本当は書き下ろしに入れようか迷って、なんかそれは違うなって思ったので蛇足としてアップ。
心の中の幼女(まともな方)が推しをあまりいじめるなと言うので、ちょっと救った。
直径十五センチほどのソレは、片手で収まる小さな箱に丸まって入っていた。
「──は?」
『ん、ぐぅ……。あ、おはようゴザイマス』
ゆっくりと瞼を開けた物体は千空の方へ顔を向けてあくびをする。さも当たり前のように伸びをし首を左右に曲げ、パチパチと瞬きををして。
"茉莉"によく似た人形は、箱の中でちょこんと正座をして千空を見つめていた。
『ん?反応がない?──ホワイマン、ホワイマン?千空の反応がないよ?どすんのこれ?』
『──心拍は平常、瞳孔も開いてないようだですね。ほっとけばよろしいでは?』
『んー、そうなの?』
淡々とホワイマンと話すその人形は、千空の知っている茉莉とよく似ているように思えた。首の傾げ方、心配そうにこちりを眺める瞳、疑問符に「ん」をよく使うところ。見た目だけではなく中身までそっくりに作られている。
一体誰がこんな悪趣味なモノを生み出したのだと考えながら首根っこを掴み持ち上げてみると、またもやコテンと首を傾げて千空と名前を呼んだ。
『大丈夫?目の下、隈できてるよ。いつから寝てないの、私にはちゃんと寝ろって言うくせに』
「ッ──テメェは、なんだ」
『私?んー、言うなればメカ茉莉だよ。君が救ってくれた世界軸のオリジナルが生み出した、メカの"私"』
どう?びっくりした?
と千空の見知った笑顔をそれは作り、それでねと言葉を続ける。
『時間はかかっちゃっけどね、千空、君に会いに来たよ!』
「────ッ、意味がわからねぇ」
『ならば私がオマエ方にわかるように説明するです』
いつぞやにいなくなった思い人と似た笑顔を作ったソレとともに、ホワイマンは淡々と過去を語り出した。
ホワイマン曰く、オリジナルの行動や仕草、口調など何百何千何万と記録し統計した結果がソレであると。
ホワイマン曰く、ソレ作るのにあっち側の千空をはじめとした科学者達が手を貸してくれたのだと。
ホワイマン曰く、ソレを生み出すのに160年もかかってしまったのだと。
ホワイマン曰く、ホワイマンは一度こちらに戻り、その後100年先の未来にもう一度飛んだのだと。
ホワイマン曰く、それでもメカ茉莉は作り終えてなかった故に、60年は待ったのだと。
ホワイマン曰く、そのおかげで分岐した過去はほんの僅かに科学の針が先に進んだのだと。
『本当はホワイマンを帰した方がいいとはわかっていたんだけどね、いつ私ができるかわからなかったから。まぁ、オリジナルの死後90年でできてよかったよ』
「……あ"ぁ、そうかよ。んで、テメェは何の用があってここに来たんだ?用事を済ませてさっさと帰れ」
『ん?帰らないよ?』
「──は?」
『帰らないよ?私はここで君と生きるのだもの。あ、機械だから生きるのとは違うか?』
「なに、いって──」
『Dr.stone、オマエ方は茉莉を連れて来れないと言いましたが、彼女自らコレを望んでここにきた、です。でも臓物が捻りちぎれるのは怖い故に、この姿で。それに彼方の千空とその他の科学者が生身でこちらに寄こすのを許さなかった。故にAIになればいいと茉莉が決定付けました』
「意味、わかんねぇ。テメェば向こうで幸せだったんだろ。ならここに来る必要なんて──っ」
『あったよ?だってきっと、この世界のオリジナルの私も、君が大好きだったからね』
「──あ"?」
『まぁ、私の事だから言わなかったと思うし言えなかったと思うんだけどね。ずっと好きで大切だったんだよ、千空のこと』
「ならっ、なんで死んだッ!?」
『大切だったから。幸せになって欲しかったから。──だからね、ここに来たんだよ。きっと千空は勘違いしてると思って』
別に、この世界の茉莉は己の人生だけを苦にして死んだわけでない。
知らない未来が怖くて、そこに自分がいる影響が出るのが恐ろしくて。
もしかして"茉莉"と言う存在がいるせいで、千空が死にかけてしまったらと。世界がおかしくなってしまったらと悩み、壊れて。
『別にさ、千空にそんな顔をしてもらいたくて死んだわけじゃないんだよ。笑って生きて欲しかったんだよ"私"は』
「んなの、テメェに分かるわけねぇだろ!?ったかがAIだろ、オメェはっ!?」
『そうだね、たかがAIだよ。生前のオリジナルの記憶を詰め込んだね。──でも、君が必要としてないなら私は戻るしもう現れないよ、ごめんね。私の独りよがりだったみたいだ』
もしかしたら喜んでくれると思ったけど、帰るよ。
そう言ってソレはトテトテと歩き、ホワイマンと並んで立つ。涙なんで出るはずのないその人形の眉は下がっていて、俯く姿はまるで幼少期の幼馴染に見えた。
ソレは一度千空へ取ってつけたような"いつもの笑顔"をみせて、じゃあねと手をふる。もう二度とみることはないであろうその笑顔を見てしまった千空は、無意識に手を伸ばしソレを掴み取っていた。
「──な」
『ん?』
「もう、何処にも行くなっ」
『……君がそう、望むのであれば』
ソレが、本物の茉莉だと思える日は一生来ないであろう。だが、ソレが茉莉の記憶と思考をもつ人形であることは間違いない。
「……なんで、ここまで来たんだ」
『どんな世界のどんな千空であったとしても、私は千空が大好きだから』
「テメェが、茉莉が生きてた時にっ、聞きたかったッ」
『ごめんね、私、臆病なので』
「しってるっうーの」
グッと奥歯を噛み締めた千空の瞳には涙が浮かんでおり、小さな茉莉は手を伸ばしそれを拭う。
『生きてる時間は君にあげれなかったけれど、これからは君のそばにいるよ?』
「──地獄にだってつれてくぞ」
『それは無理だよ。だって──』
地獄には"私"がいるから。
「っあ"?」
『言ったでしょ?"私"は君が好きなんだよ。だから、きっと地獄にだって一緒に堕ちる。だってその時はもう、二人とも死んでるんだもん。もう何も怖くない。"私"を許して側にいさせてね?』
「─あ"ぁ、側にいんならなんだってゆるしてやるよ」
むしろ恨まれるべき人は自分なのにと千空は思考する。
身勝手な理由で後回しにしてきたのは自分だった。茉莉がどんな人間か知ってて、後回しにしてきた。
その結果がコレならば、恨まれるべきは俺なのに。
そう、思って今まで生きてきたというのに。
『残りの人生、私と生きてね。死んだら"私"と地獄に堕ちて』
愛した人の声音をしたソレが、愛した女の作りだしたソレが、今もなお求めてやまない存在とにて否なるソレがそう言うのならば。
後わずかな人生を、共に生きてくれると言うのならば。
「その案に、のってやるよ」
いつか来るその日まで。
「テメェで、我慢しててやる」
『それはひどい。でもまぁ、長生きして笑って生きてね千空。それが私"達"の願いだから』
茉莉のいない日々を生きていようと思えてくるものだ。
※※※※
「なんで未来の俺なんかにオメェをコピーしたようなAI送るんだよ」
「だって私を助けてくれたのはあっちの千空でもあるし」
「でもテメェはここにいる。未来なんて、関係ねぇだろ」
「あるよ。だってあっちの千空がいなかったらこうして君と一緒にいられなかったでしょ?それに、向こうの私は選択を間違ったみたいだから、その尻拭いをしないとね」
「──そこまでのことかよ」
「そーだよ。だってきっと、死んだ私は死にきれてない。本当は千空に幸せになってほしかっただけだと思うから」
「……しゃねぇな、手伝ってやんよ。そのかわり生きてる時間は俺のもんだかんな?」
「もちろん、そのつもりだよ」
いつか君に出会えると信じて、私はこの世界を生きると決めた。
本当にただの蛇足話。
あまりにもパイセンが哀れになったので、茉莉ちゃん(SDの姿)に会いに行ってもらった。
そんで千空の死後は一緒の墓に入る。
もとより長く稼働しないような作りにはなったいたので、墓に入れば朽ちる。
きっと、地獄で茉莉(本体)と再会を果たすであろう。