千空さんと凡人さん。番外編   作:燈葱

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最果て、行く末。のウラ話。
幸せハピハピで終わったんだからそれでいい!な方は読まない方が良い。幸せかいたなら、それに至る不幸を書かなきゃダメだって心の幼女が囁いたので。


黙祷ガーネット

 黙祷ガーネット

 

『──以上が報告になるます。本当にこれでよかったのですか、Dr.stone。それで世界は救われたのか、です?』

「──あ"ぁ、これで十分だ」

 

 過去を変える、というのは何もいいことばかりではない。

 過去の出来事を変えた結果未来が変わって仕舞えば、今生きている現状すら変わることがあるのだ。記憶も何もかも消し去って、生まれてきた人間を殺して。全てを無かったことにする。

 これはタイムマシンをつくるにあたって一番危惧する問題であった。

 

 最初の石化からすでに3764年。

 Dr.stoneと呼ばれることとなった石神千空はすでに五十を超えていた。彼が成し遂げてきた偉業は多岐にわたり、その最終到達地が全ての人類を救うというタイムマシン開発プロジェクト。

 

 そしてこれはこの年、成功するならびとなったのである。

 

「────」

 

 あの日から随分とかかったものだ。

 過去を変えることだけを目標に彼らは生きて、そしてそれが達成されたのである。

 しかし『過去』から全てを記録し帰ってきたホワイマンは、その結果に納得がいっていない。

 

 何故ならば、石神千空が救われていないのだから。

 

 過去は確かに変わった。

 それなのに、石神千空の瞳はいまだに曇っている。

 

 

 

 

 

 

 タイムマシン完成後の初めての人体実験で、それに名乗りをあげたのは生みの親である千空だった。生み出したのは自分なのだから一番最初に乗り、命をかけて危険があるかどうかを確かめるのも自分の役割だと皆の制止など気にせず過去に戻る。

 その結果設定していた年より些か前にたどり着いてしまったが、石化後にしか目を開けることがなかったであろう獅子王未来を救うことに成功。

 しかしながら過去を変えた影響を調べるためにこの時代に帰ってくるや否や、千空は血を吐き倒れたのである。

 結果、過去に戻ることは可能だが内臓の一部がダメになるとわかった。

 無論一度石化させその異常を治すことは出来たが人間が過去へ行くのは危険だと判断され、全ては機械であるホワイマンに託されたともいえる結果だけを残すこととなる。

 

 それに何より残念なことは千空は過去を変えたというのに司の記憶も未来の記憶も、他の誰かの記憶も変わることはなかった。この世界の歴史も変わることはなかった。

 つまりは、過去を変えたところでこの世界は変わらないという事を誰しもが理解したのである。

 

 それでも過去を変えるべきだと科学者たちからは声が上がる。

 けれど千空はただ一人、その事実に打ちひしがれた。

 

 

 

 

 

 千空は過去を変えたかった。

 その過去を、なかったものにしたかった。

 

 

 

 

 

 

 二十八年前の蒸し返すような夏の日、左藤茉莉が死んだことを。

 

 

 

 

 誰かに殺されたわけでもなく事件に巻き込まれたわけでもなく事故にあったわけでもなく、この世界に絶望して、誰かに介錯を頼むこともなく、あっけないほど簡単にすんでしまうナイフ一本をつかい、茉莉は自害した。

 死んだ時期が悪かったためか遺体が発見された頃にはすでにウジが湧き肉は溶け、たとえ石化されたとしても息を吹き返すことはない。

 何故どうしてとかつての仲間たちが悲しむ最中、千空だけはその理由を理解していたのである。

 

 茉莉は誰よりも弱かった。だから強くあろうとした。

 何かに耐えて必死に生きていたことを知っていたし、そしてこれからもそうなのだと思い込んで、千空はまた、彼女を後回しにしてしまったのである。

 その結果がこれだ。

 泣き虫だった彼女は他者に一度も涙を見せず、無様な死を選んだ、選んでしまった。

 

『もう疲れた』

 

 ただそれだけを残して。

 

 茉莉が壊れ始めていたことに気づいてはいたのだ。だがそれを問うたところで彼女は千空に頼らなかったし、口を噤むだけ。ならば少しでもそばにいようと無理矢理世界一周の旅に連れ出したが、今思えばそれも良くなかったのだろう。

 千空がスタンリーに撃たれ怪我を負った時誰よりも動揺したのは彼女で、その後アメリカから逃げ出したことによりさらに不安定な行動を見せてはいた。

 けれどもいつも笑顔の仮面をつけて、悟らせまいとしていたことは千空以外のメンバーでもわかるほどに。

 

 最終交戦で死にかけ石化し、スイカの頑張りにより復活を果たしたところで茉莉の瞳に光は戻ってこなかった事を千空はよく覚えている。

 どうしてと、なんでとうわごとを繰り返す彼女を慰めようとも、彼女の手が瞳が声が、それを拒絶する。

 結局のところその日を境に千空と茉莉の仲はドン底にまで落ちたのである。

 

 その後はロケット作りの素材集めで世界中を回ることになったが、茉莉の瞳に千空の姿が映ることはなかった。

 

 別に茉莉との仲を諦めたわけではなかった。

 まだ時間が惜しかった。

 ホワイマンがいつ何をしてくるかわからない状況で、原因すら言葉にしてくれない茉莉と話せることはないと後回しにしてしまった。

 まるで、かつて幼馴染を捨て去ったあの日と同じ行動をしてるなんて思わずに、"まだ大丈夫"だろうと決めつけて。

 千空は茉莉に背を向けて、一人前に進んで行ったのである。

 

 そうして茉莉が壊れてる事を知らずに進み続けた結果、誰しもが喜ぶ結果は掴み取れたといえる。

 人類を全て石化させたホワイマンは千空の思想に唆られ、過去を変えるために仲間となったのだ。

 

 皆が喜んでいた。泣いて笑って手を叩いて。

 けれどそこに茉莉はいない。

 

 それでもいつか分かり合えると千空は信じていたし、これから先は茉莉に時間を当てられるとも考えていた。

 過去を変えられたら異常にも取れる茉莉の行動の原因もなくなるだろうと、今度はまともな会話もできるだろうと考えて。けれども茉莉は姿を表さなくて。

 何故どうしてと追いかけたくても、それと同じくらいに唆られてしまう実験もあって。

 いつかいつかの先延ばしにして、それでも誰にも合わなくなった彼女を探しながら。

 

 いっそのこと籍でも入れて家族になれば逃げられないのではないかとも考えた。

 そのために形だけの指輪も作ったというのに──。

 

 それを決行する前に、茉莉は死んだ。

 

 あの日から話すこともできず、声を聞くこともできず、触れることもできず。

 茉莉は、死んだ。

 

 今更だった。

 いなくなって会えなくなって死んでしまって。とうの昔に茉莉が壊れていたのだと理解したのは、今更でしかなかった。

 

 予兆はいくらでもあったのに。

 

 

 

 それからの毎日は虚無との戦いである。

 全人類を救うと言いながらも、本当に助けたいのはただ一人で。その一人のために全てを投げ出して。

 クロムやスイカ、ゲンやゼノが止めても日々の研究を突き進め体を壊して倒れても、それでもやめられなかった。

 幸運なことに他の科学者達もホワイマンも、過去が変えられるのならばと研究熱心であった。

 

 だからこそ、それを完成することは出来たともいえよう。

 

 

 だというのに、過去を変えてもなお体の一部を犠牲にしてもなお、"今"は変えられない。

 死んだ人間は、救えない。帰ってこない。

 

 この世界は変わった情報を組み立てるより、世界を分岐させることを選んだから。

 

 また会えると信じていた。

 過去を変えて現状が変わるのならば、きっと茉莉は死なない。死なせはしない。

 そう思いここまできたというのに、もうどこにも彼女はいない。

 

 そばにいて支えてやらなきゃならない人間だった。

 泣かせてやらなきゃならない人間だった。

 昔みたいに笑って欲しいと願ってやまない人間だった。

 

 なによりも、誰よりも。一緒に生きたいと懇願していた女であった。

 

 石神千空は恋愛に否定的だ。

 恋愛は脳のバグであり、時にそれは非合理的な感情を生み出し自分を苦しめる。

 だからずっと閉じ込めて見えないふりをして、それが解けた頃には全てを失っていたのである。

 

 後悔なんて、言葉では済まされない。

 

 

 それでも、世界は彼に進めという。

 今が変わらなくても過去を変えろと、皆が声をそろえた。最初は自分が言い出したことだとは分かっていたけれど、どう足掻いても茉莉はもう戻らないのにとドロドロとした感情が湧きあがる。

 

 変えなきゃいけない過去。

 それを変えたところでどうなる。

 変えたと言い張れるのは、それを見届けたものだけ。

 人ではない、ホワイマンだけ。

 

 

 科学者達の、人類の希望をのせてホワイマンは3700年前へ旅だった。記録媒体も持たせ、それを観覧すれば本当に人類石化が回避されるか知ることはできるだろう。

 

 ホワイマンを見送ってすぐは皆が忙しなく働いていたが、千空はただ結果だけを求めた。

 彼女の命を投げ捨てて選んだ研究が成功するかどうか、もはやそこにしか興味がない。

 

 そうして、無事に現代に帰還したホワイマンに、もう二度と彼女に言えない『おかえり』を告げる。

 

 

『──以上が報告になるます。本当にこれでよかったのですか、Dr.stone。それで世界は救われたのか、です?』

「──あ"ぁ、これで十分だ」

 

 人類の悲願は達成されたと笑い、そのデータを研究員に渡して自室に籠る。その側にはホワイマンが控えており、悪魔の言葉を囁いた。

 

『連れてこようと思えば、過去から連れてこれるはずだ、です。中身いたんだとしても石化すれば問題ないのでは?』

「──そうしたとして、茉莉は納得しねぇだろ。こんなわけのわからねぇ世界に連れてこられて、また絶望されて死なれちゃ困る」

『?わけのわからねぇ世界、ではないはずでは?彼女は全てを知っていた人間、この未来を誰よりも理解してしましたですよ?』

「……どういうことだ」

『3764年前から、彼女は知っていたのです。私はそれを確かめてきたのです。宇宙飛行士よりも研究者達よりも、過去の石神千空よりも。彼女は何が起こるか知っていた』

「──っなんで」

『過去へ戻る機械が生まれたのならば、過去へ記憶が飛ぶこともあるのでは。それならば彼女がこの世界の記憶を所持していてもおかしくはない、ですね?──ただ、彼女は私を知らず、オマエ達が私を迎えにくることも知らないようでしたよ』

 

「──そう、かよ」

 

 ホワイマンの提案も考えたことはあった。

 それで過去の茉莉を連れてきたとして、この世界の茉莉が救えなかった事実はずっと残る。そして石神千空がDr.stoneがそのような禁忌を犯すわけにはいかないだろう。

 故に諦めた。諦めるしかなかった。

 

 しかしながら、ホワイマンが次に発した言葉の方が気にかかる。

 茉莉が全てを知っていたとはどういうことか。彼女もまた過去を変えようと誰かが記憶を移し込んだとでも?

 そう考えて、そうならば納得がいく出来事が山ほどある。

 科学の進んだ世界で、まるで石化後の世界を生き残るためのようにサバイバル技術を取得し、石化から目覚めた後も最初から"知っていたような"行動があった。

 もしもその仮説があっていたのならば、茉莉が壊れたのは偶然ではなく必然であったのだ。

 あの怖がりで泣き虫少女が、そんな世界で生きられるわけがない。

 必死に耐えて生きて、知らない未来まできたところでその心が壊れてしまったのだろう。

 そう考えれば、茉莉が最後に疲れたと残した理由も理解できた。

 

 知ってしまった未来で必死に生きて、知らない未来に打ち砕かれ恐怖して。

 もう、怖がることに疲れたのだ、あの子は。

 

『そういえば、過去の彼女らのデータもありますが、見るですか?』

「──あ"ぁ」

 

 途端再生される、あり得なかった過去のでき事。

 この世界の千空と茉莉は仲違いをしていたのに、画面の向こうの二人は笑い合っていて、死ぬこともなかった百夜は自慢の"娘"だと叫んでいる。

 幸せそうに笑う彼女の頭を当たり前のように撫でる過去の自分に、どうしようもない程ドス黒い感情を抱くほどに、千空は心底そこへ行きたいと望んだ。

 

『なんでも、あちら千空は茉莉とオツキアイしてるとゼノがいっていたです』

「──そりゃ、お幸せなこってぇ」

 

 自分はもう手に入れることのないものを手に入れて狡い。その場所を変わってくれ。

 そう願ったところで、変われるわけもなく。

 

『千空、私は彼女から伝言を一つ、頼まれています。聞くかです」

「────はぁ、聞いてやるよ」

『「助けてくれてありがとう、千空」』

「ッ──」

 

 懐かしい彼女の声に、思わず体が震えた。

 

「俺は、俺はあいつを救えなかったっ」

『ですが、彼女は救われたと言っています』

「だとしてもそれは俺じゃねぇっ!そこにいる、茉莉を助けようとした"幼馴染の俺"だろっ!」

『ですがオマエ方が過去を変えようとしなければ、あの世界の彼女もいないのでは?この世界の千空、オマエが変えたからこそあの世界で茉莉は笑っている。違うのですか?人間とはわからないものです』

「──っ、本当に、わからねぇよ」

 

 この世界に茉莉はもういない。

 あっけなく一人で死んで、戻ってくることはない。

 

 けれど、画面越しの過去の彼女は幸せそうに"千空"の隣で笑っていた。

 その顔を作ったのも、何を起こらない過去を作ったのも、茉莉のいない世界を生きる千空であるのに違いない。

 

 違いない。

 だから。

 

「頼むから、生きててくれっ」

 

 何があっても、生きてさえくれていれば。

 

 もう過去になってしまった画面越しの茉莉を撫でて、涙をながす。

 

 

 茉莉が死んでから、初めての涙であった。

 

 




補足。
茉莉を泣かすか泣かさないかで分岐した、泣かさない軸の話。
宝島で泣かせない。だと最初に目覚めるのはクロムで、茉莉を起こすのはスイカだった。
だから千空は知らないこといっぱいあるし、和解できてない。
それ故の地獄。
アメリカ編では千空撃たれるの見て絶望し、知らない未来である南米はいってみんなが死にかけるのは私がいるせいでは?となり絶望。どうか足掻いても一緒にいるのは悪いことだ!な思考に支配された結果、どこで終わるのか分からず、自分の命を終わらせる。
ちなみに大杠の結婚式の一年前である。
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