が目覚めることも知っていたが、千空はそうではない。故にその不安から睡眠障害が起こっているのだろうと推測した。

 無論メンタリストことゲンも、何となくだが察してはいた。だが千空の心情に入り込むならば幼馴染である茉莉が適任であろうと任せた次第である。

 

「今日はね、星がいっそう綺麗に見えるよ」

「あ"ぁ」

「それでね、蛙の声が聞こえ始めた」

「ん」

「もうすぐ、菜の花が咲くね」

「おぅ」

 

「季節はいつだって巡るよ、何があっても」

「──そうだな」

 

 淡々と茉莉は話す。

 どうでも良い事に聞こえたそれは、いまの千空には感じられなかった事だった。

 

 疲れた、ねみぃ。

 

 そんな会話の中ようやく体の疲れを認知した千空の脳は合理的スイッチをオフにし、ゆっくりとだが思考が歪んでいく。

 襲いきた睡魔に頭はフワフワとして、千空は何も考えずに茉莉の肩に顔を埋める。彼女は彼女で背後から千空が落ちてきた事に驚きはしたが、ようやく睡魔が訪れたのかと安堵の息をもらした。

 

「寝床までいけるー?」

「あー、まぁ」

「しゃあないな、適当に繕ってあげるよ。座って待ってて」

 

 肩にもたれる千空を一旦退かし、茉莉はラボを出る。そして数分もしないうちに戻ると床に寝具を敷いた。

 

「ほれ、敷いたから」

「──助かるわ」

 

 そうして千空はゴロンと寝具に横になる、茉莉を連れて。

 

「へぁ?」

「──スゥ」

 

 千空は背後から茉莉を抱きしめてその匂いを嗅いで船を漕ぎ、茉莉は状況を理解できずに思わず宇宙猫になっていた。

 

「せ、千空さーん」

「──さみぃ」

「あ、ゆたんぽですね、ハイ」

「ん」

 

 すぅっとまた深く呼吸をされた茉莉であっだが、すぐに背後から寝息が聞こえてくればその行為に意味などなかったのだと思い込んだ。

 

 しかしながら実際は千空は茉莉の匂いを嗅いだし、そのおかげで安眠できたともいえる。

 幼少期は共に過ごしていた二人だ、一緒に寝たことも何度もある。故にその匂いは千空にとって幸せを思い出すものだったのだ。

 それになにより千空は茉莉の匂いが好きでもある。どんな香りかと聞かれれば頭を悩ませるがともかく落ち着く匂いであって、それを間近で感じていれば悪夢は見ないだろうと思えるほどに。

 

「──ワタシハマクラ、ワタシハマクラ。おやすみなさい」

 

 千空の思いなど知らぬ茉莉は、ただ彼の安眠のために抱き枕に徹したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 オマケ

 

 

 

 翌る日の早朝、先に起きたのは千空だった。

 

「……ライナスの毛布かよ、テメェは」

 

 そう言いつつも茉莉を嗅いで、珍しくニ度寝を開始。

 ゲンが起こしに来た頃には茉莉はいなかったとだけ伝えておくとしよう。

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

「思いの外、爆睡できてしまった自分が怖い。あれかな?いい匂い付きの安心毛布かな?」

 

 なんでパイセンはあんなにいい匂いなんですかね?

 おしえて、ゆず◯もーん!

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。