時間軸 司冷凍後割と直ぐ。
羽京には密かに楽しみにしていることがある。
もし本人に知れてしまえば趣味が悪いとにこやかに悪態をつかれそうなものであろうが、今のところそれはバレていない。
そしてそれは不定期的に真夜中にのみ起こり、リーダーが変わった今でも繰り返されるものでもあった。
「……来た」
海辺に現れた少女を木の上から眺め、羽京はそのまま耳をすませる。
最初こそ夜中に逃げようとしているのかと疑ったが、彼女はそこでひたすら貝を拾うだけ。そして拾われた貝は彼女の手によってモルタルへと変化し皆の生活を豊かにした。
そんな彼女に対して羽京が好印象を抱くのは当たり前であり、一種の保護対象ともいえたのである。
彼女こと茉莉は羽京が潜んでいると知らずに今日もまた海辺で貝を漁る。羽京の耳には心地よい波の音と、彼女の口から放たれる歌が届いた。
夢のような話でいいから聞かせて。
時が流れても変わらないものがあるから。
もう一度その声で、君を待っている。
茉莉が歌う歌はさまざまで、羽京でさえも知っているポップなものから歌詞の意味が理解できないものまでと幅広い。特に歌が上手いわけでもないが下手というわけでもなく、彼女の声と波の音、葉の重なり合う音が混ざり合って羽京の心にゆとりを持たせていくのだ。
今日は運がいい。聴きながら寝れそうだ。
くるりと胴体と木をロープで結び万が一に備え、そのまま寝る体制を作った羽京であったが思いもしなかった音が彼の耳に届いた。
それは誰かの足音で、ゆっくりとだがこちらに向かってくる。
こんな時間に出歩くなんてと自分のことなど棚に上げてそちら視線を向けてみれば、そこにいるのは特徴的な髪型の男であった。
『──茉莉』
それほど大きな声でなくとも、彼女を呼ぶ声が羽京の耳に届いた。
もしかして、ここに自分はいてはいけないでは。とそう思ったところで既に身動きは取れず、羽京はただことの成り行きを眺めることに徹する。
僕は空気、僕は空気。
でも少し気になる。
チラリとそちらに目をやって、耳を傾けて声を聞く。
どうもあの時から二人の関係がなんなのか気になっていたのだ。
千空のために死ねると言った茉莉と、全人類を救うと決めた千空。
ある意味子供とは思えないほどの強い意志。
そんな意志を持つ二人の関係とは。
『千空君、何かよう?』
『まぁ、用っちゃようだな。テメェに聞きてぇことがある』
ごくりと羽京は喉を鳴らした。
『ゲンに歌った、団子の歌ってなんだ?それが気ぃなって目が冴えて仕方ねぇ』
『え、えぇー、今それを聞く?』
『団子なのに子守唄ってなんだその歌、意味わかんねぇ』
『──ちなみになん徹目?』
『あ"ー、仮眠はしてる』
『私がすると怒るのに、自分ではするのか』
どうしよう、すごく気になる。
あの千空がそんなどうでもいい事を気にすることにも、なん徹目なのかも団子の子守唄も気になって仕方がない。
あの二人の関係はなんて考えてた羽京は二人の会話に毒気を抜かれ、笑いそうにもなりながらもさらに耳をすませた。
『んー、しゃあないな。よし、千空君そこに横になって』
『あ"?』
『ご存知でない?子守唄は寝る前に聞くもんなんだよ。ほらゴローン』
あの千空が大人しく横になるものかと思っていた羽京であるが、彼は思いのほか素直に茉莉の敷いたテントの上に寝転がった。
茉莉はそれを確認すると同じように隣に横になり、のびのびとその歌い始めたのである。
だんご団子の大家族。やんちゃなだんご赤ちゃんだんご、年寄りだんご。
みんなで輪になって、嬉しいことも悲しいことも、笑い合って丸めて。
歌詞そのものにだんごが入っているのかと納得しつつ、羽京はその歌の心地よさに身を委ねそうになっていた。
確かにこれは子守唄だ。
優しい声と、眠くなる音程とスピード。
歌詞はともかく、眠くなる。
それはどうやら千空も同じであったらしく、彼は連日の睡眠不足も加わってかすでに寝息を立てている。茉莉は歌を歌い終えると千空の顔を覗き込み、震える声音でごめんねと言葉を漏らす。その姿は見ていると痛々しくなるもので、羽京はそっと目を逸らすことしができない。
ごめん、ごめんね。役に立てなくてごめん、何もできなくてごめん。君だけが背負うものじゃないのに、まだ千空も子供なのに。
ごめんね。
小さな声で何度も謝る彼女の声は千空に届かず、それを聞いてしまったのは羽京一人。
こんな事なら好奇心で覗き見しなければよかったと後悔するには遅く、帽子を深く被り直して夢の世界へと逃げ込んだのである。
翌る日、羽京はとある歌によって目を覚ました。
聞いたことのあるその歌を歌っているのは茉莉ではなく千空で、昨夜とは真逆の行動をしているようであった。
百億年の歴史が、この身体に流れてる。
僕らは一つ、空高く聞こえる声が君も星だよと。
3700年前も合唱曲で、羽京も歌ったことがあるその曲を歌い上げたのは他でもない千空で。
顔は見えないがその声は優しく響いている。
スヤスヤと眠る寝息は茉莉のものだろうと羽京は推測し、やっぱり気になる関係でしかないと微笑ましくそれを眺めた。
『おい茉莉、起きろ。朝だ』
『んー、おはー。せんくーくんねれた?』
『ご立派な子守唄のお陰で爆睡だわ』
『それはよきにー』
ゴシゴシと目を擦りながら目覚めた茉莉を千空は立たせテントを片付けると、左手を伸ばしていくぞと告げる。彼女もそれを拒むことなく右手を伸ばし手を握り合って歩き出す。まだ寝ぼけ眼の茉莉に合わせるように千空はゆっくりと歩き、茉莉はあくびを一つついてにへらと笑った。
『──団子の歌、あれは悪かねぇな』
『んー、家族のうた、だからねぇ』
『クク、いい歌じゃねぇか』
あぁ、ここに青い春はあった。
若いっていいな。
羽京は年相応に笑っているのであろう千空の声を聞いてしみじみと思う。二人がどんな関係であれ、あんな会話が出来るのなら良い関係でしかない。
心配なんてする必要もないのだろう、と。
「さてと、僕も戻らないとね」
今日のことは僕だけの秘密にしておこう。
羽京は並んで歩く二人を見つめてただそう誓った。
※※※
オマケ。
羽京とゲン。
「いやぁ、千空と茉莉って意外と仲良いんだね。あんな発言聞いてたし心配してたけど、よかったよ」
「まぁ一応幼馴染だったらしいよ、ゴイスー仲の悪い」
「──え?」
「ゴイスー仲の悪い幼馴染。見えないよねぇ?」
「え?」
羽京と大樹と杠。
「……ちょっと聞きたいんだけどさ、千空と茉莉が仲悪かったって本当?」
「あぁ!悪かったぞ!話をしてるとこなど見たことなかった!」
「千空君に何回聞いても関係ないって言われちゃってたし……。でも!今は仲良しさんで私たちもうれしいですな!」
「そうだな!」
「──嘘じゃないんだ」
羽京と千空、そして茉莉。
「茉莉にとって千空ってどんな存在?」
「他人以上知人以下(と思われてると思う)」
「千空にとって茉莉ってどんな存在?」
「幼馴染(に改修中)」
「こんなのってないよ」
※※※
オマケのオマケ。
はわわ、なんで私千空パイセンとおてて繋いでるの?何かしました?
はわわ、推しの手尊い。
はー、尊氏尊死
歌詞は一応変えてあります。そのまま載せるのはアレかなとなったので。