いただいた、狭い箱閉じ込めネタにチャレンジ!です。
時間軸、宝島後。アメリカ大陸前
※※
「──悪りぃ」
「……イヤ、センクウノセイデハナイノデ」
辛うじて人間二人が入れる箱の中、茉莉と千空はプルプルと震えてそこに閉じ込められていた。
元はいえば茉莉が一人になれる場所を探していたのが事の始まりといえるかもしれない。
船旅が始まってからというもの、どこにでもある人の目に茉莉は耐えられなくなったのだ。本土にいた頃ならばテントの中に篭ったり森に逃げればなんとかなったものの、船内ではそうはいかず。寝る場所まで決まっているのだからストレスを感じやすい茉莉にとってはある意味簡易地獄であったともいえる。
そこでフラフラと船内を彷徨い、ようやく見つけたのはラボカー置き場にある長方形の木箱。中には備品が少し入っていたが、それを整理すれば人一人くらいは余裕で入れそうなのものであった。
これならここで寝れんじゃねぇ?と考えついた茉莉はすぐさま行動に移し、千空に許可を取り備品をラボカーに収納していく。
そうして綺麗になった箱の中にころんと寝転び蓋を布を挟んで軽く閉めれば、あっというまに暗闇の安息空間の出来上がりだ。
「コレはなかなか……」
落ち着く。
誰の視線も感じないその場所は、とてつもなく良いものであった。
その箱を発見してからというものスピスピと鼻を鳴らして眠ることもあれば、少し疲れた時に逃げ込んで心を落ちつかせる為に閉じ籠ったりと使用用途は様々で、ただそこに入れば茉莉の精神に平穏は訪れるもので。
その日も当たり前のように真夜中にそこに忍び込んで夜を明かそうと彼女は目論んでいたのである。
だがしかし、状況なんて様々な理由で移り変わるものであり、その日はラボにたまたまいた千空と居合わせることとなってしまったのだ。
「──テメェ、またそこで寝んのかよ」
「まぁ、寝やすくて?」
「そんなに寝やすいか──ってちゃっかり寝床仕様にしてんじゃねぇか」
「その、スマソ」
箱の中には寝ていても痛くならないように布地が敷き詰められていて、本来なかった空気穴まで開けられている。
千空は試しにその中に横になっていれば確かに心地よく、形はどうでアレ仮眠室として使えるのではないかと思考した。
「案外いいでしょ、そこ」
「まぁ、な」
にっこりと笑いながら千空を見下ろす茉莉は手を伸ばし、その場から千空を起き上がらせようとする。そして千空もまたその手を取り体を起こしたその時、ガコンと船が揺れた。
「は」
「え?」
ここは船の中、そして海の上。
いきなり揺れることなんてよくある事で。
手を取り合っていた為に千空の体が下へ傾くとともに茉莉の体も引き寄せられ、不幸にもすっぽりとその箱の中へ身体が仕舞い込まれる。と同時に、蓋を止めていたはずの器具が外れてしまい、バタンと音を立てて閉まってしまったのである。
「あ"ー、マジか」
「ちょっと、がんばってみるからマッテテ」
グイッと茉莉が背中で蓋を押そうにもびくともせず、千空が蹴ろうとも蓋は開かず。
もし仮に二人の位置が逆であれば、茉莉の蹴りで蓋は開いたかもしれないが此処で位置を入れ替えるなんて不可能で。
茉莉に出来ることなんて体が密着しないように手のひらから肘にかけてに力を入れ、体を浮かせる事だけなのである。
「ちなみにここに居ること、誰か知ってる?」
「知らねぇ、俺もたまたま目ぇ覚めたからきただけだしな」
「……オワタ」
夜が明けるまでまだまだ時間はある。
が、それまで助けは来ることない事が確定。千空が見当たらないとなれば誰かがラボに来るだろうし、それまでこのままだという事を二人は瞬時に理解した。
まだ冷静に思考出来る千空とは違い、茉莉の心臓は煩いほどに脈打っている。
「ドウシヨ」
「あー、取り敢えず一旦手の力抜いとけ。そのままじゃ辛ぇだろ」
「大丈夫」
推しと密着できるかと茉莉は力を振り絞り、筋肉を震わせながら必死に耐える。しかし、数時間単位で耐えられるはずもなくうっかり身動きをした千空の腕がコツンと触れれば、呆気なくそれは崩壊。
ふぎゃっという情けない声とともに、二人の体はもれなく密着することとなったのだ。
「──悪りぃ」
「……イヤ、センクウノセイデハナイノデ」
悪いのはここを寝床にした自分だと茉莉は愚痴をこぼすが、千空はそれを否定することはしない。
いくら泣けた事でストレスが半減したとて、茉莉にとって一人の時間が何よりも大切なのは理解したつもりでいた。故に、その行動を止めなかった己にも責任はある、とは思っている。
暗闇のせいかやけに息遣いが鼓膜に響くが、それ以上に重なり合っている茉莉の心音が激しいことに意識が向かう。そりゃあ腕に力を入れていたのだから疲れもするだろうが、この短時間でそこまでなるとも思えない。
ならば何故だと考えれば、この現状がそうさせているのだろう。
幾ら何でも見知った男だとしても、長時間密着するのは苦なのだろうと。
「あ"ー茉莉、テメェは寝とけ」
「へ?」
「寝にきたんだろ、寝とけ。誰か来たら起こしてやる」
「で、でも」
「いいから寝とけ」
トントンと背中を叩き、千空を茉莉を寝かしつけに入る。
最初こそモゾモゾと動いていた茉莉であるか、途中からスースーと寝息を立ててその身体を千空に預けた。
自他とも認めるヒョロガリである千空からすれば茉莉程度の重さであってもキツイものがあったが、それよりも耳元で聞こえる寝息の方が数倍気が滅入るものである。
科学大好き純情少年と気張っていても、肉体は現役の十代そのもの。千空がそう思っていようがいまいが、上から異性がのし掛かって寝ていれば思考は乱れるもので。
「──クソ、はやく明けやがれ」
スピスピと気持ちよさそうに寝る茉莉とは対照的な、千空は赤くなっているであろう顔を片手で覆い朝を待った。
「──ぅ、千空!やっぱここにもいねぇか?」
ふと聞こえてきた声に、千空は箱の上部を蹴り上げて返事をした。
「クロム!ここだ!開けてくれ」
「あ?ココって、箱ん中か!?」
うっかり自分も寝てしまっていたかと顔を顰めなら、もう一度蓋を蹴りあげる。その振動に茉莉もモゾモゾと動き出して吐息を漏らすも起きることはなく。
「っと。うぉ!?なんで二人でいるんだよテメェら!!」
「クソ程めんどくせぇことに閉じ込められてな。中からじゃ何しても開かねぇしマジで助かったわ。──取り敢えず、この蓋は中から開けられるようにしとかねぇと」
「……閉じ込められても使うのかよ」
「俺が使うわけねぇだろ、コイツが使うんだ」
「──茉莉がか?」
「あ"ぁ。意外と寝心地は悪かねぇし、仮眠室にしてもいい」
「──マジか」
コロンと箱の中にスピスピ寝息を立てる茉莉を転がしながら、千空とクロムを箱の蓋を改造していく。ガタガタと物音がしても起きる気配のない茉莉にクロムは驚きながらも、その子供じみた寝顔をマジマジと観察してみれば、いつもよりも幼く見えてくるものである。
千空はそんなクロムの視線に気づいたのが肩を引き寄せ、そのままバタンと扉を閉じると『仮眠中』と張り紙をした。
「──見せもんじゃねぇぞ」
「あぁ悪りぃ、珍しいもんだったからつい」
そういいつつも視線は茉莉の眠る箱に向かい、千空は小さくため息を吐いた。
「気になるんだったら後で使わせてもらえ、別に嫌がりはしねぇだろ」
「そうさせてもらうぜ!」
ニカっと笑うクロムを眺めながら千空はもう一度息を吐き出す。
確かに思いの外寝心地は良かった。けどまた使える気はしねぇ。
脳裏に焼きついた記憶を思い出しては、千空は頭を抱えたのである。
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※※※
クロムと茉莉
「なぁ茉莉、俺もあれ使っていいか?」
「ん?あぁ、アレ。どうぞ」
「やりぃ!…………案外悪くねぇな!」
「使ってない時は使ってもいいけど」
「マジか!そうさせてもらう!」
「んー」
※※※
千空とクロム
ガコ
「お、千空も寝てたのか!案外寝心地いいよなそこ」
「……まぁな」
「ん?寝れなかったのか?」
「ちぃーと考え事がな」
「ほぉ?」
「──はぁ」
そこに寝る度思い出されてしまう記憶に当分悩む千空。
※※※
茉莉
箱に閉じ込められたと思ったけれども、起きたら一人で寝てた。ということはアレは夢だったのでは?
「……にしても、いいにおいしたぁ」
もう一回あったら心臓爆発しそうだけど、夢ならばよし!