人理修復の特等席 作:もう疲れちゃってェ・・・
「━━━ほう。面白いサーヴァントがいるな。それに神霊か……ここまでの事態になったのだから、召喚できたとしても不思議ではないか……
構えるがいい、名も知らぬ娘。その守りが真実かどうか、この剣で確かめてやろう!」
こうして始まった黒い騎士王との対決。こちらの戦力はマシュと未だ真名を私にも明かさないアサシン、そして途中で合流したその場のキャスター、クーフーリン。三対一という数的有利にも拘わらず、勝負は拮抗していた。
マシュは必死に他三騎の動きについていく。アサシンはこの状況でもまるで真剣ではなく、対してクーフーリンは、戦いを楽しんでいるかのようだった。
そんな状態もつかの間、騎士王の周囲に黒い光が渦巻き始めた。それを見たクーフーリンは魔術で牽制するが、騎士王は自らが傷つくことお構いなしに宝具を放つ体勢に入る。
狙いは、私だった。その殺意の視線は、まっすぐに私を捉えていた。
すぐさま私の前方にマシュが駆け込み盾を構える。
そして、アサシンは私を見ていた。騎士王に攻撃するのでも、私を助けるのでもなく。両手を組み、少しだけ口角が上がっている。
ただ、観客のように私を見ていた。
その口元が音もなく動く。さぁ、どうする、と。
「━━━卑王鉄槌」
ここまでの戦いとは比べ物にならない
「極光は反転する」
魔術ど素人の私でもわかる。この空間が、騎士王から放出される魔力にて埋め尽くされていく感覚。肌が物理的に痛い。
「光を呑め!!」
騎士王と再び目が合った。私の人生において、初めて受ける明確な殺意。それがこんな大英雄からのものなんて、だれが思うか。私は、ただの一般人なんだ。
「――『
眼前が黒で塗りつぶされる。あまりの轟音に、一瞬周囲の音が消え去ったかのような錯覚に陥る。
この状況で生き残るためにはどうしたらいいのか。手っ取り早いのは逃げることだ。今、自分の目の前で踏ん張っている後輩を見捨ててだが。
何の力も無い自分がいたって無駄だ。それに自分が後ろにいるからマシュも逃げられないのかもしれない。
……そうだ。きっとそうだ。もしかしたら、マシュも私が邪魔だって、私が後ろにいなければもっと楽だって……逃げれるのにって……そう思って……そう思って……
「……そんなわけがない」
自分でも情けない思うほど、掠れた声が出た。
「そんなわけが……ない……」
自分でもかっこ悪いと思うほど、震えた声が出た。
「そんなわけが、ないっ!!」
何かを振り切るように、マシュの元へと走った。
客観的に見たらひどく無様だ。怯えながら泣きながら、それでも後輩のもとに駆け寄る。
何もできやしないのに。何の力にもならないのに。後ろで震えることしかできないというのに。ここで逃げては自分は、何かに決定的に負けてしまうと感じた。
「先輩っ!?どうして!?」
「私が聞きたい!」
「えぇ!?」
そりゃ困惑するよね。だって、私がいても……
「でも、ありがとうございます」
━━━え?
「よろしければ、不甲斐ない私に力を……勇気をくれますか?先輩」
「……うん。……うん!!お願いマシュ!一緒に生きて帰ろう!」
「ハイッ!!」
その時、私の右手が赤く煌いた。後から聞いた話だが、これは令呪と呼ばれるもので、サーヴァントを強化したり、命令をすることに使うらしい。今回は、私の思いが、マシュに乗せられる形となった。
「真名、偽装登録━━━━宝具展開します!
『
視界は既に黒に塗りつぶされ、聴覚はあまりの轟音に役目を放棄した。
でも、私はまだ生きている。
マシュの展開した宝具は、黒き濁流に飲まれながらも、輝きを失わなかった。
そしてついに、黒い視界は背後に流れ去り、瞳は光を取り入れる。
「耐えた!」
「はい!先輩!」
騎士王は健在な私たちを見て、一度目を大きく見開き、すぐに表情を微笑みへと変えた。
「━━━フ。知らず、私も力が緩んでいたらしい。手を止めてしまうとは。
何かを懐かしむかのような笑み。先ほどまで、あれほどの殺意と魔力を垂れ流していた人物とは思えなかった。
手を止めてくれるのだろうか。
そんな甘い幻想は、再び冷徹な目つきと、言葉によって打ち破られた。
「ならば、もう一度だ」
「……え?」
再び黒き光が集約する。先程と同じように、星の聖剣は全てを塗り潰す極光を充填した。
「そんな」
マシュも盾を構えるのをやめてしまう。それほどの絶望がそこにはあった。
「よし、合格だ」
そう言って私とマシュの頭の上にポンと手のひらが乗る。たったそれだけの言葉と、動作。それだけで絶望がどこかへ飛んで行ってしまった。
「生きたいと願うくせに、最も危険な場所に行くとはな。なんにせよ戦士の兆しは見せてもらった」
今も騎士王に集まり続ける魔力を目の当たりにしても、このアサシンは飄々と笑っている。まるで、あんなものはどうってことないと言わんばかりに。
「頭金はいただいた。であれば、俺も契約を履行しよう」
アサシンの姿が砂塵ように消え、同時にこの洞窟全域が濃い霧に満たされていく。特にこの霧は私たちを包み込むように、濃度を増していく。
「では自己紹介だ。俺は黒く、赤く、青く、白く……今なお生きる死そのもの」
その言葉を聞き終えると共に、私たちの視界は黒に埋め尽くされていく。
あっ、私死んだんだ。
痛みは無かった、恐怖も無かった。
あったのは、ただ自分という命が終わったんだという、漠然とした感覚。
「先輩!?先輩!?」
「……え?」
気がつけば私は、騎士王の宝具に飲まれる前の状態で突っ立っていた。でも、明らかに私は死んだ筈で……。
「グッ……ガ……」
「はい、お疲れさん。さすがは騎士王だ。完全な勝ちを確信するまで隙を晒さねぇとはな」
騎士王のくぐもった声と、アサシンの淡々とした言葉が聞こえた。その方を見てみると、騎士王の後ろにアサシンが立ち、騎士王の胸元からアサシンの血に濡れた腕が突き出ていた。
そしてその手先には、グツグツと鼓動する心臓が握られていた。
「なっ……いったい何が!?」
マシュも、死んだ筈の私も、心臓を抜かれた騎士王さえも、何が起きたのかが理解できなかった。
「俺の権能は事象の入れ替えを得意としていてな。
お前が宝具を撃って、アイツらを消し飛ばす。
その事象の先に、俺がお前の
相手が勝ちを確信した瞬間に、横から勝利を掻攫う……専門ではないといえ、アサシンらしいだろう?なぁ、騎士王」
「事象の入れ替え……因果律操作。そんなこと、並みの神霊であったとしても……貴様は」
「あぁ、だから俺の名を覚えて逝け。
ヤヤウキ・テスカトリポカ」
そう言って、
「……聖杯を守り通すつもり気でいたが、己が執着に傾き、欲張った結果敗北してしまった。結局、どう運命が変わろうと、私ひとりでは同じ末路を迎えるという事か」
既に形無き光の粒子となっても、騎士王の視線は私たちを向いていた。
「覚えておけ。グランドオーダー━━━聖杯を巡る戦いは、まだ始まったばかりだという事をな」
おきみやげのような言葉を投げかけながら。