惑星クソデカ あるいはウルトラ美少女にしてスーパー技術者、そしてエリート正社員・シーリーの墜落 作:五十貝ボタン
騎士機の頭部、目を
「感染道路の彼方まで、行くぜーっ!」
ウォルサーは叫び、騎士機を走らせた。全身に満載された武器を乱射していく。機銃、レーザー、バックパックからはミサイル。右手は火炎放射。左手は
「に、逃げろ!」
乱闘が一転、
「逃がすか!」
ウォルサーが操縦桿を押し込むと、騎士機はジェットパックを噴射して直進しながら盗賊達をなぎ倒していく。
(その
コックピットの足元に転がされているおかげで、シーリーは盗賊たちの無惨な最期を見ずに済んでいた。耳は塞ぎようがないので、聞くに堪えない騒音はいくらでも聞こえてくるのだが。
「イヤだーっ! 死にたくないー!」
「どうしてオレが殺されなきゃいけないんだッ!」
「ウォルサー! 先に地獄で待ってるぞ!」
騎士機の活躍で、盗賊の数は四〇万人から三〇万人ほどに減ったことだろう。
(どう考えても騎士機の重量より多くの弾を撃ってる。クソデカでは弾切れは起きないって噂は本当だったみたいね)
クソデカでは異常な現象がたびたび観測されている。『バンダナ効果』と呼ばれているのもそのひとつだ。クソデカでは銃器の弾倉が空になっても、
(まるで、無限に戦わせようという意思が働いてるみたい)
ぐるぐる巻きのまま、シーリーは考えていた。何かを考えていないとあまりに情けないからだ。
「オレは元々、サタン社がクソデカに設置した
あまりに一方的な虐殺に
(ぜんぜん興味ないわ、あんたの人生なんて)
シーリーはそう思ったが、口には出さなかった。踏まれたくなかったからだ。
「だがあるとき、俺たちの部隊の
(それがサタン社の方針なわけ?)
「判断ミスを責められてオレは除名された」
(こいつがおかしいだけだった)
シーリーは少し安心したが、その異常者と一緒に危険極まりない兵器に乗っている現状に思い至ってまた落胆した。
「ちなみに、原因は人数をたしかめた時にオレがオレを数え忘れてたせいだった」
「うわあ」
ついに口から出てしまった。
「その後は悲惨なものさ。この
ボボボボボボッ! 騎士機のバックパックからミサイルが撃ち出される。ミサイルは車両で逃げだそうとしていた盗賊団を粉みじんに吹き飛ばした。
「大事なものを守るために戦ってみてえよ」
遠くを見ながら、ウォルサーはつぶやいた。その目線の先には、どこまでも続く道路がただ広がっているだけだ。
『ウォルサー! やりすぎだ。もう半分は死んだぞ』
その時、彼が耳に付けた通信機のスピーカーから声がした。同時に、大型のトレーラーが騎士機の横に並ぶ。
「ヘビーフット」
トレーラーの窓は
『あまり派手に騒ぐから、
「しまった! ルーカサイトを反応させたか!?」
「
シーリーが疑問を口にしたと同時に、答えもやってきた。
ゴゴゴゴ……
高架道路が震えている。争いあっていた
シーリーもわずかに体を起こす。割れたメガネの向こうに、その景色が見えた。
地平線まで続く高架道路に、白いぶよぶよした塊が張り付いている。それが触れると道路は崩れおちて土塊へと変わり、変わりにぶよぶよが増殖する。そうして、猛烈なスピードで道路が『食われ』ていた。
「ルーカサイトだぁああああ!」
悲鳴を上げ、盗賊たちがいっせいに逃げ出した。自動車に乗り込み、あるいはバイクにまたがって。だが仲間の死体にはばまれてなかなか進まない。殺し合いなんかするから。
「道路を食ってる!」
「感染型幹線道路は大陸から大陸に感染する『大企業病』だ。どこの企業が持ち込んだのか知らないけどな。そして、あれは大陸が生み出す抗体らしい」
ウォルサーもまた騎士機を反転させてつぶやいた。高架道路に住みつく盗賊団としては、よく知っている相手なのだろう。
『アレが出たらもうこの道路はおしまいだ。俺たちも逃げるぞ』
ヘビーフットのトレーラーが速度をコントロールしながら幅を寄せる。ウォルサーは騎士機の
盗賊たちの運転や操縦の技術は舌を巻くほどだ。土地に適応した結果だろう。騎士機を乗せてトレーラーが走る。
ルーカサイトの侵食はおそろしく速い。逃げ遅れた盗賊たちは、道路と一緒に飲み込まれはじめていた。
「よし、このまま大陸移動だ。ついて来られないやつは夢になって枯れ野を駆け回れ」
半分ほどに減ったとはいえ、盗賊たちの人数は大量だ。長い長い列を作っていく。片道十六車線の高架道路も、二〇万人の群れが使えば渋滞が起きる。後続車は遅れ、在来種に飲み込まれていった。
殺し合いから大脱走へ。盗賊達は先ほどまでやっていたことをすっかり忘れたかのようだ。それがクソデカへの適応なのかもしれない。
「ねえ、そろそろ外して欲しいんだけど」
「ダメだ、逃げるかもしれないからな」
「逃げるわけないでしょ、こんな状況で」
ヘビーフットのトレーラーは長い車列の先頭集団だ。もし騎士機から飛び出せば、後から走ってくる十万台の車両をかわさなければならない。よしんばそれができても、ルーカサイトのエサである。
「悲観して自殺するかもしれないからな。とにかくダメだ」
「そう。じゃあ仕方ない」
シーリーは嘆息した。その直後、騎士機の大きな手がコックピットにいるウォルサーを掴んだ。
「なにっ!」
自分が操縦しているはずの騎士機に引きずり出され、空中でもがく大男を尻目に、シーリーは這いずって体を起こし、彼の代わりにシートに座った。
「忘れたの? 私は技術者、機械の操作は得意中の得意」
コックピットの中で金属片が組み上げられ、赤熱したブレードへと変わった。それを使って、結び目を焼き切る。シーリーをぐるぐる巻きにしていたロープがばらりとほどけた。
「ったく、美少女の血行をなんだと思ってんのよ」
痺れる手足に温かさが戻ってくるまで、シーリーは手を
「
「私は常に最適な
「まさか」
「ナノマシンは唾液にも含まれてる。手を洗っとくべきだったね」
「動けないフリをしながら、ずっと騎士機のシステムに侵入していたのか!」
「そういうこと。これはもらっとくよ」
騎士機の手が器用に動いて、ウォルサーの耳に着けられていた通信機を奪い取った。
「くそっ、オレがこんな風にやられるなんて」
「私を殺すつもりはなかったみたいだから、
シーリーは
『ウォルサー! なんてことだ!』
通信機を耳に当てると、トレーラーを運転しているはずのヘビーフットが叫んでいた。
「車ごと吹っ飛ばされたくなかったら、走りつづけなさい!」
シーリーには爆発物を満載した騎士機がある。だが、騎士機の速度ではルーカサイトから逃げ切れない。もはや、一蓮托生である。
『わかった、わかったよ! ……ん?』
「時速八〇キロを下回ったら
『ちがう! 前からも何か……』
前方。道路の上空を、巨大な影が群れで飛び回っている。
「ド、
最前列を行く車両へ向けて、巨体が火を吐いた。荒々しい赤い炎で一気に熱せられた車は、粉々に爆発した。
「クソデカの機械ってのは、なんで壊れた時に爆発するようになってんの」
『そういう決まりなんだ』
「なんで食べられもしない自動車を襲うの」
『ドラゴンってのは、デカいヤツが我が物顔でいるのが気に食わないらしい』
「野蛮な
場違いなツッコミから気を取り直し、シーリーは騎士機のミサイルを一斉に発射した。
「あんたたちも、撃てるだけ撃て!」
「うおおおおおお!」
ボン、ボン、ボン! バララララッ! ババババッ!
ミサイルが直撃した竜が高架道路に墜落し、巻き込まれた車両が爆発する。銃弾を浴びても固い鱗がやすやすと弾いてしまうが、時折目玉や関節を撃たれた竜が苦悶の炎を吐いた。
激しい戦い。正面からドラゴンの群れに襲われ、背後からはルーカサイトに飲まれていく。ハイウェーズはみるみるうちに減っていった。
「盗賊どもが囮になってる間に、私たちは逃げ切るわよ!」
『俺にもいちおう、仲間への連帯感みたいなものがあるんだが』
「私の目的は、『
『俺たちゃもともと
ヘビーフットの運転は見事なもので、トレーラーはなめらかに加速し、他の車両にぶつかることもなく、ドラゴンの炎を浴びることもない位置取りを保っている。
「ふう、どうなることかと思ったけど、あとは『百葉箱』のあるところまで走らせればいいか」
まだ危機を脱したわけではないが、運転は任せ、適度に騎士機で竜を撃墜していれば乗り切ることができそうだ。
いざとなれば、盗賊団が壊滅しても騎士機を使って生き残れるだろう。
だがその時、奇跡が起こった!
激突するドラゴンの群れとハイウェーズの車列。そのなかで、愛が芽生えたのだ。
広大な惑星の片隅で、一匹の
カッ――と、閃光があがった。
「なに、いきなり?」
まぶしさに目をすがめるシーリーの目の前で、それは起こった!
光。生命。躍動するエネルギー。
大地を踏みしめる脚には
燃えたぎる瞳には
全身を駆け巡るのは血とオイル。
野生と技術の融合――まさに、惑星の頂点に立つ
「なんなの、あれは!」
生命と機械の力を兼ね備えた究極の存在が、いまここに生まれた!
《ヨッッシャアアアアアアアアア!!!!》
竜車王が咆哮を上げる。胸のエンジンが最大出力で駆動し、背中の
ゴオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!
炎! 竜車王が吐く炎は空燃比により高温下し、プラズマが放出される。
その超高熱の
「いったい、何が起きてるの!」
叫ぶシーリー。生命と機械を超えた究極の合体を前に、人にはなすすべもない。
『俺にも分からねえが、ただでさえヤバいドラゴンがますます強くなったらしい。このままじゃ全員ヤられるぞ!」
今まさに、ヘビーフットが運転するトレーラーは竜車王へ向かって突撃しようとしていた。竜車王はエンジン音を立てながら、再び炎を吐く姿勢に入っていた。
(さっきのプラズマをまた吐かれたら、避けられない!)
融解したアスファルトの中へトレーラーが突っ込んでいく。シーリーは生き残るための算段を整えた。
方法はひとつしかない。
「やつの気を逸らすから、スピードを落とさないで!」
『どうやって?』
「いっけええええええ!」
騎士機のコックピットから転がり出し、トレーラーにしがみつく。シーリーのテンションもおかしなことになっていた。
騎士機の回路に潜入したナノマシンが、遠隔操縦で
『うおおおおおお!』
その脇をヘビーフットのトレーラーが駆け抜ける。わずか五秒後に騎士機は押しつぶされ、後続車両は『プラズマ・ブレス』で全滅した。
「走れ、走れ、走れ!」
この日、クソデカの大陸を超えて活動する盗賊団がひとつ壊滅した。
シーリーは振り落とされないようトレーラーにしがみついていた。
彼女らの後を追ってきた車は一台もなかった。