千空さんと凡人さん。番外編   作:燈葱

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無意識いちゃつきネタをいただいので。
 時間軸
 石神村火事以降。


その3。

 

 

 

 

 

 

 

「──千空君、アルコールもらっていい?」

「あ"、何に使うんだ?」

「手、切った」

 

 ずいっと差し出された左の手のひらからはじんわりと血が滲み出ていた。

 千空はそれを見て一瞬目を顰め、何故こうなったのかと茉莉に問う。彼女は右手で頭をかきながら、山で転びそうになったとだけ告げた。

 

「獲物を狩ってね、帰ろうとした時にズルって滑って。近場の木を掴んだらそいつがまぁトゲトゲで?」

「テメェなぁ……」

「ほら、この世界で破傷風とか笑い事じゃないでしょ?だから一応アルコール消毒のほうがいいかなと」

 

 小さい傷なら水洗いだけして気にしないんだけどね、と言った茉莉の表情を観察して千空は深々とため息をついた。

 

 彼から見た茉莉はこの怪我を本当に些細なこととしか思っていないようだが、千空からすればそうではない。村が火事になったからと彼女に食糧調達を任せたが、その働き方が異常だと思ってもいなかったのだ。

 何せ今は月が上り始めた時間帯、狩りに行くには些か遅すぎる。だというのに手のひらから出てる血は湿っていて、怪我をしてからそう時間が経っていないことを告げていた。

 

「──手ぇ出せ」

「自分でできるよ?」

「片手じゃやり辛ぇだろ。ほら、サッサとだせ」

「……お願いしマス」

 

 渋々伸ばされた腕を掴み観察してみれば、手のひらには幾らか棘が刺さったままであった。千空は消毒をしたピンセットでそれらを器用に除去し、傷口へアルコールをかけていく。

 時おり痛みからか茉莉の手がピクリと動くが、治療のための痛みと理解している故にそれ以上の反応はない。

 ある程度治療し千空は自身の左手首から布を外すと、そのまま茉莉の手のひらへと巻きつけていく。所謂包帯代わりだ。

 クルクルと布を巻きながらまじまじ茉莉の手を見やれば、指先や爪に至るまでさまざまなところに傷があった。

 

 思ってたより小せぇ。そんでもって傷だらけじゃねぇか。

 

 そんな事を千空は思考する。

 考えてみればわかる事だがこのストーンワールドで生きていく以上、以前のように手を酷使せず生活はできない。茉莉に至っては塩作りを任されている以上、これ以上に荒れる心配すらあった。

 

「茉莉、右手も出せ」

「え、何故に?」

「いいから早く出せ」

「うん?」

 

 差し出された右手も掴みとってみれば、やはり思った以上に手荒れが酷かった。小さなあかぎれやヒビに傷跡はもちろん、一部の爪はボロボロになっている。

 怪我なんてしなくとも痛みはあっただろうと今更ながら気づき、千空はため息をはいた。

 

 千空が茉莉の手を観察している最中、彼女もまた彼の手をぼんやりと見つめていた。

 通常の茉莉であれば『推しに手を握られている、だと?』とオタク精神逞しい事を考えていたのだろうが、今はそんな状況ではない。

 先日の火事の一件で彼女の精神はズタボロだったのである。睡眠不足も加わり、そのような事を考えられる余裕などなかったのである。

 

 千空さんの手、デカいな。関節は一つ分違うしやっぱり男の子って感じ。それに骨張ってゴツゴツしてる。あー、実験で荒れまくってるじゃん。手袋とか作れればいいのだけど。

 

 等々推し云々関係ない事を考えながら指を絡ませて無表情で握り、または緩めては握りを繰り返し、そしてふと気付く。なんで手を握り合ってるのかと。

 

 治療は終わったのだからもういいのではと握っていた両手をするりと離すと、今まで手に向けられていたガーネットの瞳とかちりと重なってしまった。

 

「あー、ありが」

「テメェ、口も切れてんじゃねぇか。つったく、何すりゃそうなる」

「いっ!」

 

 先ほどまで握られていた千空の右手はそのまま茉莉の口元まで伸び、グッときれた唇付近を押される。

 口の両端でなく真ん中が切れているのは彼女のストレスが溜まると噛み締める癖のせいで、茉莉の思わぬところでできている傷でもあり、もちろん千空もそのことは察してもいた。

 

「このストーンワールドで怪我はヤベェってのが分かってんなら、もう少し気をつけろっての」

「それは申し訳なく思っている所存です」

「ぜってぇ思ってねぇだろ」

 

 いやだって、無意識ですもん。噛み締めるの。

 

 といえるわけもなく茉莉はただその瞳から目を逸らし、ため息をつく千空へ再度お礼を述べて逃げ出したのである。

 

 

 

 

 

 

 その翌日千空はコハクの手を横目で観察し、しみじみと呟いた。

 

「やっぱテメェはメスゴリラだな」

「だから違うと言っているであろうっ⁉︎」

 

 ごつんと、千空の頭にコブが一つ出来上がった。

 千空は次にルリの手を、その次にルビーやサファイヤの手を盗み見し茉莉の手はそれらよりも酷いものだと結論づけた。

 コハクはさておきの村の女衆がしない男仕事を茉莉は率先して行なっているわけで、そりゃまぁ荒れる。

 

 ならばと、千空は仕事の合間にとある製品を作り出したのであった。

 

 

 

 

「茉莉、手ェ出せ」

「へ?」

「手」

「あー、ハイ。どうぞ?」

 

 首を傾げながら差し出された茉莉の手を掴みとると、千空はとある物質を己の手にとりそのまま彼女の両手へ塗り込んでいく。それは所謂ハンドクリームという品物で手荒れの酷い"奴等"の為に作られた品だった。

 

「蜜蝋で作ってあっから、口に塗っても問題ねぇ」

 

 と、そのまま茉莉の唇をなぞり千空は満足そうに笑った。

 

「……ドユコト?」

「ククク、テメェはクラフトチームだかんな。爪が割れたからとかあかぎれで手伝えねぇってのは困んだよ、合理的に考えてな。毎日使えよ」

「おぅ?」  

 

 

 ペロリと唇を舐めてみれば確かに蜂蜜の味がしたが、茉莉にとってそれはまぁ問題ではない。

 問題なのはある意味美容品と呼べるものをクラフトしたことである。すぐに必要というわけもないだろうし誰かに頼まれたのかとも考えたが、それをもらえるとも思ってやしなかった。

 

 茉莉は去り行く千空の背中を目で追いながら脳内で叫んだ。

 

 私の推し、カッケェ‼︎

 

 と。

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 オマケ

 

 

 

 千空とクロムとカセキ

 

「千空、何作ってんだ」

「蜜蝋?何かの滑りよくするもん?」

「あ"ー、確かに滑りは良くなっけど人の肌につけるもんだ」

「ふーん」

「テメェらにもくれてやるから使いたきゃ使え」

 

 

 

 

 

 

 千空とゲン。

 

「おいメンタリスト、テメェも指先使う仕事だろ。使っとけ」

「──これ何、千空ちゃん?」

「ハンドクリーム」

「ジーマーで⁉︎ってかどんな風の吹き回し?」

「いらねぇなら誰かにやれ」

「使うけどねっ⁉︎」

 

 

 

 千空とコハクとルリ。

 

「千空、これはなんだ?めっぽう良い匂いがするな」

「蜂蜜の香りですね」

「手とか口に塗って乾燥を防ぐクリームだ。村の連中にも肌荒れひでぇやついんだろ」

「もらってもいいのですか?」

「使う為に作ったからな。ククク、思う存分使いやがれ」

「確かに甘いぞ!」

「食いもんじゃねぇんだよメスゴリラ」

 

 

 

 ※※※

 

 オマケのオマケ

 

 

「ツケスギタ。んー、あ、千空君いいところに」

「んだよ」

「おすそわけ」

 

 ぬりぬりぬり。

 

「千空君も手荒れ酷いからね、ちゃんと保湿しなよ?」

「……まぁな」

 

 ※この日の茉莉は三徹目である。

 

 

 

 




寝不足茉莉さんは脳が回っていない。
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