千空さんと凡人さん。番外編   作:燈葱

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素敵なネタをいただいたので、思わずかいた。フワフワだと思ってる。

時間軸不明、何かのクラフト中


その8。

 

 

 茉莉は疲弊していた。

 いや、正確に述べるのならば茉莉達は疲弊していたが正しいのかもしれない。

 

 クロムやカセキはすでにラボ内で崩れ落ちるように睡魔に誘われ、辛うじて起きているのは外で作業をしていた茉莉と千空の二人だけ。寝ない方が合理的スイッチが入ったままの千空は隈を作りながらも未だ仕事を続けており、茉莉も同様に手を動かしている。

 コハクやゲンといった村の住人はとうの昔に夢の中で、実質この時間に起きているのは二人だけといってもいいだろう。

 

 眠い。

 

 久々に眠気を感じた茉莉は静かに船を漕ぐ。

 目を瞑っては擦って目を覚まし、あくびを噛み殺しては頭を振り、後少しで終わる作業に必死に齧り付いていた。

 その様子に気づいていない千空は一人ぶつぶつと何かを囁きながら考えをまとめている。

 

 眠い。

 

 コクリと彼女の頭が崩れ落ちる。

 まだ寝てはいけないとわかっているのに瞼は落ちてきて、千空の声が聞こえているのに自分の寝息が聞こえている。浅く、意識は残ったままで。

 

 眠い。ねちゃいけない。けど、眠い。

 

 一瞬だけ寝落ちして、茉莉はまたパチリと瞼を開けた。

 

 その時にはすでに、茉莉は今が夢が現実かわからなくなっていた。

 それ故に近くでフワフワと揺れるソレを見た時、脳は正しく働いていなかったのである。

 

「──ねこ、ちゃん」

 

 茉莉はフワフワとしたそれに手を伸ばし、指を絡めるように触れる。

 フワフワと、けれど弾力のある毛束に思わず笑みがこぼれた。

 

「ねこちゃん」

 

 そのまま茉莉は"ねこちゃん"と認識したものを己の膝の上に乗せて、ひたすら撫で回した。

 

 可愛い、ふわふわ。可愛い、気持ちいい。フワフワ、ふわふわ。むふふ。

 かわいい、かぁいい。大好き。

 

 ニコニコと穏やかに。

 ただ愛玩動物を愛でるように優しい手つきで、茉莉はそれを撫で続けた。

 

 茉莉の脳内ではそれはフワフワの毛を持つ猫だと認識されていて、それを愛でているだけであった。

 そうそれは白と緑のグラデーションをした毛を持つ、フワフワのねこちゃんなのだと思い込んで。

 撫でて撫でて、そして笑って。

 緑のねこちゃんかわいいねと納得して、途中でふと思う。

 

 はたしてこれは本当にねこちゃんなのかと。

 

 茉莉の脳はまだ覚醒していない。

 まだ浅い眠りを彷徨っていて、一度そう思ってしまうともしかしてこれは猫ではないのではと考えてしまう。

 考えたところで今を現実だと思っていないのは変わらないのだが、確かにそこに変化はあった。

 

「……せんくー?」

 

 もしかしたらと思っていたものが彼女の推しの髪だったとしたら。そう考えたところで彼女の脳は正常な判断を下すことなどできずにいた。

 これは夢なのだと認識していて、現実だと思ってやしない。

 それ故にそれを猫ではなく石神千空だと認識してもなお、指を絡めて頭を撫でた。

 

 いいこいいこ、疲れたねぇ、頑張ったねぇ。だいじょうぶ、大丈夫。みんないるからね、みんな一緒だからね。

 みんなそばにいるよ。

 かわいい、かぁいい。お幸せにぃ。

 

 撫でて、撫でて撫でて。

 

 推しは推すもの愛でるもの。推せる時に推せ。

 幸せを願って何が悪い、愛を伝えてなにがいけない。

 疲労と寝不足が祟った頭は夢と現実を区別することなく、夢と思い込んだまま彼の頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 しかしながら茉莉にとって夢だとして千空にとってこれは現実で、無理矢理膝枕をされた上に髪を撫で回されそして可愛いだのいいコだの通常聞くことがない言葉をいわれてしまえば脳はバグる。

 それもいつものような笑みではなく、何か好ましいものを見ているような慈悲深い笑顔を幼馴染が自分に向けていた日には宇宙を抱くしかない。

 

 千空は所謂、スペースキャッツになるしかなかったのである。

 

「──は?」

 

 茉莉と違い合理的スイッチの切れていない千空からすれば、いきなり茉莉の行動が壊れたようにも見えた。

 だというのに、頭を撫でるその手が絶妙に心地よくて。彼女の優しい声音が脳を揺らして。少しずつ、そのスイッチを切っていく。

 

 眠ぃ。

 

 ウトウトと、千空の瞼もまたゆっくりと落ちてきて。そして──。

 

「───っ⁉︎」

 

 ボフンと落ちてきた何かに鼻と口を塞がれ、千空は意識を取り戻す。

 迂闊にも千空の呼吸を止めかけたそれは茉莉の上半身で、自身の頭を膝との間から引き抜くと茉莉がスピスピと寝息を立てて寝ているではないか。

 

「あ"?」

 

 後少しで夢に落ちるところだったというのにそれは茉莉に防がれ、そしてその当人は幸せそうに寝ている。

 

「──あ"ぁぁああ、クソっ」

 

 千空は茉莉を寝れる体勢に横にすると、自分もその隣に寝転んだ。

 千空はスヤスヤと気持ちよさそうに寝ている茉莉の頭に手を伸ばし一度だけ彼女の頭を撫でて、己の瞼を閉じたのである。

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 オマケ

 

「……千空くん、今って猫っているのかな。犬はいたけど、猫は見ないよね?」

「あ"ー、デケぇネコ科はいたけど俺も見たことねぇな」

「そっかぁ、いないのか、猫ちゃん(夢でやけになでこごちのいい猫にあったんだけどなぁ)」

「いねぇのかもな、猫(人の頭を猫だと思って撫でてた奴はいんだけどな)」

 

 微妙にズレてる二人である。

 

 




千空さんはラッキースケベすりゃいい。と思い込んでいる。
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