軸はフランソワ復活以降らへん。
両手いっぱいには花束を、頭には花冠を。
目の前で笑っている石神村の子供達とご老体に、茉莉はクエスチョンマークを飛ばしていた。
「お花が綺麗に咲いていたの、もらってくれるかしら?」
「冠はスイカ達お子様チームが作ったんだよ!」
「うぅん?ありがとう?」
何この人ら、可愛いかよ。
茉莉は内心を悟られぬようににっこりと笑い、それらを身につけたままその場でパンを焼く。現代であれば衛生面が云々煩いであろうが、ここは原始の世界ストーンワールド。花を持ってようが冠をかぶってようが問題はないのである。
にしても何故いきなりこのようなものを渡されたのかと疑問に思うわけでもあるが、ニコニコ嬉しそうに笑う人達を前にしたらいちいち聞く気にもならないもので。
「オホホー、茉莉ちゃんここにいたの?コレあげちゃう」
「あ、ハイ?ありがとう?」
カセキから手渡されたのはガラス製の花瓶。無色透明ではなくて、わずかに差し色が入っておりそれがまたキラキラと美しい影を作り出す。折角もらったら花束であったが花瓶がないやと考えていた茉莉にはちょうど良いもので、すぐさまそれに移し替えテーブルに飾った。
そうしていれば今度はジャスパーとターコイズがとれたてのハチミツを、キラキラ三姉妹からは綺麗な腕輪を。コハク達一家からはお揃いの色をした服を貰い受けることとなった。
「にしても、なんで?」
花瓶に花束に花冠etc。
今日は色々ともらう日だなと茉莉は首を傾げた。
そしてその数刻後、作りたての塩パンをお礼を兼ねてとモグモグとみんなで食べていると、今度はゲンが茉莉の前に現れたのである。
「茉莉ちゃーん、今時間あるぅ?」
「ま、あるけど?」
「じゃあこっちにきてくれる?」
「うん?」
なんの用事だろうとゲンについていけばそこには杠を筆頭とした手芸チーム(女性陣)がおり、可愛くパッケージされた麻袋が手渡された。
「えぇっと?」
「コレね、みんなで作ったの!」
下着を!
コソッと耳打ちされたその言葉に思わず目を丸くして驚き、開けていいかと許可を取り中を確認する。そこに入っていたのは念願の下着類で、ブラはないがお役にしか立たない品物であった。
「もらっていいの?ドラゴで買うよ?」
「いいのいいの!もらって欲しいんだから!」
杠の言葉に同調するように頷く手芸チームの面々に茉莉を頭を下げた。
「次は羽京君達のところに行ってね!」
「ん?え、なんで?」
「行けばわかるよ!」
そう言われてしまえば行かないわけにも行かず、ゲンと共に羽京のもとへ足を運ぶ。するとそこには羽京を中心としたパワーチームが一つの小屋の前に集まっていたのである。
「……なんの集まりで?」
「ははっ、変な集まりではないよ。前、解体小屋欲しいって言ってただろ?だから僕達で作ったんだけど、使ってもらえるかな?」
「……作ったの、わざわざ?」
「まぁね。ここなら水場も近いし開けているし、使い勝手よさそうでしょ」
「小屋の中は茉莉の好きなものを設置していいからな!必要なものがあれば俺がとってくるぞ!」
「あー、うん。そしたら後で加工用の塩とかは大量に欲しいかも?──でも、なんで?」
「君が欲しがっていたから、かな?」
「うん?」
全くもって、訳がわからん。
ひとまずお礼を言っておくと大樹は此処に解体に必要なものを運んでおけばいいのだな!と走り去ってしまうし、羽京をそれを眺めながら次はレストラン『フランソワ』へ向かえと茉莉に告げる。
茉莉はそれに頷くも理解などできるわけもなく、またしてもゲンと共に言われるがままにフランソワの元へ。
そこにいたのはニッキーと南、未来達で、香ばしい匂いがあたりに立ち込めていた。
「ようやく来たわね!」
「コレをもらってくれるかい?」
「ん?これは──」
皿に盛り付けられていたのは可愛らしい形のクッキー。甘味もお菓子も少ないこの世界では贅沢品に分類されるものでもある。
だというのに、こんなに沢山どうして用意したものか。
「茉莉様はよく身体を動かす仕事をされていますから、携帯食はご入用かと」
「なるほど?でも私一人じゃ食べきれないからみんなで食べよ?」
「ええのっ⁉︎茉莉ちゃん、一緒に食べよう!」
「あ、ずるい!私も!」
「ちょっと南、あんたはもう少し落ち着きな」
「だってクッキー食べたいんだもの、ね、未来ちゃん」
「そうやね!」
え、なにこれお可愛い。
茉莉はまたしても周りに悟られぬようににっこりと笑った。
ニッキー達とのお茶会が終わればお土産にと包まれたクッキーをもらい、彼女はなんだかなとさらに頭を悩ませる。
今日は何が何だかわからない出来事が多すぎると考えている茉莉をゲンは優しげな眼差しで見つめ、小声でつぶやいた。
「みーんな、茉莉ちゃんには感謝してるのよ」
「──へ?」
「ほら、司ちゃんのとこってさ武力重視だったじゃない。だから色々と不安が多かったってわけ。家というにはお粗末な作りの小屋に、味気のない食事。狩りだってやったことなかった人間が大半で、解体で吐いてた子もいるくらいだったのよ」
「ほぉん?」
「石神村の人たちも茉莉ちゃんがいっぱい働いてくれたの知ってるからねぇ、何かしたいってずっと思ってたみたい。だから、ね」
「……別に、誰かのためにしたことじゃないのに」
「それでも、みぃんな、茉莉ちゃんにお礼したかったんだって。でもお礼っていったら受け取らなかったでしょ?」
「まぁ、うん」
誰かのためにではなく、全ては自分のためだけに。
その行為が回り回って周りを助けていただけで、助けたくてやったわけじゃないと茉莉は違うという意味を込めて首を振る。だがそれはゲンには伝わらなかったようだった。
「羽京ちゃんも相談受けてたみたいでねぇ、どうせならまとめてやっちゃえって。大成功だったみたいでよかったよ。……でもまぁ、母の日をやりたいって相談受けたみたいだけどっ」
「──私に大きな子供はいないんだけどなぁ」
「それくらい、感謝してるってことじゃないオカアサン」
「やめてくださる?」
声をあげて笑い出すゲンとそれをにこやかな笑顔で眺める茉莉。ひっそりと二人を観察していたその他メンバーは計画がうまく行ったと皆で笑いあって喜んだ。
情けは人の為ならずというが、まさかこんなことで感謝される日が来るとはと茉莉は花冠を撫でた。誰かを助けたと思いたくはないが、自分の行動で誰かが助かっていたのならば悪い気はしなかった故に。
「感謝は受け取るけど、オカアサンはやめてって伝えてもらえる?」
「オッケーオッケー、伝えとくよ♩。でもさぁ、この世界では最初にできた記念日が母の日とかっ」
「ゲン君、笑いすぎでは?」
「メンゴメンゴ!」
「悪気ないやつだなコレは」
そう言いつつ茉莉も笑った。
その日は茉莉にとっても、とても穏やかな日になったのは間違いない。
※※
千空と茉莉。
「ってことがあったんだけど、オカアサンは酷いと思う」
「クク、いいじゃねぇか。そんだけ頼りにされてるってこったろ」
「んー、そうすると千空君にも何かしなければならないのでは?」
「俺はマンパワーがありゃあいいからな、まぁもらえるもんがあんならお有難く頂くがな」
「──となると、千空君が父だな。ヨシ、父の日を開催しよう」
「マジでやめろ」
「いきなりのマジトーンもやめて?」