茉莉がそうなったのは必然である。
否、正しくは龍水のせいであるに違いない。何故ならそれを始めたのは他でもない龍水だったのだから。
「私は龍水さんもすごいと思いますけどねぇ。欲しいイコール正義。言葉に出すだけなら簡単だけど、それを実行に移せる人なんてそうそういないだろうし。ましてそれを生まれてからずっと突き通せるなんてよっぽど信念があるからなのでは? 今後もそれを突き通して生きていってくれれば私としては嬉しいけどねー」
「──はっはー! よく分かってるじゃないか!」
「じゃ、ソユコトでー」
茉莉は考えた。
足りない、ストレス過多な脳をフル回転させて考えた。
そして至った答えが周りが自分にいちゃもんつけてくる前にぶん殴る。無論、言葉でである。断じて拳ではない。
私を褒める?んな事求めてねぇんだわ。ならこっちは褒め返してやんよ! これでも私は箱推しなんだ、いくらだってやってやる。はは!合法でだいちゅきっていっていいのー? いーいーよー!
じゃあ言ったろ。あ、長文はキモがられるから短文やな!
と、限界だった茉莉の頭は架空のいもしないオタ友に許可をとった。
何せこの世界に生まれ、前を思い出してから褒められたことがないに等しい故に。それ故供給が多すぎるとショートした思考回路が、これは幸いとダメな方向に舵を切ったのだ。
「ゲンくんがいてくれなかったら司くんとはまともにやり合えなかったと思うし、本当にセンクウについてくれてよかったって思ってるよ。ホントにありがと。今後もみんなを支えてね」
「んグッ! ど、どうしたの茉莉ちゃん?」
「別にどうもしないけど? ただありがとうって話」
ニコリともせず、ただただ無の表情でゲンに礼を述べる茉莉の姿はあまりにもシュールであった。
当人はニヤけたら終わる。キモがられる。笑うな私。とただ必死にニマニマするのを耐えていただけなのだが、それを知る者はもちろんいないわけで。
「羽京さんはホントにいいお兄ちゃんだよね。みんなをよく見てて、少なからずセンクウの事も子供扱いしてくれてるでしょ? ソユトコ素敵だと思うの。こんな世界じゃ大人にならなきゃならないけど、みんなまだ子供だもん。たまに甘えられお兄さんいてもいいよね」
「──はは、褒められてる、のかな?」
「褒めてるってか、なんだろ。いつも子供に戻してくれてありがと的な?」
ハイライトのない瞳でそんなことを言われた羽京は、一番子供でいて欲しい君には甘えて貰えないんだけどなと苦笑いをし。
「別に私司くんの事嫌いじゃないよ? 嫌う理由、なくない? だって大樹君と杠ちゃんもちゃんと守ってくれてたじゃん。そりゃあ意見の食い違いはあったけど、今こうして仲間になったなら問題なくない? むしろいてくれなきゃ困るから。ずっと元気でいてね」
「──オレは。うん、君に嫌われているものばかりと思っていたよ」
「そんなわけないでしょ、君が生きてここにいてくれるだけで私は嬉しいよ」
淡々と抑揚のない声で司には思いを告げ。
「杠ちゃんの技術にどれだけ助けられたと思ってるの?杠ちゃんがいなきゃ早々にセンクウの企みが詰んでた可能性あるわけじゃん。敵陣にいるだけで怖いはずなのに、それでも人類の為に頑張ってくれたことに感謝しかない」
「照れますなぁ!」
「もー大樹君に関しては生きてるだけで百億点。存在しているだけで百億点。君のおかげでセンクウはまっすぐ育ったって言っていいもん。ありがと。その前向きさに助けられてる」
「そんなことを思ってくれていたのか! 嬉しいぞ!」
ニコニコと笑う二人に対して、茉莉はいまだに無表情。ぴくりとも頬筋は動くことはなく。
その後もコハクを褒めスイカを褒め。ルリに飛び火したかと思えばそのまま石神村メンバーを沈め。旧人類はそっと隠れ始めた。
何せ茉莉の表情は無。いいことを言われていることは分かっているのだが、それが本心なのかも分からない。
当人はきゃっきゃとやられたらやり返す、倍返しだ!と意気揚々としていたのだが、伝わらなければ恐怖でもあったのである。
「──なんか、みんなに避けられてる気がする。ま、いいんだけども」
「そりゃテメェのせいだろ。それによくねぇよ」
「……なして?」
「テメェが誰彼構わず褒めるせいで変にやる気になるやつはいるわ、逆に調子に乗る奴がいんだよ」
銀狼とかまさにそれ。
茉莉ちゃんにそのままでいいんだよって言われたから! 僕はそのままでいいんだよ!と言ってコハクに殴られた銀狼に、ルールはルールだと張り切りすぎた結果妥協を許さなくなった金狼。その全ては元凶は茉莉のせいではある。
何せ茉莉は人と関わるのが嫌いだと思われている。それ故に嫌い、とは言わなくとも如何とでも良いと思われているだろうと思っていた人間は多数いた。だというのに自分の今まで行動を褒められた結果、ちゃんと見ててくれたのだと好感度が上がるのも然り。
「──やられたこと、やり返しただけなのに」
「他の奴がやりゃこうならなかったんだろうがな、お前だから起きた事だろうよ」
不覚にも、茉莉だからこそ起こってしまった事である。
「ま、こーならねぇように今後はもうちぃっと話し合っとくんだな」
「……メンド」
「本音言ってんじゃねぇよ。ったくテメェは何考えてっかわかんねぇな、相変わらず」
「……私は」
「あ"?」
「私は、いつだってみんなに感謝してるもん」
ボソリとつぶやかれた言葉を拾った千空は作業の手を止め、茉莉へ視線を向けた。
「言葉にはしてないけど、ちゃんとみんなに感謝してる。センクウだってそうでしょ。いちいち言わないじゃん」
「──まぁ、そりゃな」
「それに何より、センクウが認めた人間が凄くないわけなくない? 人間大好きセンクウさんの仲間だよ?」
「おい、茉莉。テメェ何言って─」
「センクウが信用してる人間を嫌いになるわけないじゃん、私が。私が一番センクウを信頼してんだから、その仲間を邪険にするわけないじゃん」
「は? 誰が、誰を信頼してるって?」
「ん? 私がセンクウを信頼してるのだけど? センクウいなかったら、私生きてこれなかったもん絶対。センクウがいてくれたから、私は頑張ってこれたんだもん。だから、ありがとね千空」
普段の茉莉であったのならばこんなこと言わなかっただろう。では何故こんなこと言ってしまったかと問われればその原因は龍水で、尚且つここ最近、宝島にて号泣されてたのは千空でもあったわけで。その名残がポロリと出てしまったのだ。
「っなに! え、なに⁉︎」
「あ"ー、もう黙ってろ」
「ぅえ?」
不意に千空に頭を押さえつけられた茉莉は机の木目を数えながら、やっぱり素直に話すと気持ち悪がられるのだと反省しもう二度と本心を表に出さないと決意した。
何せ茉莉はみんなが好きで、千空が好きすぎるので嫌われる事は避けたい事柄ゆえに。
「も、いわないよー」
「──別に、いうなとは言ってねぇだろ」
違うそうじゃない、言葉を制限したいわけじゃない。
千空は茉莉の頭を押さえつつ、同時にもう片方の手で己の顔を覆い隠す。千空も皆同様に茉莉に好かれてるとは思ってはいなかった。それ故に真正面からそんな事を言われてしまえば、返す言葉が見つからなかったのである。
「ッ──」
赤らんだ顔を茉莉に見せぬよう隠しながら、千空はただわしゃわしゃと彼女の髪を撫でる。
きっとこの意味など茉莉は理解できないだろうと、ほんの僅かな喜びを込めて頭を撫でた。
千空パイセンに照れて欲しいってリクもらったので、前回の話と合わせた話を書かせていただきましたー!
多分ハイテンション茉莉ちゃんじゃなかったら出来なかった諸行。