時間軸。
石神村付近に住んでる辺り。
それは唐突に起きた出来事であった。
「ヒッァァアァアアア」
「っ何が起きたのだ⁉︎」
村の住人が毎日の仕事をこなしている最中、上がった一つの悲鳴。周りで作業しているメンバーは何があったのかと確認し合い、そして原因を突き止めようとあたりを伺った。
「ご、ごめんなんだよ茉莉。そんなに驚くとは思ってなかったんだよ……」
「ウン、私こそごめんネ」
「……茉莉、だと?」
その声の主が誰だかわかると、それはそれで周りは騒ついた。
何せあの茉莉だ、いまの今までそれほど驚いた姿を見せたことはない。千空のクラフトにもそれが当たり前だと言わんばかりの顔をしていたし、余程のことが起こってもいつだって冷静さを保っているのが皆が知るところの茉莉だったのだ。
だというのに、先ほどの悲鳴の元が彼女から発せられたとすれば何が原因だったのかと気になるわけで。
「茉莉ちゃん、何があったの?」
「スイカが、スイカが悪いんだよっ」
「いや、スイカちゃんは悪くないから。私ただ驚いただけだで、そのゴメンネ」
内心興味津々のゲンやひっそり聞き耳を立てる金狼銀狼、千空までもが一旦クラフトの手を止めてまでスイカが小声で語ることの有りさまに耳を傾けた。
ことの始まりはスイカ達お子様集が山に素材集めへ行ったことが発端だといえる。
これもまたクラフトに必要なものを集める為の必要不可欠な集団行動ではあったのだが、何せ年齢が低い。途中から興味があるものに気が逸れてしまうわけで。
スイカがそれを見つけたのは偶々であった。そしてそれを捕まえて、誰かに見せようと思ったのも偶々で、村に帰ってきて早々にあったのが偶々茉莉であっただけで。
そこに悪意はない。
大事なことだから二度と宣言しよう。スイカに悪意はない。
むしろ『見て見て!凄いでしょ!』と子供ながらに自慢するつもりで、スイカは茉莉に見せたのである。
その、巨大なバッタを。
スイカの両手でギリギリ運べるほどの大きさなバッタは、その手が開かれた瞬間茉莉の胸元へと飛び込んだ。
その大きさはおおよそ八センチ。バッタにしてはデカい方である。
そこで冒頭に戻る。
「茉莉はバッタが苦手だったのか?」
「──克服はしたんだけどね、貴重なタンパク源だし。でも、いきなり対面するとまだ心臓が破裂するかもしれない」
「それほど、だったのか……」
「ってか、タンパク源って茉莉ちゃん」
「何言ってんのよゲン君。村にも司君とこにも狩りができる人間がいたから食べなくて済んだだけで、肉が取れないなら昆虫食一択だよこの世界じゃ」
「ジーマーで?俺も流石に昆虫食はリームーだから助かったぁ!」
ほっと一息ついた茉莉はいまだに胸元を押さえてソワソワとしていて、昆虫食を思い浮かべたゲンは顔を青くする。
「流石に現代組に昆虫食はきちーだろうな」
「私も蜂の子から入ったし、蝉もギリいけるようにはした。けどイナゴはよっぽどのことがなければ無理だったよ。アイツら怖いもん」
「……俺としてはテメェにもまだ苦手なもんがあったのに驚きだがな」
「アイツら顔面に向かって飛んでくるし、見た目からもうダメ。──いるってわかってれば何とかなるレベルには克服したんだけどね」
駄目なもんは駄目なんだよと茉莉は空を仰いだ。
「茉莉、本当にごめんなんだよ。苦手だなんて知らなかったんだよ……」
「大丈夫だよ、スイカちゃん。私こそ大声あげちゃってごめんね。でも、大きいのいたね、凄いねぇ。今度その場所教えてくれる?なるべく心して行くようにするから」
「うん」
「そうしたら、スイカちゃんのおかげで私の心臓は保たれるね。ありがとう」
服の裾を握りしめるスイカの視線に合わせて茉莉はしゃがみ込み、そしてニコリと笑う。
彼女とてスイカが悪気があってやったわけじゃないと理解している。だからこそ責めることはせず、逆にその情報を、利用することに決めたのであった。
「でもまぁ、次からは一言あると嬉しいな」
「わかったんだよ!」
※※
オマケ。
スイカと茉莉、とゲン。
「茉莉ー、今日はおっきいカエルを見つけたんだよー!」
「おー、なかなかのサイズだね。食べがいありそう」
「……カエルって美味しいんだよ?」
「水っぽいけど鳥みたいでいける」
「え、ちょっと待って茉莉ちゃん⁉︎カエルを食べるの?ジーマーで⁉︎」
「もう食べてるでしょ?」
「──いつ⁉︎」
金狼銀狼とコハク。
「……銀狼、貴様何を企んでいる」
「な、何も企んでなんかいないよ!?」
「ではその手の中を見せてもらおうか」
「あ、あぁああ!せっかく捕まえたのにぃ!もっかい茉莉ちゃんの驚く顔見たかったのにっ!」
「このゲスめ」
「銀狼、お前というやつは──」
「だって見たいじゃん!茉莉ちゃんの驚く顔!レアじゃん!」
「ゲスめ」
千空さんと茉莉ちゃん。
「そういやテメェ、虫全般無理だったな」
「うん」
「トンボも蝶も、ダンゴムシも」
「……うん」
「蟻はギリセーフだったけど触るのはアウト」
「よくご存知で」
「よく生きて来れたな?」
「ほんとそう」