惑星クソデカ あるいはウルトラ美少女にしてスーパー技術者、そしてエリート正社員・シーリーの墜落   作:五十貝ボタン

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1,シーリーの墜落

 期待しないこと。

 自棄(やけくそ)にならないこと。

 あとは社則に従うこと。

 ――リヴァイアサン社【惑星クソデカ出張者マニュアル】全文

 

 

 

 

 シーリーは墜落(ついらく)した。それに捕縛(ぐるぐる巻きに)されているし、大乱闘にも巻き込まれている。

 

 バババババババババババババババッ!

 飛び交う銃弾は一発や二発ではない。百発や二百発でも足りない。四〇万人の原住民(クソデカン)が入り乱れて戦っている。

 

「ぶっ殺してやる!」

 と叫んだ男の額に銃弾が突き刺さり、輪ゴムに負けるスイカのようにはじけた。

「そういう三下のセリフを吐くとどうなるか知らねえのか!」

 男を撃った盗賊はその直後にトゲだらけの装甲車に撥ねられて血だまりと化した。

「てめえらの皮をはいでかぶってからまた脱いで、『これがほんとの人皮(ひとかわ)剥けた』ってギャグの小道具にしてやる!」

 だがその装甲車もまたロケット弾の直撃を受けて、高架道路の柵をなぎ倒しながら落ちていった。

 

幹線道(かんせんどう)大原則、ひとぉーつ! 何が最後の言葉になるか分からないから、発言には気をつけるべし!」

 ロケットランチャーを投げ捨てながら、覇王大路(ロード・オブ・ローズ)ウォルサーが威圧した。身の丈二メートルを超える大男である。

 そして、その足元でぐるぐる巻きのままガクガク震えているのがシーリーだった。

 

(なんで私がこんな目に)

 もともと小柄なほうだが、荒れ狂う獣のような盗賊たちに囲まれるとますます小さい。愛用のメガネは飛び散った道路の破片でひび割れている。

 ロープで縛られたまま転がされている。指先から体温が抜けていく感じがした。

 

 狂瀾怒濤(シッチャカメッチャカ)の光景。

 血と火薬のにおい。実際にはそれどころではなく、道路上には数百人の臓器がぶちまけられて混じり合っている。悪臭というのは危険をしらせるにおいだ。におい自体が危険な場合は、害臭(・・)とでも呼ぶべきだろう。

 耳鳴りが止まらない。墜落のショックですでに胃の中が空っぽになっていたことを不幸中のさいわいというべきだろうか? 身動きできないまま吐瀉していたら、喉が詰まって窒息していただろう。

 

「私、ここで死ぬのかな……」

 伏せているおかげで弾丸はまだ当たっていない。だが花火大会もかくやという頻度で爆発する人間の血が何度も何度もシーリーに浴びせられていた。

 人間が弾けたり飛んだり焦げたり回転したりしているのを見ると、何もかもどうでもよくなってくる。

 誰が誰を撃っているのやら、シーリーにはまったくわからない。

 

「俺に逆らうヤツは皆殺しだー!」

 ウォルサーは両手の銃を乱射しながら超必殺技(ウルト)みたいにぐるぐる回転していた。

 

(こいつら……)

 ふとシーリーの頭の片隅に疑問が湧いてきた。

(誰が味方で誰が敵なのか、わかってないんじゃない?)

 この疑問には、惑星クソデカの歴史が関係している。

 

 クソデカには、かつて重罪人が大量に送り込まれた。銀河規模の治安の悪化をビジネスチャンスと考えたリヴァイアサン社は、懲役五年以上の重犯罪者をクソデカに集め、開発業務に従事させる事業を始めた。この人材活用(コストカット)により膨れ上がる司法関連予算は激減し、リヴァイアサン社は莫大な利益を得た。ちなみにこの事業が始まってから四年と十一ヶ月二七日後にクソデカの管理体制は崩壊したため、解放された受刑者はひとりもいない。

 それがざっと三万年《・・・》前のことだ。現在に至るまで、過酷な自然環境にもかかわらず、クソデカの人口は増加の一途を辿っている。

 

 そういうわけで、クソデカは銀河じゅうから見くだされていた。特に、シーリーのようなリヴァイアサン社員は、この惑星には悪逆無道(ならずもの)奸佞邪智(ひきょうもの)、暗愚魯鈍《おろかもの》の三種しかいないと教育されている。

 仲間割れをはじめた盗賊団をみて、シーリーが敵味方の区別をなくしていると考えたのも無理からぬことである。

 

(こんな掃きだめみたいな場所で死ぬなんて、絶対イヤだ!)

 そう思うと、心の中にふつふつと熱い気持ちが湧いてきた。信念や正義感といった主人公らしい感情だったらよかったのだが、シーリーの場合は軽蔑と出世欲だった。

(帰社してふたたびエリートコースに戻るまで、私は死ねない!)

 少女が決意を固めたとき、ウォルサーは撃ち尽くした銃を放り捨てたところだった。

 

「ヘビーフット! アレの準備はできたか?」

『ウォルサー! いま発射する!』

 覇王大路は誰かと通信していた。耳に当てたスピーカーは裏表が逆だったので、シーリーにも通信相手の声が聞こえた。

 

 直後、銃撃戦のド真ん中に騎士機(ナイトメック)が落ちてきた。二〇トン級の機械は十人ほど巻き込みながら路面にクレーターを作り、膝から下を血まみれにしてしゃがんだ姿勢をとった。

 ずんぐりした騎士機は全身にミサイルとか機関銃とか、レーザー砲とかレールガンとかを満載していた。

 

「騎士機!? 局地戦用の兵器をなんで盗賊が!」

 シーリーの驚愕に答えてくれる律儀な者はこの場にはいなかった。

「だいたい盗賊団が四〇万人もいるのは多すぎると思ってたんだ! ちょうど良い機会だから、減らしてやる!」

 クソデカ星民らしい無計画さを発揮してから、ウォルサーは足元のシーリーを肩にかつぎ上げた。

 

「うぎゃー!」

「英雄に弾は当たらない」

 弾丸が飛び交うさなかで、盗賊の長は狂気を讃えた表情で歩いた。そして悠然と、シーリーを抱えたまま騎士機の露出形搭乗部(コックピット)に乗り込んだ。

 

「はぁ……はぁ……」

 コックピットの狭い床に転がされて、シーリーは真っ青になっている。

 ウォルサーは嗜虐的(サディスティック)に少女を見下ろして笑っていた。

「逃げられると思うなよ」

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