千空さんと凡人さん。番外編   作:燈葱

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千空復活10日前後〜大樹復活前の二人暮らし軸。
 素晴らしいネタをいただいたのですが、この行動をさせるならば絶対ここしか無い。他の人間はじゃなだけだと悟りました。
本編との若干な矛盾がありますが、それはそれとして割り切っていただけると嬉しいです。


その5。

 

 

 

 

 

 茉莉と睡眠障害は切っても切れない仲である。でなければこんな人生を歩んでいない。

 

 全人類が石化し目覚めるまでの凡そ3700年、茉莉は意識を飛ばすことはなかった。彼女の推しのように秒数を数えることなど出来やしなかったが、意識が飛ぶ瞬間になるともう二度と目覚めることがないのだと脳が無理矢理にでも茉莉の意識を覚醒させる。

 時には身体がバラバラになる世界を、凍えて死ぬ世界を、無様に食い殺される未来を。何度も何度も地獄のような世界を脳に刻みつけられれば、たとえ目覚めたとしてもその悪夢はいつだって訪れるものだ。

 

「──ッ、ハ」

 

 びくりと体を震わせ目を覚まし、隣で寝ている彼を起こさないように茉莉は外へ出る。

 月はまた高い場所にあり、まだまだ夜が明けぬことを示していた。

 

「ぅえっ」

 

 胃袋にあったものを吐き出して、茉莉はふと思う。最近まではこんなことなかったのに、と。

 彼が、石神千空がこの時代に目覚めるまでこの症状は身を潜めていた。

 それはこの三年間は生きていくに忙しく、身体が日々限界まで働いていたせいもあるだろう。夢に見ていた地獄そのものに今生きていると考えられやしたし、夢を見る余裕などなかった。

 けれども千空が復活した今、茉莉の生活はある意味安定している。

 一人から二人になった為仕事は分担できるようになったし、何より話し相手がいるだけで気持ちも落ち着くものである。

 だから夢など見ないと思っていたのに、実際はその真逆でこの世界を拒絶するかのようにその悪夢は訪れた。

 

 何故そうなったか、茉莉は検討がついていた。

 彼が訪れたことでこの世界が自分の知る未来を歩み始めたのだと。それはつまり、異端児である彼女がいていい場所でないのだと。

 

「ぅえっ」

 

 会えて嬉しいはずなのに、生きていることが怖い。巻き込まれて死ぬのが怖い。

 万が一、変えてしまうことが怖い。

 

 そんな思いで、彼女は眠る事を拒絶した。

 

 

 

 

 

「おい、何ふらついてんだ。体調不良なら休め、デカブツが目ぇ醒めるまでテメェに倒れられるわけにはいかねぇんだよ」

「あー、うん。ごめんごめん。不調じゃないから大丈夫ー」

 

 うっすらとその両目の下に隈を作り始めた茉莉を見て千空は小さくため息をついた。様々な仕事をこなす彼女は役に立つが、二日ほど前から行動がおかしい。

 最初こそ体調不良かと思っていたがどうやらそれも違うようで、その原因は睡眠不足によるものだと千空は推測した。

 三年間一人で過ごしてきた彼女からすれば千空はいきなり訪れた人間で、その気配があるために寝れなくなっている可能は大いにある。故に部屋を分けてみたが茉莉は夜中に起き出し、翌朝には終えてなかった仕事が終わっていることが多々あった。

 ただでさえマンパワーが足りない現状でパフォーマンスを下げるなと何度か注意したが、彼女は目を背けて笑うだけ。改善する気は見られない。

 

「──ッ」

 

 思わず、そう思わず。

 石神千空という人間からすれば珍しい舌打ちをこぼし、思考を切り替えて実験を開始する。するべきものは山積みで彼女にばかり構っているわけにはいかないのだ。自分の体調は自分で管理してもらうしか無いと千空は茉莉の事を放っておくことに決めた。

 

 

 

 

 

 

 だというのに、千空は茉莉のその行動理由が理解できずにさらに頭を悩ませた。

 

「──仕事、ある?」

「あ"ぁ、そこにあるやついつも通りにたのむ」

「ん」

 

「次は?」

「──そっちのだな」

「ん」

 

「次?」

「あー、メシ作り頼めるか?」

「ん」

 

「ご飯」

「おう」

「ん」

 

 

 茉莉がほぼほぼ睡眠を取らなくなって五日目、彼女の行動はバグり出した。

 千空を視界の端にとらえるとすぐさま後を追い指示を求め、それが終わると次の指示を。

 面倒くせぇことになったと千空は頭を抱えたが、仕事はちゃんとこなしている以上文句はいえない。

 

「千空君、千空君、これは?」

「あ"ーそれはな」

「ん」

 

 ぴょこぴょこと千空の後を追う姿はまるで小鴨の如し。親を求めている雛を迂闊にも重ねてしまい頭を抱えた。

 

「オメェ、マジで大丈夫か?」

「ん、平気」

「マジで言ってんのか?」

「ん、大丈夫」

「……嘘だろ」

 

 

 ゴシゴシと目が赤くなるまで擦っているというのに平然と嘘を吐く茉莉に、千空はついに呆れ出す。

 

 なにを思って寝てねぇのかしらねぇが、さっさと寝ろ。

 

 それは怒りすらも通り越したのだ。

 日に何度も指示を仰がれるために仕方なしに隣に座って実験と仕事をこなし、たまにガクンと落ちる茉莉の頭を支える。何度かそんなことがあり、ついに彼女は千空の肩にもたれるとスースーと寝息を立てた。

 千空は茉莉が寝ると体力を振り絞って横に転がし寝かすが、十数分もそれは持たずに茉莉は起きだし指示を求める。

 最終的に彼は彼女を抱えるかたちで寝かしつけることとなる。

 

 意識はっきりしてる時はビミョーに避けるくせに、コイツの距離感バグってんじゃねぇのか。

 

 そう考えて大きく息を吐いた。

 

 

 茉莉は一度熟睡すると寝不足であった日の記憶を引き継がないようで、ケロッとした顔で指示を待たずに仕事を始める。それこそ千空が起きる前から働き、寝る(と見せかける)のも彼よりも遅いほどに。とは言ったものの日に日にその行動は歪み、案の定五日目あたりで小鴨になる事を千空は理解した。

 そこからは合理的に行動し、背中合わせに作業して茉莉を寝かしつけることに成功したのである。

 

「──う、んぐ、や、しにたく、や」

 

 スピスピと寝息を立てる茉莉からそんな声が不意に聞こえた。

 ただの寝言だと思いつつもそれに聞き入ってみれば『死にたくたい』『怖い』『おかぁさん』と聞き取れる単語が耳につく。

 

 そして千空は気付いたのだ。

 茉莉は怖がっていたのだと。

 

 自分より三年早く起きてしまった彼女が生活基盤を作るのにどれだけかかっただろう。その中で死にかけたこともあったかもしれない。

 いくらサバイバル技術を持っていたとしても、他に誰もいない世界で、たった一人で生きてきた茉莉の孤独を千空が理解できるわけがなかった。

 そう思ってみれば一人の生活にしては多い土器の数も、塩の量も納得ができる。いつか来る"誰か"のためにひたすら生み出して、そしてようやく現れたのが自分であったのだと。

 

「──三年、だもんな」

 

 誰にも会わず一人で、望みすら捨てた時期もあったかもしれない。

 それを理解すれば茉莉が小鴨のようになる理由だってわかるもので。

 

「そりゃ、人が恋しくなるわけだ」

 

 千空の体温がなくなると起き出すのもその為だろう。

 

「つーことは夜中起きるのは一人でいた時期のトラウマか何か?会って数日は普通に寝てた気もすっし」

 

 今後は楽に寝かしつけられるなと、千空は空を眺めて呟いた。

 

 

 

 

 

 

「千空君、仕事ー」

「あ"ぁ、茉莉。テメェの仕事は寝るこった、こっちに来い」

「うぃー」

 

 千空は徹夜五日にあたる隈を濃くした茉莉の手を引きその場に座らせ、そのまま抱き寄せて背中を叩く。

 鼓動と同じ速さでと叩いていけばトロンと彼女の目は歪み、そして数分もしないうちにスヤスヤと寝息をつき始めた。

 

「さっさと正気に戻れよ、やる事はまだあんだからな」

 

 もう聞こえてやしねぇだろうが。

 

 千空は茉莉の髪をひと撫でし、己も休息を取るのである。

 

 

 そしてこの行動は大樹が目覚めるまで繰り返されたのだが、彼の目覚めのともに茉莉の睡眠障害は一時落ち着いた。

 

 その理由を千空は知ることはないだろう。

 

 茉莉という人間は、石神千空という存在に限り絶対の信頼を寄せている。そのため千空とその友人大樹が目覚めた世界は茉莉にとって歪みのない世界なのだ。

 

 原作通りの世界、それを知れたのならば茉莉は己の異端が反映されないことに安堵し、ようやく精神を落ち着けることができたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 オマケ。

 

「茉莉」

「なに、千空君」

「オメェ、最悪でも一日三時間は寝ろよ」

「え、」

「いろいろ仕事に響くんだよ、わーったな」

「う、うす」

「絶対だぞ」

「ハイ」

 

 

 

 




ネタに伴い追加設定。
千空パイセンが茉莉ちゃんを寝かしつけられるのはこのため。
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