いただいた傷口ちゅっちゅネタより、リハビリのため少し短いけれど書きたい部分だけ書いた!
恋とはどうしようもないほどの脳のバグである。
ドーパミンが必要以上に分泌され、分泌されればされるだけより多くの感情が生まれてしまう。同時にアドレナリンも分泌されてしまえばそれはもう悲惨で、心拍数が上がるなどして対象者を見てトキメキを感じている、なんて勘違いもするものだ。
故に石神千空にとって恋とはどうしようもない脳のバグであり、生涯必要とされないものであった成分であったはず、であった。
「──んで、なんで泣いてんだよ茉莉。何があった?」
「っなんでも、ないっ」
「なんでもなくないから泣いてんだろうが馬鹿」
千空の自室でポロポロと涙をこぼしているのは幼馴染兼恋人である左藤茉莉。千空が要らないと可能性すら消していた恋愛感情を向けることとなった一人の少女である。
グズグズと鼻を啜る彼女に箱ティッシュを差し出し、千空はその体ごと包み込み混むように抱きしめて頭を撫でる。ヨシヨシと、普段の彼を知っているものならば思わず二度見するだろう柔らかな瞳を彼女に向けて再度どうしたと問いかけた。
茉莉は涙を拭い、そしてもぞもぞと身体を動かし千空にぎゅうっと抱きつくとあのねと小さな声で語り出す。
どうやら彼女の両親の話し合いを聞いてしまったらしいのだ。
「……おかぁさん、しんぱいしてたのっ」
「ん」
「いっぱいけがのあとあるから、プールはいれないとか」
「おぅ」
「あと、およめに、いけないんじゃないか、とか」
「──それは問題ねぇ」
キッパリとその問題に対して千空は否定して見せ、俯く茉莉の顔を持ち上げる。そして涙を親指で拭い、目元にちゅっとキスを落とした。
「そんなに心配してんなら明日にでも正式に挨拶いってやろうか?お嬢さんを俺にくださいってな」
「──そういう、もんだいではなくて」
「そんな問題だろ。俺以外の誰がオメェを娶るんだよ」
さも当たり前のことを聞くなと言うように千空は若干不機嫌そうな顔を見せ、そして徐に茉莉の手を取るとその指先に出来た小さな傷にキスをする。指先から手のひらに、手の甲から手首に唇は動き、彼女が今まで必死に生きてきた証ともいえるそれに口付けて。
一度チラリと赤くなっている茉莉の表情を確認するとニヒルに笑い、服を捲り上げて鎖骨や脇腹にある跡にもキスをする。
グッと太ももを持ち上げようとするとようやく静止の声が上がり、千空は不満気になんだと問いかけた。
「なんっで、き、す、するの?」
「あ"?んなの決まってんだろ。コレは茉莉が今まで必死に生きようとしてきた証だろ、そんなもん全部愛しいに決まってんだろが」
「──っ、なん、で」
「テメェが頑張ってきた証を嫌う男だと思ってんのか?逆だわ逆、むしろ唆られてんだよ。俺しか理解できねぇならそれでいい。いや、それがいい。だから安心しろ、茉莉、テメェはちゃんと俺んところに嫁げっから」
「……ん」
「だからおばさんにもちゃぁんと、お話ししといてやる。安心しとけってな。それに傷見せたくねぇなら手芸部にいやぁ、喜んで水着でもドレスでも作ってもらえんだろ」
「杠ちゃん、いやがらない?」
「んなわけねぇな、喜んでやんだろアイツなら」
「ん、聞いて、見る。から、もう、脚離してぇ」
「嫌だが?」
いったん茉莉を押し倒しちゅぅっと太ももに吸い付くと、そこには赤い痕が残る。それを満足気にひと舐めし、千空はまた茉莉の体中にある傷跡にキスを落としていく。
小さい頃から傷だらけになりながらも必死に生きてきた茉莉を好ましく思いつつも、そこに自分がいなかった不甲斐なさは残る。今更過去は変えられはしないが、この傷ごと愛しているのだから問題はないと千空は理解していた。
たとえ周りがなんと言おうがコレを気にして泣く彼女を慰めるのも自分の役割なのだと認識していて、それがどうしようもなく嬉しくて仕方がない。
誰も入り込めない、誰も知らないその事情を知ってる故に、自分しか茉莉をまるごと愛してやることができないのだと思えば思うほど愛おしくなっていく。
恋だの愛だの、千空には一生関わりのないものだと考えてはいたが脳がバグるのは悪いものではなかった。期限は三年と良く言われているが、元を正せば幼少期からこの恋心はあったのだろう。ならばその期限とやらはとっくに過ぎている。
「──茉莉」
「んん?」
「安心して、俺の隣にいやがれ」
唇で彼女の口を塞ぎ返答なんか聞きもせず、千空は今日も今日とて彼女を甘やかす。
ドロドロに甘やかして、感情もぐちゃぐちゃにしてしまって。自分以外の誰も見なければいいなんて嫉妬心はほんの少しだけ隠して、千空は茉莉を指の先からその傷跡まで愛し続けている。