今回もいただいたネタです!
どうしてこうなった?
茉莉は目の前でとても楽しそうに笑う女子勢を見やって頭を悩ませた。
杠はもちろんルリにニッキー、スイカや未来までもが嬉しそうに笑っている。これが茉莉自身に関係ないことならば微笑ましく思えていたものであろう。
だがしかし今現在、その対象とされているのはその茉莉なのだ。
「次はルリが髪を編み込んでくれるってさ」
「ア、ハイ」
ニコニコと笑うニッキーを前に、茉莉は成すすべなく天を仰いだ。
どうしてこうなった?
全てのきっかけは未来との綿飴作りが始まりといえる。ドラゴ集めのために働き回る未来を助けようと手伝いを申し入れた茉莉であったが、そこで問題が発生したのである。
綿飴機の暴走による、溶けた砂糖乱射事件の勃発だ。
それをモロに食らったのは未来を庇った茉莉で、それは見事に砂糖まみれになった。茉莉は慌てる未来を落ち着かせ千空へ機械の修理を頼んで欲しいとお願いし、自身は一旦着替えにテントへ戻る。
その最中に会ったニッキーにあまりにも酷いから水浴びをしてきた方が良いと勧められてそれに従えば、川から上がった茉莉を待っていたのは着替えを持った杠とルリ。
その顔は何故か満面の笑みであった。
「茉莉ちゃん!これを機に衣装チェンジする気はありませんかな?」
「折角ですから、髪も結ってみましょう!」
にっこりと笑う二人に、茉莉は断る術を知らなかった。
「そういえば茉莉ちゃんの服は千空君と似てるよね?あれは茉莉ちゃんが?」
「あー、私の予備の服を千空君にあげてからそのままで」
「ワォ!だからお揃いなんだ!」
お揃いといえば聞こえはいいが千空がいつか復活して、尚且つ推しが自分の作った服を着てくれればいいなという邪な思いで作られたものだと杠は知らないし、茉莉も言うわけもなく。もっといえば推しの服を着た自分!という楽しみをしながら寂しい時を耐え忍んだ記憶も茉莉にはあった。
そのため千空と茉莉の服装はズボンを履いているか履いてないか、E=mc2の有無しか変わらない。背丈の問題で茉莉の方が大き目を着ているように思えるが、元を正せば千空用に作られたものなのだからさもありなん。
「おーい!待たせたね!」
「遅かったねニッキーちゃん!」
「スイカ達も来たんだよー!」
「え?え?」
衣装チェンジと言われたもののせいでいつもより遥かに露出度が高い衣類に着替えさせられた茉莉の前に現れたのは、ニッキーとスイカと未来。
その顔はやはりニコニコと花が飛ぶようで、実際スイカと未来の手には花束もある。
なんだか嫌な予感がしてきたぞと逃げだそうにも、意外と力の強いルリに手を取られてしまっている以上逃げられやしなかった。
「茉莉、アンタ意外と……」
「みなまでいわないで、分かってるんだ。まな板だと」
茉莉は自分の体型を貧相だと思っているが、実際そこまでではない。
確かに発育の良いルリやコハクと比べても同い年であった杠よりも凹凸がないが、山籠りで鍛えられた筋肉のおかげで贅肉はなくキュッとしまったくびれがよく目立つ。いうなれば筋肉質なスレンダー体型といったところだろう。
無論、ニッキーもそう伝えようとしたというのに勘違いをしてそれを止めたのは茉莉である。
「では私とニッキーさんが髪を結って」
「その後に私とスイカちゃんが飾ってくで!」
「ワー、ウレシイナァ」
モウコロチテ。
茉莉は心中で願った。
「──よしできた!完成や」
「茉莉、似合うんだよー!」
にっこりと笑う未来とスイカを前にして、茉莉は作り笑いで返す。
今まで着ていた服から首元で縛るタイプのワンピースにベースが代わり、僅かにある胸部を支えるようにコルセットが巻かれている。もちろん下半身は膝下丈のスカートなのだがこれまた両側のスリットは深く、杠のようにリボンをジグザグに通しあまり開かないように作られていた。
背中もガッツリと開いており、茉莉はひっそりと『宝島のニッキーの原型かなぁ?』と涙を堪えた。
こういう格好ができるのはニッキーとかコハクだけなんだよ。ない乳を強調しないでください。
茉莉の切実な願いは杠に届くことはない。
髪型も普段は紐で一つ縛りなのだがそれはほどかれ、両側からカチューシャのように編み込まれた。もちろん三つ編みには花が差し込まれ、なんとも手の凝った仕様だといえるだろう。
「うん、茉莉もこういった服の方がいいんじゃないのかい?」
「えー、あー、うん?」
「私、作るよ!茉莉ちゃんの好きそうな服!作りたい!」
「アーアリガトウ」
言いにくい。とてつもなく言いにくい。
可愛い服はありがたいが、機能的に無理なのだと言いにくい。
さてどう断ろうと首を傾げて前を見据えればそこにいるのは未来とスイカで、茉莉はその日何をしようとしていたかを思い出した。
「未来ちゃん、千空君に修理お願いできた?」
「もちろん出来たで!……あかん!割とすぐに直るゆーてたわ!」
「よし一緒にとりにこう!」
急がないといけないねと未来にいうように見せかけて彼女の手を取り、茉莉は走りにくいその服で必死に足を動かした。
背後で一緒にデザインしようね!と杠が言っていた気もするが、茉莉にとってオシャレは二の次三の次なのである。
よっし!逃げ切れた!
心の奥底でガッツポーズを決めつつ茉莉は未来と共に千空の元へ向かう。
逃げられたことの嬉しさにチラチラと茉莉を伺う者がいることなど気づきやしない。彼らが何故そのような視線を茉莉に向けるのかといえば、見慣れない人間が獅子王司の妹、未来と共にいたからである。
司帝国民でも石神村の住人でも見たことのないその人物が誰なのかそれはもう気になるわけで。復活液は無いはずなのだから、新たに復活した者とも考えられず。
皆が皆思ったのだ。
あの慎ましやかな少女は誰だ、と。
しかしまぁ、慎ましやかに見える少女の正体があの茉莉だとは誰もが思わない。何せ彼女がそのような格好をしたことは今の一度もなかったのだから。女の子らしい茉莉など、誰も知りやしない。
「千空さん、わたあめ機なおっとる?」
「あ"ぁ、直してあっからもってけ──?」
考えることコンマ2秒。
千空は未来と共に現れた人物が誰か考察する。身長と体型はもちろん見慣れた顔。ただ違うのはその服装と髪型だが、その人物はよく知った彼女である。
「ククク、こりゃまたお可愛い格好してんな、茉莉」
「そやろ!ニッキーちゃん達と大変身させたんや!」
突然の推しの配給に、茉莉の表情筋は死んだ。
「いつも可愛い格好したらいいのにって思うてて、やっとしてもろたんよ!可愛いやろ!」
「おぉ、お可愛いこってぇ」
過剰配給はおやめください。
茉莉は切に願った。
スンと真顔になった茉莉に千空は思うところがあったのが彼女に頼む仕事があったのを忘れてたから借りると未来に告げ、未来は素直にラボを後にする。
未来の姿が見えなくなると茉莉は頭を抱えて深々と息を吐き出した。
「あ"ぁぁあ──、この服動きにくいってどう伝えよう」
「なんだ、着たくて着たんじゃねぇのか?」
「このお可愛い服を?私が?良かれと思って用意してくれたのは有難いんだけど狩りに行きずらいし、怪我しそうだし。何より──」
股がスースーするんだよ。
あまりにも女と思えない発言に、千空の時は一度止まった。
「これじゃぁ生理の時速攻で終わるじゃん、せめてパンツがほしい」
「──っククク」
「笑い事ではないのだけれど?」
一般的な女として伝えづらい事柄だが、そこは二人だけで過ごさなければならなかった期間が長い二人だ。既に茉莉の方が諦めデリケートな問題ですらない。故に彼女はあからさまに宣言できるのだ。
それを聞いた千空はどんなに女らしい格好をしたところで茉莉は茉莉で何一つ変わらないと安堵すると共に、着飾った女よりも頼り甲斐があると再認識したのである。
「ククク、そんなに着替えてぇなら俺から手芸部に伝えてやんよ。作ったの杠だろ?」
「いいの?」
「あ"ぁ。ほら、行くぞ」
千空の延ばされた左手は茉莉の手首を掴み取り、そのご機嫌な表情の中颯爽と歩く。
茉莉といえばまたしても推しから過剰に与えられた配給(手繋ぎ)で脳は瀕死状態だ。周りでそれを見てしまった者達はギョッと目を見開き、やはりあの少女は誰なのかと遠目で観察をしていたのである。
「手芸部ー、コイツの服いつものに戻せるか?これじゃぁ仕事が頼みずれぇ」
「アッチャー、やっぱりそうなるよね?ってことでこちらに用意してあります!」
「仕事がお早ぇこってぇ」
ならば最初からそちらを着たかった。
とは迂闊にはいえない。何せあの時の杠達の笑顔は本物であったから。
「茉莉ちゃん、これね、中にポッケとショルダーバッグ用にベルト通しつけてみたの。どうでしょうか?」
「ありがとう杠ちゃん、助かるよ」
「どういたしまして!千空君はお洋服大丈夫そう?」
「あ"ぁ、問題ねぇ。汚しても茉莉センセイが似たようなやつ溜め込んでたからな、そっからもらうわ」
「アレは私が着るって言ってるのに。杠ちゃんのちゃんと縫製してあるやつの方が良いのでは?」
「似たようなのあんだからそっちから使った方が合理的だろ。使い勝手も同じだしな」
「そりゃそうかもしれないけれど……」
無理に着なくてもと思うもの。
茉莉が一人寂しく過ごした三年間の間で溜まった服は、案外ツリーハウスに残っていた。流石の司も一度殺してしまった人間が着ていた服と同じデザインなものを他者に使うのは、無意識に拒否したのであろう。
「んじゃ着替えたら未来の手伝いに行ってやれよ。流石に一人で金稼ぎはさせらんねぇ」
「りょーかい」
互いに手を振って、茉莉は新しい服に袖を通す。
杠製の服であっても相変わらずのデザインで、代えたと知らなければ同じものだと誰しもが思うだろう。
「うん、これがしっくりくる」
可愛い服が嫌いなわけでは無い。ただ、今の時代には不必要なだけ。
茉莉は今日も今日とて、推しと同じ服を着る。
※※※
オマケ
陽と千空。
「なぁ、千空。最近石化解けた女とかいねぇよな?」
「あ"?復活液がもうねぇに等しぃんだ、いるわけねぇだろ」
「だよなぁ?なんか千空と知らねぇ女がデートしてたって噂があんだけどさぁ」
「んな暇ねぇわ」
羽京と千空。
「ねぇ千空、新たに復活者って増えてないよね?」
「あ"?俺の知る限りはいねぇよ」
「だよねぇ。……ちなみになんだけど、最近女の子と出かけたりした?」
「んな暇ねぇよ。──こんな会話、前にもした気がすんだが」
「んー、ちょっとした噂があってね。千空が女の子と楽しそうに歩いてたって」
「……んなに俺が暇だと思ってんのか?」
ゲンと千空。
「ねぇねぇ千空ちゃーん、デートしてたって本当?」
「オメェもか、メンタリスト」
「メンゴメンゴ♪ほら、この時代じゃそういった噂話しか楽しみないじゃない?」
「テメェら全員幻覚でも見てんじゃねぇの?」
「うーん、でも千空ちゃん。可愛い洋服を着た茉莉ちゃんと一緒にいたんだよね?」
「あ"?居たけどそれがどうした」
「うん、どう考えても原因それだよ千空ちゃん。俺もスイカちゃんから聞いてなかったら噂の虜になってたかも♪」
「メンタリスト、暇なら明日までに仕事仕上げとけよ」
「ドイヒー!」
千空と茉莉
「ねぇ千空君、前から思ってたんだけど私と似た服で嫌じゃない?今更ながらお揃いぽいってゲン君にも言われたんだけど、違うデザインに変えようか、私が」
「……んな事で作り変えんの面倒だろ?言いたいやつには言わせとけ」
「んー、じゃいっか。これなら作り慣れてるから楽だし」
「おー、そうしろー」
余談。裏設定。
茉莉ちゃんに原作知識がなかった場合
良くいって、千空の後ろを3歩後ろを歩く慎ましやか系女子。
悪くいうと、何事にもビビりまくって泣き虫になり、千空の後にひっついて守ってもらう幸薄系女子。
どちらにせよ千空パイセンは過保護になる未来しかない。
従来の性格にもそこそこ問題があり、原作知識を身につけちゃった後は自尊心マイナス少女に大変身。