千空さんと凡人さん。番外編   作:燈葱

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リクいただいた、龍水が茉莉を褒めるだけの話


その19。〜御曹司を添えて〜

 

 

 宝島後らへんにあったかもしれない話。

 

 

※※

 

 

 

「茉莉、貴様はもう少し自分を卑下するのをやめたほうがいい。少なからずその能力のおかげで助かっている奴らはいるからな。無論、俺もだ!」

「──え、あ、はい?」

 

 不意に茉莉の手首を掴み呼び止めたのは龍水だった。そしてそのすぐ後真剣な顔をした龍水はキョトンとした顔をする茉莉にそう告げたのである。しかしながら龍水の言葉を彼女がまっすぐに受け止めることはなく、『別にたいしたことじゃないし』と口癖にもなりつつある言葉をすぐさま吐き出した。

 

「それしかできないからやってるだけだし、みんなもそうじゃない?」

「いいや、違うな。貴様はいつも『それしかできないからだ』などと言っているが、状況にあった行動がすぐ取れる人間がどれだけ助けになるのかを分かっていないのか?この世界での当たり前は、俺たち旧人類にとって当たり前ではないということに!」

「んー、うん?」

「そしてその顔だ!貴様の考えている事が全くわからん!もう少し分かりやすい顔をすればいいものを!」

 

 それはそう。

 茉莉印のパンに噛りつきながら、羽京は龍水の言葉に静かに頷いた。

 羽京は自衛隊出身だ。それ故に一般人よりかはサバイバル知識があると言っても過言ではない。まぁ千空のように一から文明を生み出す技術はないが、遭難しても生きていられるレベルの知識は持っていた。だがそれは人類が滅びる前のこと。ナイフ一本ないこの世界で、たった一人で真っ裸で生活してみろと言われてしまえば早々に諦めてしまう自信すらある。

 だと言うのに茉莉はソレができる事を当たり前だと言ってのけたのだ。

 石で作ったナイフで獲物を狩る事も獣を捌く事も、そこから食糧を生み出し衣類を作る事も別に出来たからやっているとしか思っていない。

 茉莉曰く、足し算ができて褒められても嬉しくないでしょ?と。

 茉莉のそれは足し算じゃなくてその応用の掛け算割り算だと言ったところで、その真意が伝わることはなかった。

 

 羽京でもそれなのだから、龍水にも茉莉の考えている事が理解できるはずもないだろう。何故ならば彼がここ日本で彼女と過ごしてた日々はそう長くはなかったのだから。

 復活して約一年、宝島まで共に行きメデューサを手に入れた龍水達であったが、互いを理解し合うには充分な時間があったとはとても言えない。それになにより茉莉は龍水が復活してからの自由行動が多すぎたために、彼にとって彼女はいまだに謎の人物といっても過言ではないのである。

 

 しかしだからと言って見過ごせないこともあった。それは茉莉の発言と行動。

 それしかできないから、と良く口にする茉莉のそれ自体が龍水からしてみれば非常に気に食わなかったのだ。

 

「よく聞け茉莉。何度も言うが貴様の行動で助かっている奴は多い。食を豊かにし生活を豊かにし、時には自分の心情よりも皆を優先することは必ずしも当たり前にできることではない。貴様にとって『それしかできないこと』なのかもしれないが、それは積み重ねてきた経験があるからだ。違うか?ならそれを誇ればいい、そんなことと卑下するのは良くない。そうだろう」

「……」

 

 キョトンとした顔をしていた茉莉の眉間には徐々に皺がより、龍水の言葉にさらに首を傾げる。

 そしてそれを見ていた羽京はそれはそうとまた頷き、ゲンに至ってはため息を吐いたのである。

 

 龍水の言う事はすごくわかる。分かるけど言っても聞かないんだよね。

 ほんと、茉莉ちゃんってソレが当たり前だと思ってるから。自分は特別じゃないって思ってるから。

 

 そっとアイコンタクトをした二人は龍水の気持ちがよく分かった。そして何度も彼女にソレが普通ではないとも伝えており、龍水の言葉もまた伝わらないのが分かりきっていたのだ。

 

 思い返してみれば司帝国時代、捕虜であったにも関わらず皆の家を建て直したのは他でもない茉莉で、司と氷月が狩猟に出られなくなってからは当たり前のように第一線に立ち獣を狩りにでたのもしかり。フランソワの復活後、急ピッチで竈をいくつも作り上げてパンを焼いたのも彼女で。パン以外にもうどんやすいとんといった庶民に親しいレシピを教えたのも無論茉莉である。

 3700年前のものとは少し違っているが味噌と醤油と生み出し旧人類の荒んだ心を温めたのも、紛れもない彼女の功績ともいえる。

 

 だと言うのに彼女の口から出る言葉は『できたからしただけ』。ただそれだけ。

 千空のように科学チートを使えないし、知ってたからできただけだからと誇る事もない。

 復活者の中には確かに千空のように何かに特化した人間が多いのは確かだが、それと同様に茉莉もサバイバルチートに関しては抜きん出ていたのは誰の目でも明らかだ。

 

 科学チートの千空に、体力チートの大樹。そこに手芸チートの杠とサバイバルチートの茉莉が加わり、司を目覚めさせていなければそれこそ平穏に文明を進める事もできたであろう。

 まあ、司が復活できたからこそ今があり羽京もゲンも石神村と合流出来たわけだが、今更たらればを考えてもしょうがない。

 

 今考えるべきことは、この無自覚な彼女の卑下をやめさせることである。

 

「茉莉!貴様は誰よりも生きる力を欲した!違うか?だからこそ誰よりもこの世界に適応している!皆の助けになっている!」

「お、おぅ……」

「それにトラウマを刺激されるであろう状況でさえも、役割を果たすべき行動できる力もある!」

「ぅぐぅ……」

「俺はそんな貴様を尊敬すらできるぞ!」

「ぅぅうんぎゃっ!もういいから、離して!もういいからっ!」

 

 龍水の純粋に茉莉を想うキラキラとした瞳にどうにも耐えられなかった茉莉は、ブンブンと手を振り龍水の手を振り払おうとするが上手くいかず。龍水はそれでもなお茉莉を褒めた。

 そしてそれを眺めていたゲンは、ふととあることに気づいたのである。

 

「──茉莉ちゃん、耳赤くない?」

「え、どこ?」

 

 じぃっと観察してみると、確かにほのかであるが茉莉の耳は赤みを帯びている。そして羽京曰く、うぅっと何かに耐えるような声も出ているだとか。

 

「──もしかして茉莉ちゃん」

「恥ずかしがってる……?」

 

 あの茉莉が、恥ずかしがってるとは?

 

 別に褒めたことがないわけではない。むしろ何度だって感謝してそれを述べた。それは千空や他の誰しも行ったことのある行為で、珍しいことではない。ただ一つ状況が違うと言えば、茉莉が龍水に捕まって逃げられないということ。

 

「つまり、ちゃんと聞かせれば分かってくれるってこと……?」

「──なら便乗するしかないね」

 

 面と向かって伝えても躱されてしまうのならば、拘束されている今がチャンスだ。

 揚々と近づく二人の気配を察知した茉莉は力一杯手を振り上げ、そして龍水の手が離れたのちに逃亡。

 もういいからと叫んでいたが、それでもなお龍水は不服そうな顔をしていた。

 

「──貴様のせいで逃げられたじゃないか。もう少しであの卑屈な態度を改められたかもしれんというのに」

「そー言わないでよ龍水ちゃん。俺たちも茉莉ちゃんのこと褒めたいのよ、ジーマーで」

「いつもは逃げられちゃうからな」

 

 千空より早く目覚めたとは知っているが、それでも目覚めた当初は十六歳の少女だった茉莉。もう大人だと言い張っているが、羽京達からしてみればまだ子供にも思えてもしょうがない。

 それ故よく頑張ったなと褒めたくとも、それを本人が許そうとしないのだからどうしようもないのである。

 

「はぁ。で、なんで茉莉はあれほどにも卑屈なんだ?」

「んー、それはねぇ。千空ちゃんにも分からないらしいんだよねぇ」

「むしろ千空は出来るんだからやらせときゃいいだろって感じだし、ねぇ」

「ねぇ?」

 

 分からない。何もかも。

 幼馴染である千空でさえ分からないことが自分たちに理解できるのかと、羽京達は頭を悩ませたのである。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 その後の一幕。

 茉莉と龍水。+千空

 

「茉莉!話はまだ終わっていないぞ!」

「もーいいから!もー聞きたくないから!」

「おい!待てと言っているだろう!?」

「いーやぁー!」

 

「──何してんだ、アレ」

「アレ?龍水ちゃんが茉莉ちゃんのこと褒めようとしてんのよ。逃げられてるけどねぇ」

「……ほぉん」

 

 

※※※

 

 

 茉莉とフランソワ。+千空

 

「茉莉様、相変わらず仕事が早くて助かります」

「あ、うん。別に大したことじゃぁ──」

「文明復活後は是非七海財閥の門を叩きくださいませ。よりよき職場をご提供できるかと」

「あ、それには及びませんので、ハイ」

 

「あ"?」

「あー、あれ?龍水が茉莉の能力をかって欲しいって言ったみたい。確かにアレだけ知識あればいざという時の乗組員には最適なのかもしれないね」

「……ほぉ」

 

 

 

 

※※※

 

 茉莉と多数。+千空。と龍水。

 

「茉莉ー!いつもありがとなんだよ!」

「茉莉ちゃんが綺麗に捌いてくれから、革無駄にしないで済みますなぁ!ありがとう!」

「ちょっと茉莉!この前言ってたやつ、いつ直してくれたの?もー!できたなら言ってよね!ありがと!」

「茉莉ー」

「茉莉ー!」

「もーいいから!もーいいからぁ!」

 

「……何してんだ、アイツら?」

「フン、この前褒めたら少し表情が変わってな。それを見ていた奴らがこぞって茉莉を照れさせようと必死らしい」

「そぉかよ」

 

 

 

 

※※※

 

 茉莉と千空。

 

 

「も、いやだ。なんなの。も、いや」

「──ほれ、これやっから元気だせ」

「んぇ?コーラ、くれるの?ゲン君用ではなく?」

「別にアイツ専用でもねぇしな」

「──あ、りがと。センクウ」

「────」

 

 へへっと年相応の顔で笑った茉莉を見れるのは、千空の特権であると誰も知らない。

 

「ま、いつも頑張っていただいてる茉莉センセェへの賄賂っつーわけだ」

「ウッス、がんばるます」

 

 別に褒めてはいない。けれど認めてはいる。

 だからこそ僅かであるが気に食わなくもある。故に──。

 

「ふぁっ!?」

「──テメェはよく、やってるよ」

 

 千空は派手に茉莉の髪を撫でた。すると茉莉の視線がまっすぐ千空を捉え、ほんの僅かに歪む。

 優しく、それでも嬉しそうに。

 

「──別に、やれることやってるだけだよ」

「あ"ぁ、知ってるわ」

 

 顔が赤らむ事もなければ、言葉を肯定される事もない。

 けれども茉莉が千空の言葉をきちんと受け止めていることだけは、理解できているのだ。

 

 

 

 

 




本編がアレだから、イチャイチャかきたい。ネタがない。
のでいただいたネタをコネコネしました!
もっとイチャイチャしろ!
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